「あなた!」
「うわぁ…!なんだよ、急に…」
「あなた、グッスリ居眠りしていらしたから。そういう時には、こうやって呼ぶといいのよ。あなたっ!」
「うわぁ!」
「ほら、また驚いた。何をそんなにビクビクしていらっしゃるのかしら?」
「なにを、って。別にビクビクしてるワケじゃないけど、最近ミョーに静かだしね。大きい声を出されると少しビックリするんだよ」
「ウフッ…。あなたったら何にも解ってないのね。ウフフフッ…。コレのどこが静かだっていうの?あなた」
「だって、静かだろう。まあセミの鳴き声とかは聞こえるけどな。人の声とか、あんまり聞こえないし」
「それじゃあ、あすこの方も退屈で仕方ないですね、あなた」
「あすこ?…ああ、久しぶりだな。あのベランダの人」
「また、あなたったら。どうしていつもあのベランダまでの視野しかないのかしら」
「だって、あの人いつも立ち聞きしてる人だろ?人の声が聞こえないんじゃ、退屈なんじゃないかな」
「あの人は退屈なんてしませんよ、あなた。あたしが言ったのは無駄に暑いこの夏の太陽」
「太陽?」
「とは関係なく、退屈すぎてこの街へやって来ようとする忘れられた希望?それとも災い?」
「…そんな質問には答えようもないけど…」
「あら…、あなたって、そんな方だったかしら?」
「えっ…?」
「…」
「…な、なんだ?」
「…。あなたっ!!」
「ウワァ!」
「ウフフフッ…!ウフフフフッ!」
またウフギ屋の女将に見つかってしまったようです。最近は年に一回シリーズになっているのですが、久々に望遠耳を使うためにベランダに出てきたのです。一回じゃシリーズじゃない!って思うかも知れませんが、望遠耳を使って立ち聞きをするシリーズが年に一回、というふうに考えれば、シリーズでも良いんじゃないか?って気がしませんか?
そんなことはどうでもイイのですが、今回も遠くで交わされる会話がすぐ近くの音のように聞こえてしまうこの望遠耳を使って、街で交わされる会話を立ち聞きしてみたいと思うのです。さっきもウフギ屋の旦那がちょっと言っていたように、最近は街での会話もなかなか聞こえてこないのですが、せっかくこうしてベランダに立っているので、きっと何か面白い話も聞けるでしょう。
「はーぃ、それじゃあ1学期最後の学級会を始めたいと思いまぁす!イェーイ!」
「イェーイ!」
「良いねえ、みんな。ノリノリだねぇ!」
「イェーイ!」
「それじゃあ、夏休みを迎えるにあたって先生がみんなに教えた注意事項あったよね?覚えてるかな?」
「イェーイ!」
「コレはヒジョーにヒッジョーに素晴らしい!先生嬉しいぜ!」
「イェーイ!」
「それじゃあ、みんな声を合わせて注意事項をおさらいだ!」
「イェーイ!」
「じゃあ、注意事項、その1!」
「注意事項その1。夜更かしをしない!」
「そのとおり!いいよ、その調子!それじゃあ、その2は?」
「注意事項その2。水たまりで泳がない!」
「よぉし!それじゃあ、その3」
「あら、△△の奥さん!」
「あら、○○の奥さん。暑いわねえ…」
「ホントにねえ。暑いわねえ…」
「ええ、ホントに。ホントに暑いわねえ」
「ホントに。…それじゃ、また」
「それじゃ」
「ホントに。ホントに何だって言うんだ?こんなことしてたって安定した会社の経営なんて…。ああ、もう。はいはい。いいね。いいね。…まったく」
「ああ…。肉喰って腹パン幸せ!…ところでスタッフ達はどこへ行ったのでしょうか?…どうやら私、腹パンこと腹屁端はまた収録の途中でスタッフとはぐれてしまったようです。…あっ。あそこに人がいるので聞いてみましょう。…すいません。ちょっとお聞きしてよろしかったでしょうか?」
「えっ?なんすか?難しい話し方されても良く解んないっす」
「難しいことはありません。あなたはこの辺りでテレビ局のスタッフを見た方ではなかったでしょうか?」
「なんすか、それ?スタッフってキャストのあとに出てくるやつっすよね?」
「…えーと。それは一体どういう事でしょうか?」
「なんか変すね。質問されて質問を返したらまた質問されたっす」
「そのようですね。それで、あなたはスタッフを見たのでしょうか?」
「スタッフすか?あれって別に知ってる名前が出てくるワケじゃないし、いっつも見てないっす」
「そうですか。それは残念です。それでは腹パンはグルメリポートがあるので、この辺で失礼しまーす」
「ああ、行っちゃったな。…えっと、オレここで何してたんだっけ?…まあいいか。考えんのめんどくせーしな」
「なあ、知ってる?」
「知らないよ」
「そうじゃなくてさ。さっきからなんか聞こえてくるの。これ何だ?」
「ああ、これな。なんだろうな。風の音かと思ったけど、それにしてはなんか規則的っていうのかな」
「じゃあ規則的な風か?」
「風じゃないってことで話してるのに、なんで風として解釈するんだよ」
「ああ、それもそうだな。それに単純なボケが複雑なツッコミを生んでしまったようだな」
「それも意味わかんないし。それよりも、こんどは別の音が聞こえてきた気がするんだけど」
「ええ?!ホントに。…聞こえないぞ」
「ホントだな。今度はホントに風だったのかな」
「それよりも早く祭りの会場を見つけないと。もうかなりの時間迷ってるし」
「ホントだよな。この街にこれまで何度来たのか解らないぐらい来てるけど、どうしても迷うんだよな」
「とにかく進まないと。イケてる祭りを逃したら今年の夏もオレ達は…」
「解ってるよ。さっきはこの道を行ったから、今度は右に曲がってみようぜ」
「そうしよう!」
「イエーィ!そのとおり!それじゃあ、その21は?」
「サー!イエッサー!先生の命令には絶対服従!」
「素晴らしい!それじゃあ、その22!」
「みんなでやったら怖いものはない!」
「素晴らしい!では子供たち、解散!」
「サー!イエッサー!先生さようなら!みなさん、さようなら!」
「あらやだ…」
「どうしたんだい、キミ?」
「見て。セミがこんなところで…。可哀想に。死んでしまったのね」
「そうか。キミは優しいね。それじゃ、このセミはあそこの公園に…」
ビェエエー!ジェージェージェー!!ババババッサバサ!
