「あれって、イケてるってことか?」
「えぇ?!…いや、待てよ。ちょっと様子を見てみようぜ」
「様子、っていっても、さっきからずっと動かないし…アッ、動いた」
「どこに行くんだろう?追いかけてみる?」
「やめようぜ。なんだか危険な気がするよ」
「たまには危険な夏も良いんじゃないか?」
「たまには、って。いつもはどんな夏だったんだっけ?」
「まあ、何もない夏だよな」
「あなんてん…。起きて、あなん…。んなんてん…?」
「…ん?!」
「あらいやだ、あなたったら、さっきから呼んでいるのに全然気がつかない」
「え、呼んでた?」
「もう、あなたったら。すでに始まっているのよ」
「なにが?」
「あすこの、いつもの…」
「ああ、ベランダさんか」
「と思ったら大違いの、もっと向こうのあすこの向こう。今年もやって来る、そんなふうに思ってもそうじゃないかも知れない。それは実は終わっていなかったの」
「…?」
「んあんなんたん!」
私のこと「ベランダさん」って言ってた気もしますが、今年もやってきた望遠耳の夏!
といっても、夏だけやっていたワケではないし、去年とかもやったか覚えてない望遠耳ですが。
そんな感じなので、まずは望遠耳の説明をしないといけません。
望遠耳を装着して、ベランダのようなところにボーッと立っていると、街中で交わされる様々な会話がすぐ近くの音のように聞こえてくるのです。それでベランダで色々と立ち聞きというワケなのです。
それを夏にやったら望遠耳の夏となる!
それでは猛暑の中ですが、しばらく立ち聞きをしてみましょう。
「そうだよな。それよりも、さっきの人。動き出す前に『整った』とか言ってたぜ」
「それって、まさかサウナってこと?」
「この暑さだからなあ。それに、最近は天然由来な感じも流行ってるし」
「確かに、これだけ気温が高いと湿度も下がるし、サウナっぽいけどな。でも天然由来じゃないだろ」
「しかし、暑いからそのままサウナっていうのはイケてるか?」
「どっちかというと『いっちゃってる』って感じか」
「そうだよな」
「というか、本物の方のサウナはこんなに暑くてもやってるのかな?」
「知らないけど。人工のサウナじゃ、あんまり天然じゃないしなあ。気にしても仕方ないよ」
「もお、なんでこんなに暑いの?ワケ解んない」
「えぇ、知らないの?火力発電だからに決まってんじゃん」
「なんで火力発電だと暑くなるの?…あ、そうか火が燃えてるから暑いんだ」
「常識だよね」
「でもさ、最近は風力発電だってあるし。あれって扇風機回してるから火力発電で暑くなっても扇風機で涼しくなるっしょ?」
「そうか。だから再生可能なのかなあ。でもあんまり扇風機回したら氷河期になるよ」
「まじで世も末だよね」
「雨だぁ!」
「もうやんだ!」
「蒸し暑いぃ…!」
「もうだめ…。私をおいて先に行ってください」
「何を言っているの。シカダ・ヒグラシ子」
「この暑さではこれ以上歩けそうにありません」
「ダメよ、ヒグラシ子。私達シカダ・マイーンズは30人そろってこそのシカダ・マイーンズよ」
「でもアブラカタブラ子さんや、クーマさんはこの暑さには慣れているかも知れませんが、私はもうだめです」
「諦めちゃダメよヒグラシ子!私達のためにシカダ・マインさんは毎年セミの国からやって来て、セミの国には帰らないのよ」
「マインさんが?!」
「さあ、立ち上がるのよヒグラシ子」
「しかし、暑いな」
「まあねえ…」
「また、そうやってスマホいじりながら適当な返事だし」
「そうじゃなくて、また良いアプリ見つけたからさ。これでイケてる夏を体験することが出来るんだよ」
「前もそんなの使って失敗しなかったか?」
「でも今回はAIだぜ」
「だぜ、って言われても。AIだと何が良いんだ?」
「知らないけど、今はAIを使ってリアルな人間とか描けるし、優秀なんだよ」
「まあ、試してみようか」
「アッ、アナて!」
「ウワァ!…というか、アナて?!って?」
「何がですか、あなんた?」
「あなんた?」
「こうしていると、私達の生活はもしかすると作り物なんじゃないか?って思ったりしません?」
「そんなことはないだろう。いつもこうして生きていることを実感しているよ」
「居眠りをすることですか?…ウフフ…ギ」
「いや、そうじゃなくて…」
「私は本当にここにいるのかしら?」
「それは…、いるに決まってるだろう」
