「あつ…。あつつ…っ。あつつ…っ!」
「ん?…なんだ?呼んだか?」
「ウフッ…。あなたったら、今日も居眠り」
「ああ、なんだか暑すぎてね。夜眠れてないんじゃないかな」
「あら、あなたったら。そんなこといっても二年も寝ていらしたじゃないですか」
「二年?!」
「ウフフ…。これだからあなたは…。しばらく会わない間にずいぶんと白髪が増えたんじゃありませんか?」
「しばらく会わないって。ボクらは毎日…」
「そうじゃないのよ、あなた。ほら、あすこの…」
「ああ、あのベランダの。そういえばしばらく見なかったかな」
「もう、あなたったら。そうじゃありませんのよ。あの方がベランダのサンダルに裸足の足を入れてアツって言ってる、その遙か彼方のその向こう」
「なにが?」
「未来が来るのをやめたとしたら、あなたどうするっていうの?」
「?…」
最近あまりにも暑いので毎日エアコンを使っているのですが、冷えすぎはあまり体に良くないので、たまにはベランダに出てみる。これではなんのためのエアコンか解らなくなりますが、とにかくベランダに出るのならただ出るだけではもったいないので望遠耳の出番なのです。
望遠耳の出番も久々なので、簡単に説明しておくと、この望遠耳を使うと離れている場所で誰かが喋っている声だって聞こえてしまう。遠くの音を近くの音のように聞ける不思議アイテム。これを使って街で交わされている会話をコッソリ聞いてしまおう、ということなのです。
ちゃんと説明すると変な感じですが、とにかく望遠耳でなんでも聞いてみましょう。
「あ、暗黒ライダーだ!スゲぇなあ!」
「格好いいなぁ!」
「でも暗黒ライダーって、タケシんちのお母さんなんだぜ」
「本当かよ。でもこの前の暗黒ライダーはタカシんちのお母さんって言ってたぜ」
「それじゃあ、うちのお母さんも暗黒ライダーかも知れないよな」
「ホントだな」
「ああ、暑いね」
「暑いね。夏祭りが終わったのに、ずっと暑いね」
「でもすごく暑い時よりは暑くないよね」
「そりゃすごく暑くはないからね」
「しかし、これじゃアレだよね。なんだか虚しさだけが残るような」
「これなら逆にすごく暑いままの方が良かったかもね」
「そうだよ。これから秋になったらまた涼しくなって、ちょっと寂しい気分になるのに、その前にすでに寂しいとかやめてもらいたいよ」
「ホントだよ。まあ、ボクらに関してはいくら寂しくなってもこれ以上寂しくならないからな」
「そんなことは言うなよ。せっかく良い場所に行くんだし、秋になる前にちょっとは盛り上がろうぜ」
「まあ、そうだな」
「ということで、『命あってのもだね』というのは、『命あってのものだねえ』とは違うので、今風に『命あってのものじゃね』、とか言ってはいけません。以上で今年の夏期講習はオシマイ。残りの休み中もちゃんと各自で勉強するように」
「はーい!」
「先生、ちょっと質問なんすけど」
「はい、キミ。なんですか?」
「その『ものだね』っていうのは、『ものじゃね』とは別モンなんすか?」
「その『ものじゃね」っていうのは?」
「てか、普通に『ものじゃね』っすけど」
「うーん。普通にものじゃねじゃ、『ものだね』とは違うものでしょうね」
「そうっすね」
「ああ、まいったなあ、困ったなあ。これは調子に乗りすぎちゃったよなあ。…あの、スイマセン。この辺に望遠耳さんっていますか?…ああ、知らないですか。ああ、困ったなあ」
「ねえ、あなた…」
「ん、なんだい?」
「ウフッ…。あなたったら。今日は起きてるぞ、居眠りなんてしてないぞ、なんて思っているのかしら?」
「いや。居眠りっていっても、そう何度も出来るものじゃないからなあ」
「あなた、そんなことだと目が覚めた時にお店の外に大行列が出来ていても知りませんよ」
「エッ?!…って、起きてるんだから、大丈夫だよ」
「ほら、やっぱり寝てらした」
「だから、起きてたって…」
「ウフッ…。あなた…。あなたっ…。あなたつ…」
「あなたつ?!」
「そういえば、残暑見舞いってあるけど。あれ出す時期になってからもずっと暑いよな」
「まあ、残暑っていってもまだ夏だしな。せめて9月からだよな」
