Technólogia Vol. 1 - Pt. 41

Technologia

46. 予言の秘密

 蚊屋野にとって人生とは何だったのか。少なくとも成功と喜びに満ちたものではなかった。それでも時には希望を抱いて輝ける未来を夢想することもあったが、結局は何度も大学四年生をやって、あげくには転送装置の実験台になって20年かけて転送されただけであった。彼の儚い希望はいつまでも希望のまま、その先を知ることはなかった。そしてこれからは花屋と堂中が旅を続けるのか。そうすれば少しはカッコイイ感じも出てくるかも知れない。だが彼らは何のために旅をするのだろうか。この旅は蚊屋野がいないと始まらない。ほとんど取り柄というもののない蚊屋野だが、20年前に現れたスフィアの正体を知るためには蚊屋野がいないといけないのだ。彼がいなければ、この話はこんな辺鄙な場所で足止めされたまま終わってしまうのだろうか。
 しかし、まだ悲しむ必要はない。天井から首を吊ってぶら下がっている人間が必ずしも死んでいるとは限らないのだ。

 尾山が喚いているので小屋の外にいた二人の衛兵が中に入ってくると、蚊屋野と霧山が首を吊っているのを発見した。こんな光景を見慣れている人など滅多にいないし、ほとんどの人にとって一生のうちに一度も見る事がない光景であるのは、20年前もこの世界も同じ事である。
 二人の衛兵達もどうして良いのか解らずに立ち尽くしてしまったのだが、尾山が二人を降ろしてくれと頼むので言われるままに衛兵達は檻を開けて中に入ってきた。こういう時にはなんとなく知っている人間から先に降ろす、ということなのかどうかは解らないが、二人は霧山の下に来てどうやって彼を降ろそうかと考えているようだった。
 本来ならこれがどこか不自然であることは解るのだが、気が動転している衛兵達はまだ気付いていない。このぶら下がっている二人を降ろすのは健康体の尾山がやれば簡単にできることなのだ。だが尾山は何もせずにわざわざ衛兵達を呼んだ。
 そろそろ衛兵達も「何かが変な気がする」と思い始める頃だったが、それは少し遅すぎたようだ。二人の衛兵の後ろに立った尾山が両手でそれぞれの衛兵の首根っこを掴んで持ち上げた。
 衛兵達は「ウワァ」と悲鳴を上げたが、尾山はそのまま二人を牢屋の奥の方へ突き飛ばした。二人の衛兵は何も出来ないまま尻餅をついてから、尾山の方を見上げてポカンとしていた。尾山は衛兵達が落とした槍を拾って二人に突きつけた。
「見事ですね、尾山君」
首を吊った霧山が目を開けてこう言うのを見て衛兵達がギョッとしている。こういう時にも冷静な霧山なので顔色一つ変えないのがさらに不気味なのだが、彼は自分を吊している縄に手を伸ばすと、結び目から伸びている縄の先端部分を掴んで引っ張った。すると檻の天井部分に縛り付けてあった縄がほどけて、霧山の体が落ちてくる。霧山は少しバランスを失ったが、上手いこと着地した。
 蚊屋野も同じように縄をはずそうしていたのだが、先端部分が上手く掴めずに苦労していた。霧山がそれを見ると、蚊屋野の足を抱えて持ち上げて、彼が縄を掴みやすいように手助けした。蚊屋野はなんとなく無様な感じがして納得がいかない。せっかく作戦が成功して檻を開けることが出来たのだから、スムーズに縄をほどいて、スタッと着地したかったのだ。
