Technólogia Vol. 1 - Pt. 56

Technologia

62. 少女達

 ロボットは何のために行動するのかというと、大抵は持ち主のために行動する。厳密には「何かのため」ではなくて、指示されたとおりに動いているだけでもある。なのでロボットが誰もいない道を、時に瓦礫を乗り越えながら健気に歩いていたとしても、そこには感動的な裏話があるワケでもないはずである。
 蚊屋野達の乗る車の前方に現れた何かは、蚊屋野達の推測によるとチカというロボットに違いなかった。だが、そのロボットがどうしてこんな場所を歩いているのだろうか。チカの持ち主はもうこの世にいない。ということは、新たに持ち主が出来たのか、それともここを歩いている事は生前に持ち主が指示したことに関連しているのか。さらに蚊屋野達と同じ道を歩いている事を考えると、それが彼らと関連していたりするかも知れなくて、話は盛り上がるかも知れない。
 だが、それは前を歩いているロボットと思われるものがチカである場合の話である。まずはそこを確かめないといけない。
 布路織は元々ユックリだった車の速度をさらに緩めて、前を歩いているその何かに近づいていった。
「それで、そのチカってのはなんなんだ?」
ディテクターさんが前を歩くそれを見ながら、すこし緊張した様子で言った。ディテクターさんの場合は本当に緊張しているのか、そういう感じが良いと思っているからそうしているのか良く解らないのだが。とにかく、何かを警戒している様子ではあった。
「以前に立ち寄った街でちょっとした事件があったんすけど。その時に住民を助けてくれたロボットなんすよ」
あの住民達が果たして助かったのか?というとまだ解らないのだが。堂中もそんな細かいところまでは説明するつもりはなかったようだ。
「本当か?ロボットに関してはあまり良いウワサは聞かないんだがな」
ディテクターさんは目の前まで近づいたロボットの後ろ姿を見つめたままだった。人間のようにみえるが、やはりどこかにぎこちなさがある。だいたい、この危険な道路を綺麗な格好の少女が一人で歩いていること自体が不自然なのだ。だとすると、それは確かに人間ではないのかも知れない。
 昔の交通ルールを守っているのか知らないが、道路の右側を歩いているチカらしきロボットに布路織が車を近づけていった。人間なら車の気配を感じて一度は振り返っているはずの距離まで近づいていたのだが、それは前を向いたまま一心不乱に歩いていた。
 運転席の後ろに座っていた堂中が窓を開けて顔を外に出した。
「チカ!」
堂中が呼び掛けると立ち止まって振り返るはずだったのだが、それは全く反応しなかった。おや?と思っているとそのまま追い越してしまいそうになったので、布路織はそれのすぐ後ろで一度車を止めた。そこでようやく歩いていたロボットらしきものも背後に気配を感じたようで、足を止めた。
 布路織が窓を開けた。
「そこのお嬢さん」
怪しいオッサンが車の中から少女に声をかけるというのは少し危険な光景だと蚊屋野が思ってしまったが、それはどうでもイイ。布路織に声を掛けられてもそれはまだ振り向かなかった。
「チカじゃないのかな」
花屋が言った。
「(ニオイは大体一緒だけどな)」
ケロ君がそう言うので、蚊屋野は「チカっぽいけどね」と言っておいた。
 ディテクターさんはまだ警戒を解いていない様子で、チカのような何かから目を離さなかった。
「本当にロボットだってんなら壊れてんだろうな。そうでなきゃ…」
ディテクターさんがそこまで言った時に、突然そのロボットらしきものが振り返った。
 それは予想を超えるほどにロボットだった。そして、あまりの驚きに悲鳴を上げたものはなく、全員がただ息をのんだ。
 ロボットは振り向いたのだが、顔がなかったのだ。顔がないというのは間違いだが。あの街にいたチカのように、そこには生気のない無表情な顔があるとばかり思っていたのに、顔を覆っている人工の皮膚のようなものがついていなかった。
「こいつはたまげたな」
布路織は声を震わせながらたまげていた。
 金属か、あるいはカーボンのようなものかも知れないが、固い黒っぽい骨格と、その間にあるプラスティックのような小さな白い部品がむき出しになっている。人工の皮膚に覆われていれば人間にそっくりになるはずのものなので、骨格の形は人間の頭蓋骨そのものという感じがする。そして、本物にそっくりなテカリのあるギョロッとした目玉が必要以上に大きく見えた。
