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#069 「ロブ・サンタ」 2005-12-21 (Wed)

誰のところにも平等にクリスマスはやって来る。しかし誰のところにもサンタがやって来るとは限らない。特に彼らのところには変なのが沢山やってくる。

 ということで今年もやっぱりサンタの話をすることになりました。これまでの話を全部読んだ方がいいのですが、大変なので「サンタねたとその周辺の歴史」にだいたいのあらすじが書いてあります。今回は特にあらすじを知らなくてもなんとか理解出来るはずですが、今後の展開次第では必要になるかもしれません。さらに今回は解りやすいように注を付けることにしました。きっとこれで何とかなるでしょう。

 それでは、今年もサンタの話の始まり始まり。

(ゴールドバージョンはCM満載の本家バージョンと一部内容が異なります)


上の注意書きはLittle Mustapha's Black-holeがSilverバージョンとGoldバージョンに分かれていた時に書かれたものです。二つが統一された現在の PlatinumバージョンではGoldバージョンの方を掲載します。

1. ブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)


 いつものようにブラックホールメンバー(Little Mustapha、ミドル・ムスタファ、ニヒル・ムスタファ、Dr.ムスタファ、マイクロ・ムスタファの五人)が集まっています。今年も来るのか殺人サンタ。それとも今年こそ本物のサンタが彼らにプレゼントの山を与えてくれるのでしょうか。


Little Mustapha-----みんな集まったみたいだね。それじゃあ始めようか。

ミドル・ムスタファ-----始めるって何を始めるんですか?今年はなんにも打ち合わせしてないけど、これでサンタからプレゼントを奪うことが出来るんですか?

Little Mustapha-----何言ってるんだよ。それをこれから考えるんじゃないか。今日はみんなそのために集まったんだろ?

ニヒル・ムスタファ-----これからって、もう夜までほとんど時間がないぜ。

Dr.ムスタファ-----そうだぞ。それにキミはちゃんとサンタに手紙を出したんだろうな。今年こそは本当のサンタに来てもらわんと。

Little Mustapha-----どうしたんだ?みんなそんなに焦って。時間はまだまだ沢山あるじゃないか。だから手紙もまだ出してないよ。…えーと、締め切りまではあと何日だっけ?

ミドル・ムスタファ-----もうとっくに過ぎてますよ。

Little Mustapha-----え!?だって今日は…

ニヒル・ムスタファ-----今日はクリスマスイブだぜ。

Little Mustapha-----ホントに!?どおりで寒いと思った。ボクはまだ11月だと思っていたよ。

ミドル・ムスタファ-----たまにはカレンダーとか見たらどうですか。そこにかかってるカレンダー、まだ一月のままじゃないですか。良く一年間こんな正月気分の絵柄を掛けておけましたねえ。夏に見たら変な気分になりませんか?

ニヒル・ムスタファ-----そんなことはどうでもいいだろ。それより手紙はどうするんだよ。

Dr.ムスタファ-----そうだぞ。わしらはキミが今年も手紙を一括して送ってくれると思って「欲しいものリスト」をキミに渡していたはずだぞ。

ミドル・ムスタファ-----あなたのせいでまた一年間待たなくちゃいけないじゃないですか。

Little Mustapha-----そんなこと言うなよ。だいたいキミ達が人にまかせっきりだからいけないんだよ。たまには自分でサンタさんに手紙出したらどうなんだ?

ニヒル・ムスタファ-----この年でサンタに手紙を出すなんて恥ずかしいことが出来るのはキミしかいないのさ。

Little Mustapha-----そうなのか。それじゃあしょうがないなあ。でも今年はもう無理だねえ。電報なら間に合うかなあ?

Dr.ムスタファ-----無理だよ。もうやつはサンタの国を出発して仕事を始めてる頃だよ。

ミドル・ムスタファ-----でも、なんとかしてサンタをよばないと。プレゼントはもらえませんよ。ボクはまた一年も待つなんていやですよ。

マイクロ・ムスタファ-----それはどうでしょうか?