 それはともかく作戦は成功した。彼らが何をしたのかというと、まず外にいる衛兵に気付かれないように霧山の持っていたナイフを使い、木で作られた檻の一部である棒きれとそれをつなぎ合わせている縄を取り外した。その棒と縄を使って洋服を吊すハンガーのようなものを作って、それを上着の襟の下にいれた。縄は先の方でハンガーとつながる部分と首を通す輪っかになっている部分に分かれている。その状態で天井からぶら下がると首を吊ったように見えるのだが、実際には襟の下の木の棒に体重がかかっているので、首が絞まることはない。
 昔の映画の小道具のようなこんな仕掛けが見破られたらかなり恥ずかしい作戦でもあったが、衛兵達が素直な性格だったようで上手くいったのだ。しかし、これからどうするべきか?と蚊屋野は思っていた。この塔の色々な事を裏で操っている黒幕の本当の狙いは蚊屋野達を東京へ行かせないことなのだ。それを知っているのは今のところ蚊屋野とケロ君だけなのだが。このあまりにも冷静な霧山という男はどこか怪しいところがあると蚊屋野は思っている。
 衛兵達が反乱を起こしたあの小屋に、どうして霧山は現れたのだろうか。彼は蚊屋野の事を監視していたからあの場所に現れることが出来たのかも知れない。今は蚊屋野の味方のようにも思えるが、それは衛兵達が勝手な行動をしたからなのではないだろうか。衛兵達は蚊屋野達を東京に行かせないという目的の邪魔になるからそれを阻止するために蚊屋野に協力しているとも考えられる。
 蚊屋野は霧山と一緒に行動する事に不安を感じ始めていたのだが、今のところ蚊屋野は霧山と尾山と一緒にいるしかない。それに、小山の率いる衛兵達が街に攻め込んだりするのも好ましくないと思っている。
 蚊屋野達三人が牢屋の外に出ると尾山が衛兵の二人を中に入れたまま牢屋を閉めて鍵をかけた。中の二人は尾山に対しての罪悪感か、あるいは彼に対する恐れなのか解らないが、下を向いたまま彼と目を合わせようとしない。そういうところを見ると、尾山も自分が裏切られたことを思い出して、さっきの自分の演技が上手くいったことを密かに喜んでいる場合ではなくなってくる。
「オレは予言者様のところに行って、このことを報告してくる」
尾山は少し苛立った様子で言ったが、それを霧山が止めた。
「待ってください。こんな夜遅くでは予言者様は会ってくれないでしょう。それに、我々も事態を把握する必要がありますよ」
霧山が落ち着いた口調で言うと、なんとなくそのとおりだという気になってしまう。小屋を出ようとしていた尾山だが頷いて牢屋の方へ向き直った。霧山は牢屋の柵に近づいて中の二人を見ている。
「キミ達。どうしてこんな事になったのかはあとで聞かせてもらうよ。それよりも、これからキミ達の仲間が何をしようとしているのか、教えてもらいたいのだが」
檻の中の二人は反抗的な態度をとるわけでもなく、かといって白状するような感じもない。ただ黙って下を向いている。こういうことには慣れていないので、実際のところどうして良いのか解らないのだろう。霧山は例の口調で続けた。
「キミ達。ここにいる旅人の事は知っているね。外の世界をあちこち旅してきた人ですよ。それは容易いことではない。時には危険な目にも遭って怪我をしたり、あるいはその反対もあるかもしれないですが。こういう場合ここにいるような旅人はどうするか知っているかな?」
