ミドル・ムスタファ(以下Md.M.)--えーと、Little Mustaphaが約三ヶ月間かけて書き上げたMustapha Quinttetのための曲集がやっと完成しました。三ヶ月と言っても実際の製作にかかった時間は二週間程度で後は何かボーっとしてたみたいですけど。まあ、とにかく一曲ずつかけていきますから感想を聞かせて下さい。
Dr.ムスタファ(以下D.M.)--また前みたいに何十曲も聞かされるのは勘弁してくれ。わしは今度の学会で大事な発表があるんだから。一時間を過ぎたらわしは帰るよ。
ニヒル・ムスタファ(以下N.M.)--先生、まだ研究なんかしてたの?またどうせ発表の途中でマイクのスイッチ切られちゃうに決まってるのに。
D.M.--あれは切られたんじゃなくて、故障しただけだ。一番前の席で寝てる奴をおこそうとしてちょっと大きめに喋ったらスピーカーが壊れたんだ。・・・まあ、今に見ておれ。わしの研究で世界をアッと言わしてやる。
N.M.--先生の研究のくだらなさに世界はもうアッと言ってるよ。
D.M.--なにをっ!科学を知らんもんが偉そうに!だいたいわしの生徒でもないのに先生と呼ぶな!
Md.M.--あのー、いいですか?一曲目かけますよ。
(一同、一曲目'Allegro'を聴く)
D.M.--この曲、今までの曲とどう違うんだ?わしが今まで聞かされてきたうるさい曲と全然違わないじゃないか。クインテットとか言うからちょっとは期待してきたのに。
Md.M.--いやいや、それが違うみたいなんですよ。今まではギターを何度も重ねて録音したり、キーボードの音を使ったりしてたけど、今回の作品集ではギター三本とベースとドラムだけで演奏するために、全部の音を楽譜に書いたらしいんです。それで、クインテットっていうことなんですよ。まあ聴いていくうちに解ると思いますけど。
N.M.--それって、なんかメリットあんの?今までみたいにいろんな音が入ってた方がウケは良いはずだぜ。
Md.M.--まああるとすれば、全部の音を譜面にしたということで、他の人が演奏しても同じようになるということでしょうか。そんな物好きがいればの話ですけど。音楽的にいうとハーモニーの部分で面白さがでている感じはしますけど。
D.M.--ハーモニーねえ・・・。わしはどうもこのギーギーいうギターの音は好きになれんよ。
Md.M.--こだわりですから、しょうがないんじゃないでしょうか。じゃあ、次の曲いきますよ。
(一同、二曲目'Silfide'を聴く)
N.M.--先生、'Silfide'ってどういう意味?
D.M.--空気の精。美しい女性という意味もある。スーパーモデルみたいな。
N.M.--(なんだ、知ってたか)
Md.M.--Little Mustaphaがこういう難しい言葉を使う時は、適当に辞書とか百科辞典とかをめくって開いたページの中から曲にあった単語を探すことが多いですね。資料によると、Little Mustaphaの永遠の恋人に捧げる曲らしいですよ。
D.M.--これは驚きだ!Little Mustaphaにそんな人がいたとは。
Md.M.--いや、多分アイドルか何かだと思いますよ。けっこう好きですから。
N.M.--それは恋人って言わないだろ。でもこの曲、歌入りの曲の歌を入れ忘れたみたいな感じだな。
Md.M.--確かにメロディーが伴奏みたい。じゃあ次。
(一同、三曲目'Disfigurement'を聴く)
N.M.--何だこりゃ? Md.M.--ディスフィギャメントですよ。
N.M.--なに? Md.M.--ディ、ス、フ、イ、ギュ、ア、メ、ン、ト。
N.M.--そうじゃなくて曲のことだよ!
D.M.--こりゃCDが壊れとるんじゃあないのか?
Md.M.--そんなことないですよ。でも良く解らない曲ですね。この曲、何拍子なんでしょうか?
N.M.--キミに解らないんじゃ、オレ達に解る訳ない。
Md.M.--もう一回聴いてみます?
(一同、もう一度三曲目'Disfigurement'を聴く)
Md.M.--四拍子?
