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#030 「今週のミックスダウン Pt.2」 2004-10-23 (Sat)

「ウフフッ、ウフフフッ。あなた・・・。あなたってば!」

「ああ、なんだ、キミか。どうしたんだ」

「あら、あなたまた居眠りをしていらしたの?」

「なんだかこう天気がいいとね。ついうとうとしてしまうよ」

「あなたあすこにいらっしゃるかたがお見えになって?」

「ん?アスコ?誰のことだ?」

「ほら、あすこのおうちの二階のベランダでタバコを吸っていらっしゃるかたですのよ、あなた」

「ああ、あのことか。あの人は家の中でタバコを吸わせてもらえないんだな」

「ウフフッ。あの方、何をしていると思います?あなた」

「何って、タバコを吸ってるんじゃないのか?」

「ウフフッ。あなたは解っていらっしゃらないのね。あの方はねえ、あたくし達の話していることを全部聞いていらっしゃるのよ」

「なんだそれ、あんな遠くにいてここで話していることが聞こえてるのか?それってもしかして盗聴とかいうやつじゃないのか?」

「違いますわよ、あなた。あの方はねえ、望遠耳なんです。望遠耳を使っていらっしゃるんですのよ」

 さすがはウフギやの女将。私が望遠耳を使っていることはもう知っているようです。このコーナーの前身である「今週の・・・」で登場した望遠耳が再び登場です。「今週の・・・」はなんだか良く解らないコーナーでしたけど、いまの'Black-holic'よりはまともだった気がします。少なくとも何が書いてあるのかは理解できる内容でした。

 そんなことより、この望遠耳はすごい。これを使えば町中のあらゆる会話が聞こえてきます。しかも耳で聞いているのですから盗聴ではありませんよ。聞こえて来ちゃっただけなんですから。それでは、最近この町ではどんなことが起きているのか、望遠耳を使って調べてみましょう。Black-holic三十回目を記念して、なぜか「今週の・・・」復活です。

「あっ、部長。ちょうど良かった。部長を探して多ところなんですよ」

「なんだ?いったい」

「例のビジュアル系の件。どうしたらいいでしょうか?」

「ああ、そのことか。これは微妙な問題だからねえ。先方でもいろいろもめていることもあるらしいんだよ。でも、何しろ社長自らがビジュアル系なさるつもりらしいから、我々は今のまま努力を続けるしかないだろうなあ」

「そうですか。それなら仕方ありませんかね」

「ところでキミ。あっちの方はもう済んだのか?」

「ええ、まあ一応は・・・」

「そうか。じゃあ早速次に取りかかってもらおうかなあ。クライアントのイニシアチブをローカライズしてくれ。出来れば今日中にね。それから社内ネットワーク上のトラブルをアウトソーシングしてインフラしたらダウンサイジングな」

「今日じゅうにですか!?それはちょっと無理ですね。今日はディナーをITしてイーコマースしたらグローバリゼーションしなくちゃいけないんですから」

「そうなのか。それじゃあしょうがないな。まあ、出来る限り急いでくれよ。ビジュアル系はいつどんなふうに展開するか解らないからな」

「そうですね。部長。いつでもシンポジウムしないと」

「あなた。・・・あなた。・・・あなたっ!」

「ん!?何だ?」

「あなた、また居眠りですの?」

「なんだか、最近仕事が忙しくてねえ」

「何言ってるんですの?あなた、長い間仕事なんかしていないじゃございませんか」

「えっ、してるよ。いきなり何を言い出すんだよ」

「ウフフッ。冗談ですわよ。そんなことにも気付かないんですから。ウフフッ。でもあたしはあなたのそういうカワイイところがお気に入りなんですのよ。ウフフッ。それよりあなた。あすこをご覧になって」

「ああ、すごいねえ」

「ウロコ雲ですのよ。あなた。あの雲が何に見えます?あなた」

「そうだなあ。犬の顔に見えるところがあるねえ」

「まあ、あなたって。それだからいけないんですのよ。せっかくがあたくしがウロコと言ったんだから、あなたも合わせてくれたらいいのに。犬だなんて。あたくしをいじめるのがそんなに楽しいんですの?鯛とかマグロとか言ったらどうなんですの?」