「それでも、あなたは私に触れることが出来ないの。手を伸ばしてもそこには何もなかったの」
「…?!」
「あら、□□の奥さん。もう暑いわねえ」
「ホントにねえ。もう」
「それよりも知ってた?最近若い子なんかが小さい扇風機持ち歩いてるでしょ?」
「あれねえ。あんな小さいので役に立つのかしらねえ?」
「それが、そうじゃないのよ。あれって本当は風力発電なのよ」
「ええ、そうなの?今時は何だって電気なのに電気代も安くないから、発電もしないといけなくなったのかしらねえ」
「それが、○○さんのところなんて…あら、○○の奥さんじゃない」
「あら△△の奥さん。暑いわねえ」
「ねえ、ホントに」
「それじゃあまた」
「それじゃ」
「じゃあ、私もそれじゃあ」
「アハハハハハッ!アハハハハハッ!アハハハハハッ!」
「はい、カット!それじゃあ、次は含み笑いのシーンいきます。ヨーイ、アクシャィ…」
「ムフフフ…。ムフフフ…」
「はい、カット!…流石だ!」
「好きさ♪好きななのさ♪ポケットのいっぱいつてる♪リュックが好きなのさ♪♪ポケットの中にはポケットティッシュ♪懐かしい色したポケットティッシュ♪♪」
「なんだ、その歌?」
「ウワァァアア!…ビックリするなあ、急に話しかけたりして」
「そんなに驚かなくても良いだろう」
「作曲中はものすごく集中するから、話しかけられると人が思っている以上にビックリするんだよ。というか、勝手に人の家のベランダにやって来るってことは…」
「そのとおり、私は夏の使い。といってもまだ見習いだがデズデズデモーナというものだ。キミはさしずめ望遠耳ということだろう」
「いや、さしずめの使い方が変だけど。でも夏の使いってことはノグソさんはどうしたの?」
「なんか、最近暑いからすぐ駅の方の喫茶店に行ってしまうんだよ」
「サボってるのか。でも、暑いからって夏の使いがサボったらもっと暑くなったりしないの?」
「さあ。そういうのは難しいからなあ」
「難しい、って。最近天気がものすごく大ざっぱなんだけど、もしかして見習いのキミがやってるのが原因なの?」
「そこはややこしい部分でね。私達が直接天気を操作出来るわけじゃないし。ノグソさんからは適当で良いって言われているからなあ」
「適当にやられたらこまるんだけどなあ」
「カナカナ!カナカナじゃないか?」
「あなたは?」
「ボクだよ。忘れたのかい?カナカナ」
「この人はカナカナじゃありません。ヒグラシ子です」
「何を言っているんだ。ボクがカナカナのことを間違えるワケがないじゃないか」
「しつこい男。これ以上つきまとうと警察を呼びますよ」
「待ってアブラカタブラ子。(ヒソヒソヒソ…)」
「それは良い考えね、クーマ。…解りました。そこまで言うのならアナタの誠意を見せてもらいましょう」
「誠意?」
「あなたがカナカナと呼んでいるヒグラシ子はこの暑さのために弱っているのです。ですから、あなたがイベント会場まで連れていってください」
「それならお安い御用だ。さあ行こう、カナカナ」
「そうではありません。私達全員を連れて行くのです」
「どうして?」
「私達シカダ・マイーンズは30人そろってこそのシカダ・マイーンズ。一人を助けるのなら全員を助けないといけないのです」
「エェ…?!」
「というか、何しに来たんですかデズデズデモーナさんは。その前にビックリして変な名前を気にするのを忘れてたから、今気にするけど。デズデモーナじゃないの?」
「プッ…!なんだそれ、カッコ悪い」
「そのカッコ良いとか悪いの基準もわからないけど。ノグソさんもカッコ良いと思ってノグソって名前にしたらしいけどなあ」
「なんだそれ?デズデズデモーナとかノグソとかカッコ良いと思わないの?」
「まあ、ノグソよりもデズデズデモーナの方がマシとは思うけどねえ。…というか、なんでこんな話してるんだ?なんか用があって来たんじゃないの?」
「いや、別に。ベランダに望遠耳がいたら寄ってみろ、って言われたから」
「なんだ、暇つぶしなのか」
「ヒマってワケじゃないけど。まあ、ここにいてもそれほど面白くないから、戻るとするか」
「行ってしまったけど。この調子じゃまた変な気候になって来そうだな」
「もうっ、芳恵ったら!」
「うーん…。違うなあ。そんなに焦った感じじゃなくて」
「もぉ、芳恵ったら…!」
「怒っちゃダメですよ。ここは楽しく談笑している場面なんで。もっと自然な感じで」
「もぉ…、ヨシエったら…♡」
