望遠鏡は遠くの物を見るためのもの。望遠耳は遠くの音を拾います。望遠耳なんて聞いたことがないですと?私は持っていますよ。私の望遠耳はすごい。倍率は無限大。これを使うと街中の様々な会話が聞こえてきます。私はそんな会話を聞くのが大好き。というわけで、今週はリミックスせずにミックスダウンです。
「なあ、こっれってシャンプーだよなあ?」
「そうですよ、あなた。シャンプーですよ」
「だったらなんで飲み物ではありませんって書いてあるんだ?シャンプーって書いてあるんだからそんなこと書かなくったって・・・」
「そりゃ、あなたは飲まないかも知れませんが、飲み物ではありませんって書いていなくて、もし誰かが飲んで事故にでもなってしまったら、メーカーさんはとっても不利な立場に立たされてしまうのよ、あなた」
「そんなことはないね。不利になるのは逆に飲んだヤツだよ。そうだろ?だって、シャンプーを飲んじゃいけないってことが解らないぐらい頭が悪いことを証明しなくちゃいけなくなるんじゃないか?それにそんなに頭の悪いヤツに飲み物ではありませんって言ったって理解出来るわけがないじゃないか」
「いけませんわよ、あなた。あなた、それは屁理屈っていうやつですわよ。あなた・・・うふふふ。あなた・・・、あなた・・・」
「夢の終わりってどこだか知ってる?」
「それは、あきらめた時だろ」
「違うよ、それは将来の夢とかいうやつだろ。オレの言ってるのは寝てる時に見る夢の話だよ」
「なんだ、そんなの簡単だよ。目が覚めた時だよ」
「ホントにそう思うのか?」
「オレはいっつもそうだよ」
「さてはキミ、解ってないな。夢って言うのは終わらないんだぜ。アレは全部話がつながってるんだ。オレたちが夢から目を離してしまうから、そう思えないだけなんだぜ」
「夢から目を離すって、どういうことだよ」
「それはさあ、例えばテレビを見てる時にトイレに行きたくなったらトイレに行くだろ?そういうことだよ」
「・・・良くわかんないけど」
「とにかく、いろんなことを我慢してでも夢からは目を離さない方がいいんだよ。オレなんか自分で見る夢のストーリーかなり詳しく知ってるぜ、まあその代わりよくオネショはするけど」
「オネショ?汚いなあ。ジュースがまずくなっちゃったじゃないか。それにキミ今年でいくつになるんだ?オネショする大人なんて・・・。でも年寄りはオネショするって言うよなあ」
「そうだろ。あれは身体の器官が弱ってるからじゃないんだ。みんなそのくらいの歳になって夢に終わりがないことに気付くんだよ。それで・・・」
「トイレも我慢するわけだ」
「トイレだけじゃないぜ、オレなんかめったに起きないしな」
「へえ、それじゃあ夢のストーリーはそんなに面白いんだ」
「いや、そんなでもないよ。今こうして話してるのと大差はないね。でも時々空を飛んだり出来るけど」
「へえ、それってこんな感じか?」
「おっ、あいつ飛びやがった!」
「オレちょっと旅に出ることにしたよ」
「へえ、そうか。いいなあキミは旅行するヒマがあって」
「いや、今回はただの観光旅行じゃないんだ」
「出張か?」
「オレ、自分探しの旅に出るんだ」
「へえ、たいしたもんだ。それで、どこまで行くんだ?」
「アメリカだよ。あそこに行けばきっと自分が見つかる。そんな気がしてさあ」
「アメリカじゃなきゃダメなのか?」
「そんなこともないらしいよ。聞いた話じゃインドやアフリカで見つけた人も沢山いるよ。珍しいところではチベットなんかもあったなあ」
「その自分っていうのはアメリカのどこにあるんだ?」
「さあ。多分、自分屋さんかなあ?」
「自分屋さん?そんなのあるのか?それってお金出して買うのか?」