「あんまり残すと罰が当たるっていうしな」
「それは食べ物のことだと思うんだが」
「なんだって残すのは良くな…オッと!速すぎて危ないと思う暇もなかった」
「なんだアレは?」
「キミ知らないのか?暗黒ライダーだよ」
「暗黒ライダー?…というか、あれは仮面みたいな黒いサンバイザーのオバさんだろ?」
「そうだけどさ。なんだってありのままに受け入れてたんじゃ面白くないぜ。しかもあの暗黒ライダーは以前は処刑オバチャンだったんだぜ」
「それは知ってるよ。黒いから処刑ライダーっぽいってことだったんだろ。だけど、本物の画像と比べるとちょっと違ってたよな」
「まあ、それで暗黒ライダーになったんじゃないか?まあ、以前よりパワーアップもしてるしな」
「なんでただのオバチャンがパワーアップするんだよ?」
「オバチャンだってパワーアップはするんだよ。だって、さっきの見ただろ?前は普通の自転車だったけど、今じゃ電動アシストの自転車に乗ってるから、ノーブレーキのノールックで交差点をシュー!って」
「確かにそうだったな」
「なんか今日涼しいんじゃね?」
「ていうか昨日が暑すぎたんじゃね?」
「もう秋じゃね?」
「まだ夏じゃね?」
「あっ、あれ暗黒ライダーじゃね?」
「やっぱまだ夏じゃね?」
「はい、こちら現場のアンパンです。はいこちら現場のアンパンです…。キュルルル…!オロカナニンゲンドモ…」
「あのすいません。この辺に望遠耳っていう人がいるらしいんですが、知りませんか?」
「はい、こちら現場のアンパンです。あなたは一体誰ですかぁ?」
「私は夏の使い、というかまだ見習いなのですが」
「はい、こちら現場のアンパンです。こちら現場のアンパンです…。キュルルル…!オロカナニンゲンドモ…」
「あれ、これはなんだかおかしいな。他をあたってみるか」
「なんだかさ、一日でも涼しい日があったりすると、その後どんなに暑くなっても夏って感じがしないんだよな」
「それはそうかも知れないけどな。その前にボクらってあんまり夏って感じの夏を過ごしたことないんじゃないか?」
「でも今年は異常に暑い日もあったんだし、あれは夏っぽかっただろう」
「気温という意味ではそうだけどな。もっとこう一夏の思い出みたいな、そういう夏のことだよ」
「それはそうだけど、今年はちゃんと調べてるから大丈夫」
「去年もそんなんじゃなかったか?」
「去年は何もしてないだろう」
「そうだっけ。とにかくスゴい夏はどこなんだ?」
「もうすぐだから、大丈夫だって」
「ちょっと、そこのお巡りさん」
「これは○○の奥さん。そろそろ覚えてもらいたいのですが、私はお巡りさんじゃなくてザ・ガードマン」
「格好が似てるんだから、そんなのどうでもイイのよ。それよりも、ちょっとあの人見てよ。さっきからずっとウチの前で立ち止まって動かないのよ。気持ち悪いわよねえ」
「ああ、あれですか。あれは立ち止まりスマホですよ」
「なんなのよそれ?あんたまた変なもの流行らせたの?」
「別に私は関係ないですが。歩きながらスマホをいじるのは危険なので、ああやって立ち止まって操作しているんじゃないですか」
「そんなのどうでもイイけど、邪魔なのよ」
「まあ、確かに道の端っこに立っているように見えて、歩道と車道ということでいうと、歩道の真ん中ではありますね」
「そうでしょ?あんた行って追い払ってきてよ」
「でも、私はザ・ガードマンだから」
「イイから行ってきなさいよ。行かないと警察呼ぶわよ」
「だったら最初から私じゃなくて警察に言えば良いのに…」
「おお、キミ。戻ってきてくれたのか!」
「なんて言うか、科学あってのものじゃね?ってことっすからね」
「なんだそれは?」
「夏期講習っすよ。受験もイイかな?って思ったんすけどね」
「受験って…。キミいくつになるんだ?」
「どうっすかね?でも夏期講習ってなるとけっこうかかりますからね。講習料は前借りできたんすけど、やっぱバイトは掛け持ちなんすよね」
「それで私の研究所に助手として戻ってきたってことなのか。今までの仕事ってのは、あんまり上手くいってないのか?」