「コイツが人を助けるようには見えないな」
ディテクターさんは元からロボットに対してはあまり良い印象は持っていないようだ。それがただの勘なのか、経験や知識から来るものなのかは良く解らないが。
 振り返ったロボットは車の中を見渡しているようだった。大きなむき出しの目玉が動く度に、その後ろにあるモーターが目の後ろにある部品を動かす音が幽かに聞こえて来る。
「だけど、これはスゴい事だぜ。こんなロボットがいるなんて話はただのウワサだと思ってたんだが。まさか今でもロボットの開発は続いているのか?」
布路織がそう言っている間にも何度もロボットと目が合った。ロボットはその目を使ってものを見ているのか。あるいは眉間の少し上にあるセンサーのような部品を使っているのかも知れない。いずれにしても顔だけが骸骨になっている人間型のロボットに見られるのは気味が悪い。それに、このロボットはいったい何のために彼らの事をじっくり観察しているのだろうか。
 蚊屋野達もロボットのことをじっと見ていた。すると少しの間ロボットの動きが止まったような気がした。この手のロボットはこの瞬間が気持ち悪い。人間らしい動きによって生きているかのように感じることもあるロボットなのだが、動きが止まった瞬間に死人に見えるのだ。その一瞬のゾッとする間を空けた直後にロボットが話し始めたので、全員がビクッとなってしまった。
「容疑者を発見しました。警察との通信を開きます」
顔がちゃんとしていたチカもそうだったが、このロボットは話す時にほとんど口が動かない。肉と皮のない顔を見て解ったのだが、口のある空間の奥の方にスピーカーがあってそこから声が出ているようだ。ゾッとしたついでにそんな事を観察してしまったのだが、良く考えるとマズい状況になっているのに気付いた。ロボットは蚊屋野達を見付けて警察に連絡しようとしているようだ。
「ヤバい、逃げようぜ」
20年前と変わらない気楽な学生的な口調で布路織が言うと、シフトレバーを操作して車を動かそうとした。
「ダメだ。その前にそいつを止めるんだ」
ディテクターさんがシフトレバーのところにある布路織の手をつかんで言う。止めるといってもどうすれば良いのだろうか。
「警察に知られたら、どんなに速く走ったところで待ち伏せされて終わりだぜ」
確かにディテクターさんの言うとおりだ。後ろの席では力持ちの二人が車から降りる用意をしていた。しかし、この世界では力持ちなのだが、20年前なら普通の人。このロボットの頑丈そうな骨格を見る限り、鉄の棒で叩いても壊れないような感じがある。
 ロボットの顔の骨格の隙間から、頭の中でランプが点滅しているのが見えた。すでに警察との通信が始まっているのか。あるいは通信を始める準備段階なのか。
「乳首を押せ!」
ディテクターさんが大声で布路織に向かって言った。しかし布路織は何のことだか解らない。ただ激しい口調に圧倒されて、自分の胸の方へ手を動かそうとはしていた。
「オマエのじゃない。ロボットの方だ」
そう言われてハッとした布路織はロボットの方へ手を伸ばした。しかし、どうして乳首を押さなければいけないのか?と布路織は思った。それと同時にそうすることに倫理的な問題を感じたりもしていた。顔がないというところを除けば少女に見えるロボットなのだし。
「何してるんだ。早く押すんだ。そこがスイッチなんだよ」
「どっちの?」
二つあるのでどっちか迷うのも解るが、今の布路織は少し時間を稼ぎたいだけでもあった。
「どっちでも良いから、止まるまで押してみろ」
「早く。みんなには黙ってるからさ」
蚊屋野に言われて、布路織は思い切って手を伸ばしてロボットの胸のてっぺんを指で押した。少女なのに胸が膨らみすぎているという設計からして問題があるのかも知れないが、オッサンがその胸を指で押す光景はかなり危険なものがある。
 布路織の予想に反してロボットの胸は硬かった。そして、さらに予想に反してそこにボタンのようなものは付いていない。ただ少し力を入れるとへこむような感触があったので、布路織はさらに指を押し込んでみた。すると奥の方でカチッという音がしたような気がした。実際に音が聞こえたワケではないが、指先にそういう感じの振動が伝わってきたのだ。