D.M.--いや三拍子じゃないか?
N.M.--違うね。これは拍子抜けって言うのさ。
一同--あははははっ。
(以後しばらく沈黙)
---黙ったまま次の曲をかける。
(一同、四曲目'Mazurka'を聴く)
Md.M--これはちゃんとした曲ですよね?
D.M.--うーん、ワルツだな
N.M.--でもこれマズルカって書いてあるぜ。
D.M.--わしがワルツと思ったらワルツなんだ!
Md.M.--マズルカっていうのは少しテンポの早い舞曲のことだから・・・。この場合どっちなんでしょうね?
D.M.--マズルカっていう言葉を知ってる事を見せたかったんじゃないのか?
N.M.--どっちにしろオレは好きじゃないな。メロディーが臭い。
D.M.--これドラムがないけど、これもクインテットなのか?
Md.M.--一応そうみたいです。ここでは消されてますけど、曲の初めのカウントはドラムですから。
N.M.--なんだ、それじゃあ何人でもいいんじゃないか。
Md.M.--じゃあそういう事で。次ぎいきましょう。
(一同、五曲目'Scarab'を聴く)
D.M.--またうるさい曲だ!いったい奴はいつまでこんな曲を作る気なんだ?
N.M.--そんな事より先生。'Scarab'はどういう意味?
D.M.--「フンコロガシ」。たぶんこの感じからするとエジプトにいるやつだな。古代のエジプトではフンコロガシがなんかの神様だったらしいぞ。
N.M.--先生、なんかじゃわかんないよ。ちゃんと説明してくんなきゃ。(ほくそえむ)
D.M.--うーん、まあそのうちにな。
Md.M.--Little Mustaphaは「ハムナプトラ」っていう映画を観てたから、多分それに出てきたスカラベのことなんじゃないかな。人を食べちゃうやつ。
N.M.--なんだ、そんな映画に影響されんのか、あいつは。だいたい今の映画にはほとんど豪勢な音楽がついてんだから、音楽家が映画観て音楽作ってちゃいけないぜ。
D.M.--あいつは、下らん映画をよく見るなあ。わしは「怪傑ゾロ」が好きだな。アラン・ドロンのやつも良かった。
N.M.--どっちも下らない映画に変わりはないよ。
Md.M.--アラン・ドロンの方は、Little Mustaphaも好きみたいですよ。あの底抜けにお気楽な音楽がとくに。でも僕はやっぱり「スターウォーズ」かな。
N.M.--オレは最近の特撮はあんまり好きじゃないよ。良く出来てるんだけど、こじんまりしてない?それと、わざとらしい感じがするんだよね。どうだ、すごいだろう、って感じ。昔みたいにまるっきり不自然な合成とかがないとダメだね。あれは見てるとがんばって撮影してる様子が伝わってくるよ。
D.M.--そりゃあキミ。キミは映画館で観ないからそんな事を言ってるんじゃあないのか。映画館のでっかいスクリーンで観れば何だって感動するぞ。
マイクロ・ムスタファ(以下Mc.M)--私は「病院坂の首縊りの家」が好きです。
N.M.--なんだ、キミいたの?
Mc.M--ええ、みなさんがあんまり早く喋るんでついていけなくて。やっと喋れました。
Md.M.--あれっ、資料によるとこの曲は映画とは関係無いようです。
(再び沈黙)
(一同、六曲目'Al Arma'を聴く)
N.M.--これ知ってる。ジプシー・ブラス。一時期奴がよく聴いてたやつだ。
D.M.--まねしたんだな。
Md.M.--まねじゃなくて、影響とか感化とかって言った方が良いんじゃないですか。
N.M.--いいや、まねだよ。奴は気に入ったのはすぐパクるから。
D.M.--そうそう、全ては模倣するところからはじまる。まねする事は別に悪くはない。ただこのまねの仕方が正しいかどうかは、ちと疑問だな。
Md.M.--先生はうるさいの嫌いですからねえ。でもジプシーのブラスバンドも同じぐらいうるさいですよ。Little Mustaphaはそこを気に入ったんじゃないでしょうか。
N.M.--ところでさあ、このジプシーって言うのはルーマニアとかにいるジプシーのことだろ。なんでスペイン語のタイトルなんだ?