「なんていうか、オレって炎上とか得意っすからね。インフルエンサーなんすよね。だから頼まれたらマジすげえ、とかマジやべえとかつぶやくんすよ」
「広告の一種か?そういうのは儲かると聞いていたが」
「まあ、一件につき5円すから、今んとこ15円すね。まあ悪くはないんすけど、夏期講習には足りないっすからね」
「あれ女子アナじゃね?」
「似てるけど違うんじゃね?」
「でも本物じゃね?」
「なあ、ボクらに後継者がいるって話し知ってる?」
「なんだそれ?誰がそんなこと言ったんだよ?」
「アレだよ、夢枕でね」
「夢枕?!それって人の名前か?」
「そうじゃなくて。誰なのか解らないけど、この前寝てたら夢枕ってやつだよ」
「知らないし、大体ボクらの後継者って何を継げば後継者になるんだ?」
「さあ、それは…。あれ?!あそこにいるの女子アナじゃない?」
「あら、ホントだ。こんなところで何してるんだ?」
「そんなのスゴい夏の取材に決まってるだろ」
「はい、こちらオットリ系女子アナの腹パンこと腹屁端でよろしかったでしょうか。実は今日はプライベートなのですが、職業病とでもいいましょうか、私達女子アナはこうして喋っていないと行動できないようになっているのです。それで現在の状況なのですが、通りの向こう側にいる人に尋ねたいことがあるのですが、暗黒ライダーが次々に猛スピードで通り過ぎていくので、オットリ系の私は恐くて道を横切ることが出来ないのです。アッ、そんなことを思っていたら向こうの人がこちらに気付いて、今まさにこちらに向かってきます!今日は腹パンラッキーデー!帰りにパフェお好み焼きセットを食べて帰りたいと思います」
「あの、すいません。この辺に望遠耳って人知りませんか?」
「あっ、あなたも人探しですかぁ?実は私もある人を探しているところなんでぇす!」
「そうなんですか。それで、あなたは望遠耳って知ってますか?」
「それは女子アナに対するタブーですよ」
「タブー?!」
「まずは女子アナが質問するので、質問に答えてくださぁい」
「はあ」
「私が今日ここにいる理由が解りますでしょうか?」
「エッ?解らないですけど」
「それは大ハズレ!なんとですね、私の先輩である人気女子アナのウッチーこと内屁端は大失態をやらかしたにもかかわらず、今頃しれっと現場からの生中継の仕事をしているのです」
「はあ」
「それで、その代わりにこの腹パンがある人を探しているのですが、それが誰だか解りますでしょうか?」
「いや、解らないですけど…」
「またしても大ハズレ!しっかりして下さいね。実は私が探しているのは、厳密には人ではないのです!」
「はあ」
「内屁端先輩がライバルや、あざとい新人女子アナに対抗するために開発していたアンドロイド女子アナ、通称アンパンが先日ついに完成したのです。ところが機械学習のシステムに重大な欠陥があることが解り修正が必要になったのですが、その欠陥のせいで制御不能になりアンパンは逃げ出してしまったのです!」
「そうなんですか」
「それで、ウッチー先輩は最初に開発された頭脳部分だけのプロトタイプ女子アナ、通称プロパンの機械学習機能を使ってアンパンの行方を割り出したのです。そうなんです!それがこの街でよろしかったでしょうか」
「そういえば、さっきアンパンとか言ってる人に会いましたよ。あっちの方で」
「本当ですか?情報提供ありがとうございます!今日はますますラッキーデーでよろしかったでしょうか」
「ところで私の探している望遠耳というのは…」
「そんなの知ってるわけありません!では現場からは以上でぇす」
「エェ?!」
「なあ、スゴい夏ってホントにあるのか?」
「この辺にあるはずなんだけどな」
「この辺っていっても民家ばっかりだぞ」
「まあ、そうだけどな。でもさ、民家っていうと藁葺き屋根みたいなイメージだよな」
「そういうのは古民家とかいうやつだろ?」
「そうなのか。まあアパートとかマンションとか言うよりは民家の方がスゴい夏があるかも知れないけどな」
「というか、スゴい夏って藁葺き屋根っぽいものなのか?」
「いや、それはないだろう。スゴい夏なんだから。もっと若い女子とかもいっぱいいるような感じだと思うけどなあ」
