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#146 「アナスタシス」 2012-10-04 (Thu)

「ハイ、こちら『ウッチーのリコール社』でございまぁす!」

「もしもし。ウッチー先輩ですか?私は人気女子アナの二代目内屁端を襲名したウッチーでぇす!」

「あら!元スカシッチーじゃないの。キャー、久しぶりぃ!」

「久しぶりです、ウッチー先輩。それにしても休日にもかかわらずお仕事ですかぁ?」

「社長たるもの一日も休まずに会社のために尽くさないといけないのです!そんなことは常識ですよ。それに二代目ウッチーは人気女子アナとしてのつとめを果たしているのですかぁ?それとも、こんな時間に電話なんて、もしかして人気女子アナをサボっているんじゃないですかぁ?」

「申し訳ございません。実は少し問題がありまして…」

「そんなことを言ってはいけません。人気女子アナのウッチーを名乗るのなら『少しの問題』など問題ではないのです」

「しかし、後輩の裏切りにより殺されたとなれば話は別だと思います」

「それはどういうことですか?元スカシッチーは死んだのですか?」

「そうなのです!身の程知らずの後輩の横屁端が人気女子アナの地位に目がくらんで、私をリボンを付けたネコの生け贄にしたのです。そして不正に手に入れたその地位であの女は今「人気女子アナの横パン」を名乗ってやりたい放題。このようなことが許されて良いのでしょうか?」

「それは問題だと思いまぁす!でも死んでしまったのならどうにもならないのではないでしょうか?」

「それは違います!ウッチー先輩は私に人を蘇らせる力があることをお忘れでしょうか?そうなのです。あの裏切り者の横屁端も一度は私の力で蘇ることが出来たのです。その恩も忘れて命の恩人である私をネコのエサにするとは、許されてはならないことなのです」

「それでは、その力を使って蘇ったら良いと思いまぁす!」

「しかし、それには問題があるのです!殺されて一度地獄の一丁目までやって来たのですが、死んでも人気女子アナ、そして実力派の女子アナとしての取材能力を生かしてあらゆる情報を仕入れていたのです。そして、私には『ヨミガエリチャンス』を行使する資格があることに気づいたのです!」

「それなら、それを使って蘇ったら良いと思いまぁす!」

「待ってください、ウッチー先輩。問題は他にあるのです。私の力を使うにも『ヨミガエリチャンス』を使うにも私の体がなければいけないのです。しかしながら私はリボンを付けたネコのエサとなり、しかもあのネコは私をよーく噛んでから飲み込んだのです」

「それは大問題だと思いまぁす!」

「そうなのです!そこで良い知恵はないかとウッチー先輩に電話をしたのです」

「そうですか。私も元人気女子アナとして可愛い後輩のためには出来る限りのことをしたいと思いまぁす!」

「ありがとうございます、ウッチー先輩!」

 私がベランダに出るとこんな会話が聞こえて来ました。ということは、この会話はとんでもない大声で交わされたものなのか?とも思われますが、違います。ずいぶん久しぶりになってしまいましたが、私はベランダに出て望遠耳を使っているのです。遠くの音もすぐ近くの音のように聞こえてしまう望遠耳。最近少し世間の話題について行けないような気がしてきたので、これでしばらく世間で起こっている事を聞いてみたいと思います。

「ウフッ…。ウフフッ…。ウフフフフッ…。あなた…。あなた…!」

「ん?!なんだ?」

「もう、あなたは永遠のお寝坊さん」

「いや?なんだか眠くなっちゃって。今寝てたかな?」

「まあ、あなたったら、なんてことを言うの?」

「なにが?」

「あたくしがお寝坊さんって言ったら、それはどうなるというの?」

「えっ?」

「居眠りとお寝坊さんと、同じだと思っているのね、あなたったら」

「それは、違うと思うけど…」

「ウフフフッ…。そんなことだからあたしの心と体が入れ替わった事にも気づかないのね」

「入れ替わるって?!」

「そんなことよりもあなた。あすこをご覧になって」

「あすこ?…ああ。最近は一年に一回になっちゃったな」

「何がですか、あなた?」

「え!?望遠耳だろ?あのベランダの」

「また、あなたったら…」

「それじゃあ、その向こうにある空の彼方のなんとか、っていうあれかい?」

「あなた、知っていますの?雨は雲から落ちてくるんじゃないんですよ」

「なんの話だ?」

「雨は心の涙。そして、心はあの雲なの」

「…?」

「解っているの、あなた?」

「…それって結局、雨は雲から落ちてくるって事にならないか?」

「まあ、あなたったら!」

「なあ知ってる?」

「知らないよ」

「そうじゃなくてさ。オレこの前デモに誘われちゃってさ」

「え、マジで?!デモってあの行列でワイワイやるヤツ?」

「そうだよ」

「それで、行ったの?」

「行かないよ。別に言いたいこともないからね。言いたいことも無いこんな世の中じゃね。それよりさ、その誘った人なんだけどね。なんて言ったと思う?」

「なんて、って。デモやらないか?って言ったんじゃないの?」

「まあ、それはそうだけど。その後だよ。デモやるとストレス発散になってすっきりするから楽しいぜ、って言ってきたんだよ」

「そうなの?!…まあ、確かにあれだけ大声出してたらスッキリするかも知れないけどね」

「しかも、今度はもっと本格的にやりたいから、って言って太鼓買ったって言ってたぜ」

「音がデカければ良いってものでもないけどな。それに、いったい何のデモなんだ?」

「デモに反対するためのデモだって」

「ふーん…」

「ようこそ『東京総合芸術統合共同スクールオブアーツ芸術専門学校』の入学説明会へ!専門学校で現代アートをぶっ潰せぇ!」

「あのぉ、すいません。来年度の入学希望の芸術家志望なのですが」

「はい。どのようなアートを目指しているのですか?」

「えーと。映画とかに興味があるのですが」

「映画監督ですね。それなら『お笑い芸人コース』が最適です」

「えっ?!」

「はい、次の方!」

「すまないねえ、休日なのにこんな事で呼び出してしまって」

「別にどうでも良いっすよ。普段からやることのないのに休みになったら更にやることないですし」

「そうだと思ったから呼んでみたんだがな。それで、今回の実験に使う材料は持ってきてくれたんだろうね?」

「マジで、ヤバいっすよ」

「何がだ?」

「材料っす」

「別にヤバくなくても良いんだが。とにかく人間の髪の毛や唾液のやら皮膚やらが付いたものは持ってきてくれたのか?」

「もちろんです。この中に入ってる、って感じですけど」

「こんなに持ってきたのか?しかも、これどこから持ち出してきたんだ?盗んだとか、そういうことだと問題なんだが」

「盗んだっていうか、拾ったんですけど。まあパクったとも言いますけど」

「意味が解らないが、大丈夫なんだろうな?ヘアブラシにマイクか。確かに髪の毛や唾液や皮膚が付いていそうだしな」

「ダイジョブっすよ。それよりも、そろそろ帰ろうと思うんですが、その…」

「ああ、そうだったな。契約は契約だしな。ほら、これが報酬だよ」

「うわ!こんなにくれるんですか?マジで120円も入ってるし!」

「それで好きなものを買ったらいい」

「マジ嬉しいっす!」

「それは良かった」

「…彼はよく働いてくれるな。しかし120円で何を買うのやら」

「なあ、知ってる?」

「知らないよ!」

「そうじゃなくてさ。さっきのデモの話だけど。あれって最終的には何を求めてるんだ?」

「うーん…。どうだろう?やって欲しくないことをやらせないようにしてるんじゃないか」

「いや、それは大体そうだと思うんだけどさ。その、最終的にはデモはイケてるのか、イケてないのか?というところに辿り着くと思うんだよね」

「ああ、そういうことね。デモで出会って結婚した話とかあったし、それはそれでイケてるんじゃないか?」

「でも、あれはデモを使ったステマとも思えるぜ」

「なんだステマって?」

「お前、ステマ知らないの?!」

「だって、そういう何でも略すの嫌いだし」

「…って、それ知ってるって事じゃないか?」

「いや厳密には知らないけど」

「そうなの。まあ良いけど。ステマはステキなマーケティングの略だよ。たまにBlack-holicとか読んだほうが良いぜ」

「でも、アレって全然更新されないしさ」

「まあ、そうだな」

「はい!こちらは人気実力ともにナンバーワンの女子アナ、ヨコパンこと横屁端でーす!みなさん、ここがどこだか解りますかぁ?…そうなんです!私は今、この何も起きてない静かな街にやって来ているのです!」

「あなた…。あなた…!…あなたってば!」

「うわぁ!?なんだ?」

「なんだじゃありませんわよ、あなた」

「また居眠りしてたかな」

「もう、あなた。そんなことは良いんですよ。それよりもどうしてあなたは何にもおっしゃらないの?」

「なにが?」

「あたしが黙っていたらどうするの?」

「どうするって?」

「あたしが黙ってあなたが喋ると、あたしはあなたが黙るまで喋りませんよ」

「…うん」

「…」

「えっ?」

「どうして、こんなに静かなのかしらね、あなた」

「…ああ。まあ。今日は休日だからね」

「ホントにそう思っているの、あなた?」

「他になにかあるのか?」

「それは音もなく蠢く物なの?…そうではないのよ、あなた。それはあまりにも巨大で、音を立てても気づかれない存在なの。そうなのよ、あなた!」

「…何を言ってるんだ?!」

「あなたは太陽が燃える音を聞いたことがありますか?」

「ええ?」

「太陽はパチパチと音を立てるの。良く乾いた薪を燃やすのよ。パチパチ。パチパチ」

「意味が解らないよ…」

「パチパチ。パチパチ。パチパチ。…バーン!」

「ウワァ!」

「はい次の方、説明会へようこそ!」

「あの私、シンガーになりたいんです」

「歌姫ちゃんですね。それなら声優コースへどうぞ」

「もしもし、こちらは『ウッチーのリコール社』の社長のウッチーこと内屁端でぇす!まことに突然ではございますが、そちらで焼かれる前の遺体をこちらに売ってくれませんでしょうか?…なんでダメなんですかぁ?…そんなことは理由になりません!ウッチーが愛する後輩のために死体を買い取ると言っているんです。それに私は会社の社長でお金持ちなんですよ。お金があれば何でも出来るはずなのに、どうして死体を買ってはいけないのですかぁ?…もうあなたとは取引しません!きっと後悔することになりますから気をつけてくださーい。以上、社長のウッチーでした」

