1. F.B.l.ペケファイルの部屋
ここはペケファイルの部屋。今まではモルダアの部屋となっていたがよく考えたらモルダアの部屋と言うよりペケファイルの部屋の方が正確なのでこれからはペケファイルの部屋と呼ぶことにする。そんなことはどうでもいいのだが、モルダアは先ほどから一人この部屋で銃を手にして遊んでいる。きっとアクション映画の主人公にでもなったつもりなのだろう。ホルスターからさっと銃を取り出しては壁に向かって構えてみたり、銃を構えたまま素早く上半身を左右に回してみたり。そんなことを回転椅子に座ったままやっているので、モルダアはさっきから部屋の真ん中でぐるぐる回り続けている。椅子の上でぐるぐるしていても顔は真剣そのもの。何しろ頭の中でモルダアは今、凶悪犯のアジトへ進入してどこから飛び出してくるか解らない悪者と対決しようとしているのだから。
モルダアの頭の中で繰り広げられているアクション映画が最高潮に盛り上がってきたそのとき、部屋の扉がものすごい勢いで開いて、それと同時に「おい、モルダア何やってるんだ!」という声が。妄想と現実がごちゃ混ぜになっていたモルダアは、このことに相当驚いたらしい。キャア、と悲鳴をあげながら椅子をぐるりと回転させて、振り向きざまに扉の方に向かって発砲した。銃から放たれたBB弾はパチンという音を立てて今入ってきた人物の太股に当たった。
「あっ、ごめんなさい」
まずいことになってしまった。モルダアが扉の方をよく見ると、そこには顔を真っ赤にして怒りにふるえるスケアリーの姿が。「このままじゃものすごく痛い目に遭うぞ。何とかしないと」モルダアはそう思ったが、何とかする前にスケアリーはモルダア目がけて突進してきた。スケアリーはモルダアを椅子ごと突き飛ばして、そのままモルダアに馬乗りになった。
モルダア、絶体絶命!スケアリーのパンチに備えて顔を横に背けたモルダアの目の前には先ほど放たれたBB弾が転がっていた。
「おい、きみたち何やってるんだ!」
部屋の入り口でスキヤナーが目を丸くしている。間一髪、モルダアは危機を免れた。
「きみたちはいつからそういう仲になったんだ?うへへっ。それにしても昼間から職場でそんなことをされたら困るんだよ。やるんだったら仕事の後、しかるべき場所でしなさい」
スキヤナーは何か勘違いをしているようだ。状況を見れば無理もない。スケアリーは決まりが悪そうに立ち上がった。
「違うんですのよ。これは殺人未遂ですのよ」
スケアリーはモルダアのモデルガンを拾ってスキヤナーに渡した。
「モルダアがこれであたくしを撃ったんですのよ。ですから、あたくしのした事は正当防衛ですわ」
「何言ってるんだよ」モルダアが言い返す。「キミがボクを驚かすからいけないんだ。正当防衛はボクの方だ」
二人の子供のような言い合いをスキヤナーは全く聞いていないようだった。彼はさっきからモルダアのモデルガンを眺めている。
「へえ、最近のモデルガンは良くできてるなあ。でも、何でこんなもの持ってるんだ?」
「だから、ずっと前から銃を持たせてくれって言ってるじゃないですか。ボクが銃を持てばきっと、もっといろいろな事件が解決するはずですよ」
モルダアは以前、事件で一緒に捜査をしたニコラス刑事にぞっこんなのである。森の中で銃を手していたニコラスをみて、銃を持てばきっと自分もこんな風に格好良くなれるんだと思っているようだ。それでモデルガンとは何とも悲しい話ではあるのだが。
「驚かされて発砲するようなヤツには、銃は持たせられんなあ。キミ自身の安全のためにも銃はおあずけだ」
スキヤナーはそういうと天井に向けてモデルガンの引き金を引いた。飛び出したBB弾が天井に当たり、壁に当たり机に跳ね返って最後にスケアリーのおでこに命中した。
「あっ、ごめん」
スキヤナーはかなりあわてている。スケアリーはまた顔を真っ赤にして怒っているが、さすがに上司には飛びかかれないようだ。スケアリーは突然振り返るとモルダアにパンチを浴びせた。不意をつかれたモルダアはそのまま床に倒れ込んだ。顔のすぐ横にはモルダアの撃ったBB弾がまだそこにあった。そこへもう一発のBB弾がころころ転がってきた。そのBB弾はもう一つと同じ場所に転がってきて、二つが隣り合うところでぴたりと止まった。
「おっ、すごい!」
三人はほぼ同時につぶやいた。
2.