D.M.--いいところに気付いたね。多分あいつはジプシーはスペインにしかいないと思ってるんじゃないか。
Md.M.--いや、そんな事はないですよ。レコード屋さんではジプシー・ブラスのCDはワールドの東欧のコーナーにおいてありますから。ただ単に東欧の言葉を知らなかっただけじゃないでしょうか。
N.M.--どっちにしろ、そのへんはいつもいい加減だよな。
Md.M.--時間も無くなってきたんで、最後の曲。
(一同、七曲目'Nocturno'を聴く)
Md.M.--この曲をイージーリスニング風にアレンジしたら、ダ○シンみたいな店でかかってるような曲になりそうですよね。
N.M.--ダ○シンって?
Md.M.--あっ、知りませんか?ダ○シン。別にダ○シンじゃなくてもいいんですけど。大手のチェーン店じゃなくて、地元の人しか知らないような百貨店とかスーパーっていうことですよ。
N.M.--ああ、そういうこと。たしかに、そういう店って憂鬱な曲ばっかり流れてるよな。あの音色のせいかな?
Md.M.--そうかも知れませんね。スーパのBGMってどんな曲も必ず憂鬱アレンジになってるんですよね。あれはなんのねらいがあるんでしょうか?あれで購買意欲が高まるんですかね?
D.M.--ほら、買い物をしてストレスを解消する人っているだろ。そういう人たちのために常に憂鬱な曲を流してストレスを与えてるんだな。いくら買っても憂鬱な曲でストレスがたまるからまた買いたくなる。そういう人は永久に買い続けることになるな。
Md.M.--なるほど!
N.M.--えっ、納得しちゃったの?
D.M.--それはそうと、ダ○シンって店はいい店だね。わしは今開発中のEye-boの部品は全部あそこでそろうと思ってる。
N.M.--あの気持ち悪いの先生が考えたの!?しかもまだ開発中って、あれもう出来上がったみたいに書いてあったけど。
D.M.--気持ち悪いとは失敬な。これからはああいうロボットが求められる時代になるのだよ。ただ開発費の問題があってな。まあ理論的には可能なんだが。
N.M.--理論的って言っても、あれただ蓋が開いたり閉まったりするだけなんじゃないの?
D.M.--まあそれは簡単なんだが、あの台のバランスがな。簡単に倒れてしまうと買った人が怪我をするといけないんでな。
N.M.--あれそんなにでかいの?
D.M.--計画では、人と同じくらいの大きさになる。
N.M.--・・・。
Md.M.--そんな物の材料ダ○シンに売ってますかね?
D.M.--たぶん、あそこにないものはないよ。
Mc.M.--あの、曲について話さなくていいんですかね?なかなか素敵な曲だと思うんですけど。
N.M.--ああそうだな、それでいいや。なかなか素敵な曲。
Mc.M.--そうですよね、素敵ですよね。私、この曲聴いてたら「しっぽが迷路になってる犬の話」というのを思い出しました。いまからずいぶん前のことですが・・・
D.M.--わしはそろそろ研究があるんで、失礼するよ。
N.M.--オレも、とりあえず曲は全部聴いたし、帰るよ。
Md.M.--そうですか、じゃあこの辺でオヒラキにしましょう。
試聴会終了後、マイクロ・ムスタファは決まりが悪そうに一人部屋に残っていた。そこへ青白い顔のLittle Mustapha登場。
Little Mustapha(以下L.M.)--あれ、もうみんな帰っちゃったのか。どう、聴いてくれた?
Mc.M.--ええ、まあ。
L.M.--で、どうだった。
Mc.M.--よかったですよ。みんなも楽しんでたみたいだし。私は最後の曲を聴いて「しっぽが迷路になってる犬の話」というのを思い出しました。いまからずいぶん前のことなんですが・・・
L.M.--あっ、そういえばオレ今日飲み会があるんだ。じゃあこれで失礼するよ。(退室)
Mc.M.--いい話なんだけどなあ・・・。まあいいか。