「殺人豆」

01. 事件現場

 男が殺害された現場へ向かうモルダアはいつものように沈んでいる。事件発生からの経過時間を考えれば、きっとまだ遺体はそこにある。隣でスケアリ−は同じ理由で嬉しそうだ。

「ちょいと、モオルダア。今回は前回みたいに実は人間じゃなかった何てことはないでしょうね。あたくしの実力というのは遺体の状態がひどければひどいほど発揮されるんですから」

モオルダアはグチャグチャの遺体を想像して少し吐き気がした。しかし、モオルダアには気になることがある。

「なんでさっきからみんなボクのことをモオルダアって呼ぶんだ?ボクの名前は・・・」

「あら、あなた知らされていませんの?あなたの名前はモオルダアですのよ。聞いたところでは、このコーナーをホームページ翻訳サービスで英語にしてみたら、あなたの名前が本家と同じ綴りになっていたのよ。それではなんだか、勘違いしたファンのオリジナルエピソードみたいな感じがしますでしょ。ですからあなたは名前が変わったんですの」

「なんで、そうなるんだ?これだって勘違いしたファンのオリジナルエピソードみたいなもんじゃないか。そんな理由で名前が変わるなんて納得がいかないよ。ボクにはちゃんとモル・・・」

「ですから、もうその名前を口にすることは出来ませんのよ。そうそう、あなたの身分証をみればきっと納得しますわ」

モオルダアは胸のポケットからエフ・ビー・エルの身分証を取り出して自分の名前を確認した。

「あっ、なんだこれ!いつの間に」

モオルダアの身分証の名前は彼の知らぬ間に書き換えられていた。

「これで解ったでしょう。今回の冒頭に出たのが最後で、これからはあなたはモオルダアですのよ。前の名前は今後一切使われませんから。でもあたくしは、発音的にこっちの方が本家に近い気もするんですのよ。まあどうでもいいですわ。あたくしには関係のないことですし」

モオルダアがシュンとしてうなだれていると二人を乗せた車は事件現場に到着した。


 現場はマンションの一室で、被害者はこの部屋で一人暮らしをしていた男性のようである。モオルダアは部屋の前で警備をしていた警官に手帳を見せた。

「エフ・ビー・エルのモ・オ・ル・ダ・アだ!」

モオルダアが大きな声で一語ずつはっきりと警官に伝えた。どうやらモオルダアは名前を変えられたことに関して開き直っているようだ。モオルダアに大声で名前を告げられた警官は驚いて口を半分ぽかんと開けたままモオルダアとスケアリーを中に入れた。警官は二人が通り過ぎたあと耳から無線機のイヤホンをはずして、眺めていた。

「これを補聴器と間違えたのかなあ?」

警官はそう考えて納得することにした。そうではないんだけれども、いきなり何か見えない力によって自分の名前が変えられてしまった男を理解する方が難しいのかも知れない。そんなことより二人はどこへ行ったのだろう。モオルダアは死体が苦手なはずだったが、名前のことで頭がいっぱいなのかずんずん中へ進んでいってしまった。それとも名前が変わって性質も変わってしまったのだろうか。

「キャ!」

部屋の奥からモオルダアの情けない悲鳴が聞こえてきた。やっぱり中身は変わっていないようだ。

 スケアリーは遺体にかぶせられたシートをはいで遺体の様子を見ている。きっとこのシートがめくられた時にモオルダアが悲鳴を上げたのだろう。今モオルダアは遺体に背を向けている。

「ちょいと見てみなさいな、モオルダア。銃創ですのよ。これはなんだかとってもエキサイティングな殺人事件のようですわよ」

モオルダアが壁の方を向いたまま答える。

「銃殺なんかじゃないと思うけどねえ。この狭い部屋の中で撃たれたら弾は貫通して壁に穴を開けてるはずだし、血だってそこら中に飛び散ってるはずだよ。それにこれはまだ殺人事件と決まった訳じゃないよ」