「えっ、そうなの?だってウロコ雲はウロコ雲だから、これ以上魚を持ち出さなくても・・・」

「また訳の解らないことを言っていますわ。あたくしがあの雲がウロコに見えるからウロコ雲と言ったのに。もう知りません!」

「キミは、あれがウロコに見えたからウロコ雲と言ったのか?でもウロコ雲は元々ウロコだろ?」

「・・・」

「なあ、おい。すねてないで、なんとか言ってくれよ。ボクが悪かったよ」

「プイッ!」

「・・・プイッ?」

「いやあ、温泉はいいよねえ。やっぱり日本人は温泉だねえ」

「何言ってるんだよ。せっかくこんな遠くまで来たのに、お湯に浸かって帰るだけなんて。せっかくの休みを損する気分だよ」

「ダメだなあ、キミは。それでもキミは日本人か?」

「キミの中途半端な日本人観から言えば、日本人じゃないかも知れないけどね。だいたい何で日本人は温泉、なんて言うんだよ」

「何でって、解らない?温泉に足の先を入れた瞬間思うだろ?ああ、オレは日本人なんだって」

「それは、キミの足が短いことと関係してるのか?どうでもいいけど、キミはそんなに日本人、日本人って言ってるけど、ここに来るまで車の中でずっと『スターウォーズ』のDVD観てただろ。どうせ観るなら『ハリーポッター』ぐらいにしろよ」

「どうして『ハリーポッター』なんだ?」

「どっちかって言うと『ハリーポッター』のほうが温泉ぽいだろ」

「何を言ってるのか解らないけど、まあ温泉の良さが解らないようなヤツに言われても解らないのが当然か」

「ボクは何も温泉が悪いと言ってる訳じゃないんだよ。ボクはもっと大自然の中にある温泉場にくるもんだと思ってたんだよ。そんなところだったら、きっとボクも思うだろうな。日本人は温泉だって。それはキミみたいに足の先っちょをお湯につけた時じゃないぞ。山の中の露天風呂に浸かって雄大な景色を眺めた時に、そう思うだろうなってことだからね」

「どっちだって、温泉に変わりはないだろ?」

「そうじゃなくて、ボクが言いたいのは日本の原風景とかそういう話だよ。遺伝子に刻まれた先祖の記憶とでもいうのかな。それなのに、キミがつれてきたのはこんな中途半端に開発された温泉街で。それにあそこ見てみろよ。『the ONSEN』って書いてあるぜ。あれで何を表現しようと思ってるんだ?しかもtheまでついてるぜ。横文字にすれば何でも都会的になるとでも思ってるのかねえ?あんなところには絶対行きたくないねえ」