一同(マイクロ・ムスタファ以外)-----なんだ、キミいたのか!?

マイクロ・ムスタファ-----ええ、まあ。今年は正真正銘の私(*1)ですけど…。それで、私は思うのですが、今年はおとなしくしていた方がいいのではないでしょうか。今日は普通にパーティーをして盛り上がりませんか?

Little Mustapha-----ボクは酒が飲めればそれでいいけど。


 パーティーとか盛り上がるとかが一番似合わないマイクロ・ムスタファの提案にLittle Mustapha以外は不満そうでしたが、他に良いアイディアも浮かばないので渋々彼の提案を受け入れました。Little Mustaphaは嬉しそうに酒を飲むコップを取りに台所へ向かいました。


注1:前年ここにいたのはマイクロ・ムスタファではなくマイクロ・ムスタファに姿を変えた天使だった。本物は体調不良のため自分の家で寝ていた。(戻る

2. 新宿にあるデパート


 クリスマスイブのこの日、デパートには駆け込みでプレゼントを買いに来た客や今日だけは欧米気取りで高級ワインやシャンパンを飲もうと買い物に来た客で大にぎわい。オモチャ売り場では子供達がウジャウジャいて次から次へとオモチャの棚を見て回っている。買ってもらう物は決まっているのにオモチャ売り場に来ると他のオモチャに目移りしてしまって、いつまでも売り場から動こうとしません。子供を連れてきた大人達はうんざりしてこの様子を見ていました。

 その売り場にサンタが一人現れました。サンタは片足を引きずりながらよたよたと売り場の方へ近づいてきます。そして少しするとその場に立ち止まりボーっと中空を見つめていました。何人かの子供達はこのサンタに気付いていましたが、なんだか薄気味の悪いこのサンタには近づこうとしませんでした。

「ママー。あのサンタ、なんだか臭いよ」

一人の子供がここへやって来たサンタのニオイに気付きました。子供に言われた母親がサンタを見ると、それはどうやら普通の人ではないようでした。外の寒さのためでしょうか、薄汚れた顔は紫がかっていて伸ばし放題の髪の毛はベトベト。おまけにニオイまで発している。母親はすぐに近くにいた店員に言いました。

「ちょっと。なんとかしていただけるかしら。店の中に浮浪者が入って来ていますよ」

店員はすぐに警備員を呼びました。警備員が来る頃には大人達が子供をサンタから遠ざけていました。サンタの周りには広い空間が出来てその周りを取り囲むようにして客や店員達がサンタの方をまるで大道芸でも見るようにして見守っていました。

 そこへやって来た警備員。こんなに大勢が見ている前に出るなんて始めて。格好いいところを見せないといけません。がちがちに緊張した警備員がサンタに向かって言いました。

「おい。私はザ・ガードマン(*2)だ。みなさんの迷惑になるから今すぐに出ていってくれませんか」

ザ・ガードマンこと警備員の声が聞こえていたのかどうか知りませんがサンタは突っ立ったまま動こうとしません。みんなに見られているザ・ガードマンはこのままでは自分の立場がないのでなんとかしないといけません。

「おいそこのフロウサシャンタ!」

緊張していたザ・ガードマンこと警備員は上手く発音出来ませんでした。本当は「浮浪者サンタ」と言いたかったのに。

「おいそこの浮浪者!」

ザ・ガードマンこと警備員は上手く発音出来なかった恥ずかしさで、もうここで見ている客達に格好いいところを見せようなんて気は少しもなくなっていました。早くここからこのサンタを連れて出ていきたい。

 ザ・ガードマンこと警備員がサンタの腕をつかもうとするとザ・ガードマンは手にぬるっとしたものを感じました。自分はサンタの腕をしっかりとつかんだつもりがそのヌルヌルのせいでつかめませんでした。ザ・ガードマンが自分の手を見るとサンタの腕のヌルヌルの正体がありました。そこにはぐちゃっとした、悪臭を放つ薄い膜のようなものがありました。それを見てザ・ガードマンはそれが何なのか解りませんでしたが、もしかするとこれがこの浮浪者の腕の皮膚だったら…と思って彼はサンタの腕の方に目をやりました。