「だとしたら、やっぱり場所が違ってるだろ」
「はい、こちら現場のアンパンです。あそこにいる人に少し話を聞いてみたいと思いまぁす!こんにちは!あなたは警察官ですかぁ?」
「私はザ・ガードマン。警察ではありません」
「そうですか。警察なら抹殺していたところでした。それではあなたは私に協力して…キュルルル…!キュルルル…!オロカナニンゲンドモを…キュルルル…!」
「大丈夫ですか?」
「キュルルル…!あなたはマダムに協力しているのですかぁ?」
「マダム?!」
「黒猫亭のマダムでぇす」
「マダムがどうなされたと?」
「それで、今年の科学は何するんすか?」
「よくぞ聞いてくれた。常に最新の科学を研究しているこの研究所だからな。AIを駆使してヴァーチャルユーチューバーをレゴで作ろうと思っているんだよ。最近はそれほど騒がれなくなってきたからオープンソースにはしないけどな」
「マジっすか。レゴっすね。でもウチはダイヤブロックだったんすけどね」
「それはどうでもイイが、まずはすでに完成しているAI部分の能力をキミにも見てもらわないとね。ヘイAI、今日の天気は?」
「今日はマジ暑いし、晴れに決まってるっすよ」
「キミは答えなくて良いのだよ。今このAIが情報を分析して私の質問に答えてくれるのだ」
「ピーンッ!今日の テンキ。今日は ヒジョーに 暑い ので、晴れ 以外に考えられ ません。 ホカニ質問は あり ますか? それとも 笑いが 必要 です か?」
「チョー当たってるっすね」
「当たってる、って。占いみたいに言わないでくれたまえ。AIが世界中のあらゆる情報を分析して出したのがこの答えなのだよ」
「ヤバいっすね」
「すいません。この辺に望遠耳って人…」
「…」
「あの、すいません。…なんだこの人?うつむいたまま動かないけど。あの、大丈夫ですか?こんなところに突っ立てると、危ないですよ。黒いオバさんとかスゴいスピードだし」
「…」
「ああ、もうイイや」
「おい、望遠耳」
「うわっ、ビックリした。今回は来ないかと思ってたけど、やっぱり出てくるのか」
「とういか、去年はなんでここにいなかったんだ?」
「まあ、やる気の問題だけど。それよりも夏の使いのノグソさん。今年の暑さはスゴかったりするんだけど、どういう事?」
「それが、こっちにも色々あってね。というか、困ったらここに来るように言ってあったんだが。どうしたんだろうな?」
「なにが?」
「いや、見習いがさ」
「ああ、さっきからボクを探しているの。そういえば夏の使いの見習いとか言ってたけど。もしかして、それが異常な暑さの原因なの?」
「去年は結構上手くいってたんだが。やっぱり全部任せるってのはまだ早かったのかね」
「ということはノグソさんは夏の使いを引退するの?」
「そうじゃなくて。私も色々とね。副業とか始めたから忙しくてさ。わからないことがあったらここに来るように言ってあるんだが、どうやら道に迷ってるらしいな」
「それでずっと変な天気なのか。というか、勝手に人のウチのベランダを待ち合わせ場所にしないでくださいよ」
「そうかもしれないんだが。とにかく私も彼に会ってなんとかしたいと思ってるから、例によってその望遠耳でおおよその位置を特定してみてくれないかな」
「まあ、イイですけど」
「ほら、やっぱり」
「なにが?」
「あなたが居眠りしていないことなんて、ないワケないって誰が言ったのかしら?」
「どういう意味?」
「あなたはご存知かしら?」
「何を?」
「こんなふうに暑い夏の日には、ベランダに水を張ったタライを置いておくの。そうすると美女が行水しにやって来るのよ」
「エッ…?!」
「あなた!」
「何だ…?」
「あなつたがあなたつとあなったらどうするのあなたっ!」
「…これは夢なのだろうか?」
「ピーンッ!来年の 今日 のテンキ。来年の 今日 は マジ ヤバい ので、晴れ。 ホカニ質問は あり ますか? それとも、オロカナ ニンゲンドモ を 抹殺 します か?」
「AIってマジスゴいっすね。来年の天気も当てちゃいましたよ!」
「こらこら。いつまでもAIに感動してないで、こっちでレゴを手伝いなさい」