「ギャァアア!」
「あらやだ。…セミ地雷だったのね。夏はまだ始まったばかりね」
「…ちょっと。キミ、待ってよ」
「はい、こちらウッチーのリコール社・社長であり元人気女子アナのウッチーでーす!この電話は商談の電話でよろしかったでしょうか?…はい。そうですか。ホームページを見てお電話くださったのですね。ありがとうございます!ところで、ウッチーのフェイ○・ブックは見てもらえたでしょうか?…そして「いいね」はしましたか?…どうしてしないのですかぁ?…そんなことは理由になりません!ウッチーのリコール社はそういう会社とは取引をしないことになっていまぁす!それでは「いいね」をしてから出直しです。では、こちらからは以上でぇす!」
「はい、こちら腹パンです。依然としてスタッフは見つかっていないのですが、イヤホンの方に無線でディレクターからの指示が入っているのです。とりあえず何でも良いから食べて感想を言ってくれないと夕方の情報番組に間に合わない、とのことです。しかし、腹パンはまだこの住宅街でスタッフと再会できていないしまつ。しかたないので、あそこになっているゴーヤを食べてみたいと思います。…それでは、一つ失礼いたします。…はい。腹パンのグルメリポートです。ただいまゴーヤを食べてみたのですが、これはとても苦くて食べられたものではないのですが、美味しいですね。もう腹パン、ゴーヤ食べて大満足!それでは次のお店に行ってみましょう。…あっ、いまディレクターからオッケーが出たようです。それでは引き続きスタッフを探したいと思います」
「ていうか、あれだよな。オレたちって生まれた時から夏はずっと猛暑だったよな」
「そうだよな」
「だから最近の夏は暑すぎるとか言ってるのって、年寄りだけだよな」
「それ、小学生が正論だな」
「そうだろ。小学生最強!」
「ややっ!一つだけなっていた貴重なゴーヤがなくなっているぞ!」
「ウワァ?!」
「なんだよ、急に?」
「いやあ、急なことだから驚いたんだし、急に驚いたって良いだろ?」
「良く解んないけど、何がビックリなんだよ」
「あの角から出てきた自転車のオバチャン。見てなかった?」
「オバチャン?…さあ。祭り探してたから、そんなところには気付かなかったけど。なんでオバチャンにビックリするんだよ?」
「そうじゃなくてさ。あの黒いお面みたいなサンバイザーあるだろ?あれって、なんか恐いよな」
「ああ、あれか!確かに言いたいことは解る。顔が全部隠れるヤツだろ?あそこまでする意味があるのかどうかも謎だけど。あれってあくまでもサンバイザーってことだから、両端がつり上がった形だしな」
「そうなんだよ。なんかスゴい威圧感で恐いんだよね。しかも日焼け対策なのか、腕とかも真っ黒いの付けてるし。このギラギラした太陽の下であの黒い物体はどう考えても不自然だし」
「ギョッとするよな。でも、そこまでして日焼けから肌を守ろうってことなんだし。もしかしたらあの下には色白の美女が隠れているのかも知れないぜ」
「それ、本気で思ってるの?美女はあんな自転車乗らないだろ」
「いや、そうだけどさ。美女かも知れない、って思った方が楽しいだろ。少なくとも、なんらかの救いにはなる」
「時々キミの発想にはついて行けないけどね。そんな事よりもイケてる祭り、どうなったんだよ」
「そうだよ。イケてる祭りで盛り上がるオレ達だったら、そんな美女に期待しなくても、色々とイケてる事になるんだしな」
「そうだよ。早くイケてる祭りの会場を探さないと」
「うわっ!?…ビックリした。どうも黒というのは独特の威圧感みたいなものがあるな。アレじゃまるで、処刑ライダーならぬ、処刑オバチャンだな」
「ちょっと、あんた何を一人でブツブツ言ってるのよ。ホントにもう…」
「ああ、これは○○の奥さん」
「ああ、じゃないわよ、ホントに。あんた警察なのになんでこんなところでボンヤリしてるのよ!」
「私は警官ではなくて、ザ・ガードマン」
「なによ、それ。そんなのはどうでもイイのよ。強盗が出たんだからあんたも犯人探すの手伝いなさいよ」
「強盗ですか?!それだったらザ・ガードマンとしても黙ってはいられませんが。一体どこで何の強盗があったんですか?」
「あんた、そんなことも知らないで警察やってんの?あそこの比志形さんちのおじいちゃんが大事に育ててたゴーヤ。一つだけなっていた実が強奪されたのよ。そんな事みんな知ってるわよ」
「ヒシガタさん!?…のゴーヤ、ですか?」
「そうなのよ。あの人、苗を買ってきてもあの小さい黒いポットのまま育てるでしょ?だから毎年全然育たないんだけど。それでも一つだけなっていた実が盗まれちゃって。ホントに誰か育て方教えてあげたら良いのにねえ。あんた警察なんだから教えてあげなさいよ」
「…なんだか、色々と耳を疑いたい気分ですが、それは我慢して犯人を捜すことにしましょう」
「そうよ。ホントに。モタモタしていると処刑オバチャンに処刑されちゃうんだから。ホントに」
「処刑オバチャン?!」
「なによ。そんな事も知らないの?」
「いやぁ…。とりあえず犯人を捜します」
「□□部長。内線です」
「ああ、はいはい。…もしもし」
「はい、こちら社長のウッチーでーす!ここで□□部長に質問があるのですが。先ほど社長のウッチーがフェイス○ックを更新したのですが、まだ『いいね』がついていません。どういう事ですか?」
「ああ、やっぱりそうですか。そうは言ってもですね。私一人で出来る事にも限界がありますし…」
「言い訳は聞きたくありません!そんな事ではマーケティング部はまかせられませんよ。社長のフェイスブッ○は常に大量の『いいね』であふれていないといけないのです!」