「ボクは小説家になりたいのですが」

「お笑い芸人コースへどうぞ!」

「いいぞいいぞ。この実験が上手くいけば全ては解決に違いない。科学の力をバカにしおった連中め、見ておれ。今はあのバカ正直な若者しか協力者はいないが、これでようやく世界が私の力を認めるのだ…」

「なんすか、これ?スゴいっすね」

「うわっ、ビックリした。…なんだ、キミか。驚かせるのはやめてくれよ」

「驚かせてスイマセン」

「それで、何か用かね?」

「なんていうか、ものは相談ってことなんすけど」

「キミはこれまで良くやってくれた。何かあるなら遠慮なく言ってくれたまえ」

「マジっすか?」

「本当だとも」

「さっきのバイト代の120円なんですけど、パピコ買おうと思ったらちょっと足りないんすよね。それで、もうちょっと仕事ないかな?って」

「そんなことか。それで、いくら足りないんだね?」

「6円っす」

「…」

「ダメっすか?」

「…いや。そんなことはないぞ。キミもこれまで一緒に研究につきあって来たのだし、最後の仕上げの段階まで見届けてくれたらその6円を支払おうじゃないか」

「マジっすか?!チョー嬉しいっす!」

「ああ、なんかもう調子悪いな」

「なんだ?風邪か?」

「そうじゃないよ。なんかオレ達パッとしないというか。最近調子が出ないよな」

「そんなこと言ったって、いつだってパッとしてないし、調子は出てないけど。やっぱりデモでもやった方が良いんじゃないのか?」

「二人で?」

「他にいないし。やったら誰がついてくるんじゃないの?それに、この辺静かだから、二人でもデモやったらけっこう目立つよ」

「ああ、そうか!」

「なんだよ、急に?デモやりたくなったのか?」

「いや。調子が出ない理由がわかったんだよ」

「どういうこと?」

「なんか、今日のこの町は静かすぎるんだよ」

「ああ、そう言われるとそんな気がするけど。静かなの流行ってるのかな?」

「いや、そんなに簡単に考えてはいけないぜ。ここは冷静に判断して行動を起こせば、オレ達がイケてる二人組になれるかも知れないぜ」

「ホントか?!」

「うん。とりあえず何がイケてるのか?とか、そこからだな」

「よし、考えてみよう!」

「オレ、俳優やりたいです!」

「はい。それなら若手お笑い芸人コースへどうぞ」

「若手ですか?」

「そうです。『お笑い芸人コース』と間違えないように気をつけてください」

「はあ…」

「ちょっと、お巡りさん!」

「ああ、○○の奥さんじゃないですか。どうしました?何か事件ですか?」

「何言ってるのよ、まったく。あんた事件があったっていつも何もしてくれないじゃないのよ」

「いや、そうですが。私は警官じゃなくてザ・ガードマンですし」

「そんなのどうでも良いのよ。それよりもアレじゃないの?」

「何がですか?」

「最近何も起きないじゃないのよ」

「何も起きないのは平和な証拠です」

「何言ってんのよ!それじゃ立ち話も盛り上がらないじゃないの。ちょっとあんたその辺で問題起こしてらっしゃいよ」

「何を言ってるんですか?!私はそんなことしませんよ」

「あんた、そんな格好してるんだから、ちょっとは役に…あら!△△の奥さんじゃない」

「あら○○の奥さん。最近静かで良いわね」

「ホントにねえ。良いわよねえ」

「それじゃあ、アレなんでこのへんで。ねえ、ホントに」

「あらそうなの?ホントにねえ…」

「…」

「ほら、見なさいよ。全然立ち話にもならないじゃないのよ」

「それって、私のせいじゃないですし…」

「やあ、望遠耳君」

「アッ、あなたは秋の使いのガブリエルさんじゃないですか」

「あれ?なんでいきなり現れたのに驚いてくれないんだ?」

「何となく気配は感じてましたし。それに、最近は望遠耳ネタでもここに誰かがやってくるのは良くあることですからね」

「はぁ…。なんで私がやるとこうやって上手くいかないんだろうな」

「そんなに落ち込まないでも」

「キミに慰められるとさらに落ち込みそうなんだが。まあいいか。それより、キミ良いのか?こんなところでボーッとして」

「そんなこと言っても、今回は特に何も起きてないですし。それよりも、秋の使いであるあなたが来たと言うことは、そろそろ涼しくなってくれるんですか?それとも、また夏の使いがいなくなったとか、そういうことだと困るんですけど。暑くてずっと睡眠不足が続いてますしね」

「そんなことは知らないよ。大体、暑いとか寒いとか、そういうことを我々のせいにするのはやめてもらいたいね。鳥でさえ季節によって住む場所を変えたり出来るのに、そんなこともしないで文句ばっかり。そんなんで良く地球上で最も進化したとか言えるな」

「それが出来ないから別の方法でなんとかしようとしてるんですし」

「だったら我々に文句を言うのをやめるんだ」

「別に文句なんて言ってませんけど。大体、今日は何しに来たんですか?」

「ああ、そうだった。もっと格好良く現れて、格好良く去っていきたいものなんだがね。はぁ〜あ…秋の使いなんてやらなきゃ良かったな…」

「いや、だから。何なんですか?」

「…ん?ああ、そうか。今日はキミにちょっとした警告を与えにきたんだよ。キミと言うよりも人類全体にだ」

「そんな大がかりなことなんですか?」

「いや、ちょっと大げさに言ってみただけだ。とにかく気をつけたまえ。今日は何事もなく平和だと思っているだろう?だが、そういう静かな時こそ、見えないところで何が行われているか解ったものではないぞ」

「流れ的にはそうなりますかね」

「なんだ、その反応は?流れって何だ?もっと怖がってくれないと面白くないなぁ。もう…。仕方ないから、私もここで流れを見守ることにするよ。…ハ〜ァ…。ハァ…ァ」

「あの、前にも言いましたが、そうやって聞こえるようなため息ばっかりつくんだったら、ちょっと離れた所にいてもらえませんか?私はけっこう我慢強い方だと自分でも思うんですけど、それだけは気になって仕方ないですから」

「ああ、そうだったね。ハ〜ァ…。解ったよ。離れてれば良いんでしょ。ハァー。ハ〜ァ!ハ〜アァ!」

「…離れるにつれてため息の音を大きくしてるし」

「すごいっすね。人造人間がイッパイじゃないっすか!」

「これは人造人間ではないぞ。私の作り出したドローンだ」

「ドローンって何ですか?」

「まあ、人造人間みたいなものだな、まだ成長の途中なのだが」

「へぇー。よくわかんないっす」

「まあ、詳しいことは解らなくて気にすることはない。しかし、これからスゴい事が起きるからよく見ておくんだ。キミは私の助手として世紀の瞬間に立ち会えるんだからな」

「マジっすか?!」

「これらのドローンが完全体になった時、私がこの太鼓を叩くと、このドローン達が一斉に動きだす。そして、この物言わぬ兵士達が…。いや、その…彼らが人に代わってこれまで人間だけの力ではなし得なかったことをだな…」

「あの、電話っすよ」

「ん?!…ああ、そのようだね。それじゃあ、ちょっと休憩しようか。126円あげるからもう一つパピコでも買ってきなさい」

「マジっすか!イイんすか?!」

「ああ、もちろんだよ」

「あのボク、イラストレーターになりたいんですが」

「ああ、それならピク◯ブ・アカウント取得コースをオススメします」

「それって、イラストがうまくなれるコースなんですか?」

「はい、次の方!」

「はい!こちら現場のヨコパンこと横屁端です!先ほどの何も起きない町は相変わらず何も起きないのですが、実力派でもある新人女子アナのヨコパンがリポーターとしての実力を発揮して興味深いモノを発見しました!みなさん、ここがどこだか解りますかぁ?…全然違います!大ハズレもいいところ。オタクの集まるイベントなんかではありません!今日ここでは未来の芸術家を養成する専門学校の説明会が行われているのです。それのどこが興味深いのか?といいますと、なんと未来の女子アナのタマゴ達に会うことができたのです。それでは早速インタビューしてみたいと思いまぁす!」

「えー、マジで?!マジで?!ヨコパンなんだけど。チョー信じらんない!」

「はい。私が人気実力ともにナンバーワンの横屁端です。あなたは女子アナを目指しているのですね?では、どうしてこの専門学校に入ろうと思ったのですかぁ?」

「えーと、パンフレットにアナウンサーになれると書いてあったので来てみました」

「それで、女子アナにはなれそうでしょうか?」

「えーと、有名大学ミスキャンバス・エントリー・コースというのを進められました」

「そうですか。頑張ってください。でも『えーと』とかいってるヤツは女子アナになれません。あっ、それでは次はあの方にインタビューしてみたいと思いまぁす!」

「あなた…。あなた…。……。…あなた…」

「ん?!あれ?また居眠りしてたか?なんだかずいぶんと優しく起こしてくれたね」

「ウフッ…。あなたったら、そんなことを言ったって騙されませんよ。ウフフッ…」

「なにがだい?」

「あの空を見れば解ること。あなた、あれが何だと思っているの?」

「アレって?」

「アレを見てどう思っているのか?って聞いているのよ」

「よく解らないけど」

「アレは秋の訪れを告げるイワシ雲」

「ああ、あれか。面白いよね、あの形は」

「あなたは、アレが静かで柔らかくて優しいと思っているのね」

「まあ、ね」

「でも本当は地獄のおろし金。あのイワシ雲で大根をおろしたらどうなると思っているの、あなた?」

「えっ…?!」

「どす黒い血とともに空から降り注ぐ大根おろしが、秋のサンマに添えられるの。ウフフッ…。あなた。そうでしょ、あなた…。地獄って、そういう所だったでしょ?…ウフフッ。ウフフフフッ…!」