二人はあまり顔を動かさないようにしながら、目線だけをそっと蚊屋野の方に向けた。こういう時に旅人は何をするというのだろうか?だが蚊屋野にも霧山が何の話をしているのか良く解らなかった。そんな事は気にせず霧山はさらに続ける。
「私は聞いたことがあるんだが。外の世界ではどうしても知りたいことがあるのに、それを教えてくれない場合、苦痛によって交渉をするらしいんだよ。キミ達が喋らないつもりならこの人に試してもらおうかな。キミ達の手に指が十本。二人いるからチャンスは二十回だな。この人がキミ達の指を一本ずつ反対側に折り曲げていくから、それに耐えられたら話す必要はないよ」
それじゃあまるで拷問だ、と蚊屋野は思った。というよりもまさしく拷問なのだが。霧山はわざわざ観察してボロを出すのを待つまでもなく極悪人なのだろうか。それとも、蚊屋野が知らないだけで「外の世界」というのはそんなに恐ろしい場所なのだろうか?
 だがどちらも少し不自然に思える。蚊屋野の知る限り、外の世界は少なくとも20年前よりは平和な感じだった。霧山はいつでも妙に落ち着いた話し方なので何を考えているのか全く解らない。だがこれはある種の悪ノリというやつに違いない。彼が教師になろうとしていたというのが本当だとして、20年前の世界で教師になっていたら問題を起こしがちな教師になっていたに違いない。だが、こういう話をして生徒を恐がらせてオモシロがる教師というのも蚊屋野は良く知っている。今思えば酷い教師だったのかも知れないが、子供心になんとも言えない親しみのようなものを感じた気がする。そういうことならここは霧山のノリに付き合うしかなさそうだ。
「こういうことはもうあまりしたくないんだけどなあ。キミ達も若いんだし、これからずっと物が握れないなんて嫌じゃないか?」
蚊屋野も霧山のような抑えた口調で言った。だがそんな演出は必要ないぐらい、もうすでに二人はかなり怯えているようだった。彼らは、これまで誰もかなわないと思っていた尾山を蚊屋野達が撃退したという事も知っているし、そういう人間になら人の指ぐらい簡単に折れるに違いないと思っていたようだ。
 衛兵の一人が恐さに耐えきれなくなって「あの…」と口を開きかけたが、そのとき隣にいたもう一人が手を出してそれを制止した。しかしその手も少し震えているのを蚊屋野は見逃さなかった。こうして有利な立場にいると、色々とものが見えてくるということかも知れない。人の弱みならさらに良く見える。
「じゃあ、キミから始めようか」
蚊屋野が口を割るのを阻止した方の衛兵に方に向かって言った。すると彼はほとんど泣きそうな目を蚊屋野の方へ向けた。蚊屋野には彼を傷つける気は全くないのだが、そんな目を向けられると心が痛んで謝りたくなってしまう。それに、もしこの衛兵がずっと黙っていたら、蚊屋野は本当に彼の指を折らなければいけなくなるのか?
 そんなことを考え始めるとなぜか蚊屋野の方も心配になってくる。もしかして、これもすべて霧山の計画のうちで、住人に拷問を行った罪とかで蚊屋野を逮捕したり罰するのが目的だったとしたら…。不安になった蚊屋野の表情がこわばってくる。
 すると、それを見た衛兵が上手い具合に勘違いしてくれたようだ。蚊屋野の表情を見てついに拷問が始まると思って衛兵は泣き出した。そして全てを話す事にしたようだ。
 ついでに書くと、蚊屋野と霧山の言っていたことがウソか本当か解らなかった尾山は、またあの交渉の時のようにドギマギしていたのだが。