「あら、またそんなことをおっしゃる。銃殺じゃないにしても部屋の中はこんなに荒らされて、これは争ったあとに違いありませんわ」

スケアリーの言うとおり、部屋の中は食器が散乱していたり、電気スタンドが倒れていたりして散らかっている。

「この男が争った相手が人間だったら殺人になるけどね。キミはボクらが変な事件にしか呼ばれないのを知ってるだろ」

「でもこれは見た限りでは変な事件ではありませんわ」

「変なのは、この現場ではなくて警察への通報の方だよ」

スケアリーは納得がいってないようだ。それもそのはず。

「モオルダア、どうしてあなただけそんなことを知っていらっしゃるの?なんだか全てお見通しみたいな喋り方ですわ」

「まあ、そう聞こえるのも無理ないかもしれないねえ。でも悪いのは作者のせいだよ。前半をかなりはしょってるから、こんなことになるんだ」

「まあ、そうなんですの。でもどうしてそんなことになるんです?」

「今回はニューアルバム完成記念エピソードとして急きょ考えられたものだからあんまり長くしたくないんだって」

「まあ、ひどい話だこと。ところでその通報のどこが変だって言うんですの?」

モオルダアは辺りを見渡して空き缶を見つけ、拾い上げてスケアリーに見せた。

「これだよ」

「枝豆の缶詰?」

02. エフ・ビー・エル、ペケファイルの部屋

 モオルダアとスケアリーが通報の内容を記録したテープを聴いている。それはこんな感じ。


「もしもし、警察ですか。友人の様子がおかしいんです。調べてくれませんか」

「おかしいって、どんなふうに?もう少し詳しく言ってもらえませんか」

「私の友人の佐備田徹男(サビタテツオ)です。早くしないと、あの人殺されたのかも。私ついさっきまでサビタと電話で話してたんです。そしたら急にサビタが悲鳴をあげて、私がどうしたのかと聞いてもまともに答えられませんでした。相当なパニック状態だったんでしょう。サビタは豆に襲われてるとか言ってましたが、そのうちに電話が切れてしまいました」

「豆ですか?本当に豆?まあ、解りました。すぐに警官を向かわせますから、その人の住所を教えてください」

「サビタの住所は・・・」


ここでモオルダアがテープを止めてスケアリーの顔色をうかがった。

「本当に変な通報ですわ。でもこれがなんだって言うの?サビタはあなたが現場で見つけた枝豆の缶詰に入っていた豆に襲われたと思っていらっしゃるの?」

「さあ、どうだろう。ボクだって豆が人を襲うなんて考えたことはないけどね。資料によると・・・」

モオルダアがここまで言うと部屋の扉がゆっくりと開いた。

「おいモオルダア。何をやっておるのだ」

スキヤナーがいつもと違って静かに問いかけた。普段の横柄でがさつな感じは少しもない。

「何って・・・、ちゃんと捜査をしておりますけど」

モオルダアもつられて静かに返した。

「そうか、それならよいのだ。まあ、がんばりたまえ」

そういってスキヤナーはゆっくりと扉を閉めて行ってしまった。部屋の中の二人には彼が大事そうに何かのケースを脇に抱えているのが見えた。

「どうしたのかしら、副長官は」

「なんだか、気味が悪いほど上品な感じがしたねえ」

二人は不思議な顔をしてスキヤナーの居たほうを眺めている。

 二人の頭はスキヤナーのせいで意味もなく混乱していたが、そんな混乱が最高潮に達するともうどうでも良くなってくる。そんな感じのたわいもない混乱だった。二人はまた話を事件に戻した。

「資料がどうしたっておっしゃるの。モオルダア」

「ああ、そうだったね。資料によるとサビタはデパートの広告とかカタログのモデルをしていたらしいんだ。それが最近、彼はぶくぶくと太ってきて仕事の依頼が少なくなったんだ。それで、枝豆ダイエットをしていたようだよ」

