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#117 「unsealed」 2008-07-07 (Mon)

この記事はまだ Little Mustapha's Black-hole が Silverバージョンと Goldバージョンに分かれている時に書かれたもので、それぞれに別の内容という面倒なものになっていました。そこでLittle Mustapha's Black-hole Platinum では、二つの記事を合わせて掲載することにしました。(2018年2月)

Goldバージョン版

「あなた…」

「ウ〜ン…」

「あなたっ!」

「ワアァ!ビックリした」

「何をそんなに驚いているんですか?ずいぶんとうなされていましたけど」

「なんだかヘンな夢を見てねえ。自分の言おうとすることを違う人が先に言っちゃうんだよ」

「それは、あなたが頭にフタをしていないからですよ」

「フタ?」

「それよりもあなた。あすこのベランダの方、懲りずにまた出てきましたわよ」

「ああ、ホントだ。また望遠耳かあ」

「きっと、この先のことが気になって仕方がないのね。解ったところで誰にも止められやしないのですけどね。ウフフッ…」

「それって、何のことだ?」

「まあ、あなたったら!ウフッ…」

 ということで、気になるのでまた望遠耳で街で交わされる怪しい会話に耳を傾けてみようと思うのですが、なんだかウフギ屋の奥さんは何かを知っているような、いないような。謎めいておるのです。

 それでは、前回の「scanned」の続きで望遠耳なのです。(いきなりここを読む人は、先に前回を読んだ方が良いでしょう。)

「はい!現場の人気女子アナ、ウッチーこと内屁端(ウチヘバタ)でーす!私は今、問題になっているアブラ粘土カマボコを製造しているカマボコ会社の前に来ています!みなさん、このカマボコをご覧ください。袋の表示には『カマボコ』と書かれているのに、開けて中を見てみると、なんとアブラ粘土で作ったカマボコのような物、なのです。あっ!今ちょうど社員と思われる方が会社から出てくるところです。ちょっとインタビューしてみたいと思いま〜す!…ちょっとお話を聞かせて貰えませんかあ?」

「あの、私はこの会社の社員じゃないですから、何も言えません」

「そんなことはありません!この会社の社員じゃなかったら、この会社から出てくるはずはありませんから、あなたは社員に違いないのです」

「残念ながら、何らかの理由で社員以外の人間も会社にいることがあるんですよ。それじゃあ、失礼」

「何ということでしょうか。私のインタビューをことわって行ってしまいました。これは社員が社員ではないと嘘を言っているに違いありません。明らかに偽装です。あっ!また別の人が会社から出てきました。今度こそ人気女子アナのプライドに賭けて詳しいことを聞き出して見たいと思います。…ちょっとお話を聞かせて貰えませんかあ?」

「今はそれどころじゃないんですよ。話なら後から来る人に聞いてくださいよ。さようなら!」

「またしても行ってしまいました。これはまさにウッチー、ショックーって感じで〜す。あっ!また人が出てきました」

「おーい!待ってくれよ!いきなり二人もいなくなったら会社じゃなくなっちゃうんだよ!おーい!待ってえ!」

「ちょっとお話を…。おい!てめえ!ちょっと話をするぐらいどうってことねえだろが!待ちやがれ、この…」

「ホントにダイジョブなのか?」

「ダイジョブだよ。ここがイケてるクラブに違いないんだから。それじゃあ呼び鈴を押してみるぞ」

「ちょっと待って。もしも違ったらどうするんだよ?」

「何を怖じ気づいてるんだキミは?そんなの決まってるだろ。もしも違ってたら『ごめんなさい、間違えました』で良いじゃないか」

「まあ、そうなんだけどねえ。なんだかイヤな予感がするんだけど」

「そんなこと気にしてるといつまでたってもイケてる感じにならないぞ。それじゃあ、押してみるぞ」


「ハーリハーリハーリハ〜!」


「うわっ、ビックリした!」

「なんか、ボクらが呼び鈴を押そうとしてるのに気付いてるんじゃないか?」

「そんなことはないだろう。ボクは今ので確信したよ。ここがまさにイケてるクラブに違いないよ」

「その確信はどこから来るんだよ?」

「まあ、なんていうか、野性的な直感というかな。とにかく呼び鈴を押さない限り何が起こるのかは…」


「ハーリハーリハーリホ〜!ハーリハーリハーリホ〜!」


「ウワアアァァァ!」

「良いですか、みなさん。このように最後にゼロを掛けると答えはいつもゼロになるのです。ですから…」

「(ハーリハーリハーリホー!)」

「なんだか、隣の教室がうるさいですねえ。でも授業に集中してくださいよ。最後にゼロを掛けることによって、答えはゼロになるのですから、自分の計算に自信がない時にはイコールの前に『×0』と書いて、答えをゼロにしたらどんな計算も間違えずにすむのです。解りましたか?」

「はーい!」

「うん。よろしい」

「はい!再び現場のウッチーで〜す。先ほどはお見苦しいところがありましてまことに申し訳ありません!でもそれは水に流して、インタビューにいきましょう。ここにいるのは問題のカマボコ会社の部長と名乗る方です。では早速、今回の騒動について聞いてみたいと思いま〜す。一体これは何なんですかあ?」

「これは全人類に幸福をもたらす画期的なプロジェクトなんです」

「それは、アブラ粘土をカマボコと偽って販売することなんですかあ?」

「そうなったのはロング・ツイン・テールの影響だと思います。そんなところは気にせずにハリハリハー!なら我が社のカマボコは美味しくいただけると思いますよ」

「アブラ粘土は食べてはいけないと思いますが?」

「これはアブラ粘土ではありませんよ。ちゃんと『カマボコ』と書いてあるでしょ。だからカマボコなんです」

「違いますよ。カマボコと書いてあるのにアブラ粘土だから偽装なんです」

「あなたも、わからない人だ」

「あなたの方が解りません。もしかして上手くごまかそうとしているんじゃないですかあ?」

「失礼なことを。キミは幸せになりたくないのか!」

「ウッチーはいつでも幸せで〜す」

「そんなことでは『大いなるモヤモヤの終わり』に幸せになれないぞ」

「何ですかそれは?」

「いにしえより来る魔法使いが『しあわせの石』を取りに我が家へ訪れる時ハーリハーリハーリハ〜の嵐が起こり、大いなるモヤモヤを吹き飛ばすであろう。ハーリハーリハーリハ〜!」

「何ですか、それは。その石というのはどうしたのですかあ?」

「カマボコの原料にまじってたんだ。魚の網に引っ掛かってたんじゃないかな。よく見たら『しあわせの石・いにしえより来る魔法使い』と書いてあったから、これは間違いなく『しあわせの石』だということで持って帰ることにしたんだよ。ハーリハーリハーリハ〜!」