「解らない。地○の歩き方には載ってなかったけど。多分あると思うんだよね」
「本当かぁ?やめた方がいいんじゃないか。キミ英語喋れないんだろ。それに、治安は良くなったとはいえ、危ないところだってまだ沢山あるんだぜ」
「うーん。そうだよね。やっぱりやめた方がいいかなあ?」
「そうだよ、やめた方がいいよ。自分なんかわざわざ探さなくっても、オレはオレだしキミはキミだよ」
「そうだな。じゃあ今回も観光旅行にしよっと。東と西どっちがいいかなあ」
「オレだったら自由の女神だな」
「そうかあ、オレはハリウッドなんか良いと思うんだけどなあ。それから、あとイチローも見たいなあ」
「それいいねえ。やっぱ野球は本場で見ないとね。スピードとパワーが断然違うよ」
「なんだ、キミも乗り気になってきたなあ。なんだったら一緒に行くか?」
「よし、決めた。オレも行くよ、アメリカ。今度こそハードロックカフェの中まで入ってみせるぞ」
「そうだな。そうしたら頑張って英語で注文しような」
「うん頑張るぞ。始めはなんて言うんだっけ。アイムソーリーか?」
「いやいや、エクスキューズミーだろ」
「えー。違うだろ」
「あなた・・・。あなた・・・。あなた・・・。ねえ、あなたってば!」
「なっ、なんだ?ああ、キミか。ついうたた寝をしてしまったようだ」
「ねえ、あなた。飛行機雲」
「ああ、ホントだ。飛行機雲だ」
「飛行機雲って・・・。なんだか悲しい」
「う、うん。まあねえ。すぐ消えちゃうからねえ」
「いいえ、あなた。違うんですの。飛行機雲って、悲しいんですのよ」
「まあ、そうだねえ。悲しいねえ」
「まああなた!あなたはなんで飛行機雲が悲しいとおっしゃるの?」
「えっ!?それはまあ、悲しいじゃないか。何となく」
「うふふ、そうでしょ。悲しいでしょ、なんとなく」
「悲しいねえ、何となく。キミは、キミはなんで悲しいのか知っているのかい?」
「あなたっ!」
「な、なんだい?」
「うふふ・・・」
「どうしたんだ、急に?」
「飛行機は魂を乗せて飛ぶのよ」
「そりゃあ、人を乗せて飛ぶからねえ」
「あなたは、あの飛行機がどこへ行くか知っていらっしゃる?」
「さあ、アメリカかなあ」
「あの飛行機は・・・うふふ・・・あの飛行機は飛行機ではありませんのよ」
「???」
「あれは、あたしの夢見た未来」
「????」
「あなた、いけませんわよ。あなたまたぽっかりと口を開けて。うふふ・・。あなた・・・あなた・・・」
「はい、それじゃあ今学期の授業はこれでおしまい。みんな怪我や病気にはくれぐれも気を付けるんだぞ。それじゃあ、始業式で・・・」
「先生!ボクの通知票がまだなんですけど」
「ああ、キミの通知票。それならないぞ」
「ないって、どういうことですか先生」
「キミはまだ休めないってことだよ。どうしてだか、自分で解ってるだろ?」
「解りません先生。宿題も欠かさずやってきましたし、テストの点数だってちゃんと・・・」
「しらを切るのもいい加減にしろ!」
「な、なんですか急に」
「とぼけようったって、そうはいかないぞ」
「お前、身長はいくつだ?」
「身長ですか。176センチですけど」
「そうだろ。それでもまだとぼけるつもりか」
「何のことだかさっぱり解りません、先生」
「いいか、先生にはちゃんと解ってるんだ。お前、今学期始めの健康診断の時、座高の高さごまかしただろ」
「そんなことしませんよ、先生」
「なんで身長が176センチで座高が150センチもあるんだ?」
「しょうがないじゃないですか、本当なんだから」
「先生に口答えするとは何事だ!現代人ならもっと足が長いはずだろ。それをお前というヤツは」
「先生、信じてくださいよ。インチキなんかしてませんよ。見たら解るじゃないですか」