「枝豆でやせられるのかしら?」

「わらをもつかむ、ってやつだったんじゃないか。ボクはそんなものではやせるはずないと思うけどね」

でもそれがなんだっていうのだろうか。二人ともそう考えて黙り込んでしまった。枝豆ダイエットをすると枝豆に襲われるのだろうか。そんなことはあり得ない。それじゃあ、やっぱりサビタは誰かに殺されたのだろうか。

「枝豆ダイエットというくらいだから、サビタは毎日枝豆ばかり食べていたはずだよねえ?」

モオルダアが漠然とした何かを感じて口を開いた。

「そうですわねえ。リンゴダイエットはリンゴばかり食べるし、ヨーグルトダイエットはヨーグルトばかり。枝豆ダイエットなら枝豆ばかり食べるでしょうねえ」

「それだけ枝豆を食べていたらきっと頭の中は枝豆だらけになるよねえ。そういう状態の時に自分の命に関わるような状況に置かれてパニックになったとしたら、何か別のものが枝豆に見えるということはあり得るよねえ。それか、何か別のことを言おうとしたのに豆という言葉が出てきたとか」

「それは面白い考えですわねえ。でもあたくしの推理では、通報してきたサビタの友人が嘘を言っているのよ。その人は捜査を攪乱させるためにわざとあんな嘘を言ったに違いませんわ。犯人はサビタの友人に間違いありませんわ。そのほうが話が面白くなると思うんですけど」

「面白くなるって、どういうことだよ。まあ、いいか。面白ければそれでいいか。それじゃあ、通報したサビタの友人を調べてみようかな」

「あたくしはサビタの解剖に向かいますわ」

二人はいっしょにペケファイルの部屋を出ていった。

03.

 エフ・ビー・エルのビルディングの外に出たときスケアリーが何かに気付いて前を行くモオルダアを呼び止めた。

「ちょいとモオルダア。あれをご覧になって」

スケアリーはエフ・ビー・エルのビルディングの上の方を指さしている。モオルダアがそこに目をやると、13階の窓の中にスキヤナーの姿が見えた。スキヤナーはバイオリンを弾いている。

「あれ、あの人バイオリンなんか弾くのか?」

「そんなことありませんわ。きっとさっき持っていたケースがバイオリンだったのね。でも副長官は音楽はからっきしダメなはずですわよ」

「あの歳になってバイオリンに挑戦かあ。芸術に目覚めたのかなあ。でも、なんだか嫌な予感がするよ。きっといつかボクらにひどい演奏を聴かせるに決まってるよ」

「それは、問題ですわねえ」

13階では二人に見られているとも知らず、スキヤナーがバイオリンの猛特訓をしている。そのバイオリンがどんな音を奏でているのかここからは良く解らない。でも顔だけは一流の表情だ。自分の演奏に酔いしれてうっとりしているスキヤナーはどこか不気味である。

04. 病院、検死解剖をする部屋

 スケアリーが遺体の乗っている台の上のライトをつけると、それはドテッとて横たわっているサビタを照らした。遺体というのはドテッとしているものだが、サビタのお腹の周りに着いたブヨブヨの脂肪がさらにそれを強調している。

「これから被害者サビタテツオの解剖を始めますわ」

スケアリーは誰もいないこの部屋で、一人で喋っているように見えるが、そうではなくてボイスレコーダーに解剖の様子を記録しているらしい。

「サビタテツオ、三十五歳。身体的な特徴は、ブヨブヨ。顔は二枚目なのにこんなにブヨブヨしていたら、モデルの仕事がなくなるのも当然ですわ。うふふっ。胸部に直径一センチほどの円形の傷がありますけど、これは変態モオルダアが言ったとおり銃創ではなさそうですわ。ですから、これが直接の死因になったのかどうかは解りませんわ。それから、よく見ると体中に小さな傷跡がありますのよ。ちょっと、あたくしの高級ルーペで調べてみましょう。・・・。これは小型の昆虫の歯形に似ていますわ。どこか虫の沢山いるところに遊びにでも行っていたのかしら。昆虫の毒によるアレルギー反応が死因かも知れませんわ。それでは、胸の傷を見てみましょうかしら。傷の深さは・・・とても深いですわ。これじゃあ、切って見ないといけませんわね」

