「親方ー!親方ー!」
「どうしたジャンボ。血相変えて」
「親方、大変です。外を見てください!」
「外がどうしたって言うんだ?」
「それが大変なんですよ。槍を持った背の高い人たちが大勢で商店街のほうへ向かっています!」
「オイ、ジャンボ。それはもしかしてキミの仲間じゃないのか?」
「違いますよ。彼らはヤリ・ガイですよ」
「なに、ヤリ・ガイ!?だとすると、あれを盗んでいったのはもしかして…」
「そうですよ。あれをこっそり持ち出したのは、親方の元奥さんではなくて、彼らだったんですよ」
「畜生。ヤリ・ガイめ!おいジャンボ。行くぞ!」
「行くってどこへ?」
「決まってるだろ。追いかけるんだよ!」
「えー!?大丈夫なんですか?槍持ってるんですよ」
「そんなこと知るか!あれがなきゃこっちは商売にならねえんだよ」
「ちょいと、あなた。…あなた!…あなたってば!」
「はっ!…なんだキミか」
「なんだじゃありませんわよ。また居眠りですの?」
「どうも最近は悪い夢ばかり見て夜はよく眠れないんだよ」
「そんなことはどうでもいいですわよ。それよりあなた何かに気付きません?」
「何かって?またキミに関する秘密か?うーんそうだなあ…。そういえばキミさっきより…」
「そんなことじゃありませんわよ!もうおバカさんなんだから!プンッ!」
「プンッって。またそれかよ」
「ウフフ。そうくると思ったでしょ?でも今回は違うんですのよ。あなたなんだか外が騒がしいと思いません?」
「ああ、そういえばそんな感じがするなあ。これはもしかしてうちの店がグルメ雑誌かなんかに載って人が集まってきたのかなあ?」
「ウフフ。あなたって楽天家なのね。ウフフフ。いくらなんでもうちのウフギにこれほどの人が集まるはずはありませんわ」
「そうだよねえ。いくらなんでもウフギじゃねえ。それでキミはなんで外がこんなに騒がしいのか知ってるのか?」
「あたくしが知るわけないじゃありませんか。でもあなたは知っていらっしゃるの?ちょっとした勘違いが原因で人々は暴徒と化してしまうんですのよ」
「何だい、それは?もしかして外で暴動が起きているとかいうのか?」
「そうだったら、どうします?」
「どうするかなあ?そんなこと考えたこともなかったなあ」
「もし、そうだったら、あたくしがお外に出て騒動を鎮めないといけないですわね」
「キミがか?なんでだよ」
「もしもの話ですわよ。もう、あなたったらなんでも本気にしてしまうんですから」
「うん…。まあそうだねえ」
「なあ、思ったんだけど。オレって結局マチ・ガイなのかなあ」
「なんだよ急に落ち込んだ感じで」
「チカ・ガイにもデンキ・ガイにもなれなくて、失敗ばっかりだし。オレってダメだなあ」
「おいおい、やめてくれよ。ここで自分の頭の悪さを認めちゃうのか?」
「いいじゃないか、たまには謙虚な気持ちになったって」
「そうじゃないよ。キミは自分が頭の悪いところを認めようとしないから面白かったんだぞ。そうじゃなきゃボクはキミとは一緒にいたりなんかしないぜ」
「それはどういう意味だか良く解らないなあ。ボクは喜んでいいのか?」
「どうでも好きにしてくれよ。ただしマチ・ガイになんかにはならないでくれよ。せっかく、ショウテン・ガイ見物にきたのに雰囲気台無しじゃないか」
「ああ、そうだったね。今話題のショウテン・ガイを見て、やる気を出そうというのが今日の目的だったんだからね」
「どうでもいいけど、なんか商店街が騒がしくないか?なんかのイベントかな?」
「おい、おまえなんか胸大きくなってないか?」
「何言ってるんだよおまえ。オレ達ショウテン・ガイが胸大きくして…。あれそう言うおまえこそ胸が大きくなってるぞ!」
「まさか、そんな…。ああ!ホントだ!」
「もしかしてオレ達が飲んでる脳が0%になるジュースって…」
「胸が100%になるバストアップ・ジュースなのか!?」