「もう、ウッチーわけわかんな〜い!って感じで〜す」

「キミもテレビの人間ならその影響力を使って幸せの呪文『ハーリハーリハーリハ〜!』を広めたらどうなんだ?」

「以上、現場からお送りしました。スタジオにお返ししま〜す!」

「ちょっと、そこのお巡りさん!大変ですよ。あそこの家から変な人が出てきていきなり『ハーリハーリハーリハ〜!』なんですよ。それだけじゃなくてその人の顔が…」

「ハーリハーリハーリハ〜!」

「ウワアアァァァ!」

「何か外の様子がおかしくないか?」

「あらいやだ。あなたったら居眠りはどうしたんですか?」

「なんだか寝ると恐い夢ばかり見るから、今日は居眠りは出来そうにないんだよ」

「あなたったら、そんなことを言っても、さっきまでずっと寝ていらしたわよ。ウフッ」

「そんなことないだろ」

「今だって、寝ていらっしゃる」

「なに言ってんだよ?ボクはこうしてキミと…」

「これが夢だったら恐ろしいと思いません?ウフッ…。あなたのこれまでの人生は全部夢なの。ウフギの店を始めたことも、あたしとこうして暮らしてきたことも、全部夢だったら、あなたはどうします?」

「そんなことを考えたら、恐くなるじゃないか」

「ウフッ…。意地っ張りなんだから。ウフフッ…」

「んー?」

「なんだかビックリしちゃったな」

「ホントだよ。一日に二回もあんなのを見るなんて。どうかしてるな、この辺りは」

「でもどうしてあの人達は顔がアブラ粘土になってたんだ?」

「そんなのオレが知るかよ。でも顔がアブラ粘土になっているのに比べたらオレ達はイケてるんじゃないか?」

「単純だなあ、キミは。アブラ粘土の顔と比べたってイケてるかどうかの判断は出来ないだろ」

「まあ、それもそうだけど。ちょっと前向きに考えてみようと思ってね」

「キミの前向きは前過ぎてほとんど後ろ向きなんだよ」

「それはどういう意味だ?」

「意味はないけど、勢いにまかせて話してたらそんなフレーズが出てきてしまった、ということだよ」

「良く分かんないけど、どうでもいいか。早くイケてる感じにならないとなあ。いつまで経っても人生がモヤモヤしていく一方だし…。あれ?あそこにいるのウッチーじゃないか?夕方のニュースでリポーターやってる」

「ホントだ。なにやってるんだろう?カメラもないのに一人で喋ってるぞ」

「そんなことよりも、オレ達の見たアブラ粘土人間のことをウッチーに話したら、ボクらもテレビに出られるんじゃないか?」

「それはいい考えだね。これでボクらも…」

「イケてる感じだよ!」

「はーい!再びウッチーで〜す!みなさんここがどこだか解りますかあ?…・そうなんです!以前から子供に嘘を教えているのではないか?とウワサされている小学校なんです。なんと、今日この小学校で不可解な事件が起きたのでーす!教師や子供達の多くがおかしな顔になって『ハーリハーリハーリハ〜!』と叫びだしたと言うことです!」

「ちょっと、ウッチーさん。スゴイ話があるから聞いてくれませんか」

「今は生中継中ですから邪魔をしないでくださーい!」

「そんなこと言ってもカメラとかどこにあるんだよ?」

「何だよ、うっせーなオメーら!ハリ倒すぞ!」


「うわっ。なんだか裏の顔を見てしまったな」

「ウワサには聞いてたけど、やっぱすごいんだなあ」

「そんなことよりもウッチーの顔がいつもと違わないか?」

「ホントだ、なんだかアブラぎってるな」


「それではいったんスタジオにお返ししまーす!ハーリハリーホ〜!」

「ちょっと、待ってくださいよ。どこ行くんですか?」

「あっ!なんだキミかあ。ビックリさせんなよ」

「それよりもずるいですよ。一人だけ先に会社を辞めたりなんかして」

「そういうキミも無理矢理やめてきたんだろ?」

「まあ、そうですけど。なんだか社長が気の毒で…」

「そんなことを気にしてたら自分が危険な目にあうんだからな」

「それ、どういうことですか?」

「早く遠くに逃げないと大変な事になるんだよ」

「何でですか?」

「□□部長が言ってたアレのことだよ。あれのせいで日本は大変な事になるかも知れないよ。いや、もしかすると世界中がおかしくなってしまうのかもしれない」

「それは、あの石のことですか?それで、どこへ逃げるって言うんですか?」

「とりあえず凄く遠くにいくしかないね。さっき貯金を全部おろしてきたし。今ならまだ飛行機だってまともに飛んでいるから…。良かったらキミも一緒に行かないか?気付かなかったが、同い年で同期ということだし」

「なんだか、言っていることの意味が良く解りませんが。それよりも遠くって、外国のことですか?」

「決まってるだろ。狭い日本じゃ遠くなんて場所はないんだよ」

「パスポートとかはどうするんですか?」

「あっ!しまった…!!」

「おい、そこの望遠耳!」

「あれっ?あなたは『友達の知り合いだけが知っている魔法使い』ですか?」

「なんだそれは?私はいにしえより来る魔法使い。幸せと災いの使いだ」

「なんだか、そっくりだから解りませんでしたよ」

「それよりも、私は□□の家に行かなくてはいけないのだが、どうしても辿り着けないのだよ。キミはその望遠耳でこの辺で起こっていることを把握しているはずだから聞いてみるんだが、□□の家はどこにあるんだ?」

「そういわれても、望遠耳では正確な場所は解りませんよ。多分あっちの方だとは思いますけど」

「そうか、それだけ解れば十分だ。世話になったな、望遠耳の人」

「アッ、ちょっと待ってくださいよ。なんだかこの話は怪しい展開なのですがダイジョブなんですか?」

「さあ、それはどうかな?幸せが大きければ災いの威力も増すんだよ。私に言えるのはそれだけだ。さらばだ!」

「あなった!」

「キャー!…なんだ、キミかあ」

「なんだじゃありませんわよ。結局、居眠りしてるじゃありませんか」

「あれ?ホントだ。どうもおかしな感じだな」

「それよりも、あなた。あすこをご覧になって」

「ん?望遠耳の人か?」

「そうなんですけど、あなた。魔法使いはあの方に魔法をかけなかったんですよ!」

「何を言ってるのか解らないよ」

「もう、いつも寝てばっかりいるからそんなことになるんですよ!もう知りません!」

「あらら…」


ハーリハーリハーリハ〜!ハーリハーリハーリホ〜!


「何だあの声は?」

「幸福と災いが勢力を増しているのですよ」

「なんだそれは?」

「あなたはこれまで私と一緒で幸せでしたか?」

「えっ?何だよいきなり」

「幸せだったか?って聞いているんですよ!」

「そりゃあ、まあねえ…。エヘヘッ」

「もう、あなたったら!ウフフフッ…」

「エヘヘヘッ…」

「ここで人気女子アナウッチーことウチヘバタ・アナ失踪事件の続報です。先程までウッチーがリポートをしていた住宅街で奇妙な現象が起きているということなのです。現場の映像が入ってきています」

「(ハーリハーリハーリハ〜!ハーリハーリハーリホ〜!)」

「これは一体どういうことなのでしょうか?教師を先頭に大勢の小学生達が不思議な言葉を発しながら街を練り歩いています。彼らの顔は妙に脂ぎっているようにも見えますが…。アッ!子供達にまじって一瞬だけウッチーの姿が映ったような気がしますが。カメラさん、ウッチーの姿は確認出来ますか?…。ちょっとカメラさん!映像が乱れていますよ」

「(ハーリハーリハーリハ〜!ハーリハーリハーリホ〜!)」

「映像がとぎれてしまいました。詳しいことが解り次第、番組の中でお伝えしていきます。それではCMのあとはグルメコーナー。『山の幸を食べ尽くせ!激安!産廃山の山菜三昧!!』です」

ハーリハーリハーリハ〜!ハーリハーリハーリホ〜!