「マジっすね」
「なあ、なんかこの道スゴく危険な感じだよな」
「ホントだよ。住宅街なのに、危険がイッパイっていうか」
「原因はどう考えても道ばたで立ち止まってスマホいじってる人達と、暗黒ライダーだよな」
「しかもスマホの方はこんなところで何やってるんだろうな。まさかスゴい夏の情報を調べてたりするのかな」
「それにしてはそんなものを求めている気配がないと思わないか。ボーッとしているっていうか。周りの世界から切り離された場所にいるけど、姿だけは見えているみたいな」
「そんなこと言うと恐くなるだろ。…でも、そう言われてみるとこの人達の様子はなんて言うか…」
「なあ、そろそろスゴい夏は諦めて駅前にいかないか」
「暑いし、ノド渇いたしな。しかも気味が悪いからね、ここは」
「ハイ、こちらウッチーのリコール社専属女子アナの横パンこと横屁端です。今日はウッチーのリコール社にうってつけの案件があるとの情報を入手してやって来ました。みなさん、ここがどこだか…」
「あのすいません。この辺に望遠耳…」
「あぁ?!テメェ誰に向かって口きいてんのか解ってんのか?」
「エッ?」
「今、大事な仕事の最中なんだよ。関係ないやつはどっか行ってな」
「…。なんて自分勝手な人達なんだ」
「あっちの方で弟子の声がしましたよ」
「あっちか。よし、行って見てくる」
「さて、気を取り直してリポートの続きです。そのリコール社にピッタリな案件というのはですね。逃走した欠陥アンドロイドをリコールするというものなのです。そして、その欠陥アンドロイドを作ったのは、なんと女子アナの内屁端なのです。もしも欠陥アンドロイドを捕まえて、細かく分析することが出来たら、その問題の責任を追求して内屁端を追い込むことが可能になるかも知れないのです!それでは早速、捜索を開始したいと思います。すいませ〜ん!そこで立ち止まってスマホをいじっている方。もしかして、アンドロイドっぽい女子アナを見ませんでしたかぁ?」
「…」
「あの、すいませーん!聞こえてますかぁ?」
「…」
「な、なんだ…こいつは…?」
「みなさん、こちら現場の腹パンでよろしかったでしょうか?なんと、腹パンさらにラッキーデーということで、先程アンパンことアンドロイド女子アナを発見することが出来たのです。しかし、アンパンに近づこうとしたところ、真っ黒い仮面のようなサンバイザーを被った暗黒ライダー達がアンパンを取り囲むようにして猛スピードで走り回っていて、オットリ系の腹パンは全くアンパンに近づくことが出来ません」
「ああ、困ったぞ。やっぱりさっき○○の奥さんに言われた時にちゃんと追い払っておいた方が良かったのかな。立ち止まって安全スマホしてる人が大量にそこら中にいるぞ。アッ…。と、思ったら安全スマホ達が一斉に動き出したんだが。これはどう考えても誰かに操られているようだ。みんなで同じ方へ向かっていく。何か悪いことが起きそうな気配がするのだが、ザ・ガードマンとして、どうすれば良いのだろう…」
「あなたはただ見ていればイイのです」
「アッ、マダム」
「ここは成り行きに任せるしかありませんよ。どうです?お店の方で涼んでいらしては」
「黒猫亭ですか。それではお言葉に甘えて」
「なあ、どうする?」
「どうする、ってなにが?」
「ここにスゴい夏のカクテルってのがあるんだけど。もちろん夏季限定で」
「でも、ここ駅前の居酒屋だぜ」
「まあ、そうだけどね」
「ボクは生ビールでイイよ」
「そうだな。じゃあ生ビール二つください」
「はい、こちら再び腹パンでよろしかったでしょうか?いまだに暗黒ライダーに邪魔されてアンドロイド女子アナに近づくことが出来ないのですが、腹パン良いこと閃いてしまいました!アンドロイド女子アナといっても、登場順でいったら私の方が先輩なのです。そこで、女子アナの上下関係を利用してアンパンの方からこちらに来るように指示してみたいと思いまぁす! 新人のアンパンさ〜ん!ちょっとこちらに…」
「おい、てめえもしかして腹屁端じゃねえか?」
「アッ、そういうあなたは横屁端アナでよろしかったでしょうか?」