「どうしよう、こんなんじゃショウテン・ガイの面目丸潰れだよ」
「ちょいと、あなた?」
「ん?何だい。今は寝てないぞ」
「そんなことは解っていますわよ。それよりどうしたんですの?あなたさっきから自分の胸をまじまじと見つめちゃって」
「なんか、最近胸が大きくなった気がしてね。太ったのかな?」
「あなたが胸を大きくしてどうしようと言うんですの?ホントに変なヒトですわ。胸が大きくなったって包容力はアップしないんですのよ」
「別に包容力をアップさせる気はないけど…」
「それよりあなた!」
「なんだい、急に」
「もう、あたくしは嫌になってしまいますわ。外にはあんなに人が集まっているのに、誰一人としてうちの店に入って来ないじゃないですか。やっぱりうちでもウナギを出すべきなのよ。それなのにあなたがウフギにこだわってるから。このままじゃうちは空き缶ですのよ」
「空き缶?とにかくうちでウナギを出すわけにはいかないんだ。キミも解ってるだろう?」
「そうですけれど…。あたくしがもっとナイスガイならうちのお店も評判が良くなるのかしら?」
「…。さっきから言ってるナイスガイって、いったいなんなんだ?」
「まあ!?」
「どうするんだよ。このまま胸が大きくなっていったらショウテン・ガイじゃなくてナイスガイになっちゃうよ」
「だいたいおまえ。この脳が0%になるジュースの話、どこで聞いてきたんだ?」
「スーツを着て颯爽と歩く人たちに教えてもらったんだよ」
「おい!それはオフィス・ガイだぞ!」
「しまった。そうだったのか!オフィス・ガイめ。オレ達を潰す気だな」
「オフィス・ガイごときにオレ達が潰されてたまるかよ。こうなったら仲間を集めてオフィス・ガイに殴り込みだ!」
「なあ、知ってる?」
「知らない」
「おい!まちやがれ、ヤリ・ガイども!あれを返せ!」
「親方ー。待って下さいよー。ボクもう走れませんよー」
「どうしましょうか?どうやらショウテン・ガイが我々の計画に気付いて仕返しにくるようですよ」
「慌てなくても大丈夫。そのためにヤリ・ガイと提携したんじゃないか。我々オフィス・ガイをなめると痛い目に遭うと言うことを解らせてやらないとね」
「なあ、知ってる?」
「知らない」
「そうじゃなくてさあ。包容力がアップする包容力アップサプリがあるんだぜ」
「そんなのある訳ないじゃないか」
「だってこの前テレビでやってたぜ」
「それはきっとキミの夢の中のテレビだよ。それよりもこの商店街、なんか変じゃないか?」
「ホントだ。いろんなガイが集まってるけど、みんな妙に殺気立ってるねえ」
「それから、あそこにいるのは女子アナのウッチーじゃないか?」
「あれ?あの人ゾンビに食べられたんじゃないの?」
「なんだそれ?それもキミの夢の中の話か?」
「はい。ウッチーです。ただいま私はいろんなガイの睨み合いが続いている現場にきています。商店街は依然として一触即発といった感じで、風がサーってなったらまるで西部劇の決闘前さながらです。あっ、ちょうどいまこちらにさえない二人組のガイがやって来たのでウッチーがインタビューをしてみたいと思います」
「実物はテレビで見るよりかわいくないんだな」
「そうか?オレはテレビで見てる時もあんまりかわいくはないと…。やばい、こっち来るぞ」
「お二人は見たところ大したガイではないようですが、なにガイなんですか?」
「ボクらは、元チカ・ガイで元デンキ・ガイです。でもなんだかここにきたらすごく異様な雰囲気でボクらはバチ・ガイって感じで…」
「あっ!みなさんあちらを見てください。職人風の人がもの凄い勢いでダーってやって来ました。これからウッチーがあの職人風の人に突撃インタビューを試みてみます」
「おいおい。ボクらのインタビューは?」
「お急ぎのところ失礼します。あなたは何ガイなんですか?」
「ガイじゃねえよ!オレは親方だ」
「これからどちらに?」