スケアリーはメスを手にとって遺体の胸部を切り始めた。こんなやり方があっているのかどうか良く解らない。何しろスケアリーは無免許なのだから。なんだか、皿の上のステーキを切っているようにも見える。やり方がどうであっても上手くできればそれでいい。無免許とはそういうものである。スケアリーは見事に遺体の胸を切り開いて内臓が見える状態にした。

「まあ、これはひどい!内臓がグチャグチャですわ。内臓の損傷による内出血ですわ。きっとこれが死因に間違いありませんわ。胃の損傷が特に激しいですわ。でもどうしてこんなことになったんでございましょうか?あの胸の傷と何か関係があるのでございましょうか?なんだか解らなくなってまいりましたわ・・・」

スケアリーがもっと詳しく調べようと身を乗り出したとき、彼女は遺体の下に何かうごめくものを見つけて思わずのけぞった。

「あら、なんですのこれは!」

遺体の下から一匹の昆虫が這い出してきて、台の上を歩いている。スケアリーは緑色で丸っこいその小さな昆虫をピンセットでつまむと、プラスチックの透明ケースの中に入れた。

「これがマメでしたのね・・・」

スケアリーが小さなケースの中でもがいている昆虫を見ながらつぶやいた。

05.

 検死を終えたスケアリーへモオルダアから電話がかかってきた。

「あら、モオルダア。サビタの友人のところへはもう行きましたの?随分と早いようですけど」

「それなら、やめにしたよ。よく考えたらサビタの友人が犯人というのはありそうにないから」

「そうでしょうね、あたくしもそう思ってましたわ」

「そうでしょうねって、キミが言ったことじゃなかったけ?まあ、いいか。それよりも、また事件だよ。今ボクは現場に来ているんだけど、また豆が人間を襲ったみたいだ。」

「また、缶詰の豆ですの?」

「今度は缶詰じゃないよ。居酒屋で注文されて出てきた枝豆が突然襲ってきたって言うんだよ。居酒屋にいた大勢の客が目撃しているから確かな話だよ」

「居酒屋の客って、今はまだ昼間ですのよ」

「キミは居酒屋なんかには行かないかも知れないけど、何件かの居酒屋は昼間から開いてるし、客も沢山はいってるんだよ」

「まあ、どっちでもいいですけど。その豆についてあなたに見せたいものがあるんですの。それから、事件が解決するまで枝豆警報を出した方が良さそうね」

「何それ、枝豆警報?」

モオルダアの質問にスケアリーは答えなかった。それよりも前に電話を切っていたらしい。モオルダアは現場にいた警官に枝豆警報を出すように命令してからその場を離れた。

「枝豆警報ってなんだ?」

現場にいた警官達はお互いの顔を見合わせながら首をかしげていた。

06.