「解りました。すぐに『いいね』をさせていただきます」
「そうです。それでこそマーケティング部でぇす!では、またフェイ○ブックで日記を書くので、私はこの辺で失礼しまぁす!」
「…はぁ。なんてことだ。思えばヤメタイ商事買収の話で舞い上がった私が悪かったのかも知れないなあ。絶対安定のヤメタイ商事を売ってしまうなんて。私は目先の利益に目がくらんでいたに違いない。その結果がこれだ。なぜかまた部長にさせられて、またしても会社を辞めたいと思っている…」
「□□部長、何をブツブツ言ってるんですか?」
「アッ…、いや…。聞こえてたか。何でもないから気にしないでくれ。それよりもキミ。社長の日記に『いいね』はしたのか?」
「それって、別の人の仕事じゃないですか?ボクもやった方が良いと思って、この前上に聞いてみたんですけど。それは専門にやってる人がいるからやらなくて良い、って。なんかそんな楽な仕事してる人がいたら、代わって欲しいですよね」
「…ああ、そうなのか。…まあ、そうだよねえ。それで、キミはここで何の仕事を?」
「そういえば、□□部長が来てからあんまり話してませんでしたね。ボクは得意先を回ってリコールを取って来てるんですよ」
「リコール?…を取って来てる?…それって、営業みたいなこと?」
「いや、違いますよ。リコールです」
「まあ、そうだよね。リコール社だしね…」
「ぼ…ぼ…ボクらは少年望遠耳♪」
「フアァ?!いつの間に?!」
「ハハハハ。驚いたか?望遠耳」
「期待させてスイマセンが、全然驚きませんでした!」
「なんだ」
「それよりも、その変な歌に驚きましたけどね。ノグソさん」
「だから、その名前では呼ばないで欲しいんだがな。せめて夏の使いと呼んでくれたら嬉しいんだが」
「まあ、夏だし夏の使いでも良いですけど。でもすでに夏本番だし。来るんだったら2週間とかそのぐらい前に来てくれないと」
「そんなこと言ってもなあ。夏の使いってくらいだから、季節の変わり目は大忙しなんだよな。前に来た時は季節の変わり目の異常事態にこの辺も関わっていたから、キミのところにもやって来たりしたんだが、今回は何事もなく季節が夏になってしまって、もう夏の使いとしての役割も一段落ってことで、暇つぶしに来ただけだからな」
「それに、今日は街でも変な事は起きてないようですし。別に変な事が起きないといけない、ってワケじゃないけど、ちょっと物足りない感じもするんだけど。でもまあ、これで良いですかね?」
「キミの言ってる事も時々意味不明なんだが。そんな事言ってもな、耳には聞こえないだけで世の中では常に変な事が起きているとは思ったりしないか?」
「その言い方も良く解らない感じですけど。もしかして、何か起きてるって言うんですか?」
「さあな。でもあの会社の社長がフェイスブッ○に何を書いたのか。ここで立ち聞きしているだけじゃ解らないだろう?」
「そういえば、そうですね」
「それに、今は口で喋るよりもスマホとかでチマチマチマチマ。時には偉そうなことも書いたりするけど、やってることはチマチマチマチマ」
「別にそれはそういう仕組みになってるんだから仕方ないですよ」
「まあ、それもそうか。キミ達の世界の文豪だって紙に向かってチマチマチマチマ、してたんだしな」
「それで、結局何が言いたいんですか?」
「耳で聞こえることが全てとは限らないし、何かが聞こえたとしても、それが聞こえたとおりのものかどうか、一体誰に解るというのだ?」
「いや、誰にも解らない」
「そういうことだ」
「…?どういうこと?」
「まあ、とにかく後半に行ってみようじゃないの」
「後半って…。ここってハーフタイムの場所なんですか?…というか、ボクが望遠耳で色々とやってるんだから、勝手に前半とか後半とか決めないでくださいよ」
「ああ、そうだったな。仕事柄なのか仕切り癖が抜けなくてね。季節を夏にするのって、一人でやるんじゃなくて、色んなところに色々と指示してやるからね」
「というか、後半いかなくて良いんですか?」
「ああ、そうだったな。それじゃあ、後半行ってみよう!」
「なあ知ってる?」
「知らないよ」
「そうじゃなくてさ。今スゴいわざとらしい風の音しなかった?」
「風の音?気づかなかったけど。祭り探すのに集中してたし。それよりも、なんでキミはそうやって変なことばっかり気付いて。もうちょっと真剣にイケてる祭りを探したらどうなんだ?」
「いや、そうだけどさ。なんか全然見つかりそうにないんだけど」
「そんな感じだけど。でもすぐ近くまで来てることは確かなんだし。もうちょっと集中しようぜ」
「解ったよ。集中集中!」
「はい、こちら腹パンこと腹屁端です。スタッフを探して歩き回っていたら段々お腹が空いてきてしまいましたが、我慢してスタッフを探そうと思います。…ああ、もう腹パン腹ペコ…。…おや?あそこにいる人達は見たことがあります。そうです。まさに奇跡の再会です。腹パン、ここではぐれていた番組スタッフを見つける事ができたのです!…えーっと、それで隣にいる人は誰でしょうか?どうやら自転車に乗った黒ずくめのオバチャンに詰め寄られているようです。…そしてスタッフ達は怯えた様子で手を横に振って知らないということを伝えているようですが…。これは一体どういう事でしょうか?腹パン、ハラハラ、緊張感。黒いオバチャンがこちらへ向かってくるようです」
「失礼します…」
「はい、こちら社長のウッチーでーす!」
「それは解っていますが。話とはいったい…」