「うるうせえ。引っ込んでろ!」
「行ってしまいました。アッ。みなさんあちらを見てください。ショウテン・ガイがオフィス・ガイに殴りかかりました。現場がバーってなってます。とうとう始まったようです。槍を持った人たちはオフィス・ガイに味方しています。そして、なんと親方は槍を持った人たちと戦っています。この予想外の親方の登場にオフィス・ガイの仲間、ソウテイ・ガイが乱闘に加わったもようです。そして、それを見ていたハンカ・ガイはうろつくのをやめて仲間のショウテン・ガイに加勢するようです。キャッ!テメーふざけんなよ!…ってんだろ…え?こら……。失礼しました。ただいまネオン・ガイの酔っぱらいに体を触られるというハプニングがありました」
「なあ、これやばくないか?」
「うん。やばいねえ」
「ちょっと。お巡りさん。なんとかしてよ。これじゃ喧嘩を通り越して暴動じゃない」
「私は警官ではない。ザ・ガードマンだ。変なジュースで胸が大きくなってもザ・ガードマン」
「もう頼りないわねえ」
「うおー!」
「うわー!」
「おりゃー!」
「あれを返せ、この野郎!」
「何!?ヤリ・ガイが契約違反?…わああ!」
「ただいま入った情報によりますと槍を持った人たちの正式名称はヤリ・ガイだそうです」
「なあ、知ってる?」
「ぬおーー!」
「ガッシャーン!」
「知らない」
「みなさん。現場に異変が起きました。オフィス・ガイに味方していたヤリ・ガイがどういうわけか手当たり次第に他のガイを攻撃しています。現場がガーッてなってザーッとなってきました。武力では圧倒的に勝っているヤリ・ガイに他のガイ達は苦戦しているようです。特にヤリ・ガイの力を頼りにしていたオフィス・ガイはかなり不利な立場に」
「うおー!」
「うわー!」
「おりゃー!」
「あれを返せ、この野郎!」
「わああ!」
「なあ、知ってる?」
「ウヒョー!」
「グチャ…」
「知らない」
「うう…」
「ちょいと、あなた達!いい加減になさい!」
「???」
「…」
「…」
「みなさん。大変なことが起きました。先程までダーってなってた現場が一気に静まりかえってしまいました。あすこの女性の一言で事態が急変したもようです」
「おい、なんだよあの人」
「なんだかすごい…」
「すごい包容力だ!」
「親方、見てくださいあの人」
「おお、あの全身からあふれ出る包容力。ジャンボ、よく見ておけ!あれこそ真のナイスガイだ」
「あの人女ですよ」
「うるせえ。そんなことはどうでもいいんだよ」
「なあ、知ってる?」
「知ってるよ」
「あなた達、いい加減にしないとあたくし怒ってしまいますわよ。あたくしが怒ってしまったらうちの人はたいそう困ってしまうんですから。それでもいいとおっしゃるの?それに、胸が大きくなってもそれはナイスガイではないんですからね。包容力は大きな胸ではなくて大きな心から生まれるんですのよ。ねえあなた。…あなた。…あなたってば!」
「うわあ!」
「うふふ。どうしたんですのあなた。また随分とうなされていましたわよ」
「なんだ、夢かあ…。それより外はどうなった?」
「外がどうかなさったんですの?」
「え?だってさっき外に人が大勢集まってただろ?」
「まあ、寝ぼけているのね。ウフフッ。そんなことよりあなた。あなたが寝ている間にお客さんがやって来たようだったんですけど、あなたが気付かないから帰ってしまいましたわよ」
「へ?なんで起こしてくれないんだよ。だってあなたぐっすり寝ていらっしゃったから。それに来たのはお客さんじゃありませんわ。あれはきっと春の息吹」
「春の息吹?」
「ほら、あなた。あすこをご覧になって。梅の花が今にも咲きそうですわ!」
「梅って、そんなのどこにあるんだ?」
「ウフッ…。ウフフフッ…」
このように「保留…」は保留な感じのままおしまいです。では次回のBlack-holicでお会いしましょう。ウフフフッ。