 蚊屋野の方はひとまず牢屋から出るということに成功したのだが、塔の方はどうなっているのだろうか。塔の最上階に登った花屋は予言のスレートというものがある部屋に入ったのだが、急に部屋が明るくなってビックリしていたはずだった。
 しかし、続きは堂中の居る部屋から始まる。堂中は花屋に指示されたとおりに体を休めるために横になっていた。こんな状況なだけにグッスリ眠れるワケもなく、ちょっとした事で目を覚ましてはまた目を閉じることを繰り返していた。そして今度はケロ君の小さく吠える声で目を開けた。
 犬というのは生まれながらに周りの雰囲気を感じ取る事が出来るのか、静かなところでいきなり大きく吠えるようなことはしない。夜になって静まりかえっている時にはまず小さく吠える。「ウォッ…」と遠慮がちな感じで。
 堂中は起き上がって辺りを見回してみた。すると「マモル君」とささやき声で呼ぶ声が聞こえてくる。堂中は部屋の扉の方を見たが、ケロ君は窓のある方を見て尻尾を振っている。また「マモル君」という声が聞こえる。確かに窓の方から声がしているようだ。
 堂中は立ち上がって窓を開けた。すると開いた窓にぶつからないようにしてしゃがんでいる花屋が窓の外にいた。
「危ないっすよ…!」
他にも色々と言うことはあるのだが、とりあえず一番重要そうな事を言った堂中だった。花屋の方はすでに外のひさしの上を歩くのには慣れているので、最初よりは余裕の表情をしている。
「スレートを見付けたの。調べてみて」
花屋はスレートと呼ばれるものを上着の内側から取り出した。スレートと言っているが花屋が持っているのはタブレットだった。タブレットとはつまり巨大なスマートフォンのようなアレである。
「これがスレート?どうやって持ってきたの?」
「それは今じゃなくてイイでしょ。そのタブレット調べてみて。10分経ったらまた来る」
花屋はそう言うとひさしをつたって自分の部屋へと戻っていった。
 最上階にあるスレートの部屋の台座の上にあったのはこのタブレットだったのだ。彼女が部屋に忍び込んだ時に明るくなったのは、通知のためにタブレットの画面が自動的に点いたからだった。他に明かりのない状況だとタブレットの画面の明るさは照明の代わりになるぐらいに明るい。それで何の通知だったのかということだが、そのタブレットの目的は一つしかないので簡単に解る。つまり予言の着信をお知らせするための通知だったのだ。予言者様の能力とは関係なく、予言は毎晩自動的にどこかから送られてくる仕組みになっているようだ。
 花屋はその予言の内容を読んで、部屋が明るくなった時よりもさらにギョッとしたので、慌てて部屋を出て堂中にタブレットを見てもらう事にしたのだった。
 堂中は念のために外に光が漏れないようにベットの陰に隠れてタブレットの画面を表示させた。予言者様にも使いやすくしてあるのか、特にパスワードなども入力せずに操作することができた。
 メインの画面には何かの紋章のような形の描かれたアイコンが一つある。それを開いてみると予言が読めるという事なのだろう。開いてみるとそれはメッセージをやりとりするアプリに似ていた。この世界ではメールという言い方はしないのでメッセージと呼ばれるが、元になっているのは20年前のメールアプリである。堂中はさっき届いたと思われる最新のメッセージを表示させてみた。