「はい、こちら『ウッチーのリコール社』社長のウッチーでーす!」

「ウッチー先輩。何度もスイマセン。後輩のウッチーですが、先ほどお願いした件、どうなったでしょうか?」

「安心してください。事態は良い方向へと進んでいます!」

「本当ですか!ありがとうございます。さすがはウッチー先輩ですね。実を言いますと、私は有名人の特権で地獄の裁きを受けるのを先延ばしに出来たのですが、そろそろ有名人の特権も効力が無くなってきているようでして。出来れば私こと二代目人気女子アナのウッチーが本格的地獄に落ちる前に復活の準備を整えてもらいたいのですが」

「解ってまーす!そんなに焦らないでください。私も人気女子アナ、ウッチーの名を絶やすことは許されてはならないと思っているのです。ですからもう少し待っていてくださーい」

「解りました、ウッチー先輩。それで、私はどのような形で復活できるのでしょうか?」

「実は社長のウッチーが独自のリサーチを行ったところ、近所に興味深い研究を行っている研究者を見つけたのです。その研究者の研究が成功すると人間と全く同じDNAを持つドローンというものが完成するというのです。完成間近のそのドローンをウッチーがリコールすると申し出て、すでに契約は結んであるのです!」

「ちょっと、待ってください。ドローン?それにリコールですか?一体どういう意味なのでしょうか?」

「細かいことは気にしてはいけません!あなたは体が欲しくないのですかぁ?」

「もちろん欲しいに決まっています!」

「それに、上手くいけば以前よりもより美しい体になって復活できるかも知れないのですよ」

「それは、なんてありがたい!」

「それでは、準備が整うまで待っていてくださーい」

「解りました。ありがとうございます、ウッチー先輩!」

「おい、ちょっとみんな集めて」

「はい、何でしょうか?ヨコパンさん」

「話があるから女子アナ志望全員集めろって言ってんだよ!日本語解ってんのか?」

「は、はい。すいません。…あの、女子アナ志望のみなさん、ヨコパンさんが呼んでいますから集まってください」

「ちょっと、□□部長。□□部長!」

「ん?!なんだ?」

「なんだじゃなくて。なにニヤニヤしてるんですか?怪しいですよ」

「あ、そうだったか?まあ、私だって時にはニヤニヤしたって良いだろ?ところで、キミ『にやける』ってニヤニヤするっていう意味じゃないの、知ってたか?」

「ああ。テレビでやってましたね」

「なんだ、知ってたのか。テレビで言ってたことは大体みんな知ってるからつまらないな。でも『にやけ』には男の肛門って言う意味もあるんだよ。これは知らなかっただろう?な?」

「ちょっと、気持ち悪いですね。そんな話でニヤニヤしすぎですよ」

「ああ、これは失礼。そっちの気はないから安心したまえ」

「ホントですか?そんなにニヤニヤしてると、そういう人と間違われちゃいますよ。それより、なんでさっきからニヤニヤしてるんですか?」

「いやね。夏も終わって、こんなポカンとした時期になると、これまでのことをイロイロと思い出しちゃってね。それで、今は辞職願とか退職願を用意しないで良い職場で働けて幸せだなあ、なんて思っちゃってさ」

「□□部長って、そんなにヒドい会社にいたんですか?」

「まあ、転職するたびにとんでもないことになってね。まあ、それだけヒドいことが続くと自然と学習するもんで、いつ会社を辞めるべきか空気を読んで解るようになるんだな」

「へえ。それじゃあ、うちの会社はまだ大丈夫ってことなんですか?」

「そうだな。何よりも、この会社は何も起きない。入ってくる仕事も、この会社にやってくる来客も毎日同じ。これを退屈でやり甲斐がないなんて思っているうちはまだ若いってことだな。この安定こそが私が長年求めてきたものなんだな」

「そうなんですか。でも部長、聞いてないんですか?」

「なにがだ?」

「ウワサなんですけど。こんどうちの会社で何か新しいことを始めるらしいですよ」

「なんだって?!」

「けっこう大々的なプロジェクトってことで、上手くいったらビッグになれるって、若い連中は盛り上がってるらしいですけどね」

「ええ…。なんでそんなことを…」

「油断しましたね□□部長。ボクはちゃんと辞職願と退職願を用意してますけどね」

「ああぁ!き、キミぃ…!」

「あっ、オレ芸術家になろうかな?」

「えぇ?!そんなこと言っても、そんな才能あったか?」

「いや、例えばの話だけどね」

「何の例えか全然わかんないけど」

「まあ、例えでもないんだけどね」

「じゃあ、なんだよ」

「なんていうかさ、こうやってイロイロとやってみても結局イケてる感じにならないのはなぜなのか?ということを考えると、そうなるんだよね」

「途中をイロイロと省略しすぎじゃないか」

「なんだ、バレたか?」

「バレるも何も、省略しすぎで意味を成してなかったし」

「つまりはさ、人がやってイケていることをオレ達がやってもなぜかイケていない、って感じだろ。それってある意味個性だよな。ということは、この個性を活かして芸術家になれるんじゃないのか?って思ったんだよね」

「それは、ちょっと無理があるんじゃないか?」

「なんで?」

「だって、変わってる人は沢山見たことがあるけど、その中に芸術家はいなかったぜ」

「それは本人が芸術家って言ってなかったからだろ?芸術なんて言ったもの勝ちなんだよ」

「そうなの?」

「だって***[検閲]とか***[検閲]とか、あんなの才能あふれる芸術家の作品に見えるか?」

「まあ、違うよね」

「だろ?だったら、オレ達に出来ないワケないんだよ」

「で、どうすれば芸術家になれんの?」

「さあ、どうだろう?とりあえずそれっぽい学校とか卒業した方が良いんじゃないか?」

「そうかぁ。オレも昔からそういうのは向いてると思ってたんだよな」

「そうだろ。そうと決まったら目指すは芸術家だ」

「ところで望遠耳君」

「何ですか?…じゃなくて、ボクは望遠耳君じゃないですけど」

「そんなことは気にしなくても良いがな。それよりも気になることがあるんだが。あっちの方の小料理屋の前に黒猫が二匹いるだろ?」

「ええ」

「それで、こっちの方の焼き鳥屋の前にも黒猫が二匹いるんだが。黒猫亭というのは一体どっちなんだ?」

「えっ?知りませんよ。これまでの経験からすると、どっちも黒猫亭ではないと思いますし。ボクはどっちの店の前も良く通りますけど、どっちも黒猫亭なんて名前じゃないですしね」

「そうなのか。へえ…」

「へえ、って。黒猫亭とか、どっちかというとあなたたちの方が専門家なんじゃないですか?」

「いや、私は秋の使いだから関係ないんだがな。たまに仲間が黒猫亭について話してるから、ちょっと気になってな」

「だいたい、あなたは今回なんで出てきたんですか?」

「それは、さっき言っただろう。何か起きるかも知れないから気をつけろ、って。あれで頼まれてたお使いは終わったも同然なんだが。なんかそのまま帰るのもアレだしね」

「アレって何ですか?それより、誰に頼まれて来たんですか?」

「それを言っちゃったら、この先が面白くなくなるよ。まあ、私が秋の使いで、私が夏の使いと入れ替わりでやってくると地上に秋がやってくる、ということから考えるとだいたい解るんじゃないのか?」

「でも、あなたの名前ってガブリエルでしたよね。でもその名前が天使と同じだと言うことを知らなかったってことは…」

「その名前は恥ずかしいからやめてくれって」

「まあいいですけど。それに、夏の使いは確か『ノグソ』って名前でしたよね。そうするとあなたにお使いを頼んだのが誰だか全然解らないですけど。少なくとも人間が最初に思い浮かべそうな全能のあの人とは違う感じですね」

「そうなのか?まあ、いいか。こうしているうちに世の中では大変な事が起こってないか?」

「えっ?!…いや、そうでもなさそうですが。とりあえず立ち聞きを続けさせていただきますよ」

「博士、これヤバくないっすか?」

「どうしたんだね?」

「このいっぱいあるドローンってやつ、どんどん人間みたいになってますよ」

「そうだ。遺伝子的には完全な人間だよ。今は繭に包まれたような状態だが、もうすでに中では完全な体が出来つつある。どうだ、この透き通った繭は綺麗だと思わんかね」

「しかもオッパイもあるっすよ。ヤバくないっすか?ちょっとこのドローン、オレの好みなんすけど」

「お、おい。変なことを考えるのはやめるんだ。まあ、キミは若いから仕方がないかも知れないがな。ただし、そういう用途には使えないように、ちゃんと少年漫画メソッドを応用して乳首は見えないようになっているんだよ」

「えぇ…、そうなんすか?…でも、このドローンってやつ、誰かに似てる気がするんですよね」

「それは、キミが持ってきた素材のせいだと思うが。あのマイクに付いてたヤツだな。アレってどこから持ってきたんだ?」

「アッチの方っすけど」

「アッチか。うーん、そうか」

「なあ、オメエら解ってんのか?え?!オマエらはこんな専門学校に入ったら女子アナになれると思ってるみてえだけどよ。そういうところからして、女子アナなめてんのか?って言ってんだよ!」

「でも、ヨコパンさん。他に方法がなければこういう所も利用しないと…」

「気安く呼ぶんじゃねえよ!良いか?女子アナの世界っていうのはな、弱肉強食なんだよ。解ってんのか?食うか食われるか、なんだよ!可愛くしてればちやほやされるなんて思ってるようなヤツに出来る仕事じゃねえんだよ!オマエら本気で女子アナやりてえって思ってんのか?」

はい!横屁端さん!女子アナになりたいです!

「よし、良い度胸してんじゃねえか。その度胸が嘘じゃないっていうのなら、この横屁端がオマエらに女子アナのイロハを教えてやる。でも、少しでも弱音を吐くようなヤツがいれば、そいつは即失格。そこんとこ解ってるんだろうな!女子アナって言うのは技術でも才能でもなくて気合いなんだよ!気合い!」

はい!横屁端さん!弱音は吐きません!気合い入れます!


「あの、横屁端さん。そろそろ中継が入りますけど…」

「はーい。今すぐいきまーす!」


「おい、オメエら。これから横屁端が人気女子アナの仕事をオマエらの目の前で見せてやるから、良く見ておけよ」

はい、横屁端さん!頑張ってください!