「見て解るなら健康診断なんかいらないんだ!お前がちゃんと座高を測るまで居残りだ!」
「・・・こまったなあ。こんな時に空が飛べたらなあ」
「さあ、みんなはもう帰っていいぞ。休みだからって、テレビゲームばっかりやるんじゃないぞ」
「先生、ボクも帰って・・・」
「あまったれるな!いいか、先生はお前が憎くてこんなことを言っているんじゃないんだぞ。解るだろ。お前が将来、悪い大人にならないように、お前のためを思って言ってるんだからな」
「じゃあ、先生は今まで一度も座高をごまかしたことはないんですか?」
「当たり前じゃないか」
「解りました、先生。これから保健室に行って座高を測ってきますから、先生も一緒に来てください」
「保健室?いや、だめだ。保健室はいかん」
「どうしてですか。ここじゃあ座高は測れませんよ、先生」
「保健室はまずいよ。保健室だけは・・・。よし解った。もう帰っていいぞ。通知票もやる。ほらっ。いやー、キミ。今学期もよく頑張ったねえ」
「先生、保健室でなんかあったんですか?」
「うるさい!もういいからさっさと帰れ!」
「よし、とうとう完成だ」
「やりましたね、博士。長年の苦労がやっと報われます。ところで、何が出来たんですか?」
「なんだ、キミはわけも解らず今まで私を手伝ってきたのか?まあいいだろう。これは遺伝子操作によって作られた虎と馬のあいのこだよ」
「そうなんですか」
「こいつを人間の心の奥底に住まわせる。そうするとなんでもない日常生活が、なんだかとってもスリリングなものになってしまうんだ!」
「博士。それはダジャレですか?」
「まあね」
「そういうことがあってから、保健室には幽霊がでるってことで誰も近づかなくなったらしいぞ」
「え?何が?」
「なんだよ。今の話聞いてなかったのか?」
「いや、聞いてたけど良く理解出来なかったんだよ」
「キミ、もしかしてシャンプーとか飲んでるんじゃないか?アレのみ過ぎると人の話が理解出来なくなるっていうぜ」
「いやいや、そんなことはないよ。シャンプーは飲み物じゃないからね」
「そうだよな。でも時々いいにおいのするシャンプーって美味しいんじゃないかって思うよな」
「それはどうだろう。子供用の歯磨き粉は美味しいけど」
「やっぱりそんなもん飲んでるから」
「歯磨き粉はシャンプーとは違うよ。あれは飲んでもいいんだよ」
「飲んでいいのは子供だけだよ。キミはもう大人なんだからダメだよ」
「なんで大人はダメなんだ」
「大人は落ち着いてるだろ。だからめったなことで泡を食わない」
「なんだそれ?」
「駄洒落だよ」
「へえ。どこが?」
「あなた・・・。あなた・・・。あ・な・た!」
「ん?なんだい」
「あなた、どうしたんですの?また殺虫剤みたいに口を開けていらしたわ」
「殺虫剤?・・・いや、ちょっと考え事をしていたんだ」
「あなた。あなたには嫌な思い出ってありますの?」
「嫌な思い出か?」
「そう、今までで一番嫌な思い出」
「そうだなあ、思い出したくもないからなぁ」
「あたしは保健室」
「保健室で何か嫌なことがあったのかい」
「いいえ、あたしは保健室のニオイが大好きでしたの」
「そうか、それで嫌な思い出の話はどうなったんだ?」
「うふふ、あなたも強情だこと」
「そ、そうか?強情か?」
「そうですわよ、あなた。あなたがそんなに意地を張っていると、あたしまた空き缶になってしまいますわよ」
「空き缶になるのか?」
「あたしが空き缶になってしまったら、あなたどうするおつもり?」
「どうするといわれてもなあ」
「あたしが空き缶になってしまったら、あなたお困りになるでしょう?そうしたら、あなたも空き缶になってしまう?」