「なんで色気出すんですか」
「ねえ、知ってた?水力発電っていうのがあるんだって。めっちゃ涼しそうじゃない?」
「知ってた。でもさあ地熱発電ってのもあるんだよね」
「なにそれ?それじゃあプラマイゼロじゃね?」
「あら、いらっしゃい」
「…ウワッ?!なんだ?お客さんか?」
「ウフフ…ッ。こんなに簡単に起こす方法があったなんて」
「なんだ…。ドッキリか」
「またウソばっかり」
「ウソ?」
「あなたはドキッとしたけどドッキリはしてなかった。それなのにドッキリなんていうんだもの」
「まあ、そうかもしれないけど…」
「ホントはあなたはまだ目覚めていないのよ」
「なんで?」
「そんなことじゃ、お客さんは安心してウフギ屋のソリューションを活用することができない」
「…?それって…」
「全ては機械が見た夢のようなもの。でも気をつけて。電気羊に触ったら感電するの。あなてん…」
「オッ!」
「なんだ?またアプリでイケてる夏を見つけたのか?」
「いや。あのアプリはあんまり使えないからね。普通にネット見てたんだけど」
「なんだよ。なんか調べてるのかと思って黙ってたのに、結局暇つぶしみたいなことして」
「そうじゃなくて、ちゃんと周辺の情報を確認してイケてる夏を探してたんだよ」
「というか、今回のアプリはAIでイケてる夏を見つけてくれるんじゃなかったのか?」
「そのはずだったんだけど。どんな風に質問しても思ったようなイケてる夏が出てこないんだよな」
「というか、思ったようなモノというのが解ってるんだったらAIに質問する意味があるのか?」
「まあ、そんな気もするな」
「それで、ネットで何が見つかったんだ?」
「なんか、この近くで『ザルドス芳恵』のロケやってるって」
「なんだそれ?」
「えっ!?知らないの?スゴい流行ってるらしいぜ」
「らしい、って。自分だって良く知らないんじゃないか」
「まあ、だけど流行ってるんだったらイケてるものも近くにあるかも知れないし」
「じゃあ、行ってみる?」
「ハァ、ハァ…。着きましたよ」
「ありがとうございます。これでヒグラシ子はじめ私達30人は無事にイベント会場に着くことができました」
「これでカナカナと話をさせてもらえるのですね」
「それは出来ません」
「なぜ?」
「カナカナなんてここにはいないからです」
「いや、違う。キミたちがヒグラシ子と呼んでいる彼女はカナカナなんだ」
「アブラカタブラ子。そろそろ時間よ」
「そうねツクツクボウシ子。行きましょう」
「ま、まって」
「あなた、あまりしつこくすると法的手段をとらせていただきますよ」
「そんな…」
「あ、ここじゃね?」
「ホントだ。でもあんまり科学っぽくなくね?」
「いや、科学っぽいっしょ」
「でも、ウチらに科学者のバイトとか出来んの?」
「先輩の紹介だし余裕っしょ」
「はい、それじゃあいよいよクライマックスシーン。本番いきます。ヨーイ、アックシャィ!」
「よぉーし、お金も手に入れたし、今夜は高級レストランでディナーといきましょうか」
「もー、芳恵ったらー」
「そこまでだ、ザルドス!」
「ハッ、お前は!」
「お前のやったことは全て解っているぞ、ザルドス芳恵!特殊詐欺に騙されそうになっている老人を助けるフリをして、引き出された現金をちょろまかすという極悪非道!許すわけにはいかない!覚悟しろ!」
「ウヌヌ…。恵子、ここは任せたわ」
「もぅ、芳恵ったら!」
「なんかビックリしたな」
「思ってたのとかなり違ってたけど。何がウケるかってのは解らないものだよね」
「こんなことしてないで、やっぱりイケてる夏を探そうぜ」
「そうだな」
「そうか、キミの言っていた後輩というのがこの二人ということか。それで、キミの新しい仕事の方はどうなのかね」
「なんていうか、なんとかガードマンっていうんすけど。けっこうヒーローっぽい感じっすよね」
「ガードマンって。それは工事現場の誘導とかじゃないのか?」
「そうじゃないんすよね。そっちは前にやってたことがあるんすけど、なんだか良くワカんねって思ってたら事故ばっかり起こるからやめたっす」
「それじゃあ、今度はそうならないように気をつけないといけないね」
「今回はヒーローっぽいから大丈夫っすよ」
「みなさん、今日は来ていただいて本当にありがとうございます。ここでシカダ・マイーンズからみなさんにとても大事なお知らせがあります。このお知らせのために今日は命の危険を冒してまで、この暑さの中を会場までやって来たのです」