「あーぁ。けっきょく居酒屋に来てんだな、オレ達は」

「だって仕方ないだろ。あの芸術何とか学校見ただろ?不良少女みたいなのが大声張り上げて。あんなのばっかりだったらオレ達には無理だろ」

「そうだよな。あの女の子達、見た目は普通だったけどな。気合いがどうの、って。何だったんだろうな?芸術は気合いなのか?」

「違うと思うけどな。もしかすると、あの芸術とは思えない芸術をやってる人たちも、もしかすると気合いがスゴいのかも知れないぜ」

「世の中って難しいな」

「ホントだな」

「ちょっと△△の奥さん!」

「あら、××の奥さん。最近静かで良いわねえ」

「そうよねえ。でも知ってる?この間□□のところの奥さんに会ったんだけどさ。旦那さんまた仕事変わったって言ってたのよ」

「あら、ホントに。□□さんのところもアレよねえ。ホントに」

「ホントよねえ。□□の奥さんも大変よねえ。息子さんが私立に行くなんて言ってるんでしょう?それなのにダンナさんが転職続きでねえ。しかも、安定を求めるとか言って□□さんところの給料は減る一方らしいわよ」

「あら、イヤだわねえ。うちの人にもしっかりしてもらわないと」

「そうよねえ。ホントに…」

「あら、□□の奥さんじゃない」

「あら、二人ともどうしたのよ」

「ちょっと会ったもんだから話し込んじゃって。あらやだ!もうこんな時間じゃない。それじゃあ、アレがあるんで、この辺で。もう、ホントに」

「ホントにねえ。じゃああたしもこの辺で」

「あらそうなの?ホントにねえ」

「はい、こちら人気女子アナのヨコパンこと横屁端です。みなさん、今私がどこにいるか解りますかぁ?…そうではありません。芸術専門学校なんて過去の話。実力派人気女子アナは常に前進あるのみなのです。そして、その人気女子アナが天性の直感によって大事件をスクープ出来そうなのです。あそこに警官がいるのが解りますでしょうか?この静かすぎる街に警官。これは大事件に違いありません。それではヨコパンがあの警官にインタビューしてみたいと思います。…あの、すいません。今ここでは何が起きているのでしょうか?」

「うわ、何ですか?」

「アッ、驚かせてしまってすいません。それほど事件に集中なされていたんですね」

「事件ってなんですか?」

「あなたは警官で、あなたがこの静かな街にいるということは事件に違いないのです!」

「いえ、私は警官じゃなくてザ・ガードマンなのだが」

「呼び方が変わっても格好が似ていることには変わりはありません!つまり、事件ということで間違いないと思うのですが」

「事件なんか起きてませんよ。ただ、歩いていたら黒猫が二匹この路地に入っていったのを見かけたから、アレかな、ってね」

「泥棒ネコってことですかぁ?」

「いや、そうじゃないですよ。その、私はちょっと黒猫に縁がありまして。…いや、こんなことは話す必要ないんです」

「つまり、事件は起きてない、ということですね?」

「だから、さっきからそう言ってるじゃないですか」

「はい!現場からは以上でぇす!…てめぇ、まぎらわしいカッコしやがって。女子アナなめてんだろ?え?」

「ちょっと…。ぼ、暴力反対!」


「およしなさいな!」

「なんだ、てめえ?この偽警官に味方するのか?」

「アッ…。ま、マダム…。黒猫亭のマダム…」

「オホホホホ!ザ・ガードマンさん。お久しぶりだこと。あれから元気でやってらした?」

「はあ、マダム。おかげさまで…」

「おい、てめぇら。実力派の人気新人女子アナのヨコパンを無視してんのか?」

「そんなつもりはありませんよ。オホホホホ!それに、あなた女性ならもっと上品にしないと。助かるものも助からない、って事になるわよ」

「それが人気女子アナに対する口の利き方か?てめぇ痛い目にあいたいのか?え?」

「あなたにかまっているヒマはないのよ。さあ、ザ・ガードマンさん。行きましょう。今回は更に忙しくなりそうですよ」

「はい、マダム!」

「おい!待てこの…。アッ…!はい!こちら現場のヨコパンです!先ほどのスクープの続きの前にCM行きたいと思いまぁす!正解はCMの後で!…畜生!中継の間に逃げられちまったようだな」

「あなたあなたあなたあなたあなたあなたあなたあたなあなたあたなあたなあなたあなたあなた!」

「うわぁぁあああ!」

「あなた!」

「なんだよ、ビックリさせないでくれよ」

「あなた。あなたが寝ている間にまた大変なことが起きてしまったんですよ」

「えっ?!いや、寝てなかったつもりだが」

「またそんなことを言って…。あなた、秋になっても安心してはいけないんですよ」

「どういうことだ?」

「秋には台風がくるの」

「ああ、なんだ。でも今回のは上陸しないって言ってたぞ」

「あなた、本当にそう思っているの?」

「まあね。天気予報はけっこう当たるから」

「でも気まぐれな台風だったらどうするの?そう、それは小悪魔の気まぐれじゃなくて、本物の悪魔に違いないの。そして、その台風の目は血塗られた大地を見つめるのよ」

「そんなことはないよ。雨戸を閉めて、それでも心配なら窓に板を打ち付ければ…。キミ、泣いてるのか?」

「あなたまた嘘をついてる」

「えぇ?」

「この涙では地獄の業火は消えないの」

「…大丈夫か?」

「あなた!…あのイワシ雲はどこへ行ったのかしらね?」

「イワシ雲?!…あ、消えてるな。でも、雲一つない良い天気じゃないか」

「あなた…」

「なんだ?」

「血の雨が降りますよ」

「なんで?」

「どんなに堅く扉を閉ざしても、逃れることは出来ないのよ、あなた。そうなったらどうするの、あなた。ねえ、あなた…。あなた…。ウフフフフッ…」

「ちょっと…」

「それではやってくれるのですね、ザ・ガードマンさん」

「はい。マダムを裏切った者を許すことは出来ません」

「オホホホホ!頼もしいこと。でもそれはあなたの仕事ではないの。裏切り者のことは私に任せておいて良いのよ。あなたには別のことをしてもらいたいの。良いかしら?」

「はい。マダムのためならどんなことでも」

「おい望遠耳!」

「うわ、なんですか?」

「力を貸そう。ウォォォオオオオ!!」

「誰かと思ったら、あなたは夏の使いのノグソさんじゃないですか」

「おい、その名前で呼ぶのはやめてくれないかな。それよりも、力を貸そう!ウォォォオオオオ!」

「それって、あのゲームの真似ですか?」

「真似って言われると恥ずかしいんだが。こうやってると『ウリエル』って名前で呼んでもらえるかな?とか思って」

「それは無理ですよ。どんなに物真似が似ていると言っても森○博子は○藤静香にはなれなかったのと同じです」

「それは哲学だなあ」

「哲学じゃないですよ。それで何しに来たんですか?」

「いや、ガブリエルがいたし、ちょっとよってみたんだが。まあ、助けが必要なら力を貸しても良いぞ」

「いや、別にボクに助けは必要ないと思いますけど。それよりもまた黒猫亭とか出てきてますけど、良いんですか?あなた方って、そういうワケの解らないものでなにか恐ろしい事が起こるのを防ぐのが役目なんじゃないんですか?」

「ん?!ああ、それね。そっちのサービスは上手くいってないから最近規模を縮小してるんだよ。今は季節に関することに専念できてちょうどいいんだがな。それじゃあ、ちょっとガブリエルのところに行ってくるか」


「おい、ガブリエル!力を貸そう!ウォォォオオオオ!」

「わ、何だよ!誰かと思えばノグソじゃないか」

「ノグソじゃない。今日からここではウリエルだ!」

「何言ってるんだ?掟により一度決めた名前は変えられないんだぞ。…ところで、オマエにビデオ貸してなかったっけ?」

「ビデオ?知らないぞ」

「そうか。もう何百年も貸したままになってるから誰に貸したか忘れてんだな。最近急に見たくなったんだが。まあ、放っておけばそのうち見たくなくなるからどうでも良いか。ハーァ…」

「素晴らしいぞ。自分で言うのもなんだが、ここまで完璧に人間の姿になるとは」

「マジすごいっすね。しかも全員同じ顔してるし、マジで」

「そうなんだ。遺伝情報はみな同じだからな。キミの持ってきた素材が良かったんだよ」

「そうなんすか?何でですか?」

「キミも聞いたことがあるだろう?DNAとか遺伝子とかが…」

「知らないっす」

「ああ…、まあ、そうか。それなら、ジュラシックパークは知ってるか?」

「あ、それチョー懐かしいっすね」

「あの映画の中で恐竜が蘇ったのと理屈では一緒なんだよ」

「それじゃあ、この人たちは恐竜なんすか?」

「…違う…」

「□□部長!奥さんから電話が…。あれ?どこ行ったんだ?さっきからソワソワしてたし、どうしたんだろう?…というか、今時携帯電話持ってないって珍しい人だな」

「おお、いたいた。キミこんなところで電話番なんかしてないで。これから忙しくなるんだから」

「ああ、課長。電話番じゃないですよ!それより□□部長知ってますか?」

「□□部長?さあね。あの人も、毎日同じことばっかりやって良く飽きないな、と思ってたけど。今度は急にいなくなっちゃったのか。困った人だね」

「ホントですね」

「それよりも、キミ。例のアレだけどね。そろそろ本格的に動き始めるって話だよ」

「ホントですか?これはしばらくは残業が続いちゃいますね」

「まあ、良いんじゃないのか。その苦労はきっと報われるからね」

「そうですね。エヘヘヘへ…」

「はい!こちら現場のヨコパンこと横屁端です。ただ今私は実力派女子アナの嗅覚を発揮させて怪しい建物を発見したところなのです。先ほどのザ・ガードマンと名乗る警官風の男を探している途中だったのですが、ここで横屁端がこの建物を緊急レポートしたいと思います!」