「ところで、副長官。何しに来たんですか?」
「ん?まあ、別に特に用はなかったんだけどなあ。またきみを驚かそうと思って来てみたら逆に驚かされてしまったよ」
「そんなことだと思いましたよ。今回の話にあなたは登場しない予定だったんですよ。それに、こんなBB弾騒動も予定にはないんですよ。まったく、作者は何を考えているんですかねえ?」
さすがはモルダア。何でもお見通し。でも思いついたものは書きたくなってしまうんですよ。
「それより、あたくしのイメージが台無しですわ。あたくしのようなレディーが男の方を殴るなんて。ホントに失礼しちゃうわ。それと、今回の話って言ってましたけど、あなたは今回の話の内容を知っていらっしゃるの、モルダア?」
そんなはずはない。話の内容を決めるのはこの私である。でもまあいいか。ここはモルダアに説明してもらおう。
「今回の話はとあるバーで始まることになっていたんだ。ボクがある事件のことについてキミを呼び出して、そのバーで待ち合わせるんだ。そこにはぼくら二人ともう一人重要な人物が来ている。その人物はボクに事件から手を引けと警告をするんだ。つまりこれはかなりオリジナルに近い話の内容だね」
「オリジナルってなんのことですの?」
「ペケじゃなくてエックスの方だよ。でもこのペケファイルはもうすでにパロディーの域を通り越して、ストーリーは一人歩きを始めてしまっているよね。今更オリジナルに近づけても意味がないんじゃないか、ということで予定を変えたのかも知れないなあ」
「あり得なくもない話だなあ」スキヤナーが口を挟んだ。「ある情報によると我々の名前を変えようと言う案もあるらしいんだ」
ええ、そうなの?それは知りませんでした。でも確かにやりづらいんですよねえ。時々、私は書いているときに「モルダー」とか「スカリー」とかオリジナルの方の名前を書いてしまうんです。でもしばらくはこのままで行きますよ。
「副長官。それはどこから手に入れた情報ですか?」
「それは国家機密だから君たちにも言えないよ」
「そういう情報を密かに教えてくれる方が今回登場するはずの方だったんじゃありませんの?あたくしの推理ではその人は怒百目鬼 鐵円(ドドメキ テツマル)という名前に違いありませんわ。あの登場人物の紹介に名前が出ていらした」
「そうかあ。それにしても、今回の話はどうなるんだろう?」
どうしましょうかねえ?
「とりあえず、あたくしはそのバーに行ってあなたを待ってみることにしますわ。それじゃあお先に失礼いたしますわ」
スケアリーはさっさと部屋を出ていってしまった。残された二人はしばらく考えて込んでいたが、二人の目と目が合うと、同時に口を開いた。
「バーってどこのことだろう?」
3. 路上
モルダアはスケアリーの後を追ってF.B.l.ビルディング前の道路まで来たが、もうすでにスケアリーの姿はなかった。スケアリーはいったいどこへ行ったのだろうか。モルダアが考え込んでいると、何かが彼の頭の上に当たって路上に落ちた。見るとモルダアの前でBB弾が二三回バウンドしてそれから排水溝に落ちていった。モルダアがF.B.l.ビルディングの方を振り返って見上げると、13階からスキヤナーが顔を出してモルダアに向かって手を振っている。よく見るとその手にはモルダアのモデルガンが握られていた。スキヤナーはモデルガンで彼を撃ったらしい。
「おいモルダア!忘れ物だぞ」
そういうと、スキヤナーはモデルガンを放り投げた。13階から。スキヤナーの手を放れたモデルガンは加速度をつけてすごい速さでモルダアに迫ってくる。モルダアはおきまりの悲鳴を上げるまもなく両手で頭を押さえて迫りくるモデルガンから身を守ろうとした。幸いモデルガンは彼の30センチほど手前に落下した。もちろん粉々である。あたりに散らばったモデルガンの残骸とモデルガンに装填されていたBB弾をモルダアは悲しそうに見つめている。買ったばかりなのに・・・。モルダアの足下はBB弾だらけ。
「この事件からは手を引くんだ」
モルダアの背後から彼に声をかけるものがいる。
「なんですか。あなた、まだ出てくる場面じゃありませんよ」
「世の中には知ってはならない真実も・・・。キミどうしたんだその顔、誰かに殴られたのか?」
モルダアの顔にはスケアリーに殴られたときの青アザが出来ていた。モルダアは女に殴られたなんて解ったら、優秀な捜査官としての名誉に関わると思ったので何も言わなかった。
「そんなことより、あなたドドメキさんでしょ。ボクがこれからスケアリーとバーで落ち合ってから出てきてくださいよ」
「そんなこと言われても、私の出番がなかなかこないから自分で出てきたんだよ。まあ、これからも私の気分次第で情報を提供するから、そのつもりで」
「それは最後のせりふですよ。ボクはこれからバーに行きますから、そのときまで待っててくださいよ」
モルダアはそう言ってその場を離れようとしたが、もしかして、いまドドメキさんに色々聞いたら、UFOのこととかDr.ムスタファのこととか教えてくれるんじゃないかとも思った。何しろこのドドメキさんは話しに加わりたくて仕方がないみたいだから。モルダアは振り返ってドドメキさんの姿を探したが、彼はモルダアが目を離していた隙に姿をくらましていた。
やっぱり謎の人物みたいだ。
4.