 ザ・ガードマンがつかもうとしたサンタの腕からはドロドロの体液のようなものが流れ出して指先の方へと流れています。よく見るとサンタの腕はカビの生えたミカンのような気味の悪い鼠色をしていました。

 ザ・ガードマンはこの浮浪者サンタが恐ろしい皮膚病にでも罹っているのではないかと思い慌てました。もしも病気がお客さんに感染してしまったら大変なことになります。ザ・ガードマンは、今度は腕ではなくサンタの服をつかむと出口へと引っ張っていこうとしました。するとその時です。サンタはザ・ガードマンの腕を目がけて倒れ込むように顔を近づけてきました。そしてサンタの目の前にザ・ガードマンの腕が来ると、サンタは腕に噛み付きました。もの凄い力で噛み付かれたザ・ガードマンは思わず悲鳴をあげました。

「何をするんだ。この○○め!」

ザ・ガードマンがサンタを突き飛ばすとサンタはどしんと音を立てて後ろに倒れました。サンタに噛み付かれたザ・ガードマンの腕には骨が見えそうになるくらいのひどい傷が出来ていました。自分の傷を見て驚いたザ・ガードマンは動けなくなってしまいました。警備員とはいえ大して強くもないザ・ガードマン。サンタがむっくりと起きあがると再びザ・ガードマンの方へ近づいてくるのにも気付いていません。それを見ていた客達は半ばあっけにとられていましたが、その中の男性客と男性の店員が慌てて飛び出すとサンタを両脇から捕まえて暴れないようにすると店の外へと連れて行きました。

 ザ・ガードマンは血の流れる腕を押さえながら警備員の事務所へと戻って行きました。


注2:[豆知識]このザ・ガードマンを名乗る男は#030「今週のミックスダウン Pt.2」にも登場する。(戻る

3. ブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)


 まだ夕方だというのにLittle Mustapha達はクリスマスパーティーという名の酒飲み大会を始めていました。


ミドル・ムスタファ-----サンタが来ないと知っているとゆっくり出来ていいですね。

ニヒル・ムスタファ-----そんなことよりさっきから流れている音楽はなんだ?全然この部屋に似つかわしくないぜ。

Little Mustapha-----そりゃいつもはズンドコいってるからね。でも今日はクリスマスだからこれにしたんだよ。

Little Mustapha-----スペインの歌姫、Princessaだよ。まあ、ちょっと古いけどねえ。いい感じでしょ。

ミドル・ムスタファ-----予想と違うとなんか調子が狂っちゃいますよ。私はいつものようにドカドカいってる音楽を流すのかと思ってましたけど。

Dr.ムスタファ-----うるさいのよりはずっと良いんじゃないか?

ニヒル・ムスタファ-----先生はジャケットの写真が気に入ってるんだろ?

Little Mustapha-----谷間の魅力には誰も勝てないってことだね。

4.


 Little Mustapha達が酒を飲んで盛り上がっているとブラックホール・スタジオの呼び鈴がまりました。今日はサンタを呼んでいないのでここにはもう誰も来るはずがありません。一同、多少困惑した感じでお互いの顔を見合わせています。


ミドル・ムスタファ-----誰か来ましたね。

ニヒル・ムスタファ-----まさか、また殺人サンタ(*3)が来たんじゃないだろうな。

Dr.ムスタファ-----どうでもいいが、出てみたらどうなんだ。

Little Mustapha-----そうしようか。じゃあいつものようにこのハンズフリーフォンで。これで玄関先と話が出来るんだ。ってどうしてこんなに詳しく説明してるんだボクは?


Little Mustaphaが詳しく解説しながらハンズフリーフォンのボタンを押して玄関先の客人と会話を始めました。


Little Mustapha-----はい。どなた?