「あなたは社長室に呼ばれた理由が解らないというのですかぁ?」
「ええと…。特に思い当たることはないのですが…」
「それは大ハズレ!」
「ハズレ?」
「あなたは自分で何をしたのか解っているのですか?」
「いや、何のことだか…」
「SNSで人をディスっておいて、しらを切るとは良い度胸でぇす!今すぐここで責任を取って…」
「いや、ちょっと待ってください!私には何のことだか、全く解らないのですが」
「何のことだか、説明してあげないと解らないのですね。それでは説明しますが、大人気!ウッチーのフェ○スブックに私が書いた日記に、なんとあなたの名前で大量の誹謗中傷のコメントが書き込まれているのでぇす!まさか、あなたはウッチーのリコール社との買収に不満でもあるのですかぁ?」
「エェ?!いや、そんな事はあり得ませんよ。それは何かの間違い…。アッ!解りました。アレですよ。アプリの誤動作です。それに違いありません!」
「それはつまり、自分の罪を認めているということですかぁ?」
「エェッ?!なんで、そうなってしまうんですか。誤動作でないとしたら、私がそんな事するわけはありませんし…。ちょっと、そのコメントというのを見せてくれませんか?」
「特別に許可しまぁす。弁明できるものならしてください!」
「それでは、拝見させていただきます。…フムフム。『ウッチーの日記つまんないですね』と。これは酷いコメントですね。それで書き込んだのは…。アッ!これは…」
「なんですかぁ?大げさに驚いたところで、大企業の社長であるウッチーは騙されません」
「そうじゃなくて、これは私じゃありませんよ。よく見てください。これは□□ではなくて、口口ですよ」
「クチクチですかぁ?それは一体どういう事でしょうか?」
「どういうことか、と言われても説明のしようがありませんが。とにかくコレを書いたのは私ではなくてクチクチを名乗る何者か、ということです」
「つまりライバル企業による営業妨害ということですね。それでは早速犯人を捜してくださぁい!」
「私がですか?」
「部長ならそのくらいは当たり前です!」
「いや、そういうことは社員じゃなくて外部の…」
「クビになりたいのですかぁ?」
「いや、そういうことでは…」
「なあ知ってる?」
「ああ、なんとなく…」
「そうだよな。これ変だよな」
「うん。あっちから海の音がしてるし。こっちからは風の音」
「それからカエルが鳴いてたり。カラスが鳴いてたり」
「それはまだしも、さっきはフクロウも」
「これは有り得ない感じだよな。この住宅街で」
「そして、ここは地図によると祭りが行われているはずの場所なんだが…」
「あ、あれってもしかして」
「あ、ホントだ。ニュースに出てる人だ」
「はい!こちら現場の人気女子アナ・ウッチーこと内屁端でぇす!みなさん、ここがどこだか解りますかぁ?…はい、大ハズレ!正解はですね、夏祭りの会場なのです!」
「今、夏祭りって言ってなかったか?」
「そうだな。やっぱりイケてる祭りってここでやってたのか?」
「やってるって言ってもなあ…。さっきから変な音がしてるだけだし…」
「はい、そうなんです。ここで行われているお祭りこそ、今一番イケている夏祭りの一つに数えられている祭り。そうです!『擬音祭り』なのでぇす!…あっ、あそこにイケてる祭りにやって来ているイケてる小学生がいるのでインタビューしてみたいと思いまぁす!…ちょっとインタビュー良いですかぁ?」
「夏休みの注意事項その7!怪しい大人と口を聞かない!サー!イエッサー!」
「…ええと、子供達もとても楽しんでいるようでぇす!…それでは向こうの、目的もないけどとりあえず学生みたいなサークルメンバーみたいな集団にもインタビューしてみましょう!みなさん楽しんでますかぁ?」
「イエーイ!」
「随分と盛り上がってますねえ。スゴい擬音だと思いますが、あなたはコレを聞いてどう思いましたかぁ?」
「前にテレビとかでは見たことあるんすけど、やっぱ近くで聞くと全然違うっすね。迫力がマジ、ハンパないって」
「さすがは仕込みなだけあって、盛り上がっているようです!それでは次はメイン会場の方へ移動したいと思いますので、ここでいったんスタジオにお返ししまぁす!」
「ウフッ…。ウフフッ…。あなた…!あなた…!ァアー!ァアー!ァアーナタ!!」
「ウワァ?!なんだ?」
「ウフフッ。あなたまたぐうぐうしてましたね」
「ぐうぐう?…ああ、居眠りしてたかな」
「ぐうぐうって、音のことなのかしらね?」
「まあ、そんな感じもするけど。でも実際に寝てる時にそんな音を出している人はいないかも知れないなあ」
「あら、あなたったら。それじゃあデーデーポッポなのね」
「それは、どういう意味だ?確かそれはハトの…」
「まあ!?あなたったら!ドキッとさせるの、やめてくださいな!」
「…何が?」
「あなたは何て思っているのか知りませんけど、これは全部擬音じゃないんですよ、あなた」
「ああ。…えっと何だっけ。擬態語とか、そういう名前…」
「あなた!あなたあなた!ピィィィィイイイイイイー!」
「エェ?!」
「ねえ、立ち眩みって知ってるでしょ?」
「ああ、知ってるよ」
「立ち眩みが酷くなると、気を失って倒れるの。それでね。倒れるまでの数秒間はスゴく長く感じるんだよ。その時にこんな音がするの」
「どんな音?」
「こうして、辺り一面でセミが鳴いているような、そんな音なの」
「そうなのか。キミは…、アッ…キミ、しっかり。…ああ、気を失って倒れてしまった。キミ、しっかりするんだ…」
ビェエエー!ジェージェージェー!!ババババッサバサ!