「ちょっと、これはどういうことなんだ?」

「オレに聞いても知らないよ」

「この街にはこういうお祭りみたいなのがあるのかな?」

「祭りって、こんなの見たことも聞いたこともないけどね」

「でも、意外とあるんじゃないのか?ハリハリ祭りとか。どっかで聞いたことあるような気もするけどね」

「そんなのあるワケないだろ。それにこういう街でお祭りの時には屋台が出てたこ焼きとかお好み焼きを売ってるだろ」

「それは別に決まりじゃないから、なくても良いんじゃないか?」

「アレって、決まりじゃないの?ボクの感覚だと屋台イコールお祭りなんだけどね」

「屋台だったら駅前に毎日あるだろ」

「アレはお祭りだからじゃないのか?」

「何の祭りだよ?」

「今日も一日ご苦労様祭り、とか?」

「何だよそれ?そういえば、ここへ来る時、駅前の居酒屋に『山菜祭り』って書いてあったな。そろそろお腹空いてきたから『山菜祭り』いかないか?」

「そうかあ?何かオレはなんだか食欲が出ないんだけど」

「なんで?」

「何かさっきからアブラ粘土の臭いがしてるだろ?オレはどうしてもあの臭いがダメなんだよね」

「ホントだ。アブラ粘土の臭いだね」

「今頃気付いたの?」

「まあ、ボクはキミほどアブラ粘土にこだわってないからね」

「オレだってこだわってるワケじゃないけどさあ…」

「ちょっと、待ってくださいよ。パスポートは良いんですか?」

「こうなったら、パスポートはあきらめるしかないよ。というかキミはいい加減ボクに対して丁寧に話すのやめたらどうなんだ?」

「でも、これ以外の話し方だとあなたとの関係がこれまでと変わってしまう気がするから出来ませんよ」

「それは、それで良いんじゃないか?もう同じ会社の人間じゃないんだし」

「まあ、言われてみりゃー、そうだにゃ〜」

「何だよその喋り方は!?やっぱり元に戻してくれ」

「ほら、言ったじゃないですか。それよりもどこへいくんですか?」

「パスポートがないなら国内しかないだろ。沖縄のずっと先の方にいけばなんとかなるんじゃないか?」

「まあ、そうですかねえ。それよりもこの空港に人が誰もいないことに気付いてますか?」

「そうなんだよねえ。これじゃあタダ乗りできちゃうよ」

「タダ乗りというか、この様子じゃパイロットとかもいなくなってると思いますが…。ちょっと!アレを見てくださいよ!」

「なんだアレは!飛行機がグニャってなってる!まさか…」

「何なんですか?」

「もしかすると、飛行機がアブラ粘土になってるんじゃないのか?」

「そんなあ…」

「おい、ちょっと!一体この料理は何なんだよ!オレが頼んだのは山菜天ぷらなんだよ。この店では天ぷらを頼むとアブラ粘土が出てくるのか?」

「ホントだ。これはヒドいなあ。ちょっと、すいません!これアブラ粘土なんですけど」


「はい、ただいまー!ハーリハーリハーリホ〜!」


「ウワアアァァァ!」

「ウフッ…。ウフフッ…」

「なんだ思い出し笑いなんかして?」

「あらいやだ。あなた起きていらしたの?それよりもこのあいだ面白いことを聞いたんですよ」

「どんなことだい?」

「アブラ粘土よりも美味しいのはうちのウフギしかないって、そう言っている方がいたんですのよ。ウフフッ…」

「それは…。喜んでも良いのかなあ?」

「世の中の全てがアブラ粘土で出来ていたら、うちのウフギもアブラ粘土ですわね」

「まあ、そうだけど」

「でも、全てがアブラ粘土になってしまったら、誰が全てを元に戻すんでしょうね?」

「えっ?」

「アブラ粘土を触ったらちゃんと手を洗わないといけませんわね。あなた」

「そうだねえ…」

「でもあなたは紙粘土だから、放っておくとカチカチになってしまうの」

「…?」

「ハーリハーリハーリハ〜!ついに見つけたぞ□□の家」

「ハーリハーリハーリハ〜!ハーリハーリハーリホ〜!」

「おまえはこの家のあるじか?いや、アブラ粘土になっているところを見ると、そうではなさそうだ。おい、そこの女。私から『しあわせの石』を盗んだ者はどこにいるのだ?」

「ハーリハーリハーリホ〜!」

「そうか。…そうだな。アブラ粘土に聞いても解るわけはないか」

「ハーリハーリハーリハ〜!」

ハーリハーリハーリハ〜!

「声が小さいですよ。もう一度!ハーリハーリハーリハ〜!」

ハーリハーリハーリハ〜!

「私はうれしいですよ、みなさん。小さなカマボコ会社の部長が、今ではみなさんを導く役割を果たしているのですから。こんな嬉しいことはありません。後は『いにしえより来る魔法使い』を待つのみです。大いなるモヤモヤから私達が解放される時はもうすぐそこまで迫っているのです。ハーリハーリハーリハ〜!」

ハーリハーリハーリハ〜!


「ちょっと、質問がありまーす!」

「おや?あなたはテレビのニュースの人ですね。あなたのおかげで我々のことを多くの人に知ってもらえることができたようです。あなたには感謝しないといけませんねえ。それで、質問とは?」

「どうしてウッチー達はアブラ粘土になっちゃったんですかあ?」

「さすがはジャーナリストですねえ。それはこういうことです。幸せの究極の形はアブラ粘土ということなのです。おかしいと思うかもしれませんが『いにしえより来る魔法使い』がそれを証明してくださる。ハーリハーリハーリハ〜!」

ハーリハーリハーリハ〜!ハーリハーリハーリホ〜!