「解ってないなあ、キミは。これから行くのはあそこだよ。あそこじゃないと割引券使えないしね」

「ホントに?じゃあボクはやめた。多く払ってもいいから別のところにする。あそこだけは。『the ONSEN』にだけは絶対に行かない」

「行かないって言ったって、ここには他に温泉に入れるところないんだぜ」

「なんだよそれ!?たった一軒しかないの?しかもその一軒がthe ONSEN?ここ、本当に温泉街なのか?」

「まあ、つべこべ言わずに。騙されたと思って来てみなよ」

「ボクはもう充分騙されているよ」

「でも、ここまで来て何もしないで帰るよりは、何かをして帰った方が『損した感』は減るだろ?」

「そうだなあ。まあ仕方ないか。今度からキミの温泉への誘いは絶対に断るからな」

「いいから、いいから。絶対に損はさせませんって」

「おい、そこの少年!キミの手にしているそのペットボトルの中には何が入っているのかね?」

「これは脳が100パーセントになるジュースです。でもボク万引きなんかしてませんよ。お巡りさん」

「私はお巡りさんではない。ザ・ガードマンだ。ところでキミ、それは本当に脳が100パーセントになるジュースなのか。そんなものはキミのような少年には買えないだろう」

「いま、そこの○○商店で安く売ってるよ。一本150円」

「何っ!本当か?そこの○○商店だな。でかしたぞ坊主!」

「ねえ、あなた。あすこをご覧になって。ほら、いわし雲」

「あっ、ホントだ。でも私には煮干しに見えるなあ」

「ウフッ。あなたってお馬鹿さんね。ああいう雲は『いわし雲』って呼ばれているんですのよ。ウフフッ。それなのに煮干しだなんて。ウフフッ。ウフフフッ」

「そっ、そうなのかあ・・・」

「それよりも、あなた。先日○○の奥さんから聞いたんでございますけど。また、あれらしいんですのよ」

「あれって何だ?」

「また、あれだったら今月は少し贅沢を控えた方がいいかしら。でも最近の○○の奥さんってちょっと信用できないでございましょう?ほら、例の□□のところの旦那さんとのことがいろいろ噂になって。○○の奥さんの方も悪いとは思うんですけど。あれでは□□の奥さんが気の毒ですわ。本当は○○の奥さんの方がいけないのに、あの人ったら口が上手いもんだから。それに□□の奥さんも良くないんですのよ。あんなに言われても黙ったままなんですから」

「○とか□とか、何の話なんだ?」

「そんなことよりも、あれですのよ。あれが本当だったら、あなたにはもっとしっかり働いてもらわないといけないんですからね。解りましたね!」

「はあ・・・」

「・・・というわけで、夢の3Dテレビは完成間近なんだってさ」

「えっ、そうなの?それじゃあ、スカートはいた女の人を下から覗けばパンツも見られるわけだ!」

「また、キミはいつもそんなことばっかりだなあ。そんなんじゃ、いつまで経っても・・・あっ、着いたぞ。この店だ」

「これがその店か。本当にこの店でローカリゼーションとグローバリゼーションしてくれるのか?キミの言うことは時々信じられないからなあ」

「まあ、たまには嘘もつくけど。この店は本物だぜ。多少値は張るけどねえ。ローカリゼーション、グローバリゼーション各5000円。キミはどっちにする?」

「どうしようかなあ。本当は両方やりたいんだけどなあ。1万は出せないなあ」

「じゃあ、ボクがグローバリゼーションにするから、キミはローカリゼーションにしろよ。二人とも同じじゃつまらないし」

「そうだな。でもなんだかドキドキするなあ。人生変わるかなあ。もしかしてボクがローカリゼーションしたら若い女の子にモテモテかも知れないな。エヘヘヘ・・・」

「部長。社長から電話が入っています」

「ああ、そうか。もしもし、部長の□□ですが。・・・はい・・・はい。・・・えっ、それはちょっと、急に言われましても。・・・いやいや、それは十分に承知しておりますけども。・・・ええ。・・・ええ。・・・解りました。私がビジュアル系ということで。明日から。それで課長の○○は・・・。部長に昇進!?・・・。はあ、解りました伝えておきます」

「・・・あの、部長?」

「今は何も言うことはない!」

「いったい、何なんだよ、あの温泉は!建物に入ったらいきなり『これは温泉ではありません』だって。あんなことわざわざ張り紙に書くか?」

「まあ、そうカリカリしなさんなって。騙されて偽物の温泉に入るよりはましだろ?」

「何だよ、しなさんなって。あんなお湯に浸かるぐらいだったら、偽物の温泉で騙された方がましだよ」

「それだから、キミって男は。もっとグローバルな視点で物事を捉えないと。あれが来たら大変なことになるぞ」

「あれって何だよ。それにキミ、さっきはあれほど日本人がどうのって騒いでいたのに、今更グローバルはないだろ。だいたい、グローバルとあのお湯とどんな関係があるんだよ?」