「ギャァアア!」
「私もね。セミのまねしてセミ地雷をやってみたの」
「そ、そうなのかあ…」
「こちら現場の腹パンこと腹屁端です。向かってきていた黒いオバチャンですが、今まさに腹パンの目の前にやって来たところです。この人が本当にオバチャンなのか、そしてどんな顔をしているのか、その真っ黒いお面のようなサンバイザーの漆黒の向こうに隠れて見る事が出来ません。まるで闇の世界へ吸い込まれて行くような、そんな感覚にもなってしまいますが、腹パンはその黒いサンバイザーに見入っていてよろしかったでしょうか?…アッ、そして今その黒いサンバイザーの奥から何かが聞こえてきたような気がします。いや、コレは声ではありません。腹パンの意識に直接語りかけているのではないでしょうか?テレパシーで黒いオバチャンの声が聞こえて来ます」
「ちょっと、あんた。何ブツブツ言ってんのよ!」
「あ、今度は普通に声が聞こえてきたような気がします」
「ちょっと、さっきから聞いてるのに何で答えないのよ」
「おや、これはどうしたことでしょうか?…腹パン、ちょっと勘違い。顔が見えないからテレパシーだと思い込んでいましたが、先ほどから普通に話していたようです」
「ちょっと、いい加減に人の質問に答えなさいよ!」
「はい、失礼いたしました。何しろオットリ系女子アナなもので、ウッカリした一面も多分に見せないといけないのです。それで、質問とはどんなものだったでしょうか?」
「だから、あそこにあったゴーヤ盗んだのは誰か知ってるか?って聞いてんのよ」
「えっと…。それは…腹パンではないと思われます」
「それじゃあ、誰だって言うのよ。見つけたら処刑しないといけないのよ」
「しょ、処刑ですか?それはあまり穏やかでなかったと思われますが…」
「何言ってるのよ。地獄の作物を盗めば地獄の掟に従って罰を受けるのが当たり前なのよ!」
「地獄とは一体どういう事だったでしょうか?腹パン、段々、恐怖感!犯人はあちらの方へ逃げていったと思います」
「あら、そうなの。あんたも命が惜しかったら悪いことするんじゃないわよ。それじゃあね」
「…。行ってしまいました。しかし腹パン、あの黒いオバチャンのあまりの恐ろしさに嘘をついてしまいました。でも腹パンに免じて許してもらえますよね。それじゃあ、今度はスタッフと一緒にゴーヤを使ったスイーツのレポートに行きたいと思いまぁす!」
「なあ知ってる?」
「なにが?」
「何て言うか、また駅前の居酒屋来ちゃったな」
「まあ仕方ないよな。祭りがアレじゃなあ」
「そうだよな。イケてる祭りが擬音祭りって。もしかして本物の方の祇園祭と勘違いするとか思ってたのかな」
「本物も何も、あれじゃ祭りになってないだろ。昔の撮影用の小道具もってきて遊んでるだけだし」
「でもテレビも来てたけどな。もしかしてアレかな。全然イケてないんだけど、イケてるってことでテレビで紹介して、そこから流行らせようとか」
「ああ、ありがちだな。しかも仕込みの若者とかいたしな。ただ、アレが流行ったとして誰が得するんだ?」
「それもそうだな。祭りだっていうのに屋台とかもなかったしな。それに神社とかもあるわけでもないし」
「どうも、謎が多い夏だな」
「夏は関係ないだろ」
「でも言っておかないと。オレ達の夏がどうでもイイ夏になっても良いのか?」
「まあ、どうでもイイ夏よりも、謎の多い夏の方がいいか…。何か虚しくなるけどな。それよりもゴーヤチャンプルーまだ来ないのかな?」
「そうやってキミは。店で沖縄祭りやってるからって、そういうものを頼むからなあ。みんなで同じもの頼むからなかなか出来ないんだよ。それに、ゴーヤなんてその辺で買えるんだし。このチェーンの居酒屋で沖縄産の食材使ってると思うのか?」
「そんなこと言ったって。キミだってシークワーサーサワー頼んだのにまで来てないじゃないか」
「これは、ちょっと暑かったから飲みたくなっただけだし」
「△△さん」
「ああ、これは□□部長」
「いや、部長はイイですよ。こうなったのは偶然というか。お互いご近所様なんですから」
「そうは言っても、私も一流の受付を目指してますからね。その辺はけじめを付けないと。それよりも□□部長もやりますなあ。あなたのヤメタイ商事とリコール社の合併でこの会社もいよいよ大企業ということになってきますからね。私もようやく夢だった大企業の受付をやることが出来るんです。あなたのおかげと言っても過言ではないんですよ。□□部長」
「大企業って?!…まあ、それよりも聞きたいことがあるんですけどね。コレはもしかすると大企業になる前の最後の試練という事になるかも知れませんよ」
「えっ?!そんな重要な事が?一体なんですか?」
「実は社長の○ェイスブックに誹謗中傷のコメントが…。まあそれは面倒だからいいや。それよりも、コレまでこの会社にやって来た来客の中にクチクチという名前の人がいなかったか、という事を調べてましてね、公開されているプロフィールだけじゃどこの誰だか良く解らなかったもので」
「クチクチ?」
「そうなんです。変わった名前だし、もし来てたら覚えてるかな、と思ったものですから」
「ああ、知ってますよ。受付の私に名刺を渡す来客はあまりいないのですが、その人はわざわざ名刺をくれてね。しかも名前が変わってるし、さらに□□じゃなくてクチクチですよ、って。変な名前の人ってそうやって人に印象を与えたりして、ちょっとズルいですよねえ」
「いや、それは我々が言えることじゃないと思いますが。それで、その人は何をしにここへ?」
「まあ、他の来客と一緒で、リコール部と商談って事でしたが」
「そうですか。それはいつ?」
「先週か、先々週でしたかね」
「その名刺はまだありますか?」
「ええ、ここで名刺をもらったのは初めてですしね。ここに置きっぱなし。…はいコレ」
「ああ、どうも。助かります。これちょっと借りてイイですかね」
「ええ、どうぞ。コレが上手くいったらこの会社も大企業なんでしょ?」
「そうなることを祈っていますけど…」
「おい、そこのガードマン!何をしている?」