「なあ、知ってる?」

「知らないよ!というか今はそれどころじゃないだろ」

「まあそうだよねえ。そこら中がアブラ粘土化してるんだからね。でもデジタル化の次にはアブラ粘土化が来る!って話だぜ」

「なんだよそれ!?そんなの誰に聞いたんだ?」

「前にバイトしてたカマボコ会社の社員からだけど」

「そんなの嘘に決まってるだろ」

「でもこうしてアブラ粘土化は進んでいるじゃん。さっきは居酒屋の店員までアブラ粘土だったぜ」

「でもデジタル化はあんまり進んでないぞ」

「そうだけどね。でも全てが計画通りとはいかないものだし」

「どうでもいいけど。それよりもボクら以外にアブラ粘土になっていない人間はいないのか?」

「まあ、これでボクらもイケてる人間の仲間入りは出来たかも知れないけどね」

「そんなことはもうどうでも…、アッ!あそこにまともな人間がいるぞ」


「おい、そこの若者!」

「なんすか?っていうか、オレ、チョーやばいことになってるっぽいんすけど」

「そんなことはどうでもいいんだよ。キミはこの辺りで何が起こっているのか知らないのか?」

「っていうか、家に帰ったら家族全員アブラ粘土って感じ?」

「それは質問なのか?」

「マジ、やばいっすよね。しかもオレ、ヘンな魔法でずっと若者のままだし」


「どうもこの若者とは会話になりそうにないよ」

「そうみたいだな。他をあたってみよう」

「おい、そこの望遠耳」

「アッ、あなたは『友達の知り合いだけが知っている魔法使い』じゃないですか。これは一体どういうことなんですか?みんなアブラ粘土になってしまっているのに。なぜか元のままの人間もいたりして。意味が解りませんが」

「そんなことよりもそろそろこの話は終わらせないと、どこまでも長引くぞ」

「そんなことを言っても、私はこの望遠耳で聞いたことを文字にするだけですから。何が起こっているのかぐらいは教えてくださいよ」

「それは私に聞いても解らないよ。私はスッキリとモヤモヤの使い。『友達の知り合いだけが知っている魔法使い』なのだから。でもこれだけは教えてあげよう。アブラ粘土にならない人間は元からアブラ粘土で出来ている人間なんだよ」

「ボクはそんなことでは驚きませんよ」

「なんだ。騙されないのか。まあ、つまりそういうことだ。それよりも『いにしえより来る魔法使い』はどこへいったんだ?」

「さっきここに来ましたけど。□□さんの家の方に行きましたよ。というか、もうそこにはいないと思いますけど」

「そうなのか。それで□□さんの家はどこにあるんだ?」

「あっちの方です」

「あっちか。って、どっちだ?」

「だから、あっちですよ」

「まあ、どうでもいいか。キミの思っている『あっち』と私の思っている『あっち』が同じ方角だといいのだがな。それから、一つ言っておくと、アレは『しあわせの石』なんかじゃないぞ。それではさらばだ!」

「ハーリハーリハーリハ〜!」

ハーリハーリハーリハ〜!

「ハーリハーリハーリホ〜!」

ハーリハーリハーリホ〜!

「もっと強く!ハーリハーリハーリハ〜!」

ハーリハーリハーリハ〜!


「ハーリハーリハーリハ〜!しあわせの石を盗んだ者よ。今こそ名乗り出るがいい。ハーリハーリハーリホ〜!」


「ああ、アレは『いにしえより来る魔法使い』だ!みなさん、とうとうこの時が来たのです。我々が『大いなるモヤモヤ』から解放される時が!『いにしえより来る魔法使い』さん!私です!しあわせの石を持っているのはこの私です。さあ、早く世界にしあわせを!」


「ハーリハーリハーリハ〜!幸せは忘れた頃にもやってこない!」


「みなさん!聞きましたか?今のありがたいお言葉を!ハーリハーリハーリハ〜!」

ハーリハーリハーリハ〜!


「ハーリハーリハーリホ〜!そして、幸せは気付かれる前に消えていく!」


「どうですか、みなさん!これこそ新しい世界の幕開けです!ハーリハーリハーリハ〜!」

ハーリハーリハーリハ〜!

「ハーリハーリハーリホ〜!」

ハーリハーリハーリホ〜!


「小さな幸せを追い求めて、大きな幸せを見過ごした時、大いなる災いはアブラ粘土のかたまりとなって押し寄せて来るであろう!ハーリハーリハーリホ〜!」


「ハーリハーリハーリホ〜!」

ハーリハーリハーリホ〜!

「ハーリハーリハーリホ〜!」

ハーリハーリハーリホ〜!

「なあ、知ってる?」

「知らないよ!」

「そうじゃなくてさ。何か世界がアブラ粘土化してるような気がするんだけど」

「というか、ボクらの体もアブラ粘土になってないか?」

「うわっ、ホントだ!」

「これは一体どういうことなんだ?」

「やっぱりボクらはイケてなかった、ってことなのか?」

「今さらそこを気にするのかよ!」

「ウフフフッ…。あなた…。あなた……。ウフフッ…。ウフフフッ…」

「ハーリハーリハーリホ〜!」

ハーリハーリハーリホ〜!

「おい!望遠耳!」

「あなたは『友達の知り合いだけが知っている魔法使い』じゃないですか。これは一体どうなってるんですか?体がアブラ粘土になってしまったのですが」

「残念ながら、大いなるモヤモヤの時代は終わりを告げそうだ」

「つまり、アブラ粘土の時代がやって来るということですか?」

「アブラ粘土は始まりにすぎない。この先に待っているのは大いなるベタベタの時代だ」

「それは、いったい…」

「キミの思っていた『あっち』と私の思っていた『あっち』は違っていたのだよ」

「私達は一体どうなるのですか?」

「それは私の知ったことではないよ。それじゃあ、帰るとするかな。…ああ、そうだ。私に会ったことはみんなには内緒だよ」

「なんで?」

「だって私は『友達の知り合いだけが知っている魔法使い』なんだから」

「まあ、そうか」

「ハーリハーリハーリハ〜!」

ハーリハーリハーリハ〜!

「あなた…。あなた…」

「ハーリハーリハーリホ〜!」

ハーリハーリハーリホ〜!

「ウフフフッ…。アッ、ナッ、タッ!」

「ブワアァ!」

「ちょっと、あなた!」

「夢か?これは夢か?」

「夢なんかじゃありませんわよ」

「するとボクらは…」

「もう何なんですか?そんなにアブラ汗をかいて。そんなことだから『流しに流せない人』って言われるんですよ」

「なんだそれは?誰がそんなことを言ったんだ?」

「だれもそんなことは言いませんわよ、あなた。それよりもあすこをご覧になって、あなた」

「あすこ?あれ、あのベランダの人いなくなっちゃったな」

「そうじゃないですわよ、あなた。あたしの言っているのはもっと違うあすこですわよ」

「それってどこだ?」

「ベタベタする季節がやって来るあすこの方角。入道雲を裏返すと下からヘンな虫が出てくるの」

「…。そうかもしれないねえ…」

 私はアブラ粘土になったのか?それとも全ては夢の中?もしかすると真実はウフギ屋の奥さんだけが知っているのかもしれません。

 ちなみに、『いにしえより来る魔法使い』やアブラ粘土人間の唱えていたあれはCab Calloway - Minnie The Moocher[YouTube]の感じです。特に災いとかとは関係ない歌ですが、雰囲気が良い感じですから使って見ました。(今さら言われても、という感じですが。)


 というわけで、今回の望遠耳シリーズのバッドエンディング・バージョンでした。といっても、まだもう一つの方は書いてないのですが。もしかすると「もっとバッド・エンディング」になるかも知れませんし、「いっそセレナーデ・エンディング」かも知れません?