「えっ?!すると、あなた方の扱っている商品というのはリコールなんですか?」

「そうでぇす!だから『ウッチーのリコール社』なんです!」

「つまり、あなた方はリコールされた欠陥品をうちの会社に売りつけようとしているんですか?」

「失礼なことは言わないでください!我が社のリコールに欠陥品などありません!」

「それじゃあ、なんでリコールとか…」

「あなたは本当に取引する気があるのですかぁ?せっかくの良い取引だと思ったのに、これでは話になりません。社長のウッチーとしては、この話はなかったことにさせていただきたいと思いまぁす!」

「えっ?!…ああ。…そうですか」

「それなら、ウッチーは忙しいのでこれで失礼しまぁす!」

「…何なんだ、いったい?でもこんな怪しい会社と契約を結ばないで良かったな」

「あ、みなさんご覧ください!ちょうど今怪しい建物から職員のような方が出てきましたので突撃インタビューしてみたいと思います!…すいません、あなたはここの職員の方ですかぁ?」

「職員ってなんすか?」

「ここで働いている方でしょうか?」

「ええ、まあ。助手やってま〜す」

「つまり職員ということですね?ここは何かの研究所のようなのですが、中では何が行われているのでしょうか?」

「マジすごいことやってる、って感じっすけど。オッパイはあるのに乳首が見えないんすよ」

「それはどういうことでしょうか?ここではなにかいかがわしいサービスが提供されているということですか?そのようなことは許されてはいけません」

「いかがわしい、ってなんすか?ドローンのことっすか?」

「ドローンとは何でしょうか?」

「なんか良く解んないっすけど、綺麗な女の人だけど恐竜になるみたいっす」

「…そ、それはますます怪しいです!」

「あの、オレちょっとパピコ買ってこないといけないんで、行ってきます」

「アッ、行ってしまいました。これはこれ以上聞かれたくないということなのでしょうか?そして、この中では何が行われているのでしょうか?リポートを続けたいと思いまぁす!」

「ごめんくださいまし」

「はい、こちら『ウッチーのリコール社』ですが、どなたですかぁ?」

「こちらで面白い取引をしているそうですね」

「その取引はさっき反故になったばかりでーす!」

「じゃあ私がリコールを引き取ると言っても、もう手遅れかしら?」

「つまり『ウッチーのリコール社』と取引がしたいのですね?」

「そちらのリコールはうちで全て引き取らせていただきたいと思うのです。もちろん全て無料でやりますよ」

「ほんとうですか!それはリコールを扱う我が社としては願ってもない話です。しかし、無料というのには何か裏があるのではないでしょうか?」

「疑り深いひとですね。オホホホ!それなら契約金として126円を支払いましょう。まだ問題がありますか?」

「それはまさしく無問題!我が社が始まって以来の素晴らしい契約が結べたことを嬉しく思っていまーす。ところで、あなたは誰なんですかぁ?」

「私は黒猫亭のマダム。詳しいことはあとで使いの者やりますからその時聞いてください。それではごきげんよう」


「この会社も軌道に乗ってきたようです!…その前に重要な仕事が残っているのでした。可愛い後輩の二代目ウッチーを人気女子アナとして復活させなければいけないのです!それでは、先ほど一体だけ先に特別リコールされてきた脱皮直前のドローンを開封してみたいと思いまぁす!…アッ!これはどういうことでしょうか!?…」

「おい、望遠耳!」

「何ですかウリエルさん

「うーん。なんかその名前で呼ばれるのもちょっと恥ずかしいな」

「そうなんですか?せっかく気を使ってあげたのに。それよりも、何か用ですか?」

「ああ、そうだった。キミ、こんな所にいて大丈夫なのか?またいつものように話しが怪しい方向へ進んでいるのに、キミは何もせずに立ち聞きしているだけで良いのか?」

「そんなこと言っても、こういうことはこれまであなた方が対処してきたことですし。ボクが何かしようとか思っても何も出来ないですけど。なによりも、ボクはここで立ち聞きしてないと話しが進まないんですよ」

「へえ、そうなのか?望遠耳というのも辛いよな」

「別にそんなでもないですけど。それより、あなた方は何してるんですか?怪しくなってきたって解るんだったら何かして欲しいものですが」

「だって、もうそういうサービスやめちゃったし」

「でも、何が起きようとしているのか、ぐらいは解るんでしょ?」

「いや?これまでだって上から言われたことをやってるだけだったしな。私は夏のこと、ガブリエルなら秋のことに詳しいかも知れないけど、それ以外はやらされてる、って感じだったしな」

「それじゃあ、前に来た黒猫亭のマダムに詳しい人とかは?」

「そんなヤツいたかな?でも事業の縮小とともに天候に関係ない職員は全員解雇されちゃったからな」

「ええ?!…っていうか、あなたたち職員なんですか?」

「職員じゃ悪いのか?」

「そうじゃなくて、夏をもたらす夏の使いとか、秋をもたらす秋の使いとか、そういう人達なら、なんて言うか…職員って変だと思ったんですけど」

「キミの言ってることの方が変だと思うがね。とにかく力を貸して欲しければ蒸し暑くすることぐらいは出来るぞ。まあガブリエルはいい顔しないと思うがな」

「別に蒸し暑くする必要はないと思いますけど」

「力を貸そう。ウォォォオオオオ!」

「だから、イイって言ってるんですし」

「あっ、イイこと考えちゃった」

「何だよ?」

「美しすぎるブスが普通だ、とネットで話題に!」

「なにそれ?」

「いや、こういうこと書いたら注目されるかな?とか思ってね」

「なんだよそれ?それだったらオレにだって出来るぜ。『痩せすぎのデブが普通だ、とネットで話題に!』とか、こういうことだろ」

「あれ?ホントだ。なんだ。それだったら何でも面白そうな記事に出来るんだな」

「そういうことだな」

「それじゃあ、これはどうだ?『イケてないイケメン二人が今日も居酒屋に』とか」

「なんだそれ?全然ダメじゃないか」

「いや、これ。オレ達のことだったんだけど…」

「ああ。じゃあ仕方ないか…」

「うん。…イケてないな」

「しかもイケメンでもない…」

「はい!こちら現場の横屁端です。みなさんここがどこだか解りますかぁ?…そうなのです。私は先ほどの怪しい建物の中にいるのです。そして、あちらにいるのが、この建物を使用している方のようです。見てください。あの白衣を。そして、彼の周りには怪しい装置が積まれています。いったいここでどのような怪しいことが行われているのでしょうか?さっそく突撃インタビューしてみたいと思います」

「…うん。いいぞ。ほぼ完璧だ。あとはドローン達が完全体になるのを…」

「すいません!突然ですがお話を伺ってもよろしいでしょうか?」

「なんだキミは?!どこから入ったんだ?」

「そんな人聞きの悪いことは言わないでくださぁい!ヨコパンはちゃんと正面玄関を破って入って来たのです。人の事を泥棒のように言うのはやめてください?」

「玄関を破った?それじゃあ強盗じゃないか?泥棒よりもたちが悪いぞ」

「それはどうでも良いのです。それよりも、ヨコパンのインタビューに答える気はあるのですか?ないのですか?」

「まさか、私の研究を聞きつけてやって来たのか?しかし、今はまだ何も話すことはない。すまないが出て行ってくれないか?」

「そうですか?解りました。…と、おとなしく引き下がると思ったら大間違い!人気実力派女子アナのヨコパンが取材に来ているのに拒否するなど出来るわけがありません。インタビューに答える気がないのなら、ヨコパンが自らこの研究所の秘密を暴いてみせましょう。それでは、まずこの機械をハッキングしてみたいと思いまぁす!」

「こら、何をする!」

「キャァ…!てめえ、何するんだよ!人気女子アナ突き飛ばして、怪我でもしたらどうなるか解ってんのか?」

「何を言ってるんだ。この機械はデリケートなんだぞ。…ああ、まずい。培養された組織がこれまでにない動きを始めているぞ。キミはなんてことをしてくれたんだ」

「おい、てめえ。なんだその態度は!?謝る気がないなら、こんな機械こうしてやる!」

「うわぁ!やめるんだ…!」

「もしもしウッチー先輩。そろそろ準備はよろしいでしょうか?私の地獄の審判が数分後には始まろうとしているのです。それまでにヨミガエリチャンスを行使しなければ、私はもう帰ることが出来ません!」

「心配いりませーん。でも、その前に重要なお知らせでーす」

「なんでしょうか?」

「研究所から送られてきたドローンは二代目ウッチーにソックリなのです」

「本当ですか?それはいったいどういうことでしょうか?」

「そんなことは知りません!もうすぐ脱皮をしそうなのですが、時間がないというのなら蘇っても大丈夫だと思いまぁす!蘇った後に脱皮をしてくださぁい!」

「そうですか。解りました。それでは早速ですがヨミガエリチャンスを行使させていただきたいと思いまぁす!では、チチンプイプイ・タリサクミ!」

「ああ、ダメだいかん!今はまだ脱皮してはイケないんだ!」

「脱皮ってなんだよ?まさか虫でも飼ってんのか?え?」

「どうしてくれるんだ?オマエのせいだぞ!」

「そうじゃありません。あなたがインタビューに答えないからいけないのでぇす!」

「女子アナだかなんだか知らないが、こうなってしまってはもう手遅れだ」

「つまりこれは大事件でスクープってことですかぁ?」

「そうだよ。今の状態で脱皮をしてしまったら、ドローン兵達は制御不能になるだろう?」

「ドローンってなんでしょうか?」

「ああ、なんてことだ。キミは私が何をしているのかも知らずにここへやって来て、全てをぶち壊したのだな」

「そうではありません。優秀な人気女子アナとして取材にやってきたのです!」

「どうでもいい。逃げるなら今のうちだぞ。私はここに残ってなんとかドローン兵達を食い止める方法を探さなければ」

「ちょっと△△の奥さん!」

「あら、○○の奥さん。ホントにねえ」

「ねえ、ホントに。何なのかしらねえ?」

「ホントにねえ、さっきから太鼓の音がうるさいわよねえ」

「ホントに。最近アレが流行ってるじゃない?もしかして、ここでも始まるんじゃないでしょうねえ?」

「そうなの?!ホントにイヤになっちゃうわよねえ…」

「あら、お二人ともどうしたの?ホントにねえ」

「あら、××の奥さんじゃない。ホントにうるさいわよねえ」

「ねえ、ホントにもう」

「なあた!なあた!…ねえ、なあたったら!」

「え!?なんだ?なあた、って。呼んでるのか?」

「まあ、なあたったら。もう終わりにしないといけませんね、なあた」

「何を言ってるんだ?しかも、なあたって。キミ、具合でも悪いのか?」

「ウフッ…。どうしていつもそうなのかしら?なあたって。あたし、いつもじっと耐えてきたのよ。でもなあたがあなたじゃないって気がついたら、もうそんなことをする意味がないでしょ?そうでしょなあた」