「どうして私の正体を…、ギョッ!誰かと思ったら処刑オバチャン」
「な、なんだって?!あんたこそ何で私の正体を知っているよ」
「ああ、失礼。黒ずくめってギョッとしてしまって。処刑オバチャンていうのは冗談ですから」
「あんた何言ってんのよ。冗談じゃなくて私は地獄の処刑オバチャンなのよ。それよりもあんたここで何してんのよ。まさかゴーヤ盗んだの、あんたじゃないわよね?」
「いや、そのゴーヤを盗んだ犯人を捜しているのですが」
「なんであんたがそんな事してるのよ!ガードマンの分際で出過ぎたマネするんじゃないわよ」
「とはいっても、私はガードマンじゃなくてザ・ガードマン。ゴーヤ強盗ときたら黙ってはいられません」
「ただのガードマンじゃなけりゃ余計そんなことしちゃダメなのよ」
「でも比志形さんがガッカリしてるって聞いたら、黙ってはいられません」
「あんた、そんな正義感が自分を不幸にすることがあるって…。あらやだ!あんた知ってるわよ。その顔、どこかで見たことがあるわよ」
「何しろ私はザ・ガードマンですから」
「それはどうでも良いのよ。…どうやら面白いことになって来たようだね。どうせあの女もどこかで見張ってるんでしょ。解ってるわよ。あんた、寝返るんだったら早いこと腹を決めた方が身のためだよ」
「何のことだか解りませんが…」
「まあ、あんたには解らないだろうがね。それじゃ、せいぜい強盗捜しを頑張るんだね」
「…。行ってしまったが。一体あの処刑オバチャンは何をしに来たのか。…まあとにかくゴーヤ強盗の犯人を捜さないと」
「はい、こちらやっとスタッフと巡り会えた腹パンこと腹屁端です。そして、ここがどこだか解りましたでしょうか?…そうです。ここはとっても変わったスイーツが食べられる変わったスイーツ屋さんなのです。それでは今大人気という事になっているゴーヤどら焼きを食べてみたいと思いまぁす。みなさん、これ解りましたでしょうか?なんと、このどら焼きは皮の部分がゴーヤになっているのです。あの甘くて美味しいどら焼きの皮が、このブツブツした緑のゴーヤになっているのです。そして、ゴーヤの間にたっぷりとアンコが詰まっています。それでは早速食べてみたいと思いまぁす!…ああ、どういう味と表現したらよろしかったでしょうか。あの苦いゴーヤのドロドロした感じのブツブツが口の中で踊るようにして、アンコの甘みを…。おや?みなさま、今腹パンの口の中で起こったことが解ったでしょうか?…これは気のせいかも知れませんが、腹パンの口の中でゴーヤが動き出したような…。まさか、そんな事はあり得ませんね。腹パン、うっかり、蟻走感。ゴーヤどら焼きの刺激的な味わいに…、ゴホッ…、ゴホッ!オエェ〜…」
「□□様でございますね?」
「はい、そうです。突然お呼びだてして申し訳ない。あなたがクチクチさんですね」
「ええ。それは良いんですよ。それよりも、こんな場所を指定してすいませんが」
「まあ、なんというか…。海じゃないのに波の音がしてたり。ちょっとうるさいですな」
「ええ。私もそれなりに雰囲気のある静かなカフェを選んだつもりだったんですけどね。まさかこんな祭りが隣でやってるとはね」
「このうるさいのって、祭りの音なんですか?なんていうか。色んな音がしてますが」
「なんでも擬音祭りって事みたいですけどね。気になるようでしたら、場所を変えましょうか?」
「いや、大丈夫ですよ。この街は昔からそうなんですよ。こういう時には下手に動かずに状況を見極めていつ辞めるのか、そういうことを考えるべきなんです」
「それは良かった。私が思ったとおり、あなたはそれなりにまともな人のようです」
「それなりに?それは一体どういうことですか?…その前に、私があなたに聞きたいことがあって連絡したのに。それではなんだか、立場が逆みたいな感じなのですが」
「ああ、コレは失礼しました。こんなことを言うと気を悪くされるかも知れませんが、実を言うと、全てはあなたと接触するための作戦だったのです」
「作戦?!」
「そうです。あなたは私が社長の日記に書き込んだ内容を知って私に連絡をしてきたのだと思いましたが」
「そのとおりです。あの買収以来、私の仕事といえば社長の日記に『良いね』する事になってしまったのですが、あなたのあのようなコメントのせいでややこしいことになっているのですよ」
「でもあなたと接触するためにはそれ以外に方法はなかったのです。あの内屁端という社長は自分がどんな恐ろしいことをしようとしているのか、自分でも気付いていない。私はどうにかして内部のまともな人間に接触をする必要があったのです。そして、まともな人間は買収された会社の社長であったあなた。今では□□部長に戻ってしまったあなたしかいないと思ったのです。それで、あなたの事を調べると、例のマーケティングというのをやっていることが解ったので、それで私があのような誹謗中傷のコメントを書いたのです。あなたがこうして私に接触してくれることを期待して」
「それはどうにも複雑な事情がありそうな話ですが。一体どういう事なのですか?」
「これは偶然なのか、誰かが仕組んだことなのか解りませんが、今やリコール社は世界的な規模の大企業になろうとしているのです」
「エェ?!この小さな街の小さなビルが本社のあのリコール社ですよ」
「そうです。ビルの大きさは関係ありません。問題はあなたの作った絶対安定の会社、ヤメタイ商事の買収にあるのです」
「なあ、知ってる?」
「知らないよ」
「そうじゃなくてさ。なんでゴーヤチャンプルー頼んだのに、ゴーヤだけ残すんだよ」
「ああ、これね。…なんか思ってたのと味が違うし。これ苦いよな」
「そんなことも知らないでゴーヤチャンプルー頼んだのかよ!」
「だって、沖縄祭りやってるんだし。…あれ?」
「なんだ?」
「今このゴーヤ動かなかったか?」
「なんでゴーヤが動くんだよ…、ってホントだ!動くと言うより…」
「ブツブツが動いて成長してる…」
「と思ったら、伸びたブツブツを足みたいにして歩き出した…」
「そして、机の上から逃げていくゴーヤ達」