 ここで、いつものノリで「お楽しみに」で終わってしまうところでしたが、まだ次回の予告をしていませんでした。次回はアブラ粘土の保存方法について、ではありません。お楽しみに。

Silverバージョン版

「あなた…」

「ウ〜ン…」

「あなたっ!」

「ワアァ!ビックリした」

「何をそんなに驚いているんですか?ずいぶんとうなされていましたけど」

「なんだかヘンな夢を見てねえ。自分の言おうとすることを違う人が先に言っちゃうんだよ」

「それは、あなたが頭にフタをしていないからですよ」

「フタ?」

「それよりもあなた。あすこのベランダの方、懲りずにまた出てきましたわよ」

「ああ、ホントだ。また望遠耳かあ」

「きっと、この先のことが気になって仕方がないのね。解ったところで誰にも止められやしないのですけどね。ウフフッ…」

「それって、何のことだ?」

「まあ、あなたったら!ウフッ…」

 ということで、気になるのでまた望遠耳で街で交わされる怪しい会話に耳を傾けてみようと思うのですが、なんだかウフギ屋の奥さんは何かを知っているような、いないような。謎めいておるのです。

 それでは、前回の「scanned」の続きで望遠耳なのです。(いきなりここを読む人は、先に前回を読んだ方が良いでしょう。)

「はい!現場の人気女子アナ、ウッチーこと内屁端(ウチヘバタ)でーす!みなさん、ここがどこだかわかりますかあ?ここは今問題になっているカマボコなのにアブラ粘土を販売している会社の前なのです。ここに実際に売られているカマボコがあるのですが、このように表には『カマボコ』と書かれているのに、開けてみるとこうしてグニャっとした感じでアブラ粘土が出てくるのです。あっ、ちょうど今、社員と思われる方が出てきましたので、ウッチーが突撃インタビューしてみたいと思いまーす。すいませーん。ちょっとお話を聞かせてもらってもいいですかあ?」

「私はこの会社とはもう何の関わりもないんで、何も言えません。スイマセンが失礼します」

「なんと、突撃インタビューを断られてしまいました。しかし、この建物から出て来たたのに会社と関係がないなんてことは考えられません!会社の建物から出てくる人は社員でないといけないのです。会社の建物から社員以外の人が出てきたら、これは明らかに偽装です。こんなことが許されて良いのでしょうか?…あっ、ここでまた別の人が出てきました。今度こそ話を聞いてみたいと思いまーす。すいませーん。ちょっとお話を…」

「今はそれどころじゃないんですよ。早く行かないと大変な事になりますから。話なら後からボクを追いかけてくる人に聞いてください」

「これは一体どうなっているのでしょうか?またしてもインタビューを断られてしまいました。ウッチー、クヤシーって感じです!」

「おーい!待ってくれー。辞めないでくれよ!」

「また誰か出てきました。今度こそ話を聞いてみたいと思いまーす。すいませーん。ちょっとお話を聞かせてもらえませんかあ?」

「何だねキミは?今はそれどころじゃないんだよ。社員が二人もいなくなったら会社じゃなくなっちゃうよ、おーい!」

「これはどういうことでしょうか?それよりもあなたは、会社の建物から社員以外の人が出てくるという偽装問題についてはどう思っているんですかあ?」

「なんだ、それは?そんなことは別に問題じゃないだろ?私は忙しいからもう行くぞ。おーい!待ってくれー!…」

「ホントにダイジョブなのか?」

「ダイジョブだよ。ここがイケてるクラブに違いないんだから。それじゃあ呼び鈴を押してみるぞ」

「ちょっと待って。もしも違ったらどうするんだよ?」

「何を怖じ気づいてるんだキミは?そんなの決まってるだろ。もしも違ってたら『ごめんなさい、間違えました』で良いじゃないか」

「まあ、そうなんだけどねえ。なんだかイヤな予感がするんだけど」

「そんなこと気にしてるといつまでたってもイケてる感じにならないぞ。それじゃあ、押してみるぞ」


「ハーリハーリハーリハ〜!」


「うわっ、ビックリした!」

「なんか、ボクらが呼び鈴を押そうとしてるのに気付いてるんじゃないか?」

「そんなことはないだろう。ボクは今ので確信したよ。ここがまさにイケてるクラブに違いないよ」

「その確信はどこから来るんだよ?」

「まあ、なんていうか、野性的な直感というかな。とにかく呼び鈴を押さない限り何が起こるのかは…」


「ハーリハーリハーリホ〜!ハーリハーリハーリホ〜!」


「ウワアアァァァ!」

「何これ、アブラ粘土?」

「そんなワケないじゃ〜ん。クッキーの生地だよぉ」

「ウフフッ…。ウフフフッ…。あなた…。あなた!」

「ん?!なんだ?」

「迷ってらっしゃる」

「何を?」

「あすこはきっと高気圧と低気圧がぶつかる場所」

「何のことだか解らないけど」

「あなたは、ピンクのカマボコに意味があると思います?」

「ピンクの?ああ、あれは紅白でめでたいから…」

「ピンクのカマボコには妖しい魅力がありますものねえ。あなた」

「うん…」

「外側のピンクの部分が上手くはがせたら良いのですけれど…。あなたは心配じゃございません?」

「何が?」

「夏が来ないで、また冬が来るとしたら。あなたはどうするんですか?」

「それはないだろう」

「もう!あなたったら!」

「何で怒るんだ?」

「もう、知りません!」

「はい、いいですかみなさん。それではこのあいだの復習から始めましょうか。○○君。このあいだ習ったことを言ってみなさい」

「はい、先生。名前が似ていても中身が違うことがあります!」

「うん。なかなか良いですねえ。アブラゼミとアブラ虫の例えがあったらもっと良かったですよ。それでは今日は名前が違っても似ているものを勉強していきたいと思います。まずは、カマボコとアブラ粘土について考えてみましょうか」

「ちょっと!○○の奥さん!」

「あら、△△の奥さんじゃないの。どうしたのよ」

「なんだか□□の奥さんが最近ヘンだったじゃない」

「そうよねえ。ちょっと恐いわよねえ」

「そうなのよ。あれのせいですごいことになってるって話よ」

「そうなの!?うちなんかこのあいだのあれで、主人が大変だったのよ。もういい加減にして欲しいわねえ」

「ホントよねえ」

「大変だー!ちょっとお巡りさん。来てくださいよ!」

「…私は警官ではなくて…ザ・ガードマンだ…」

「どうでも良いですけど、さっきあそこの家で凄いもの見ちゃったんですよ!」

「…ほう、凄いものとは?」

「呼び鈴を押そうとしたら、中からヘンな声が聞こえてきて、それから中からもの凄い顔の人が…」

「それはこんな顔じゃなかったかな?」

「ウワアアァァァ!」

「はい。再び現場のウッチーでーす!ついに先ほどの会社の方に話を聞くことが出来そうです。それでは早速聞いてみましょう。あなたは一体誰なんですかあ?」

「誰って!?さっきも言ったように、部長の□□です」

「□□さん。今回の偽装事件はカマボコがアブラ粘土になっている事件と関わりがあるのでしょうか?」

「偽装事件とは何のことだか解りませんし、カマボコがアブラ粘土になっていることは事件ではないと認識しています」

「そんなことはありません。会社のビルから会社と関係のないひとが出てきたんですよ。これは立派な偽装事件です」

「何を言っているのか解りませんが、カマボコがカマボコ3.0に移り変わる過渡期にはカマボコがアブラ粘土になることもあり得るのです。でも袋にはちゃんと『カマボコ』と書いてあるのだから、これは間違いなく『カマボコ』ということなのです」