エフ・ビー・エル、研究室


 モオルダアが研究室にはいるとスケアリーと少年が彼を待っていた。

「その子だれ?容疑者?」

「この子はエフ・ビー・エルの職員ですのよ。昆虫に詳しい生物学者ですの」

「違うよ、昆虫博士だよ。クラスではそう呼ばれてるよ」

なんだか怪しい感じになってきました。エフ・ビー・エルは近所の小学校で昆虫博士というあだ名で呼ばれている少年を生物学者として雇っているのだろうか。

「キミが見せたいって言ってたのはこの少年のことかな。確かに興味深い。このシリーズが始まって以来のぼくら以外のエフ・ビー・エル職員が小学生だったとはね」

「そうじゃありませんわ。サビタの解剖中に問題の豆を見つけたのよ」

こう言って、スケアリーは先ほどの解剖中に見つけた虫の入ったケースをモオルダアに渡した。モオルダアはケースに顔を近づけて中の虫を注意深く観察した。

「確かに豆っぽいけど、これってカメムシじゃないの?」

「それはカメムシに似ていますが、少し普通と違うところがあります」

昆虫博士の少年が口を開いた。

「そのカメムシはボクが前に飼っていたカメムシとは少し違うんです」

「そりゃ、カメムシなんて沢山種類があるからねえ。それでどこが違うって言うんだ、博士」

「そんなことは解りませんよ。ボクはまだ小学生ですから。でもマメにつくカメムシは害虫としても知られています」

やっぱり小学生じゃダメみたいだ。モオルダアは少しあきれていた。

「モオルダア、その虫がサビタの体内に入り込んでサビタの内蔵を食い荒らしたということは考えられませんかしら?解剖の結果はその可能性を大いに示しているのよ。あの胸の傷から体内に進入したんですわ」

「それなら、博士に聞いてみたらどうだ?おいキミ、この虫が人間の内臓を食べるために人間を襲うことがあると思う?」

「知りません。ボクはまだ小学生ですから。でも、虫というのは人間を故意に襲っているわけではないんですよ。人に危害を与える虫というのはあまりいません。でも時々、イナゴの大群が畑に襲来したりすると人間は襲われていると思ってしまうんです。あれがもし一匹ずつやってきたのなら、普通のバッタとしか思わないんですけど。どちらにしても虫はただ本能のままに行動して餌を探しているだけですから。それじゃあ、ボクは塾があるから帰ります」

モオルダアとスケアリーは黙って少年の話を聞いていた。なんだか偉いことを言われたような気がしたが、モオルダアの質問の答えにはなっていなかった。

「なんなんだ、あの子は。本当にここの職員なのか?」

「さあ、知りませんわ。あたくしがここに来たらあの子がいたんですのよ。もしかしたらここに忍び込んでいたイタズラ坊主かも知れませんわ」

モオルダアはケースの中のカメムシを虫カゴに移した。広い場所に移されたカメムシは隠れるところを探してカゴの中をあちこち動き回っている。

「新種の人食いカメムシなのかなあ、これが。動物の死肉に集まる虫はいるけど、生きた動物の肉を食べる虫なんかいるのかなあ」

「でも、居酒屋の事件だってそうだったんでしょう。みなさんはマメが襲ったとおっしゃっていますけど、あれもきっとこの虫の仕業ですわ。二つの事件で近くに枝豆があったというのはタダの偶然かしら」

「擬態かも知れないよ。周囲のものに体の形を似せて存在を目立たなくするってやつ。擬態には二種類あって、一つは敵から身を守るため。もう一つは獲物を捕らえるため。もしこのカメムシが本当に人食いカメムシだとしたら、こいつの体は確かにマメっぽいけどね」

モオルダアはカゴの中のカメムシを見ながら、枝豆に姿を変えたこのカメムシが集団でモオルダアに迫ってくるところを考えてみてゾッとした。虫は本能のままに行動する、というのはさっきの少年が言っていたことだ。そういう虫に襲われるというのは何とも悲惨な感じである。虫にいくら謝ったって許してくれるはずもない。虫の目的はただ一つ、餌を捕獲することだけなのだから。

 モオルダアが恐ろしい想像をしていると、彼の胸ポケットの中で携帯電話が鳴った。驚いたモオルダアは「助けて!」と叫んで胸を押さえた。虫に食べられる想像をしていたモオルダアは電話を虫と勘違いしたらしい。しかし、次の瞬間スケアリーと目が合うとモオルダアは我に返り、恥ずかしそうに電話をポケットから取り出した。スケアリーに自分が携帯の音に驚いたところを見られて決まりが悪いモオルダアは妙に気取った声を出して電話に出た。彼は始め渋い表情でそれから驚いた表情になり、最後に大きく驚いた。

「なんだって、それは大変だ!」

また事件らしい。

「スケアリー、病院へ直行だ!」

モオルダアは電話を切ると急ぎ足で部屋を出ていった。スケアリーは先ほどからモオルダアの様子を眺めていた。「モオルダアの観察は昆虫の観察なんかよりずっと面白いですわ」