「な、なんだ?(ザワザワ…)」
「これまでこの街中広場で行ってきた1日三回のライブですが、猛暑のために昼の部を中止にして朝と夕方の二回公演にすることが決定されました」
「そ、そんなぁ(ザワザワ…)」
「そんなことのために…。しかも命の危険を冒したといっても、途中からは私がリアカーで運んできたのに。…しかし、あのヒグラシ子というのはどう見てもカナカナなのだ。どうして彼らはあんなウソを…」
「それはね。あなたが羽化した成虫を追い回したりするから」
「ん?!なんですかあなたは?」
「私はセミの国からきた、シカダ・マイン。あなたは間違っているのです。彼女はカナカナなんて人ではありません」
「そんなことはない。アレは確かにカナカナだ」
「でもね。アブラカタブラ子がいるでしょ?彼女も時々間違えられるの。彼女はビュェェエエ…ジェジャジェジェジャジェジジジジィィィ…に違いないって、色んな人から言われるんだけど。彼女はアブラカタブラ子。クーマだって同じこと」
「何のことだか全然解らない」
「解らないのなら、あなたに彼女と話す資格はない。私はシカダ・マイン。セミの国からやって来て。セミの国には帰らない…。では私は帰ります」
「…はあ。…というか、どこに帰るんだ?」
「なあ、知ってる?」
「なにが?」
「今日のこの街、変じゃない?」
「別に、変じゃないだろう。イケてるものは全然ないけど」
「そうだけど。いつもは変なことが起きるのに、今日は全然変なことが起きないから」
「それは変だけど、変じゃないよ」
「まあ、そうなんだけどさ」
「なんか、博士のパソコンにAIっていうのがあったから使ってみたんだけどさ」
「うん」
「原子力発電っていうのがあるんだって」
「知ってる。なんかヤバいやつっしょ?」
「それでね、それは核分裂っていうのでやるんだけど、もう一つ核融合っていうのもあるのね」
「それって、全然逆じゃね」
「そうなの。だけど、分裂したものをさらに融合させて無限に発電するやり方をAIが出してくれたみたいなんだけど」
「え、なにそれ?それマジでヤバくない?」
「マジでヤバいんだけど。でも残念ながら、原子力発電っていうのも最後は火力発電と同じ方法で電気作るんだって」
「ええ、なにそれ?それじゃ、結局暑いままじゃん」
「そうだよ。ってことで、こんな発明は削除っと!」
「もぅ、なんでウチらがこんなに温暖化について考えてるのに、全然地球が涼しくなんないワケ?」
「でもさ、温暖化になったら冬が温かいんだし、別に悪くなくね?」
「え、なにそれ?ウチら天才じゃね?」
「早く冬来いって感じじゃね」
「世代交代は上手くいっているのかな?」
「うわ、ビックリした。ノグソさんじゃないですか」
「ノグソってあんまり言わないで欲しいな。こっちでは」
「でも元々カッコイイと思って付けた名前なんだから、恥ずかしがってないで堂々としていれば格好良く聴こえてくるかもしれないけど」
「それはどうでも良いけどね。デズデズデモーナはどうした?」
「戻るって言ってたから仕事に行ったんじゃないですか?」
「仕事っていっても特にやることはないんだがな。またどっかで遊んでるんだな」
「というか、ずっと前にも見習いが出てきたんだけど、あの時の見習いはどうなったの?」
「どうも夏っていうのは人気がなくてね。みんなすぐ辞めちゃんだよな。私もそろそろ夏を辞めて秋とか冬を担当したいんだが」
「そっちの世代交代は大変そうですね」
「こっちはスムーズだっていうの?」
「それは知らないけど。ひとつ気になるのはザ・ガードマンがどうなったのか?ってことだよね」
「彼は黒猫邸に飲み込まれたって聞いたぞ」
「なんかホラーっぽいけど」
「それは作り話だからな」
「なんだ」
「ガッカリさせたところで私は行こうかな。あんまり長く喋ると、長い!って怒られるからな」
「確かにこの部分だけいつも長いですよ」
「デズデズデモーナが来たら駅の方の喫茶店にいるって伝えておいてくれ。それじゃ」
「…またサボりにいくのか」
「ウソでもイイから言ってみたらイケてる夏が現実にならないかなあ」
「そういう虚しいことはやめようぜ」
「AIのアプリなら出来るんじゃないか?って気もするけど」
「ないよ。だいたい今時はなんでもAIに期待しすぎなんだよ」