「店内ではあちこちで驚きの声と悲鳴が…」
「なんかまた変な事になってないか?」
「確かに変だよな。歩くゴーヤ達」
「セミはね。ミーンミーンって鳴くの。でもね、それはミンミンゼミの話」
「ああ、そうだね」
「じゃあ、アブラゼミは何て鳴くの?」
「さあ、何て言うかジョワジョワとか…」
「それはね。擬態語じゃ表せない喜びの歌。だからね、擬音を使うの」
「擬音って?あの音はどうやって出すんだい」
「ほら。こうして私がやるでしょ。そう。私は擬音」
「何が?」
「こうして腕を脇腹に擦りつけるの。ほら。簡単」
「つまり、私が作ってリコール社に買収されたヤメタイ商事の安定性が問題だったと」
「そう。あなたの会社は決してリスクを負わない。その代わりに利益もない。完全プラマイゼロ主義でしたね」
「そうです。もうおかしな事に手を出して経営が傾くとか、そんなことで辞職するのは飽き飽きだったんです。だから絶対に安定したヤメタイ商事を作ったのです」
「そんな会社と、何をやっているのか解らないし、リコールと聞けば何でもしてしまうような危険な会社が合併されるとどうなるのか。リスクを冒して失敗したとしても絶対につぶれない会社が出来てしまったのです」
「そうなんですか?!でも、つぶれないというのなら、それはそれで嬉しいことですが」
「しかし、そこに目を付けたものがいるのです。彼らはリコール社との合併を持ちかけてくるでしょう。リコールと言えば何でもするあの社長を説得するのは簡単です。しかし、そうなってからでは遅いのです」
「なんだか恐ろしい感じになって来ましたけど。私、そろそろ退職願書こうかな…」
「それはダメですよ。あなたがこの危機から世界を救わないといけないのです!」
「エェ?!世界の危機なんですか?」
「そうです。全てはあなた次第なのです。ああ、もうこんな時間に。私は行かなくては。では頼みましたよ」
「あぁ…ちょっと!頼んだって、言われても。何をすればいいのか全然解らないし。一体何が危険だって言うんだ?」
「はい、こちら再び擬音祭り会場からウッチーこと内屁端でぇす!ここでさらに擬音祭りの魅力をお届けしようと思ったのですが、なぜか向こうから足手まといな後輩の腹屁端がやって来るのが見えます。これは一体どういう事なのでしょうか?」
「アッ、内屁端先輩。良いところでお会いできました。腹パンはウッチー先輩に助けを求めてよろしかったでしょうか?」
「毎回その喋り方が気に入りません。しかもそれによって最近では人気が上昇中というところがさらに憎たらしいのですが、後輩に免じて許すことにしてましょう。それで一体何が起きたというのですかぁ?」
「はい、こちら後輩の腹パンですが。実はゴーヤが動き出したのです。そして、いつもの展開からすると、それは人々を襲うのではないかと思われるのですが。もしかすると夕方の情報番組のために腹パンが地獄のゴーヤを食べてしまったのが原因ではないかと思われるのです」
「ゴーヤが動くのですかぁ?それはどういう事でしょうか?」
「あそこで歩いているあのゴーヤのような感じです。皮のブツブツが伸びて手足となり、人間のように歩き始めたのです。そして、ご覧ください。あそこの祭りで浮かれている若者に襲いかかっているではなかったでしょうか」
「みんさん、大変な事になりました!なんと、後輩の腹屁端が大失態。ここで先輩として説教をしたいと思うのですが、その前に向こうから真っ黒い物体が近づいて来るようです!あの黒い物体は何でしょうか。歩行者にしては速すぎて、そして黒すぎます。よく見ると自転車に乗っているようです」
「アッ!アレは処刑オバチャンでよろしかったでしょうか?腹パン、これは少し都合が悪くなってきたので、逃げようかと思うのですが…」
「そんな事は許されません。一体何が起きているのか、ここで説明するのが女子アナの役目でぇす!」
「ザッブーン!」
「カー!カー!」
「ヒュ〜…!」
「ザー…!」
「パチッ!…パチパチッ!」
「やっぱりアンタだったのね。上手く逃げられたと思ったら大間違いなのよ」
「あなたは私の後輩の腹屁端に何の用ですかぁ?」
「あら、アンタの後輩なの?この女はね、ゴーヤ強盗なのよ。まあ、こうなったら手間が省けて良かったけどね」
「それはどういう事だったでしょうか?腹パン、あのゴーヤを食べたのがそんなに悪いことだったでしょうか?」
「今となってはもうどうでも良いのよ。予定とは違ったけど、アンタがゴーヤジンを呼び出してくれたからね。ただし、アンタには一緒に来てもらうよ。私達の計画にはゴーヤジンを呼び出せるゴーヤゴンが必要なんだよ。つまり地獄のゴーヤを強奪して食べたアンタがゴーヤゴンって事だよ」
「それは一体どういう事でしょうか?いかなる理由があろうとも、後輩の腹屁端を拉致するような事は許されてはなりません。それでも強引に腹屁端を連れて行くというのなら、女子アナの本性をあらわにして、てめぇ、ボッコボコにしてやんぞ。マジで」
「威勢だけは良いようだね。でも私が何もしなくても、ゴーヤジンが勝手にやってくれるのよ。ほら、ゴーヤジンども。早く行くよ」
「あ、なんということでしょうか?どこからともなく現れた歩くゴーヤ達がこちらに向かってきます!」
「コレはどうしたら良かったでしょうか?こうなったら腹パン、迫り来る歩くゴーヤを片っ端から食べることにしようかと思いましたが、腹パン、パンパン、脂肪肝。もうお腹いっぱいで大満足なので、食欲が出ません」
「グタグタ言ってないで、アンタは私と一緒に来るのよ」
「みなさん。お解りいただけるでしょうか?!歩くゴーヤ達が面倒な後輩の腹屁端に群がっていきます!このままでは真っ黒いオバチャンに拉致されてしまうのではないでしょうか?…しかし、ここで予期せぬ出来事が起きたようです!と、いうところでCMの…、には行かない。このまま続けて良いんですね。解りました。なんと、腹屁端に取り付いていたゴーヤ達ですが、なにか目的を失ったかのようにして、それぞれがバラバラに動き始めました。これは一体どういう事でしょうか?」