「それでは偽装事件の説明になっていません。ウッチーは会社のビルから社員以外の人が出てくるという偽装についての説明を求めているのです」

「あなたもヘンなところにこだわるねえ。そんなことではハーリハリになれませんよ」

「何ですかそれは?」

「あなたは幸せになりたくないのですか?」

「ウッチーはいつでも幸せでーす」

「それは悲しいことですよ。そんな人こそ、本当の幸せに気付く必要があるのです。ハーリハーリハーリハ〜!」

「ハーリハーリハーリハ〜!何ですかそれは?」

「全ては『いにしえより来る魔法使い』が解決してくださる。そして大いなるモヤモヤの時代は終わりを告げるのです。あなたのような悲しい人間も皆、己の過ちに気付いて悔い改めることでしょう」

「テメー、適当なこと言ってるとはり倒すぞ!この…」

おい、ビックリしちゃったよー。Web2.0ってメールできんだぜ!

「へえ…、そうなんだあ」

「なんか、恥ずかしいことを言ってしまう人って、声がでかいよなあ」

「なんだそれ?」

「まあ、ちょっと思っただけなんだけどね」

「それよりもこの街はどうなってるんだろうねえ」

「ホントだねえ。怪しい家からカマボコおばさんが出てきたと思ったら、近くにいた警備員もカマボコ男だったんだから。ホントにこの街はおかしな街だよ」

「というか、毎回ここへ来ようと言うのはキミなんだぞ。どうしてこんなヘンな街に来たがるんだよ?」

「ボクはそんなことは言ってないよ。キミこそ、ここに来れば何かがある!っていつも言ってるじゃないか」

「そうじゃなくて、これまでこの街では色々あったなあ、と言っただけだよ。どうでもいいけど、そろそろ行かないか?こんな街にいても少しもイケてる感じにはなれないよ」

「まあ、それもそうだけどね」

「おい、そこの望遠耳!」

「あれっ?あなたは『友達の知り合いだけが知っている魔法使い』ですか?」

「なんだそれは?私はいにしえより来る魔法使い。幸せと災いの使いだ」

「なんだか、そっくりだから解りませんでしたよ」

「それよりも、私は□□の家に行かなくてはいけないのだが、どうしても辿り着けないのだよ。キミはその望遠耳でこの辺で起こっていることを把握しているはずだから聞いてみるんだが、□□の家はどこにあるんだ?」

「そういわれても、望遠耳では正確な場所は解りませんよ。多分あっちの方だとは思いますけど。それよりも、これはどういうことなんですか?なんだかあなたが来ると世界が変わるとか言ってましたけど」

「それはとんだ思い違いなんだよ。□□は私の『しあわせの石』を盗んで幸せになれると思いこんでいるみたいだな。でも、あの石には『しあわせの石』と書かれているが、実は災いの石。名前と中身が違うことはよくあることだよ」

「それは良くないことなんですか?」

「世界中のカマボコがアブラ粘土になって、人間がカマボコになることを喜ぶのは野良犬や野良猫ぐらいじゃないか?その意味では『しあわせの石』で間違いではないが、人間にとっては災いの石でしかない」

「なんだか良く解りませんが、あなたはそれを止めてくれるんですね?」

「何を言っているんだ。私はただ自分のものを取り返しに行くだけだ。さらばだ」

「うわぁ!」

「何ですか、あなた?ビックリするじゃありませんか」

「なんだか恐ろしい夢を見たんだよ」

「ウフフッ。あなたったら。居眠りばかりしていると現実と夢の区別がつかなくなりますわよ。ウフフッ」

「夢と現実の区別ぐらいはできるさ。恐ろしい夢から覚めたら、隣にはこうしてキミがいるんだから」

「あらいやだ。あたしはカマボコと一緒に暮らしてなんかいませんわよ」

「えっ?」

「私はウフギ屋の女将。カマボコを夫にした覚えはありません?」

「何を言っているんだ?」

「ウフフッ…。あなたは魚がカマボコにされる気持ちが解ります?」

「さあ…?魚になったことはないからねえ」

「天ぷらにしたら美味しいかも知れませんわね。ウフフフッ…」

「何を?」

「でもうちはウフギ屋だから出来ませんね。ウフフッ…。ウフフフッ…」

「ちょっと、待ってくださいよ。一人だけ会社辞めるなんてずるいですよ」

「うわっ、なんだよ。キミも会社辞めたのか?」

「もう無理矢理辞めてしまいましたよ。さっきまで社長に追い回されて大変だったんですから」

「それよりも、オレはキミと関わりたくないんだ」

「何ですかそれは。ひどいですよ」

「そうじゃなくて、キミはずっと□□部長の隣の席だっただろ?」

「そうですよ」

「それで、□□部長ともよく喋ってただろ?」

「まあ、そうですけど」

「だからだよ」

「それじゃあ、説明になってませんよ」

「つまり、あれは感染するってことだよ。キミも感染している疑いがあるから、あまり近づかないでくれ」

「何でそんなことを言うんですか!人を病気みたいに…。あれ?なんだか爪の先がカマボコみたいになってるんですけど。これって…」

「やっぱりオレの思ったとおりだ。オレはキミを置いて遠くに逃げるからな。悪く思うなよ。今ならまだ飛行機にも普通に乗れるはずなんだ」

「そんなこと言っても無理ですよ。あなたも髪の毛がカマボコになっていますよ」

「何だって?!」

「あなただって一緒ですよ。私の隣に座っていたのはあなたなんですから。あなただけ助かるなんてあり得ませんよ」

「なんということだ…!」

「ねえねえ、ちょっと!あれってレオ様じゃない?」

「なに、レオ様って?」

「ちょっと、レオ様もしらないの?ディカプリオのことよ!」

「ホントにぃ!すご〜ぃ!」

「あれ?でもよく見たらカマボコだった」

「何だカマボコかぁ…」

「ハーリハーリハーリハ〜!カマボコ3.0で幸せになりたいものは私についてくるが良い。ハーリハーリハーリホ〜!」

「はい、そういうことでみなさんはもうわかりましたね。似ているからといって、それが同じ物だという保証はないのです」

「先生!質問ですけど、エナリとレオ様は似てないと思うのですが、どうして似ているものになっているのですか?」

「何ですかそれは…」

「(ハーリハーリハーリホ〜!)」

「なんだか、隣の教室がうるさいですねえ。それよりも、先生はそんなことは言っていませんよ。そのレオ様とかいうのはなんですか?先生が言ったのは里芋と山芋のことではなかったですか?」