「何を言っているのか、全然解らないよ」

「あなたが居眠りをしている間に、地獄の扉が開いたの。それでもなあたは悪くないっていうの?ねえ、そうなの?なあた!なあた!」

「ええ?」

「ウフフフ…。ウフフフフ…!なぁぁぁぁぁあああああ、ぁぁぁぁぁあああああ、たぁぁぁぁぁああああ…!!!!!」

「ウワァ〜!」

「ウッチー先輩!これはいったいどういうことでしょうか?どうやら蘇ることには成功したようなのですが、ここはいったいどこなのでしょうか?なにか液体の中にいるようで、視界がボヤけていますし、自分の声もモゴモゴ言っていて聞こえづらいのですが」

「心配しないでくださーい!二代目ウッチーは見事蘇ることに成功したのです!しかし、蘇るのに利用した体はまだ脱皮の前なので、しばらく待っていてください!ここにリコールされてきたドローンの説明書によると、到着から一時間前後で脱皮すると書かれていまぁす!」

「そうですか。それなら安心です。アッ、ちょっと待ってください。ただ今私の体になにか異変が起きているようです。これは何でしょうか?脈拍が上がるとともに、なにかとても気分が高揚していきます!これは…これは、なんと言ったらいいのでしょうか?これは、まさしく生きることの喜び!そうです!それに違いありません。今まさに、二代目ウッチーこと内屁端はこの世に生を受けるという喜びを再び体験しようとしているのです!」

「あっ、でもちょっと待ってくださぁい!来客のようです」

「そんなことは出来ません!私は、今生まれるのです!」


「えーと、どちらさまですかぁ?」

「ザ・ガードマンです。マダムの使いでやって来ました」

「するとあなたが詳しいことを話してくれるのですね」

「はい。でも、厳密には違っていて、この手紙に詳しいことが書いてるのです。つまりマダムからのこの手紙を持ってくるのが私の役目」

「細かいことはどうでも良いでぇす!では、早速手紙を読んでみたいと思いまぁす!」

「…いや、ちょっとその前に、そこの物体なのですが…」

「それは後輩の二代目ウッチーですので気にしないでくださぁい!」

「いや、しかし。気にするなと言われても。透き通った繭のようなものの中に裸の女性が入っているなんて」

「あんまりジロジロ見ていると通報しますよ!」

「ああ、いや。これは失礼。しかし、いったいあれは…?」

「そんなことはどうでも良いのです!それよりも、この手紙によると、社長のウッチーは更にドローン達をリコールしないといけないようです」

「そうなのです。それで了解いただけたでしょうか?」

「この会社はリコールを扱っている会社です。リコールして欲しいと言われたらやらずにはいられないのです!」

「そうですか。それは良かった」

「それから、この手紙を読んだら使いの者を抹殺するように、とも書かれていまぁす!」

「はっ?!それは…いったい…」

「冗談でぇす!」

「なんだ…。よかった…」

「でも、用が済んだら直ちに戻るようにと伝えるように書いてあります!」

「手紙にそう書いてあるのですか?」

「そうでぇす!」

「ならば、帰らないといけないが。…しかし、あの中の女性が気になって仕方がない…。なんというか、体育座りのような体勢で繭の中に収まっているのだが、全裸なのにどうしても肝心なところが見えない。このモヤモヤした気持ちはどうすればいいのか…」

「おい、この変態野郎!くだらないこと言ってねえでとっとと帰れって言ってんだよ!元女子アナなめると痛い目にあうぞ!」

「アッ、すいません。それではこれにて失礼いたします」

「あの、パピコ買ってきたっすけど。…なんかヤバくないっすか?」

「ああ、キミ。こんな所にいてはいけない。キミはまだ若いんだ。こんな所で終わってはいけない人間なのだよ。解るかね?キミはここで起きたことの目撃者であり、キミにはそれを世間に知らせる役目がある。そして、もしかすると人類を率いてドローン達と戦うことにもなるかも知れない。それがこの場に居合わせてしまったキミに課せられた使命であり、運命なのだよ。解るかね?」

「…全然わかんないっす」

「…。もう、どうでも良い。とにかくキミは逃げるんだ!…ああ、なんだ?この音は?!やめろ!誰だ、太鼓を鳴らしているのは!?やめるんだ!やめるんだぁ!」

「なあ、知ってる?」

「知らないよ」

「そうじゃなくてさ。太鼓なってない?」

「ああ、そういえば。なんだろう?祭り?」

「いや、そういう感じじゃないな。こんな太鼓の音、祭りっぽくないし」

「アッ。じゃあ、もしかしてアレじゃないの?」

「アレって?」

「もう忘れたのかよ。太鼓って言ったらデモだろ?」

「ああ、そうか。でも、何のデモだ?」

「そんなのはどうでも良いんだよ。それよりも、ここは初心に返ってデモしてみないか?」

「ええっ?!だって、デモってちょっとビミョーだね、ってそういう話しで落ち着いてなかったか?」

「そうだけどさ。その後に何か別の案があったのか?っていうとそうでもなかったし。これはつまりデモが一番イケてるっていう結論が導き出されてると思わないか?」

「うーん。まあ、消去法で考えると…、いや、消去法で考えてもそうならないと思うけど」

「でも、もしもこのデモがイケてるデモとしてマスコミで取り上げられたとしたらどうする?」

「そうなったら、まあ…ちょっと悔しいな」

「そうだろ?だったらデモしないワケにはいかないだろ」

「まあ、そうだな」

「よし、そうと決まったらデモするぞ!」

「デモするぞ!」

「イケてるデモに参加しないことに反対…!」

「反対…!」

「イケてないデモを反対するデモに反対!はしなーい…!」

「しなーい…!」

「…って。これちょっと変だろ?全然デモじゃないぞ」

「そうだな。それよりも、あれ見てみろよ」

「アッ…。あれが本物のデモか?」

「そうも見えるけど、何かおかしくないか?あの集団は」

「そんな気もする」

「ウッチー先輩!今、まさに二代目ウッチーこと内屁端は生まれようとしているのです!ああ、なんて素晴らしい!この世に生まれ、そして生きるということは!この喜びをどう表現すればいいのか。実力派女子アナの私の能力を持ってしても、的確に言い表すことが出来ません。あえていうのなら、沸き上がる感情がバーってなって、ザーッとなると言いましょうか。ウッチー先輩。先輩ならこの状況をどのように表現するのでしょうか?…ウッチー先輩!…ウッチー先輩?…おや?せっかく二代目内屁端が復活したというのに、ウッチー先輩は外出中のようです。そして、ふと我に返って気づいたのですが、ただ今私は服を着ていません!しかし、ご安心ください。様々な偶然により見えてはいけない部分は上手いこと隠されているのです。これは一体どういうことでしょうか?どこからどのように見ても、この部屋にある観葉植物の葉っぱが視界を遮って私の体にはモザイクいらずなのです。しかし、このままでは青少年には刺激が強すぎるので、そろそろ服を着たいと思いまぁす!」

「はい!こちら現場のヨコパンこと横屁端です!先ほどの研究所の研究者に逃げろと言われて出てきたのですが、人気女子アナとしてはこのまま引き下がっているわけにはいきません。そこで私は少し離れた場所から研究所の様子を窺っていたのですが、先程とんでもないことが起きたのです!なんと女子アナを引退して実業家になった初代ウッチーこと内屁端があの建物に入っていったのです。あの憎き二代目内屁端とも密接な関係にあるとウワサされている初代内屁端が、あの研究所にどのような目的でやって来たのでしょうか?我々はすでに隠密行動の得意な手下の女子アナ志望にマイクとカメラを持たせてあの研究所に侵入するように命じて起きました。しばらくすれば中の様子がわかると思いますので、しばらくお待ちください!では、ここでいったんCMに行きたいと思いまぁす!」

「なんであのデモは太鼓鳴らすだけなんだ?」

「知らないよ。まあ、もしかするとアレかも知れないぜ」

「アレってなんだよ?」

「アレだよ。無言デモ」

「無言デモ?!それって、イケてんの?!」

「あれがイケてるように見えるか?」

「いや、見えないな。というか、無言で太鼓鳴らして歩く集団とか、気持ち悪いしな」

「あれは何に反対してデモしてんだろうな?」

「うーん。難しいな。無言ってことは『無言以外』に反対なんじゃないか?」

「いや、デモっていうのは反対している物事の名前を連呼する感じだから、ずっと無言ってことは無言に反対なんじゃないか?」

「ええ?でもそれじゃあ、自分達で反対したい事を実行しちゃってる感じだよな」

「ああ、そうか。デモっていうのは難しいな」

「まあな。これじゃあ国民の声が届かなくても仕方ないな」

「ハーァ…。なんかもう帰りたくなってきたな」

「なんだよ。これから本格的に秋だっていうのに、大体なんでガブリエルはそんなにイヤそうに仕事をするんだ?」

「これは、前にあの望遠耳君にも言ったんだけどね。秋が来て『やったー!』っていう人なんてほとんどいないんだよ。その点オマエは良いよな。夏が来たら大人から子供まで、もれなく浮かれるもんな」

「それは考えようによるよ。私なんか暑い中休まずに働かないといけないんだし。正直言うと、夏休みで浮かれてる人を見るとちょっと腹が立つな」

「そうなのか?ノグソは暑いのが得意なのかと思ってたけど。そういうことじゃないのか」

「まあ、たまたま得意分野が夏ってことでやり始めただけだからな。それよりも望遠耳が『またこの展開か?』って思ってるみたいだからちょっと行ってくるかな」


「おい、望遠耳!力を貸そう。ウオォォォオオオオオー!」

「あの、ボクにはあなた方の話が全部聞こえてるって解ってますか?」

「だったら何なんだ?」

「いや、なんていうか。あなた方の世間話を聞いていると人間であるボクらはちょっと不安になるんですよ」

「それまた何で?」

「その…、例えばこのままだと命が危ない!っていう状況に置かれたとすると、人間というのは目に見えない都合の良い何かにすがったりするんですよ。でもあなた方の話を聞いてると、そういう時に助けてくれるような未知の力みたいなものは存在しないのかな?って思ったりするんですよね」