玄関先-----警察のものです。Little Mustaphaさんですね。事件の捜査に協力していただきたいのですが。

Dr.ムスタファ-----おいキミは何か悪いことでもしたのか。

ミドル・ムスタファ-----捜査に協力を、って言ってましたから別に捕まえに来たわけじゃないようですよ。

Little Mustapha-----そうだね。ボクも警察って聞いた時には「やばい」って思ったけど。面白そうだから協力してみようか。

ニヒル・ムスタファ-----それはどうかな。もしかすると警察のフリをした強盗かなんかかも知れないぜ。

ミドル・ムスタファ-----それはちょっと厄介ですねえ。

玄関先-----おい、キミ達。その会話全部こっちに聞こえてるぞ。私はちゃんとした刑事だ。殺人課のニコラスだ。

Little Mustapha-----ニコラス刑事!?

ミドル・ムスタファ-----それはLittle Mustaphaの書いた話(*4)に出てくる人と同じですねえ。

ニヒル・ムスタファ-----もしかすると映画に出てる本物の方かも知れないぜ。

一同(マイクロ・ムスタファ除く)-----ワハハハハ!

マイクロ・ムスタファ-----みなさん、ちょっと待ってください。

ミドル・ムスタファ-----なんですか。深刻な顔して。

マイクロ・ムスタファ-----これはきっとサンタです。みなさんは知らないのですか?サンタクロースの本当の名前はニコラスだと言うことを。セント・ニコラスがいつしかサンタクロースと呼ばれるようになったんですよ。彼に協力したら何かとてつもない…

ニコラス刑事-----おい。そんな豆知識はどうでもいいから早く中に入れてくれよ。寒くて凍えそうだ。

Little Mustapha-----はいはい。ドアには鍵がかかってないから勝手に入ってきていいよ。


 Little Mustaphaはニコラス刑事がどんな人なのかどうしても知りたかったので彼を家の中に入れてしまいました。Little Mustaphaの書いた話に登場するニコラス刑事がここへやって来たのなら、それは若い二枚目の刑事であるはずです。しかし、部屋に入ってきたのは年老いたみすぼらしい感じのする刑事でした。Little Mustaphaはなんとも言えない感じがしていました。

 部屋に入ってきたニコラス刑事の目に止まったのは部屋に散乱しているカラのウィスキーの瓶でした。


ニコラス刑事-----これ、キミ達だけで飲んだのか?

Little Mustapha-----そうだよ。それにしてもおじさん本当に刑事なの?なんだかボクの想像と違ってガッカリだなあ。

ニコラス刑事-----人の顔を見てガッカリとは失礼な。

ミドル・ムスタファ-----それよりニコラス刑事さん。捜査って何の捜査なんですか?

ニコラス刑事-----おう、そうだった。私は去年のクリスマスイブにおこった連続殺人事件の捜査をしているんだ。キミ達は犯人を見たんだろ?

Little Mustapha-----あれ?あの犯人ってまだ捕まってなかったの?

ニヒル・ムスタファ-----それにどうして一年後になってオレ達のところにやって来るんだよ。普通は事件のすぐあとに来るはずだろう?

ニコラス刑事-----犯人を捕まえたことは捕まえたんだが、どうも私には真犯人がいるような気がしてねえ。独自に捜査をしているんだよ。

Little Mustapha-----でもねえ、ニコラス刑事さん。せっかくだけど、ボクらは去年もしこたま飲んでいたから、あの日の記憶は全然ないんだ。なんだか妙に怖い思いをしたことは覚えてるけど。

ニコラス刑事-----もう少しは覚えてるだろう。何でも良いから聞かせてくれないかなあ。

Little Mustapha-----覚えてないものは話せないよ。作り話なら出来るけど、考えるのにはちょっと時間がかかるよ。面白いオチは簡単に思い浮かぶものじゃないしね。それよりもニコラス刑事さんも一緒に飲んでいかない?