「ほら、だんだん訳が解らなくなって、腹が立ってるのもおさまってきただろ?」

「というよりも、腹を立てていること自体がばからしく思えてきたよ」

「まあまあ、百万回謝るからゆるしてよ」

「百万回も聞きたくないよ。何でも良いけど、とりあえず百万回って言うのやめないか。子供じゃあるまいし」

「えっ、何で百万回が子供なんだ?」

「百万は子供が考えられる最大の数ってことだよ」

「そんなことないだろ。子供だって一億ぐらいは知ってるだろ」

「まあ、知ってることは知ってるだろうね。でもとっさに思いつく大きな数字は百万が最高。例えば、キミで試してみようか?これから聞く質問に間髪入れずに答えてくれよ」

「いいよ」

「じゃあ、いくよ。キミの命の値段はいくらだ?」

「百万円!・・・あっしまった。急に聞かれて普通自動車よりも安い値段を言ってしまった」

「ほら、言ったとおりじゃないか。キミの命もボクがちょっとしたローンを組めば簡単に買えてしまうってことだね」

「なんだか悔しいなあ。じゃあ、ボクの質問にも答えてくれよ。超特急でね」

「いいよ。ボクは大人だからね。キミみたいなことにはならないと思うけど」

「それじゃあ聞くけど、キミの人生の値段はいくらだ?」

「無限万円!」

「・・・今、もしかして無限万って言った?どっちかって言うとキミの方が子供じゃないか、これは」

「しまった!」

「うーん。脳が100パーセントになるジュースを飲んでみたが、普通のジュースと変わらないなあ。これで本当に100パーセントになったというのだろうか?・・・いや、待てよ。脳って言うのは増えたり減ったりするものじゃないよなあ。ということは人間の脳は生まれた時から常に100パーセントってことか?くそー!あのガキにまんまと騙された!」

「ちょっと、お巡りさん!」

「何ですか奥さん?私はお巡りさんではなくてザ・ガードマンです」

「なにマン?何でも良いけどちょっと来てくださいよ。さっきからこの辺に変なビジュアル系がうろついて、気味が悪いからちょっと見てきてくれない?あなた見た目がお巡りさんだから、きっとあの変なビジュアル系が見たらびっくりして逃げていくから」

「奥さん、何ですかその変なビジュアル系っていうのは?私はザ・ガードマンだから変質者を捕まえたりはしませんよ」

「まったく男のくせに頼りない人だねえ。警察を呼ぶからいいわよ。あなたも怪しいことしてると逮捕されるわよ」

「オレ、アメリカに行くことにしたよ」

「そうか、あれ以来キミはずいぶん変わったなあ。アメリカに行って事業でも始めるのか?」

「いや、観光旅行だよ」

「そうかあ。いいなあグローバルで」

「キミもたまにはグローバルしてみたらどうだ?」

「いやあ、ボクは地元で居心地がいいから」

「ローカルだなあ。キミは」

「ホントに。ローカルだよね。でもどっちにしろイニシアチブはアウトソーシングなんだよね」

「・・・。ボクらはあの店に行って、得したんだろうか?」

「どうだろう?基本はなにも変わってないような気もするけど」

「そういえば、今度あの店でビジュアル系、始めるらしいぜ」

「ホントか?ビジュアル系なら何とかなるかな?」

「何とかならないわけはないよ。なんせビジュアル系だぜ?」

「気になるお値段の方は?」

「百万円」

「うそー!」

「あなた・・・。あなた・・・。あなた・・・。ねえ、あなたってば」

「うわー!・・・何だ、キミか」

「あなた居眠りしながら、随分とうなされてましたけど。どうかなさいましたの?」

「いやあ。なんだかイヤな夢を見ていたような・・・」

「そんなことよりあなた。ビックリしちゃいますでしょ?」

「何が?」

「なにがって、□□の旦那さんが警察に捕まったって話よ」

「えっ、そうなのか?いったい何をしたんだ?その□□の旦那って言う人は」

「さあ、良く解りませんけど。これで□□の奥さんは形勢逆転ですわね。でも○○の奥さんもちょっと可愛そうになってしまいますわ。あれで大変だって時に、旦那さんが捕まってしまって。□□の奥さんはすっかりアメリカナイゼーションしてしまって、家の中を土足で歩き回ってるって噂ですのよ」