 ロボットから光が消えた。頭の奥で点滅していた装置の光だけ出なくて、ロボットに生命を与えていた光が消えたとでもいうのか。それまで感じていた気配のようなものが全て消えてしまった感じがした。もしかすると、これまで動いて幽かに音を出していた細かいパーツの動きが止まって静かになったので、そう思えたのかもしれない。
 布路織がボタンを押した時に彼の指先を見ていたロボットの目玉は、その指先を見つめていたまま固まっている。布路織はそれに気付いて慌てて指をロボットの胸から離した。
「なあ、これって大丈夫だよな。見た目は女の子だけど、ロボットだもんな」
布路織はどうでも良い事を気にしているが、見ている方も少しヘンな気分なのは確かだった。
「顔がないんだし。セーフだよ」
蚊屋野は慰めたのだが、こんな慰めの言葉ってあるのか?と思うと更にヘンな気分になる。
「それよりも、大丈夫だったんすかね?」
「調べてみるしかないな」
ディテクターさんが車を降りた。なぜかモデルガンを取りだしていたが、そうすることで気分が落ち着くのかも知れない。彼に続いて全員が車から降りた。ただ布路織の座っている運転席のすぐ外にロボットがいるので、彼は助手席側から出なくてはならず、かなり時間がかかっていた。
 ディテクターさんはモデルガンの銃口の部分でロボットの肩を軽く突いてみた。ロボットは全く反応しない。
「完全に止まったようだな」
ディテクターさんはそう言うと、今度は手に力を込めてロボットの肩を押した。ロボットはそのまま後ろに倒れた。ロボットであるが顔以外は人間の肉と皮膚に似た素材に覆われているので、倒れてもガシャンという音がするワケではなかった。
 倒れたロボットを見て花屋は「そこまでしなくても良いのに」と思って少ししかめ面になっていた。だが、ディテクターさんとしては、もし動き出してもこうしておけば対処する時間が稼げるという意図があってしたことだった。
「でも、どうして解ったんすか。その…胸を押すと止まるってこと」
「胸じゃなくて乳首な」
どうでも良い事に思えたが、ディテクターさんは堂中の言ったことを訂正した。
「でも実際には乳首なんてなかったぜ」
さらにどうでも良い事を布路織が指摘した。
「まあ、それはどうでもイイだろう。都会じゃロボットに関するウワサ話ってのは尽きないんだよ。何事も科学で説明する時代になったからな。いつの間にか幽霊みたいなのは廃れて、今はその代わりにロボットの話をして恐がったりするようになったんだ」
「確かに、殺人マシーンとしてのロボット話ってのは、子供達を脅かすのには丁度良いけどな。だがオレの知る限り、乳首を押すとロボットを止められるなんて話はなかったぜ。アンタの知ってることはもっと具体的な事のような気がするんだが」
20年前の世界でも政府の陰謀を暴くというような活動をしていた布路織なので、オカルトや都市伝説みたいなことにも詳しい。それで、こういうところは妙に疑り深い。
「アンタ、警察の人間なんだろ。もっと何かを知ってるんじゃないか?」
普段あまり人の目を見ない布路織が珍しくディテクターさんの目を見て話しているからか解らないが、ディテクターさんは少し戸惑ったように目をそらした。足下では閉じることの出来ないロボットの目が何もない空間を見つめているように見えた。確かに、ロボットのことは知らないわけではない。しかし、以前はもっとまともな外見だった。何かの事故でこのロボットの顔がなくなったのか、それ以外の理由で顔の肉と皮膚の部分を取り除いたのか解らないが、この気持ち悪い部品がむき出しの顔は気に入らない、とディテクターさんは思っていた。
「今は一匹狼のオレだが、確かに以前は警察の内部にいたんだ。とは言っても警官じゃなくて、お偉方の秘書みたいなものだ。なにせディテクターだからな」
ディテクターと言われても蚊屋野達にはその意味が全く解らないが。そんな事は気にせずディテクターさんは続けた。
「それである時、ハイテク企業の営業ってヤツが来て、ロボットを警官にする気はないか?ってな。その男は何を勘違いしたのか知らないがな。ここじゃ警察と医者は慈善事業みたいなもんなんだ。警察にロボットを買う金がないって解ってからは、そいつは来なくなったんだが。そういう事があってロボットについては色々と聞いて知ってるんだよ」