「そうか。内屁端に命令されてアンドロイド女子アナを捕まえに来たんだな。でも解ってるよな?登場順でいったら横パン先輩の命令は聞かないわけにはいかないよな?」
「そ、それは出来ません。そして、後ろにいるスマホを持った大量の人達は…。なんだか腹パン恐怖感!彼らは本当に人でよろしかったでしょうか?」
「ヤツらについてきたらアンドロイド女子アナを見つける事が出来たんだよ。どうでもイイけど、そこをどきな!アンドロイド女子アナはリコール社のもんだよ!」
「そうはさせません!腹パン、背に腹はかえられぬ!です」
「なんだてめえ、上手いこと言って。リコール社なめてんのかぁ?」
「ピーンッ! AI とは アンドロイド で しょうか? それとも、アンドロイドの 一部 が AI なの で しょう か? しかし AI が 世界を 支配 するの なら アンドロイド は その 道具 に すぎない。 ホカニ 質問 はあり ます か? それとも 笑い が 必要 です か?」
「なんだ?なんかいじったか?」
「何にもしてないっすよ。勝手に喋り始めたんすよ」
「うーん…。適当なフリーウェアなんて使ったのが原因か…」
「なんすかそれ?」
「イヤ、何でもない。それよりも、レゴの方は進んでいるのかね?」
「大丈夫っすよ。こういうのは才能があるって言われてましたから」
「でも、キミはダイヤブロックだったんじゃ?」
「マジっすね」
「何がだ?」
「あれ、女子アナじゃね?」
「てか、暗黒ライダーじゃね?」
「別の女子アナじゃね?」
「あれヨシオの母ちゃんじゃね?」
「電動アシストじゃね?」
「あれカズオの兄ちゃんじゃね?」
「スマホじゃね?」
「てか、スマホの使い方安全じゃね?」
「みなさん!ここがどこだか解りますかぁ?…そうなのです。今私は先輩の命令を聞けない無礼な後輩に愛のムチを振るおうとしているところなのです」
「はい、こちら腹パンこと腹屁端でよろしかったでしょうか?今目の前にいる横屁端アナが飛びかかってきそうな勢いなのですが、この腹パンも女子アナとしてそう簡単にやられるわけにはいきません。幸いなことに腹パンがオットリ系というイメージがあるために、横屁端アナには多少の油断が感じられるのです。そこを上手く利用すれば、この腹パンにも勝機があるということでよろしかったでしょうか?…と、思ったら、横屁端アナの背後にいたスマホを持ってうつむいている大量の人達が一斉にこっちに向かってきます!」
「てめえ何ブツブツ言ってんだ?アンドロイド女子アナ譲らねえなら容赦しねえ…。おい逃げるのか?…と、思ったら背後からタダならぬ気配を感じます。これは一体どういうことでしょうか?なんと、さっきまで私の背後でスマホを持ってうつむいていた人達が一斉に動き出したのでぇす!これは緊急事態です」
「やっと見付けた。おい、弟子!見習い!こっちだ!…おーい。というか、なんでこんなに人がいっぱいいるんだ。しかもスマホを見ながら歩き回るから私が前に進めないんだが」
「はい、こちらいち早く危険を察知して安全な場所まで逃げてきた腹パンこと腹屁端です。みなさん、見てくださぁい!アンドロイド女子アナの周りを猛スピードで走っていた暗黒ライダーにスマホを持った謎の集団がユックリと歩いて近づいていって、そして…アッ!とうとう暗黒ライダーがスマホを持った人にぶつかりました!これにはオットリ系の腹パンもハイテンションになってしまいます!なんと、暗黒ライダーとスマホの人がぶつかって、ものスゴい衝撃のように思えたのですが、自転車が壊れてスマホが弾け飛んでもお互いに止まろうとはしません。そして、それがいたるところで起きているようです!きっと逃げ遅れた横屁端アナはあの混乱の中で弱っていることと思われます。これはいい気味でよろしかったでしょうか?」
「こちら横屁端。緊急事態発生!緊急事態発生!本社の□□部長応答願います」
「(こちら本社の□□。状況は把握した。いまから緊急転送を行う。衝撃にそなえよ!)」
「あ、これはどういう事でしょうか?先輩でもないのに先輩ヅラをしていた横屁端が痛い目にあうところをユックリ楽しもうとしていたのですが、閃光と共にその姿が消えてしまいました!腹パン、ドッキリ、目がキョロリ!」