モルダーはそこら中のバーを探して回ったがスケアリーは見つからなかった。もうそろそろペケファイルの部屋に戻ろうかと思っていると、彼の携帯電話が鳴った。スケアリーからのようである。電話を持ってるなら最初からかければいいのに。
「ちょいとモルダア!いつまであたくしを待たせるつもりなんですの?」
「待ってくれよ。キミがどこに行くか言わなかったからボクは町中のバーを探して歩いてたんだよ」
「あたくしがバーなんて薄汚いところ行くわけないじゃございませんか。あたくしはオープンテラスのカッフェでずっと待っていましたのよ」
「オープンテラス?ああ、解った、スタバでしょ」
「ちょいと冗談はよしてくださらない?あんな所はファミレスと変わりませんわ。恥ずかしくて入れませんわ」
「まあ、どこにいてもいいんだけど。もう待ってる必要はないみたいだよ。さっきドドメキさんが出て来ちゃってさあ、色々話していったんだ」
「あらいやだ。そうですの。失礼しちゃいますわ、もう。それじゃあ、あたくしはカフェラッテを飲み終わったらもう帰りますからそのおつもりで」
「あれもう帰っちゃうの?ところで・・・」
モルダアの話を聞かずにスケアリーは電話を切ってしまった。
「なんだ。それじゃあボクも帰るかな」
5. F.B.l.ビルディング
F.B.l.ビルディングの地下の廊下を息を殺して歩いてくる人影がある。その人影はペケファイルの部屋の前まで来ると、少し中の様子をうかがって、それからものすごい勢いで部屋の扉を開けた。
「おいモルダー!何やってるんだ!」
誰もいない部屋にスキヤナーの声が虚しく響きわたる。
「あれ、みんないないのか・・・。なんだか今日は調子が悪いな。それじゃあ私も帰るかな」
今日は調子が悪いスキヤナー。帰り際にビルの前に散乱しているBB弾を踏んで転んだことは言うまでもない。
6. モルダアのアパート
モルダアが自分の部屋に入ると中にスケアリーがいた。
「あれ、どうしてキミがここにいるんだ?」
スケアリーは何も言わずにモルダアを見つめている。見つめていると言うよりは睨みつけている。モルダアは自分がまた何かやらかしたのだと思い、謝ろうとしたがいったい何を謝ればいいんだ?
「あの、何を怒ってるのか解らないけど、何か悪いことをしたなら謝るよ、この通り」
とりあえず謝ってみたが、なんの効果もない。そのままモルダアを睨みつけていたスケアリーはふわりと浮かび上がった。何で?と言われても知らない。
浮かび上がったスケアリーは床と水平になるとモルダア目がけてものすごい勢いで飛んできた。
「嘘!あり得ない!」
7.
ここでモルダアは目を覚ました。
「なんだ夢だったのか」
そう、夢だったのです。納得いかなくても、収集がつかなくなったら夢にしてしまえばいいのです。
「それにしても変な夢だったなあ」
モルダアは机の上を確認した。そこにはさっき買ってきたばかりのモデルガンが置いてある。「やっぱり夢だった」モルダアは大事なモデルガンが無事だと解って一安心。でもモルダアは彼の顔に大きな青アザが出来ているのにはまだ気付いていない。