「停止の方法が一緒ってことは、この顔なしロボットもそのハイテク企業ってのが売ってるのか。というか、警察に売り込む時も少女の形だったの?」
蚊屋野が言ったが、確かにそこは気にならなくもない。なんでも美女や美少女にすれば売れる、という傾向は20年前の世界でも確かにあった。あるいは、チカが試作品と言うことなら、後から作られたロボットもそれにならって少女型になるのかも知れないが。それを知っても今は特に意味がない。
「まあ、そうだな。どうして乳首にスイッチがあるのかってことだが。見た目が少女じゃ、なかなかそんなところを触るようなヤツはいないからな。一番安全な場所に設置したってことじゃないか」
それは作った人の感覚の問題であって、場合によっては一番危険かも知れないが、そこを深く考えるのはやめておこう。
「そういえば、あの街で色々と調べてた時に、あの先生がチカを買った時の領主書みたいなのを見付けたんすよね。もしかして、そのハイテク企業の名前が書いてあるかも知れない」
堂中は技術者としてロボットに興味があってその領収書を持っていた。それを自分のカバンから取り出してディテクターに見せたのだが、そこに書いてある名前はディテクターの知らないものだった。
「作ってるヤツと売ってるヤツが違うって事かも知れないし。あるいは技術が売り買いされたのかも知れないな。どっちにしろこんなものがそこら中を歩き回るなんて世の中は気に入らねえな」
ディテクターさんはそう言ってから領収書を堂中に返した。
「でもチカは良い子だったけど」
花屋はあの街で、ほとんど人間ではなくなってしまった人達を救出していたチカの姿を思い出していた。
「良い子になるような命令をすれば、そのロボットは良い子のように振る舞うだけさ。だが、大抵の人間はロボットを手に入れたらそんな命令はしないだろうな」
ロボットの心は純粋で従順。というよりも、心なんてないからそのように思えるのだが。それが危険なのは間違いない。自分のしていることは正しいのか、間違っているのか。そいういう事を考えずに行動するのは、何かに取り憑かれたような精神状態で殺人を繰り返す人と同じぐらいに危険だったりもする。
「とにかく先に進みましょう」
花屋もロボットの事を考えていたらなんとなく気味が悪く思えてきたので、早くこの場所から離れたくなってきた。

 蚊屋野は再び走り出した車の中でロボットの事を考えていた。ディテクターさんを除いては、ロボットが以前から存在している事を知らなかったようだが。そういうロボットが一体ではなくて、何体もいるような感じなのである。誰も知らない場所で、何か大きな計画が進行中であるような感じは、なんとなく気持ちが悪い。せっかくもう少しで東京というところまで近づいているのに、あまり晴れ晴れした気分にはなれなかった。しかし、蚊屋野の気分にかかわらず車は進む。
 誰もいないデコボコの「国道」をユックリとした速度で進む布路織の車だったが、しばらく進むとさらに速度が遅くなった。
「こりゃたまげたな…」
後ろの席からは良く解らないが、またしても布路織がたまげている。きっと嫌な感じの事が起きているに違いない。そして、また車が止まった。
「どうしたんですか?」
後ろの席ではまた全員が身を乗り出して前方を確認しようとしていたのだが、真ん中に座っていた花屋が聞いた。どんなことにでもたまげるタイプの布路織なのだが、さっきのは少し深刻なたまげ方だった。
「コイツは気味が悪いぜ。まるで腐った卵だ」
どうしてディテクターさんが卵に例えたのか?ということを考えたら、気味と黄身をかけたダジャレだと気付いてしまった蚊屋野は余計な事を考えて損をした気分になっていた。
 それよりも前では何が起きているのだろうか。
 横浜の近くからだいぶ進んで来ているはずだが、東京に着くまでに大きな川を二つ渡る必要がある。前方にはその一つめの川にかかる橋がある。橋が壊れているということだと、それはそれで問題かも知れないが、この世界では当たり前のようにも思えるし、それほどたまげる必要はないように思える。
「橋がありますね…」
窓から顔を出して前を確認しながら堂中が言った。
「いや、橋が造られてるんすよ。こんな道に。しかも、灰が降ってくるかも知れないのに、大勢集まって…」
そこまで言って堂中は口を閉じてしまった。