「なんなのよ、これは!?ちょっと、何よ。見えないじゃないのよ!何なのよ。まったく!」
「アッ!みなさん、ご覧ください!処刑オバチャンの周りに、自転車に傘をくっつけたオバチャン達が集まっているのです。あのオバチャン達はもしかしてウワサの日傘ライダーではないでしょうか?日傘ライダーの作る日陰によって、真っ黒い仮面のようなサンバイザーを付けた処刑オバチャンは視界が悪くなったようです。そして、それに伴って歩くゴーヤ達も前が見えていないようになったのだと思われます!…コレはチャンスなのではないでしょうか?あまりカワイイ後輩とは言えませんが、一応慕ってくれる後輩なので、このスキに腹屁端をつれて逃げ出したいと思いまぁす!それでは、スタジオにお返しします!」
「ああ、なんだかなあ。会社やめちゃおうかな…」
「このベランダのゴーヤは不作で良かったな」
「ああ、夏の使い。というか、最近夏が暑すぎるからゴーヤもヘチマも全然育たないんですよ。もしかして、この騒動も猛暑のせいじゃないですか?」
「またそれか?!どうして人間は何か変わったことが起こると何でもそれのせいにしたがるんだ?これは全てテレビゲームのせいだよ」
「それは、なんというか人間的な考え方ですけど」
「もちろん今のは冗談」
「そんな冗談をいう意味がわからないし。第一面白くないですよ、その冗談は」
「あら、そうだったか?まあ、私が考えるに、この騒動にはもっと大きな何かが関連していると思うんだがな」
「なんでそんな抽象的なんですか」
「そうは言っても。私はただの夏の使いだからな。前から言っているように、こういう事に関する事業からは撤退してるから」
「それは知ってますけど。でも代わりにそういうことをする人達っていうのがいるんですか?」
「さあ、どうかな。日傘ライダーも出てきたし、誰かが何かやってるんじゃないか?」
「そうなんですか。というか、傘を自転車にくっつけて走るのって、かなりグレーゾーンだと思うんですけど」
「それは私に言われても困るんだが。警官は余計な事はしたくないみたいだし、まあ捕まることもないだろうけどな。問題はその後だよ。でも今回はそろそろ終わりかな。長くなってきたし」
「コレって続き物になるの?」
「コレまでの話だって、何となく繋がっているような感じだし、問題ないんじゃないか?というか、問題があろうがなかろうが、全ての物事は絶え間なく続いているんだよ。キミがここで立ち聞きしてるかしていないかに関わらず」
「なんとなく深い話みたいになって来ましたけど。じゃあ、また今度望遠耳をもってベランダに出たら何かが起こっているかも知れないんですね。あの会社の合併がどうのってやつかな?」
「そう簡単にはいかないと思うがね。それじゃあ、私は飽きたから帰るぞ」
「それじゃあ」
「ウフッ…。ウフフ…。あなた」
「ん?!なんだ?」
「あたし…」
「え?!」
「ウフフ…」
「どうしたんだ?」
「ウフフって言ったでしょ?」
「言ったね」
「ウフフって言うのは、笑い声を文字にしたから擬声語なのね」
「まあ、そうだよね」
「でもあたしはウフフって笑ったのよ。音そのものですから、これは擬音じゃなくて?」
「そう言われるとそうだけど…」
「それじゃあたしの笑い声は偽物なの?あなた」
「いや、キミがおかしいと思って笑ったのだったら、それは本物だけど」
「そうかしら?笑い声が偽物なら、このあたしだって偽物になるんじゃないかしら?ねえ、あなた」
「…な、なんだ?」
「あたしが偽物じゃない、ってどうやって証明するおつもりなの?」
「それは…、そんな必要はないだろう。今までずっとキミとここにいたんだし」
「あら、でもあなたはいっつも居眠りばかり。その間も私のこと見張っていらしたの、あなた?」
「いや、そうじゃなくて。キミが本物なのは解ってるしね」
「あたしだけじゃないのよ。あなただっていつの間にか偽物にすり替わっているかも知れない。あなた。あなた…!」
「…?!」
「どうやってあなたが偽物じゃないって証明してくれるの?あなた…」
「どう、って…」
「ウフフ…。ウフフフッ…!あなた…!あなた!」
ということで、夏の使いも行ってしまったし、今回はこの辺で望遠耳は終了ということにしましょう。今回は色んな事が起きたようで、しかも何も解決していないような気もするのですが。でも夏の使いであるノグソさんの言うことによれば、全ては絶え間なく続いていること。何かが解決したように思えても、あるいはそうでなくても、そこからまた新たな何かが起きて、そしてダラダラ続く無限の宇宙に違いありません。
それはそうと、どうしてみんなあんなに自転車が好きなんでしょうか。あの真っ黒い格好も自転車に乗るためですし、自転車に傘を付けるのも、どんな時でも自転車に乗りたい!ってところからだと思うのですけど。ただ、自転車が好きではあっても安全運転という事に関しては何も知らないというか、出来ないというか。
交差点に向かってノーブレーキどころか加速しながら走ってきて、横から歩いてきた私がビックリして止まると、それにつられて自転車もビックリして急ブレーキ。別に急ブレーキをかけなくても、私が止まっているからぶつからないのですが、自転車の方は私が悪いみたいな感じで、私を睨み付けてから走り去っていくとか。
こんなことは書く予定じゃなかったのですが、ちょっと前にそんな事があったので、腹立たしいついでに書いてしまいましたが。自転車の運転の仕方がカオスすぎてどう考えても先進国とは言えない状態になっているのは問題なので、ちゃんと交通ルールとかマナーとかを守りましょう。
というか、これは自転車がメインの話ではなかったですし、これだけでも一回分の大特集ができそうだ、という事に気づいたので、これ以上書くのはやめてまた今度にしますが。
次回は何が起こるのか?或いは大特集なのか?今年も異常に暑いので、暑いテンションだけで何かが大特集されてしまうかも知れませんが、暑さでヘバッている場合は秋まで待たないといけないかも知れません。
どうぞお楽しみに!