「違うよ、先生。ジャガイモとエナリだよ」

「違うよ!サツマイモとレオ様だよ!」

「はいはい、静かに!もう授業時間が終わっていますから、これは次までの宿題にしましょう。今日の給食はエナリの煮っ転がしですよ!」

「はーい、再びウッチーで〜す!ここは先ほどの偽装社員がいる会社と同じ街にある小学校でーす。この小学校で奇妙な出来事が起きているのです。なんと、授業をしていた生徒や教師達が突然ハーリハーリハーリハ〜!というかけ声とともに大行進を始めたのです。ウッチーは先ほどの□□部長の件となにか関連があるのではないかと睨んでいるのです。ここに小学校の生徒の一人がいるので話を聞いてみたいと思いまーす。ボク、お名前は?」

「○○です」

「何年生かな?」

「小学四年生です」

「○○君はこの件に関してどう思いますかあ?」

「えーと、授業中に突然ヘンな声が聞こえてきて恐いなあ、と思いました」

「そうですかあ。それは恐かったですねえ。○○君はどうしてみんなと一緒に大行進をしないのかなあ?」

「お母さんから□□君と遊んじゃダメって言われているからです」

「どうして□□君と遊んじゃダメなのかなあ?」

「そこはプライベートなことなのでノーコメントです」

「なんだ、この生意気なク○ガキは!」

「おかしいなあ、この辺のはずなんだけど」

「だから、さっきの道で曲がった方が良かったんだよ」

「あの道はどう考えても違うだろ。駅はこっちに決まってるんだよ」

「決まってる、っていってもないものはないぜ。だいたい、ちょっと前にいた駅なのに戻れないってどういうことだよ」


ハーリハーリハーリハ〜!


「なんだあの集団は?」

「なんだか気持ち悪いな」

「それよりも見てみろよ。あいつらみんなカマボコになってるぞ」

「うわあ、ホントだ!」


ハーリハーリハーリホ〜!

「はーい。再びウッチーで〜す!ハーリハーリハーリハ〜!なんだか楽しくなってきたのでウッチーも大行進に加わってみたいと思いまーす!ハーリハーリハーリハ〜!どうやらウッチーの体に異変が起きて次第にカマボコ化している気もしまーす!ハーリハーリハーリハー!」

「おい、望遠耳!」

「あれ、今度は『友達の知り合いだけが知っている魔法使い』ですか?」

「そうだが。今度は、ってなんだ?」

「さっきは『いにしえより来る魔法使い』が来たんですよ」

「そうなのか。まあ、そんなことはどうでもいい。キミはちょっとした代償と引き替えに世界を救ってみたくはないか?」

「何ですかそれは?ちょっとした代償が気になるのでやめておきますよ」

「なんだ、つまらない男だなあ」

「そんなことを言われても、ここで私はあまり目立ってはいけないのですから。それよりもこの状況は何なんですか?みんながカマボコになっているみたいですけど」

「それは『しあわせの石』のせいだと思っておけば、だいたい合っている」

「適当だなあ」

「モヤモヤとスッキリの使いがモヤモヤさせてやったのさ。さらばだ」

「あら、行っちゃった」

「ウナッ…。ウナナナッ…」

「なんだい、そのヘンな笑い方は?」

「あら、あなた起きていらしたの?ウナナッ…。あなたはどう思います?」

「何が?」

「あたしがこの家を出て、ウナギ屋を始めたら、あなたはどうします?」

「そんなことを言わないでくれよ。ボクはキミがいなければ…」

「ウナナナッ…。冗談ですわよ。ウナナッ…。あたしはもうすでにウナギ屋の女将」

「えっ?」

「どう考えてもドジョウとうなぎは違う生き物」

「まあ、そうだねえ…」

「でも世界がカマボコになってしまったら、きっとウナギもドジョウもカマボコになるんですね」

「うん…」

「天ぷらにしたところで、全てがカマボコ。あなたはこれが何を意味しているのかわかって?」

「それは…なんだろう?」

「ウキャキャキャキャ!」

「ウワァァ!」

「これマジやばいっすよ。リアルにやばいっすよ。みんながカマボコになってるのに、なんでオレだけ若者のままなんだ?っていうかチョーやばいっすよ」

「ハーリハーリハーリハ〜!」

ハーリハーリハーリハ〜!

「ハーリハーリハーリホ〜!」

ハーリハーリハーリホ〜!

「ねえねえ、ちょっと。あれってカマボコじゃない?」

「ホントだ。すご〜ぃ!」

「ちょっと行ってみようよ!」

「行きましょ!行きましょ!」

「ハーリハーリハーリハ〜!」

ハーリハーリハーリハ〜!

「ハーリハーリハーリホ〜!」

ハーリハーリハーリホ〜!

「なんだか、この街でカマボコじゃないのはオレ達だけじゃないか?」

「そんな気もするけどね。でもあそこの若者はまだ大丈夫みたいだぞ」


「おい、そこの若者。一体この街はどうなってるんだ?」

「なんだよ、おっさん。若者って呼ばれるの、チョー感じ悪いっす」

「なんだそれ?」

「っていうか、みんなカマボコだからオレもカマボコりてえ!とか思ってんのに、なんかオレだけ若者って感じ?マジ、キレそうっす!」


「この人はこの人でおかしな感じだな」

「そうだね」

「ハーリハーリハーリハ〜!」

ハーリハーリハーリハ〜!

「ハーリハーリハーリホ〜!」

ハーリハーリハーリホ〜!


「おい、□□!私の『しあわせの石』を返してもらおうか」

「おお、皆のもの!ついに『いにしえより来る魔法使い』が姿を現したぞ。ハーリハーリハーリハ〜!」

ハーリハーリハーリハ〜!

「どうでも良いのだが、キミ達がその呪いの言葉を大声で唱えていると、世の中の人間が次々にカマボコになっていくのに気付いていないのか?」

「それはいにしえより伝わる話の中で言われていることです。我々が『しあわせの石』を持って幸せの呪文を唱えれば『いにしえより来る魔法使い』が現れて我々を人間的苦しみから救ってくれるのです」

「私には何の話だかさっぱりわからないが、とにかく私の『しあわせの石』を返してくれ。それは『災いの石』だぞ」

「おお、やはり予言のとおり『いにしえより来る魔法使い』は我々を試しておられるのだ。ここで『しあわせの石』を渡してしまえば、我々が幸せを望む気持ちが足りないということで、我々は救われない。ここはみんなで幸せの呪文を唱えるのです!全員でカマボコになって人間的な苦しみから逃れるのです!ハーリハーリハーリハ〜!」

ハーリハーリハーリハ〜!

「ハーリハーリハーリホ〜!」

ハーリハーリハーリホ〜!