「なんだそれは?助けが必要なら、力を貸そう!ウオォォォオオオオオー!」

「そういうことじゃないですけど…」

「じゃあ、どういうことだ?」

「…もう良いですよ」

「そうか。まあ、良いなら良いがな。ところで、『今回もまたこの展開か?』って思ってただろ?」

「まあ、そうですね。でも今回はあなた方が事態を収拾するために何もしてくれないからどうなるのか?という感じでもあるんですけど。これは大丈夫なんでしょうね?」

「私に聞かれてもな。前と似たような展開なら前と同じように解決するんじゃないか?まあ、そうなるように『都合の良い何か』にお願いしてみたら良いかも知れないがな」

「ボクがやると変なのが出てきちゃうからやめときます」

「そうなのか。それはそれで良いがな」

「アンアタ!アンーアタ!」

「えっ?なんだ?」

「アンアタ!だから言ったでしょ。地獄の扉が開いても、誰もその音を聞くことはないの。アンーアタ!あなただけでも気づいてくれたら良かったのに…」

「よく解らないが、キミどうして裸なんだ?」

「アンアタ!これのどこが裸だって言うの?アンアタはいつからそんな風になってしまったの?」

「…なにが?!」

「もう誰も助けてはくれないのよ。もう誰も…」

「ごめんくださいませ。私は『ウッチーのリコール社』社長のウッチーと申しまぁす!」

「ああ、あなた。なんでこんな所に?!危険だから早く逃げなさい」

「そんなことは出来ません!それにしてもこれはスゴい量のドローンですね!そして、全てが後輩のウッチーにソックリです!」

「そんなことに驚いている場合じゃないんだよ。…ああ、いかん。脱皮が始まっている。早く逃げるんだ」

「なぜ逃げないといけないのでしょうか?脱皮したドローンはウッチーが引き取ってリコールになるのです」

「そんなことを言ってないで。もうダメだ。ドローン達が完全体になってしまった」

「みなさん!ご覧いただけたでしょうか?潜入させた女子アナ志望の活躍により研究所内部の様子がわかったのですが、あのような取引があったようです。一体何を企んでいるのでしょうか?それではいったんスタジオにお返ししまぁす!…おい、女子アナ志望ども、集まれ!」

「どうしてドローンが完全体になるといけないのですかぁ?」

「いや、本当ならこれは素晴らしいことなんだが。あの女子アナとかいうヤツのせいで」

「女子アナを悪者にしてはいけません!」

「しっ、静かに。今はまだ脱皮直後で意識がはっきりしていないようだが、彼らは我々がいることに気づいたら襲ってくるかも知れないぞ」

「そんなことはないと思いまぁす。私の可愛い後輩は人を襲ったりしません。ましてやこの私を襲うなど考えられないことです!」

「いや、同じなのは外見だけで、中身は全く別の…」

「はい!こちら先輩の元人気女子アナで初代ウッチーこと内屁端です!後輩の二代目ウッチー達!あなた達は人間を襲いますかぁ?」

あ、ウッチー先輩!お久しぶりです!私たちは襲ったりしませぇん!

「素晴らしいです。それでこそウッチーの後輩です!」

「おい、何をやっているんだ?」

「見ての通り、彼らは先輩の命令に忠実な後輩でぇす!」

「おかしい。そんなことがあるはずはない。しかし人を襲わないというのならドローン達を詳しく調べる事も出来るぞ。まだ助かるチャンスはあるかも知れない」

「はい、こちら復活した人気女子アナのウッチーこと内屁端です!まだ局の方では私の復活に気づいていないようなのですが、このまま女子アナ口調でお送りしたいと思いまぁす!みなさん、私は今どこにいるか解りますかぁ?そうなんです。私は何か見えない力に引き寄せられるようにして、この住宅街のとある場所に向かっている途中なのです。何がウッチーをそうさせるのか?この先に何が待っているのか?この後も目が離せませんよ!」

「あのボク、作曲家になりたいのですが」

「えーと。そうですね。ボカロを買ってください」

「え?!」

「ボカロです。はい、次の方!」

「なあ知ってる?」

「知らないよ」

「そうじゃなくてさ。さっきの無言デモあっただろ?どうして、この町にはああいうおかしな集団が現れるんだろうな?」

「さあな。大体なんでオレ達はこの町をうろついてるんだ?」

「そういえばそうだな。これまではイケてる店があるとか、そういう情報を聞きつけてやって来たんだけど、今日は目的もなくウロウロしてるだけだな」

「それって、もしかしてこの町自体がイケてる町になったってことなのかもな。来れば何かがあるような、そんな町。まあ、言ってみれば渋谷とか原宿みたいな」

「それで無言デモなのか?」

「だとしても、何かは起きてるしさ」

「大体、渋谷とか原宿ってイケてるのか?」

「例えばの話だし」

「うーむ。これは興味深い。ドローン達の脳波にこれまでにない波形が見られるぞ。これが彼らの行動を抑制しているのかも知れない。しかし、誰がどうやって操作をしているのだろうか?あの女子アナの暴挙によって私の制御装置は組み込むことが出来なかったのだが」

「いったい何の話をしているのですかぁ?問題がないのならこのドローン達をリコールしたいのですが」

「リコール?!それはどういうことだ?」

「このリコール達を取引するのです」

「何を言っているんだ?これは私のドローンだ。あんたにはすでに一体送っただろう?」

「あれは私が必要だったリコールです。次は取引のドローンを引き取らないといけないのです。『ウッチーのリコール社』が取引するというのだから、これらのドローンは『ウッチーのリコール社』のものなのです」

「そんな滅茶苦茶な。それに誰と取引するというのだ?」

「黒猫亭のマダムです」

「な、なに?!黒猫亭のマダム!…うぅ」

「どうしたのでしょうか?何か都合が悪いのですか?」

「い、いや。そんなことはないが」

「それなら、早くリコールさせてくださぁい」

「いや、待つんだ。いくらマダムといえども、この状態のドローンを扱うことは不可能なんだ」

「どうでも良いから早くしてくださぁい」

「くそぉ。ここでマダムの名が出てくるとは…」

「はい、こちらは一人実況中継の内屁端です。先程から見えない何かに引き寄せられるかのようにして向かっている先に、とある建物が見えてきました。初めて見るのになぜか知っているような気もするのですが。良く見ると研究所と書かれた看板があるようです。アッ!そして、ここで大変なことが起こりました。ふと脇に目をやると裏切り者で殺人鬼のインチキ女子アナの横屁端がいるではありませんか!何を勘違いしたのか、手下のような若者達を従えているようです。何という身の程知らずなのでしょうか。ここで裏切り者の横屁端に女子アナの世界の怖さを見せつけてやりたいのですが、ただ今ウッチーは見えない力に逆らえず止まることが出来ないのです!」


「横屁端さん、大変です!」

「なんだ?」

「ライバルの内屁端さんが…」

「なんだって?!…チクショウ。まさかあの研究所のドローンってヤツか…?おい、オマエら!準備は出来てんのか?」

はい!横屁端さん!

「気合いは入ってんのか?って聞いてんだよ!」

はい!気合い入れます!

「はい、ただ今研究所の中に入ってきました。この中に入った瞬間からなにか強いパワーのようなものを感じます!もしかすると、新しいパワースポットなのかも知れません!」

「あら?!二代目ウッチーじゃない!」

「あっ!これはウッチー先輩。ここで一体何をしているのですかぁ?」

「社長のお仕事でぇす」

「それはご苦労様です。しかし、これは私がここへ何かの力によって引きつけられて来たことと関係があるのでしょうか?そして、あれはいったい何なのでしょうか?!見てください!大量の内屁端です!なんと、大量の私がこの研究所にいるのです!」

「正確にはあなたの姉妹でぇす!」

「しかし、私に姉妹はいないはずですが。それに、私にウリ二つで姉妹と言うよりは私そのものなのですが」

「それは、ドローンでリコールだからです」

「そ、それは一体どういうことでしょうか?」

「よく解りませーん」


「大変だ!ドローンたちの脳波が元に戻りつつあるぞ。これは一体…アッ。そこにいるのはあの女に譲った第一号じゃないか。しかし、どうしてあの個体だけが自由に動き回っているのだ?おい、その第一号に何をしたというのだ?」

「第一号じゃありません!彼女は私の大事な後輩であり二代目人気女子アナのウッチーこと内屁端なのです」

「何を言っているんだ。ドローンに人格などないはずなのに。なぜ第一号がそのように自分で行動を起こしたりするのだ?」

「何を言ってるのか解りませぇん!私は人気女子アナとして蘇っただけなのです。そして実力派として自分で考えて行動して素晴らしいリポートをする。そんなことは当たり前なのです」

「そういうことではなくて…。ああ、しまった!そんなことを言っている間にドローンたちが動き出したではないか!ウワァ!やめろ!お前達、私の研究所をどうするつもりだ!うわぁぁぁあああ…」

「一体何が起きているのでしょうか?リコール達が暴れていますよ」

「どうやらその第一号がやって来たのと関係がありそうなんだが。それよりも、ドローン達を外に出しては大変な事になるぞ。おい、第一号の…内屁端と言ったな?ここに来る時にドアは閉めたのか?」

「失礼なことは言わないでくださぁい!ちゃんと教育された女子アナなら中に入ったらドアを閉めるぐらい当たり前です!」

「ならば良いのだが。非常ボタンを押してドアにロックがかけられたから、しばらくは大丈夫だろう。その間にどうにかしなければ」

「でもなぜか私の姉妹達の数が減っているように思えるのですが?」

「さすがは二代目ウッチーです。私もそう思っていたところでぇす!きっと誰かが忍び込んで来た時にドアを開けっ放しだったに違いありません!」

「なに?忍び込むって誰がだ?」

「解りませんが、裏口は開いているようでぇす!」

「ああ、なんたることだ!」

「大変な事になりました。ここはひとまず逃げた方が良いと思いまぁす!」

「はい、ウッチー先輩。そうしましょう!」

「はい、こちら現場の横屁端です。みなさんあちらをご覧ください!なんと大量の内屁端が建物の中から出てくるではありませんか!この実力派の新人女子アナであった私に人気女子アナの座を奪われた現実を受け入れられないとでも言うのでしょうか?しかし、どんなに大量に現れてもこのヨコパンに勝てるわけはありません。見てください!このヨコパンに憧れて女子アナを目指す若者達が親衛隊となって、あの内屁端軍団と対決すべく集結しているのです。アッ!そして、あちらをご覧ください!太鼓を鳴らしながら無言で歩く集団が向かってくるようです。これはもしかすると進軍の太鼓という事になるのでしょうか?この異様な雰囲気にいやが上にもテンションが上がってきます!…おいオメエら!ちゃんと気合い入れてんだろうな!」

はい!横屁端さん!