「まあねえ。なってしまおうかなあ」
「もう。意地悪なんだから。あたしもう知りません!」
「えっ。なんで怒ったんだ?」
「うふふ。怒ったふりですよ。あなた。うふふ。あなた・・・。あなた・・・。あなた・・・」
「えー、みなさんよろしいでしょうか?今までの講義で説明してきたように、時に人間というのは決して現実のものになって欲しくない理想を心に抱いてしまうのです。みなさんにも経験があるかと思いますが、幼い子供はお風呂に入っていて無性に石けんを食べてみたくなったり、シャンプーを飲んでみたくなったりするものです。しかし、そういったことを経験した子供が大人になっても誰一人として美味しい石けんやシャンプーを作ろうとしない。つまり、それが現実化したくない理想なのです。石けんやシャンプーは理想の中でだけ美味しければいいのです。解りましたか?それでは次の講義までに美味しい石けんと美味しいシャンプーの作り方についてのレポートを提出するように。はい、なんですか?質問ですか?どうぞ」
「理想的な保健室のニオイについて質問なんですけど。理想的な体育倉庫のニオイを導き出す公式と理想的な保健室のニオイを導き出す公式の違いはどこにあるのでしょうか?」
「うん、そこは間違いやすい所だからな。みんなも良く聞いておくように。体育倉庫の場合、ニオイNは爪のアカを指しているのに対して、保健室の場合のNはへそのゴマを指しているんだ。つまり、体育倉庫の場合Nの数値を算出するためにはEの二乗掛ける底辺掛ける高さ割る2。体育倉庫の場合はEのマイナス二乗掛ける括弧上底足す下底括弧閉じ掛ける高さ割る2、となるねえ。解りましたか?」
「はーい」
「それじゃあレポートを忘れないように。次からは遺伝子組み換えに入るぞ」
「しまった!また目を離しちまった!」
「父さん、ボクお腹空いた」
「うん、そうだな。そろそろ飯にするか。今日はお前の好きなものでいいぞ」
「ボク、ウフギがいい」
「うふぎ?ウフギってなんだ?」
「ほら、あそこのお店。ウフギって書いてあるよ」
「ああ、あれか。あれはウフギじゃなくて。ウナギって読むんだぞ」
「へえ、そうなんだ。父さんはすごいな。なんでも知ってるんだ」
「よし、今日は特別だ。うな重にするぞ---」
「いらっしゃいませ。お客様、何にいたしますの?」
「うな重を二つくれ」
「うな重?申し訳ないんですけど、うちではウナギはあつかっていないんですのよ」
「えっ、そうなの?でも外にウナギって書いてあったけど」
「そんなこと、書いてやしませんよ」
「じゃあ、困ったなあ。ウナギがないんじゃこの店に入った意味がないんだよ」
「だったら、お客様。ウフギはいかがですか」
「ウフギ?」
「そうですのよ。うちはウフギ屋。ウフギが命ですの。うふふ。どうしますか、お客様。ウフギになさいます?」
「父さん、やっぱりウフギじゃないか」
「うるさい。お前は黙ってなさい」
「どういたします。ウフギになさいますの?とっても美味しいですわよ」
「父さん。ボク、ウフギが食べたい」
「そうか、じゃあ父さんもウフギにするか。そのウフギってやつを二つお願いするよ」
「ウフギを二っつですね。うふふ・・・。あなた、ウフギを二っつ!特上でね」
「いやいや、特上じゃないよ!」
「あなた・・・。あなた・・・。聞こえていらっしゃるの?あなた・・・。うふふ。ウフギを二っつ、特上ですのよ。あなた・・・。あなたってば!」
というわけで今週の「今週の・・・」はどうでしたか?面白いと思った方はきっと上に書いた話と同じような経験をしてきた方かも知れません。私は時々面白いと思いました。以上来週は何にいたしましょうかねえ?あなた・・・。あなた・・・。
「今週のリミックス」