「おいおい、そんなことをしたら、世界中がカマボコになってしまうぞ。早く石を返せ!」

「なあ、知ってる?」

「知らないよ」

「そうじゃなくてさ。世の中の人間が、ボクらを除いて全員カマボコになったとしたら、ボクらはイケてる感じになるのかなあ?」

「ボクらの他に人間が誰もいないとなれば、そうとも言えるけどね。それと同時にイケてない感じでもあるとは思うぞ。どっちにしろオレ達しかいないんだから」

「そういわれてみればそうだなあ。良く分かんないけど」

「納得したのかしてないのか、良く分かんない返事だなあ」

「まあ、世の中の99%はそんな話ばかりだよ」

「何で急に悟ったようなことを言ってるんだよ」

「まあ、例えばの話だよ」

「何の例えにもなってないよ!」


「おい、そこのイケてない二人!」

「何ですか?」

「私は『友達の知り合いだけが知っている魔法使い』だ。キミ達、ちょっとした代償と引き替えにイケてる感じになってみたくはないか?」

「えっ!?ホントですか?やりますよ!」

「おい、ちょっと待てよ!せめてどんな代償なのか聞いてみてからにしろよ」

「というか、もう遅いです。やりますよ、って言ってしまったからにはやってください」

「でも、オレはやりますよ、って言ってませんよ」

「どうせキミ達は二人とも似たもの同士なんだから、一人が言えば二人が言ったも同然」

「それは滅茶苦茶だ!」

「結局イケてる感じになれるんなら、それでもんくはないでしょ?」

「まあ、それはそうかもしれないけど。ホントに『ちょっとした』代償なんだろうね」

「まあ、今ここで起きていることに比べたら大したことはないと思いますよ」

「つまり、カマボコ人間になるよりはマシなことということだな」

「じゃあ、やってみようか?」

「そうしようか」

「そうですか、それは良かった!」

「あなた…」

「…う〜ん…」

「あなた…」

「…うー、ウナギ…」

「あなた!」

「ウワァァァ!」

「どうしたんですか、あなた?よっぽど恐い夢をみていらしたのね」

「キミ、さっきウナナッ、って笑わなかった?」

「何なんですかそれ?笑ってしまいますわよ。ウププッ…」

「ウププッ、って。まさかキミ、この家を出てウプギ屋に行くなんて言わないだろうね?」

「ウプギ屋って何なんですか?あたしはウフギ屋の女将ですよ。あなたったら。ウポポッ…。ウポポポポッ…」

「ウポポッ!?…今度はウポギ屋か?」

「もう、何を言っているのか全然解りませんわよ、あなた。ウピピピピピィ!」

「ウワァァァ!」

「つまり、ボクらがここに書いてある呪文を順番に唱えたら良いんですね?」

「そのとおり。簡単だろ?」

「だけど、どうして『友達の知り合いだけが知っている魔法使い』さんが自分でやらないんだ?」

「それは私が『友達の知り合いだけが知っている魔法使い』だからだよ」

「それは説明になってないよ」

「だったら、私が『スッキリとモヤモヤの使い』だからだよ」

「それなら、なんとなく理解出来るな。良く分かんないけど」

「またそれかよ」

「まあ、良いじゃないか。それよりも早くやってしまおうよ。これでボク達もイケてる感じになるんだから」

「そうだな、それじゃあやるぞ」

「うん」


「ハイリハイリフレハイリホー!」

「ホッホー!」

ハイリハイリフレーホッホー!


「ウワァ!なんだあれは?」

「巨人が現れたぞ!」

「ハーリハーリハーリホ〜!みなさーん!ウッチーで〜す!ただ今、人類のために幸せの呪文を唱えていたのですが、思わぬ展開になりました。誰かが唱えた呪いの呪文によって巨人が呼び出されたようでーす。ウッチー、ビツクリ!」


「おお『いにしえより来る魔法使い』よ。どうしてこのようなことが?」

「それは知りませんよ。早く私の石を返せ!この□□め」


「先ほど現れた巨人がこちらにやって来ました。何か言いたいことがあるようです。ウッチーが突撃インタビューしてみたいと思いま〜す!あの、巨人さん何しに来たんですかあ?」

大きくなれよ


「なんてことだ!?巨人の言葉で『しあわせの石』の力が失われていく!」

「だからそれは『しあわせの石』じゃないんだって。早く返せ!」

「なあ、知ってる?」

「知らないよ!」

「そうじゃなくて、ボクらのおかげでカマボコ人間達が元の姿に戻っていくぞ」

「あっ、ホントだ!これって凄いことなんじゃないか?」

「そうだな。ボクらは世界を救ったヒーローだぜ!イケてるどころの話じゃないな!」

「ついにやったな!」

「ハーリハーリハーリハ〜!どうしてだ?どうしてみんな元の姿に戻るんだ?」

「これでわかっただろう?人間は『しあわせの石』で幸せになることは出来ないんだよ。それに『人間的苦しみ』と『カマボコ的苦しみ』のどちらが辛いかおまえにはわかっているのか?□□よ」

「それは…?どっちだろ?」

「そんな感じだよ。大いなるモヤモヤは終わることなく続くのだ!さらばだ□□!もう二度とこのような過ちは犯すでないぞ」

「なあ、知ってる?」

「何がだよ?」

「そうじゃなくてさ。ボクらさっきの呪文を唱えたら体がハンバーグになってるんだけど」

「ウワッ、ホントだ!これってまさか『ちょっとした代償』ってことか?」

「これじゃあちょっとどころじゃないよ。しかもハンバーグじゃ全然イケてないじゃん!」

「どうすんだよ?」

「知らないよ!」

「ウフフ…。ウフフフッ…。あなた」

「なんだ?」

「もうイヤな夢は見ないんですか?」

「なんだそれは?」

「まあ、あなたったら!ウフフフッ…。今年も夏が来そうですわね」

「うん。もうそろそろだねえ」

「今年はいつもよりもっとモヤモヤしていただかないと。ねえ、あなた」

「モヤモヤするのかい?」

「あらいやだ!あなたはモヤモヤしないとおっしゃるワケ?」

「えっ?いや、違うけど」

「あなたがモヤモヤしないであたしはどうやってモヤモヤすれば良いのですか?」

「わかったよ。ボクはキミの望みどおりモヤモヤするよ」

「もう!勝手にモヤモヤしていれば良いのですのよ!プイッ!」

「…」

 こんなことで、世界は救われたのか?というかこんなオチのためにコーナーを2回分も使って長々と話を続けてきたのか?

 まあ、結果はどうでもいいのです。この望遠耳シリーズは過程の方に重点を置いて読んでもらうものなのです。といっても「過程の方」にもなにもないですが。とにかく楽しかったらそれで良いのです。

 ちなみに、『いにしえより来る魔法使い』やカマボコ人間の唱えていたあれと、最後の唱えた者がハンバーグになってしまうあれですが、わからない人のために楽しいインターネット(YouTube)へリンクしておきます。


Cab Calloway - Minnie The Moocher

丸大ハンバーグ CM


 ちなみに、どちらも「呪い」とか「災い」とかとは関係ありません。そんな雰囲気だということです。(ってどんな雰囲気だ?)

 ということで、ひどい望遠耳でしたが、実はGoldバージョンにはまったく違う結末が書かれています。上級者の方は読んでみると良いかも知れません。次回はあんな雰囲気の大特集かも知れません。