「なあ、あれ」

「うわ、なんだあれ。また『気合い』か?」

「それよりも、なんかヤバくないか、この雰囲気」

「そうだな。これはもうイケてるとか、そういう問題じゃなくなってるし」

「とりあえず駅の方に行って飲み直すか」

「うん、そうしようか」

「あなた、大変な事をしてくれましたね」

「あぁ、黒猫亭のマダム」

「こんな事をして私に気づかれないとでも思ったのですか?」

「いや、しかし。この技術を使わずにいるのは人類のために…」

「嘘をおっしゃい!あなたは自分の欲望を満たすために私の教えた技術を勝手に使いましたね。しかしあなたにそれを扱えるだけの能力はなかった。この責任はとってもらいますよ」

「えぇ…。マダム…。まさか、そんな!うわぁぁぁあああ!」

「ぁぁぁあああ…なぁぁあああ…たぁぁぁぁぁあああああ!!!」

「ウワァ?!なんだ?」

「あなた!目を覚まして!目を覚ますのよ!」

「いや、起きてるよ」

「あなた!…あなた!」

「起きてるって!」

「目を覚まして!あなた!」

「みなさん、あちらをご覧ください!ついに、横屁端親衛隊と内屁端軍団が衝突しました!ただ暴れ回るだけの内屁端軍団に対して、組織的な攻撃をする横屁端親衛隊が有利かに見えますが、内屁端軍団の数の多さに苦戦を強いられているようです!…おい、オメエら!気合いが足りてねえんだよ!数の差ぐらい気合いでカバーしろよ!え!」

「ちょっと、そこのお巡りさん!」

「ああ、××の奥さんじゃないですか。私はお巡りさんじゃなくてザ・ガードマン。しかし、こんな所にいたら危険ですよ」

「何言ってんのよ!さっきから何かうるさくてテレビの音が聞こえないじゃないのよ!ちょっと、あんたあっち行って注意してきてよ!」

「いや、それは出来ません」

「なによ、それ!もうこれだから警察は頼りにならないわねえ」

「だから警察じゃなくてザ・ガードマンですし。マダムの言いつけにより、私は何もすることが出来ないのです」

「何よマダムって?マダムの言うことは聞けて奥さんの言うことは聞けないって言うの?もうホントに、いやねえ。良いわよ!苦情の電話かけてやるから」


「はあ。…しかし、どこに苦情の電話をかけるんだろう?」

「あのボク、リチャード・マークスみたいになりたいんですけど」

「リチャード・マークスですね!よくぞ言ってくれました。我々はあなたのような生徒さんを待っていたのです!」

「ああ、ありがとうございます。それでどんな学科に入ったら良いのかな?と思って説明会に来たのですが」

「そうですねえ。リチャード・マークスでしたらシンガーソングライター・コースをオススメしますが、もしもすでに楽器が弾けるようであれば作曲コースで理論を学ぶか、或いはヴォーカル・コースで歌に磨きをかけるなどできますが」

「へえ、迷っちゃうなあ。全部一緒になったリチャード・マークス・コースっていうのはないんですか」

「あ、いや。それはちょっと…」

「横屁端さん!もうダメです。いくら気合いを入れても相手が多すぎます」

「オメエ何言ってんだ?そんなことで女子アナになろうってのか?相手が多いならそれだけ気合い入れたら良いだろ。だったらこの横屁端が本物の気合いってヤツを見せてやるから、良く見ておけ!」

「お待ちなさい!」

「あ!てめぇはさっきの」

「あなた、もう少し上品に喋れないのかしら」

「うるせえ。マダムだかなんだか知らねえけど、邪魔したら痛い目にあうぞ」

「もうそんな無駄な争いはおやめなさい。そうだ、ちょうど良い機会だから、あなたが本当に人気女子アナかどうかあの若者に聞いてみたらどうなの?」

「ど、どういうことだ?」

「ちょっとそこの方」

「ん?!なんすか?」

「あなた、このアナウンサーをどう思っていますか?」

「うーん。まあ、ビミョーっすね」

「ビミョーとはどういう事でしょうか?人気女子アナにも解るように言ってくださぁい!」

「なんていうか、前の人のほうが良かったっすね。乳首は見えなかったけどオッパイおっきかったし。しかも恐竜になるんすよね」

「そ、それは…」

「これで解ったかしら?解ったらおとなしく引き下がりなさい」

「っ…」


アッ…。横屁端さん…


「さあ、可愛い子達。ここはあなた達のいる場所ではありません。私と一緒に帰りましょう」

「アッ!ウッチー先輩!あちらをご覧ください!私の姉妹達、つまりドローンでありリコールである内屁端軍団が女性に連れられておとなしく歩いて行きます!」

「あれは『ウッチーのリコール社』と取引をしていた黒猫亭のマダムのようです」

「それはどういうことでしょうか?アッ!そして、内屁端軍団が空間にポッカリと空いた穴にす込まれるようにして入って行くではありませんか!…これは、前にも見たような光景ですが。あの穴の先は異次元世界なのでしょうか?」

「おい、待て!てめぇ人気女子アナバカにしてタダで済むと思ってんのか?おい、待てって言ってるんだよ!」

「アッ!そして、内屁端軍団の後を追って怒り狂った横屁端が穴の中へと駆け込んでいきました!なんて愚かな事でしょうか。蘇った二代目ウッチーが手を下すまでもなく、裏切り者の横屁端はこの世界から消えたようです!」

「これで本当の人気女子アナに戻れますね」

「はい!ウッチー先輩!これも全て先輩のおかげです」

「これからも二代目ウッチーとして頑張ってくださぁい!」

「はい、ウッチー先輩!」

「おい、そこの若者。マダムを見なかったか?」

「マダムって誰っすか?さっきの人ならなんか消えちゃったっすけど」

「そうか。また向こうへ行ってしまったのか。ところで、その手に持っているものはなんだ?」

「これ、パピコっす。っていうか、マジすごいっすね」

「なにが?」

「さっきの人に言われたとおりに話したら、ポケットの中にパピコ入ってたんすよ!」

「ああ。マダムは素晴らしい方だ」

「おい、望遠耳。やっぱりいつもの展開だ、って思ってるな」

「ああノグソさん。なんか最近は何かが起きるとなんでも異次元に行ってしまう感じですね」

「まあ、それで解決ならそれで良いんじゃないか?まあ、私も一回ぐらい力を貸したかったがな。何も起きなかったから、そろそろ行くとするかな。あんまりガブリエルと一緒にいるとまた台風が来ちゃうしな。それじゃ…」

「え!?ちょっと待ってくださいよ。これで終わりなんですか?」

「だって、もう何もないだろう?」

「それよりも、あの無言デモとかはどうなったんですか?」

「私に聞かれてもな。それより、私とガブリエルが一緒にいると台風が来るとか、そっちは気にならなかったか?」

「いや、気になったかも知れないですが、今は無言デモの方が気になってそれどころじゃないですけど」

「なんだ、そうなのか。ガブリエルも仕事に行っちゃったし、私もいくからな。それじゃあ」

「えぇ?!ちょっと。無言デモが気になるし、このままじゃ気持ち悪いんだけど…」

「ウフッ…。ウフフッ…。ウフフフッ…。あなた…。あなた!」

「あ?!…あれ?寝てたか?」

「もう、あなたったら」

「涼しいと眠くなるからな。風邪をひかないようにしないと」

「それよりも、あなた。裏の椰子の木がずいぶんと大きくなりましたよ」

「何の木?」

「あら、あなたったら。裏庭の椰子の木ですよ。ウフフフッ」

「え?そんなの知らないぞ」

「もう、それはどういう事なの?あなた!」

「お、怒るなよ…」

「10年前に二人で植えた椰子の木を覚えていないあなたは、椰子の木のない世界に住んでいたのね」

「椰子の木はあるけど、うちにはなかっただろ?」

「ウフフフフ…。そんなに言うのなら確かめてきたら良いのですよ。ウフフフフ…。秋空の下の椰子の木は、それはまるで地獄の風景ですよ。あなたが目を覚まさないのならこの空も椰子の木もずっと地獄のまま。そうでしょう?あなた。あなた…。あなた…。ウフフッ…、ウフフフフ…!」

 ということで、今回は何が起きたのか?というと、去年のクリスマスに異次元世界から復活した横屁端アナに暗殺された内屁端アナが蘇って、横屁端アナは再び異次元世界へと行ってしまったのですが。

 それ以外にもいろいろな要素が出てきて、そういうのはこれからどうなるのか?という感じにもなっているのですが、面倒になったら全ては異次元世界へと消えてしまうかも知れないですし。

 夏が去って秋が来た。そういう話なのかも知れません。

 この調子で行くと、次回は11周年記念の開設記念日の大特集になると見せかけて、ちょっと書きたい事もあるのですが時間があるかどうか。どうぞお楽しみに!

「校長。今年もリチャード・マークス候補がやって来ました」

「ほう、そうか。それでは各方面への根回しは頼んだぞ」

「はい、もちろん」

「毎年一人のリチャード・マークスを輩出すれば、1000人の金づるがやって来る。フフフ…。芸術はやめられないねえ」

「そのとおりですね。校長」