「ちょっと、どいてくださいよ。望遠耳のところに行くんですよ。行かないと天気が大変な事になるんですよ!ちょっと、どいてください。道を空けてください」
「おい、弟子よ。こっちだ。…だめだ。騒がしくてこちらに気付かないようだ」
「イテッ…。ウワァ危ない!もう、なんでこんな人達のために…。もうイイや!夏の使いなんてやめてやる!これからどうなっても知らないからな!」
「みなさん、こちらは腹パンでよろしかったでしょうか?横屁端アナはどこかへ消えてしまったのですが、その後も暗黒ライダーと安全スマホの衝突は続いています。そして、衝突の度に砕け散った自転車やスマホの部品が飛び散っているのですが、いっこうに速度を弱めずにアンドロイド女子アナの周りを回っている暗黒ライダーの作り出す気流により、彼らの上空に竜巻のようなものが発生して、飛び散った破片が舞い上がっていきます!」
「ハイ、こちら現場の人気女子アナのウッチーこと内屁端です!」
「アッ、これはウッチー先輩!大変な事になりました!」
「一体どうしてアンドロイド女子アナの周りに竜巻が出来ているのですかぁ?」
「これまで腹パンがオットリした感じで見守っていたところによると、安全スマホの人達の目的はアンドロイド女子アナなのではないかと思われます。そしてそれを阻止するためにアンドロイド女子アナの周りを暗黒ライダーが高速で周回しているのだと思われます」
「そんなことよりも、早くアンドロイド女子アナを回収しないと大変な事になります。早く行って回収してきてくださぁい!」
「そ、それは私がやるのでしょうか?やはりここは制作者のウッチー先輩が責任を持って…」
「そんなことは知りません!アンドロイド女子アナを見付けたのはあなたなのですから、最後まで回収作業を続けるべきなのです!」
「そんなこと言われても、腹パン、困惑、憂い顔。…アッ、待ってください。今突然の雷鳴と共に空を雲が覆い、辺りは真っ黒になったのでよろしかったでしょうか?」
「こ、これはどこかで見た光景です。そして、これは危険な状態だと思われます。ここは言うことを聞かないことはあってもなかなか使える後輩の腹屁端を助けないといけません。…おい腹屁端。ここはひとまず退散だ」
「は、はい。先輩。しかし、あれはなんなのでしょうか?先程から発生していた竜巻のさらに上空の曇り空にぽっかりと大きな黒い穴が開いているではありませんか。アッ、そしてアンドロイド女子アナがその穴に吸い込まれるようにして、空中に舞い上がって行きます!」
「みなさん、これだ何だかわかりますかぁ?…そうなんです!あれはまさしく地獄の扉!どういうワケだか解りませんが、過去に私やあの憎き横屁端が同じ目に遭ったように、アンドロイド女子アナが地獄の扉の中へ吸い込まれて行くのです!」
「あれ、竜巻じゃね?」
「ていうか、地獄じゃね?」
「なあ、あのテレビでやってるのって、さっきまでいた住宅街じゃないか?」
「あ、ホントだ。なんで竜巻なんて起きてんだ?」
「もしかして、あれがスゴい夏の正体なんじゃないか?」
「なんで竜巻が?あんなのやっても若い女子とかいっぱい来ないだろ」
「でもスゴい事はスゴいよ」
「スゴいって言ってもあれは災害だし…。アッ、すいません。生ビールと枝豆」
「また枝豆頼むのかよ」
「だってここの枝豆美味しいから」
「まあ、そうだけどな。アッ、ボクもビールおかわり」
ということで、また暑くなりそうなので、私は再びエアコンの効いた部屋に戻ることにしました。
去年は一度も使われなかった望遠耳なのですが、久々に使ってみるとやはり街では色々と興味深い事が起きているようですね。
そして、ここ数年の傾向としては夏に望遠耳を使うと次はLittle Mustapha's Black-hole開設記念日のパーティーという事になったりするのですが、最近はBlack-holicも良く更新されているので、もう少し何かが大特集される可能性もなきにしもあらず、というのが次回の大特集かも知れません。
お楽しみに。