「アメリカナイゼーション?」

「まああなた、そんなことも知らないの?ちゃんと新聞を読まないからカタカナ語についていけないんですのよ」

「ちゃんと読んでるけど、そんな言葉は出てこなかったぞ」

「ウフフッ。あなたったら。また意地を張るおつもりなんですの?ウフフッ。ウフフフッ。笑ってしまいますわ」

「まあ・・・笑ってしまうかもねえ・・・」

「・・・」

「・・・」

「あら!あなた。あすこをご覧になって。ほら、飛行機雲」

「ああ、本当だ。あの形はどう見ても飛行機には見えないから、飛行機の形をした雲じゃないという意味での飛行機雲だね」

「あなた、いったい何をおっしゃってるの?あたくしは時々あなたのおっしゃってることが解らなくなりますのよ」

「そうなのか。でもまあ、仕方のないことかも知れないねえ」

「もう、またそんな意地悪なことをおっしゃる。でも、いいんですのよ。女はじっと耐えて幸せを手に入れるものですから」

「???」

「それよりもあなた。あの飛行機はどこへ行くのでしょうね?」

「さあ。九州かなあ」

「あなたは少しもグローバルになってくださらないのね。あたくし悲しくなりますわ」

「えっ!?そうか?じゃあ、アメリカかな」

「いいんですのよ。無理なさらないでも。あの飛行機はねえ。あたくしの夢を乗せて飛ぶのよ」

「・・・それで?」

「あたくしが夢から覚めるまで、いつまでもあの飛行機は飛び続けて決して着陸することはないんですのよ。まあ、ロマンティックですこと」

「ふーん。・・・ロマンティック・・・だねえ」

「あれー。あの店なくってるよ」

「ホントだ。せっかく貯金全部おろしてきたのに」

「なんでウフギ屋なんかになっちゃったんだろう?」

「キミ、それはウフギじゃなくてウナギって読むんだぞ。もしかして冗談で言ったのか?」

「えっ、これって『ふ』じゃないの?今までずっと間違えてたよ」

「まったく。よく今までその間違いを人に気付かれなかったねえ。もしかするとその人は気付いてたけど、キミに教えなかっただけかな」

「どうだろう?もしそうだったらそれは悲しいことだよね」

「それより、どうする?せっかく来たから記念に食べていく?『ウフギ』を」

「そうだね。せっかく来た記念と間違いに気付いた記念、ということでね」

「・・・あれ、扉が開かないぞ」

「よく見たら、準備中だって。何だ。今日はついてないな。これだったらアメリカ行っとけばよかったよ」

「しょうがないから、地元のファミレスにするか」

「また地元かよ・・・」

「あっ、店に誰か来たみたいだぞ」

「そんなことはありませんわ。あたくし今日はぼんやりしていたいから、お店には準備中の札を出しておきましたわ」

「何で、そんなこと。・・・そうか。だから最近、客が全然来なかったんだな」

「あたくしのせいじゃございませんのよ。あたくし、思うんですけど、そろそろうちでもウナギを始めたらどうなんですの?」

「それは出来ないよ。ウナギを出したらウフギ屋の意味がなくなるじゃないか。そんなことより店の方を見てこないと。誰か来たのは確かなんだから」

「向こうに行っても誰もいませんわ」

「どうして?」

「あれは、幸せがドアをノックした音ですのよ。でもあなたがぐずぐずしているからもう行ってしまいましたわ」

「なんだか解らないけど。とにかく見てこないとね」

「・・・」

「・・・」

「なんだ、誰もいなかったよ」

「ほら、言ったとおりじゃございませんか。それよりもあなた。あすこのベランダにいた人。タバコを吸い終わって部屋に入っていってしまいましたわ。あの方はきっと望遠耳なんてものを手に入れたことを少し後悔しているに違いありませんわ」

「そうかなあ。いろんな会話が聞こえてくるんだったら楽しそうじゃないか」

「そんなことはありませんわ。世間で交わされる会話のほとんどが、悲しくなるような話ばかりだということを、あなたはご存じじゃありませんの?」

「なんだか、キミもあの望遠耳というのを使ったことがあるみたいな言い方だねえ」

「あら。そう思いますの?あなたもいけないお人だこと。ウフフッ。ウフフッ。ウフフフッ」

 なんだか随分と長いこと立ち聞きをしてしまいました。でも今のところ私は結構この望遠耳を楽しんでいますよ。ですから一歩間違えるとPt.3もあるということです。もう飽き飽きですか?あなたも意地悪だこと。

 Pt.1とそれよりも前の「今週のリミックス」も復活させることにしました。読むと今回の内容がさらに深く理解できるかも知れません。(深く理解する必要があるかどうかは解りませんが。)下のリンクからどうぞ。


今週のリミックス

今週のミックスダウン Pt.1