「人間ならそんな事はしないだろうけどな」
ディテクターさんの言いたいことは大体わかった。そして、さっきのロボットが誰もいない道を歩いていたことも。誰も使わないはずの橋をロボット達が修理していたのだ。
「これもアンタの言ってたハイテク企業の仕業か?」
「そんな事をオレが知るかよ。だが良い買い手が見つかったんだろうな。ざっと見ただけで20か。もっといるか?」
前の席の二人が言い合っているが、それは今考えることではない気もする。
「どうするんですか?回り道はできますか?」
後ろの席の三人はロボットよりも先に進むことの方を考えていた。花屋が聞くと布路織は困った顔をしていた。
「この先の橋はボロくなってはいたがギリギリ通れるはずだったんだ。それが今は顔のない少女がよってたかって修復中だからな。リーダーに言って道の情報を作り直させないといけないな。人が使ってない橋で渡れるのはここだけだったんだが」
橋の上では同じ格好の少女ロボット達が作業を続けている。いつから作業をしているのか解らないが、ほぼ完成間近という状況のようだ。
「でも、あんなに沢山いて。充電はどこでやってるんすかね?」
堂中が技術者としての興味で独り言のように言った。この疑問に正確に答えられる人間はここにはいない。
「核分裂バッテリーかもよ」
誰も何も言わないので、蚊屋野が思った事を口にしてしまった。核分裂バッテリーと言っても解る人はあまりいないが、蚊屋野は原子力電池というちゃんとした呼び方よりも核分裂バッテリーという表現が好きなのだ。それに、そっちの方がこの狂った世界に似つかわしいとも思っていた。
「オマエは相変わらずだな。あれだけのロボットを作れるんだったら、充電ぐらいする発電機は持ってるんじゃないのか。どこの誰の持ち物かは知らないがな。この世界で原子力なんていったら…」
布路織がそこまで言った時に何かに気付いたのか、ハッとしたような様子で一度口を閉じた。本来ならロボットを見てすぐに気付くべきだったのかも知れないが、そこは蚊屋野の友達なので仕方がない。類は友を呼ぶということで、布路織も意識や思考がいちいち遠回りするタイプなのだ。
「そうか!ザ・バードだ」
布路織が少し興奮気味で声を大きくしたので、周りはみんな「なんだ?!」という感じになった。
「ザ・バードのせいで東京に原発を作るって話が盛り上がってるのは言ったよな?そんなものは一時的な盛り上がりで、すぐに忘れられると思ってたんだが、あんなロボットがいるとなると話は別なんだよな。どこかの誰かが本当に原発を作ろうとしてるんじゃないか?例の壊れた原発があっただろう。あそこから資材を持ってくれば原発が作れるって話もあるんだが、人間は恐がって誰もあそこに入ろうとしない。だが、ロボットなら話は別だよな。あの橋の工事も、もしかするとその下準備の一環かもしれないし」
「そんな事は科学者達の許可がなければ出来ないはずです」
花屋が反論したが、今は社会の状況が変わりつつある。
「だが、ロボットも原発も素人の目からしたら充分に科学的だからな。そんな便利なものが出来ちまったら、みんな科学者達の言うことは聞かなくなるぜ。いや、その誰だか解らないヤツが新たに科学者と呼ばれるようになるだけか」
ディテクターさんが言うと花屋は悔しくて、閉じた口の裏側で歯ぎしりをしていた。その誰だか解らないヤツというのが、コレまで自分達を邪魔してきたのだと、なんとなく確信していたからだ。
 電気の問題が解決して、生活が便利になったとしても根本的な問題は何も解決しないのに。あの核シェルターで元部が、このままでは人類が滅亡するとか言っていたが、それも大げさな表現ではないように思えてきた。
「真っ直ぐ進んでください」
花屋が言うと、前の二人が振り向いて花屋の方を見た。二人とも花屋が本気で言ったのか確かめているようだった。
「せっかく橋を作ってくれたんだし、それを使わない手はないよな」
花屋が本気だと解ってディテクターさんが目を輝かせながら言った。布路織の方は若干心配そうでもある。
「だが、あのロボットの間を通って大丈夫なのかどうか…」
「大丈夫です」
花屋がただムキになってそう言っているだけでなければ良いのだが。
「(大変な事になってきたな)」
ケロ君の言うとおり、確かに大変だと思った蚊屋野だった。しかし、他に方法がないのならそうするしかなさそうだ。