「知恵を絞ればなんとかなる所をAI任せにしたら、絞られるはずの知恵が行き場を失うからな」
「…?!それってなにか問題なのか?」
「良く解んないけど、行き場を失った感情というのは良くない感じがするし、知恵だって似たようなモノだよ」
「いや、違うだろう。…あれ?そこの」
「あ、また天然サウナの人だ」
「もうすぐ夕方だっていうのに、まだやってるのか」
「というか、ちょっと聞いてみない」
「なにを?」
「ホントに天然サウナをやってるのかどうか」
「それは危険なんじゃないか。変な人だったら面倒なことになるぜ」
「でも、悪い人には見えないから…。と思ったら、この人どうなってるんだ?」
「なにが?」
「あ、あんまり近づいたらダメだと…」
「うわぁ…!」
「うわぁ…!逃げろぉ!」
「ウワァァァアアア…!」
「はい!こちらウッチーのリコール社専属女子アナの横パンこと横屁端です!どうして会社に専属女子アナがいるのか?という説明は割愛させていただきますが、もうすぐ終わりなんじゃないか?と思ったところで意外な展開になったようなのでリポートしていきたいと思うのです」
「こちらがその現場になりまぁす。たまに見かける二人が慌てて逃げていったのは、ここで天然サウナをしていた男性が二人が近づいてきた時の振動でバラバラになって崩れ落ちていったからなのです。一体どうしてそうなったのか?どうやらここにいた男性は、より良い水風呂のために限界まで汗をかこうとしていたようなのです。しかし天然サウナの力を知らなかった彼は汗をかきすぎて干からびてしまったということなのです」
「はい、ではこういう場合の対処法を解説していきたいと思いまぁす。先ほどの二人のように逃げてしまうのは一番いけないことです。それでは、今ごろ駅前の居酒屋へ入っていると思われる二人に代わって、横パンがこの男性を助けてあげたいと思いまぁす!こういう場合の対処法は難しいことはありません。このようにジョウロなどを使って粉々になった人に水をかけてあげればいいのです」
「あっ、みなさん!ここで予想外の展開です!バラバラになった男性のそれぞれの破片に水をかけていったのですが、それは一つにまとまらずにそれぞれが元の男性として復活していくようです!だいたい十人程度の同じ男性が復活したのですが、その大きさは元の大きさの10分の1程度。これは質量保存の法則ということですね。このような科学の法則が成り立っているということは、このサウナ男の分割現象もオカルトではなくて科学的現象と考えていいと思われまぁす!」
「小さくなって数だけ増えたサウナ男達はまた新たなサウナを求めて移動していくのか?気になるところですが、そろそろ五時になるようなので、会社員の横パンは定時で上がらせていただきまぁす!」
「ぁ・・っ。…ぁ・・つ。あ・っつ!」
「ん?!呼んだ?」
「また居眠りして。そろそろ店じまいの準備を始めないと」
「あ、もうこんな時間か」
「ウフフ…。もう終わりだと思っていたのに変なことが起きたら終われなくなるって思っているでしょ?」
「…なにが?」
「でもそれはいきなり始まったワケではないのよ、あなた。目の前から見えなくなったとしてもそれが終わったとは限らない。それは見えない場所でずっと続いているの。だけど時間や次元の生け垣に足をかけて乗り越えるのは難しいの」
「ズボってなっちゃうから?」
「そんなことよりも、あなた。自家用サウナはいつになったら買ってくれるの?」
「サウナ?!」
「また、そうやって誤魔化そうとする。もう知りません。今日はお店の方はあなた一人でやってくださいね」
「う…うん」
ということで、特に大きな事件もなく今日も日が暮れるようです。ギリギリになって10分の1人間なんてのも出てきましたが。きっとまたどこかで天然サウナをすることでしょう。でも10分の1人間がまた干からびてバラバラになったら100分の1人間になってしまいますけど。その時はちょっと問題でしょうか。
といっても、さらに細かくなっていくと、最終的にはただの粉のような人間になってしまうので、気にならなくなるでしょう。
逆に暑い場所で粉のようなものが動いていたら、それは分裂しすぎた粉人間かも知れないので、潰さないように気をつけてください。
それでは、私もこの辺で望遠耳を外して涼しい室内へ戻ることにします。
次回はなにか真面目なことを大特集したいですが、真面目でない大特集になるかも知れません。ご期待ください。