旅の者達の裏切りは民の手により罰せられるであろう。

花屋がギョッとしたように、そこにはギョッとするような事が書いてあったので堂中もギョッとしていた。このメッセージをこの塔の中の誰かが送っている。そして、その誰かは自分達に危害を加えようとしているに違いない。この短い予言からでもそれは簡単に解る。
 堂中は他のメッセージも読めばこれを書いたのがどういう人間だか解るのではないか?と思ったのだが、さっき花屋は10分で戻ると言っていたので、あまり時間はない気がする。花屋の言う10分は口癖のようなものなので、急いでいる時には5分だったりするし、言ってみれば花屋の10分は「すぐに」という意味なのだ。
 堂中はとりあえず最新の恐ろしいメッセージを消した。「明日の予言は恐ろしいのでキャンセルされました」ということだ。それから予言アプリを閉じるとタブレットの設定画面を表示させた。メインの画面にはこの予言を表示させるメッセージアプリのアイコンしかなかったのだが、堂中が思ったとおり見た目は違っても中身は他のタブレットと同じだったようだ。画面の上部に触れて上から下に向かって指を動かすと新しい画面が表示されて、そこから設定画面が表示出来るようになっている。
 その画面から進んで行くとこのタブレットが接続している通信装置の場所が解る。場所といっても実際にそれが置いてある場所ではなくて、ネットワーク上の場所である。20年前の世界なら「アドレス」と言っておけば大体通じるそういう類のもののことだが、堂中はそのアドレスを覚えて最初の設定画面に戻った。そこから今度はこのタブレットにインストールされているアプリの一覧を表示させた。
 堂中はそれを見てニヤリとした。メインの画面からは一つのアプリしかないように見えるが、実際には普通のタブレットにあるようなアプリが一通り入っている。彼はその中からブラウザを見付けて開いた。
 ブラウザというのは、つまりインターネットでウェブサイトを閲覧するものだが、この世界には一般の人に向けた、役立ったり面白かったりするウェブサイトというものは存在しない。なのでほとんどの人には馴染みのないものでもある。しかしこの世界で新しい通信方法を発明するのは困難であるし、ほとんどの機械類は20年前と同じ方法で通信をしているので、スマートフォンやタブレットからブラウザが消えることはない。住んでいた居住地では技術者のような事もしていた堂中なのでこういうものは簡単に使いこなせる。
 堂中はブラウザでさっき覚えたアドレスにアクセスしてみた。運が良ければ、どこの誰だか解らない黒幕との関係も逆転するようなことになるのだが。しかしそうでなければ、せっかく手に入れたこのタブレットのことは忘れて、他の手段を考えないといけない。他の手段といってもほとんど無いに等しいのだが。それはつまり、このタブレットが最後の望みということだ。
 通信装置のアドレスにアクセスするとIDとパスワードの入力を求める小窓が表示された。IDもパスワードも解るワケがないと思うのが普通なのだが、こういうものを良くいじっている堂中は簡単に諦めたりしない。
 この通信装置へのアクセスは通信装置と同じネットワークに接続している端末からでないと出来ない。逆にいうとネットワークに接続していれば色々な事が出来てしまうのだ。だからネットワークへの接続にはパスワードを設定したりして簡単には出来ないようになっているのが普通なのだ。だが今は元からネットワークに接続されたタブレットがある。そして、こういう特定の場所だけで使われるプライベートなネットワークというのは接続したあとはユルい設定になっていることが良くあるのだ。
 堂中はIDに「root」と入力して、パスワード欄には何も入力せずにログインを試みた。するとエラーが出る事もなくそのまま通信装置の設定画面が表示された。まるで堂中がハッキングのようなことをして通信装置にログインしたかのようだが、そんなこともない。この通信装置というのは20年前でいうルータのようなものなのだが、彼がやったのは20年前の家庭用のルータの説明書に書かれている事とほぼ同じことだった。
 それでも堂中はすんなり通信装置にログインすることが出来たのはすこし嬉しかった。それで誰かに自慢したくなったのだが、誰もいないのでケロ君に話しかけた。
「チョロいもんだな」
「(そうなのか。オレに言われても何のことだか解らないがな)」
ケロ君はちょっとだけ堂中の方を見たが、すぐに窓のある方を向いて鼻をヒクヒクさせていた。
 しかし、堂中は少し不思議な感じもしていた。聞いた話では黒幕は中途半端な科学者ということだった。しかし、いくら知識が中途半端といっても通信装置をパスワードで保護しないのは気を抜きすぎではないだろうか。それに、タブレットも見た目は特殊な感じにしてあるが、中身はどこにでもあるタブレットだ。黒幕とはいったいどういう人間なのだろうか。堂中には想像するのが難しかった。

 塔の外にある小屋では衛兵達がこれから実行される彼らの計画について話していたところだった。
「困りましたね…」
霧山は相変わらず落ち着いた口調で言った。蚊屋野は霧山がどの部分に対して困っているのか?という事を考えなければいけなかった。衛兵達の計画に困っているのか。それともその計画によって他の何かが妨害されるのに困っているのか。
 いずれにしても、この状況は誰が考えても困った状況に違いない。
 小山率いる衛兵達はいきなり街を襲撃することはせずに、まずはこの塔の支配権を握ることにしたようだ。夜が明けて予言者様の舞が行われる時に彼らは住民達の前で予言者様が無能であり、この塔は自分達に支配されるべきだと訴えるつもりらしい。それに失敗しても盛山さんが人質になっているし、都合の良いことに尾山も捕らえることが出来たので、最終的には人質の命と引き替えに権力を手に入れるという計画のようだ。
 小山達は最後の切り札である尾山を失ったことにはまだ気付いていない。しかし、状況はそれほど良くはない。健康体の二人である蚊屋野と尾山がいても、衛兵達の人数に対して三人では少なすぎる。塔の中に行ってこの事を話すにしても、塔の周りを警備している衛兵達の目を盗んでいかなければならない。
 そして、蚊屋野にとってはさらなる問題もあった。彼はずっとこの霧山という男が怪しいと思っていて、そう思えば思うほど、彼が何を言っても、何をしてもますます怪しく思えてくるのだった。
 事態はどんどんややこしくなっていく気がする。

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