ミドル・ムスタファ-----それはいい考えですね。ボクらの話を聞くより、解りやすいかも知れませんよ。これまでの経験から言えば今日ここに殺人サンタがやって来る可能性は大いにありますから。

Dr.ムスタファ-----「木を見て森を見ず」ってやつだな。

ニコラス刑事-----???。まあそうするかな。

Little Mustapha-----それじゃあカンパーイ!

ニコラス刑事-----「カンパーイ」って。このウィスキーこのまま飲むの?水とか氷とかは?

ミドル・ムスタファ-----何を言っているんですかニコラス刑事さんは。クリスマスなんですよ。

ニコラス刑事-----全然理由になってないけど。まあいいか…


(「それを言うなら百聞は一見にしかず」だ。マイクロ・ムスタファは心の中でDr.ムスタファに突っ込んでいた)


注3:Little Mustapha達はこれまで二度サンタの恰好をした殺人鬼に命を狙われている。(戻る

注4:the Peke Files エピソード#002「猿軍団」に登場する刑事。詳しくは「猿軍団」本編を読んでください。(戻る

5. 1時間後のブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)


Dr.ムスタファ-----…というわけで、この実験が成功すれば人間が透明になることが出来るんじゃよ。

ニコラス刑事-----ほう、それは素晴らしい!

ニヒル・ムスタファ-----そんなの嘘に決まってるじゃないか。騙されちゃいけないぜ。

Dr.ムスタファ-----またキミはそんなことを言う。わしの研究は全て…。

Little Mustapha-----まあまあ。そんなことはみんな知ってるから大丈夫だよ。でも、本当に透明人間になれるんだったらボクが実験台になってもいいけどね。ところで、今年はなんか物足りなくない?

ミドル・ムスタファ-----そう言われるとそうですねえ。謎の電話(*5)もかかってこないし、プリンセス・ブラックホールからの留守番電話(*6)もないですねえ。あれがないとなんだか盛り上がらない。

Little Mustapha-----と、ここでマイクロ・ムスタファが電話の伝言ランプが点滅していることに気付く、となったらいいんだけどねえ。

マイクロ・ムスタファ-----私もさっきから期待してるんですけど、電話には何の変化もありません。

Little Mustapha-----つまんないからテレビでも見てみようか。どうせつまんない番組しかやってないだろうけど。


 テレビをつけるとどのチャンネルもニュースしかやっていません。どうやらどこも同じ事件を報道しているようでした。


キャスター-----それではここで現場の様子を伝えてもらいましょう。新宿の現場に人気女子アナ、ウッチーこと内屁端アナウンサーがいます。ウッチー、現場はどうなっていますか?

内屁端-----ハーイ。現場のウッチーでーす。先ほどからデパートを占拠している謎のサンタ集団ですが、依然としてデパートの中に立てこもったままで、彼らが何者なのか、そして彼らの目的が何なのかということはまだ明らかになっていません。デパートの方から漂ってくる悪臭だけが次第に強くなっていくだけで、他に進展はないようです。デパート周辺には警察、そして機動隊がバーってなってて緊急事態に備えているという状態です。

キャスター-----そうですか。そのサンタ集団はどうやってデパートに入り込んだのでしょうか?

内屁端-----はい。先ほどデパートから脱出することに成功した店員にインタビューをしたところ、サンタ集団が現れる一時間ほど前に一人の浮浪者サンタが店内に入り込むという騒動があったということですが、それ以外にあれほど大量のサンタが店内に入り込むということはなかったそうです。それからサンタはみな夢遊病のような感じでふらふらとただ歩いているということです。

キャスター-----それは、いったいどういうことですか?

内屁端-----こういうことですよ。デパートの中で自然発生してそれがどんどんガーってなっていったんです。ちょっと考えればわかることですよ。

キャスター-----普通の人はそんな風には考えませんが…。まあいいでしょう。ありがとうウッチー。また何か動きがあったら伝えてください。…いやあ、恐ろしい事件ですねえ。それにしてもデパート内に残された人々の安否が気になります。コメンテーターのキム・裸太郎さんはこの事件をどう思いますか。

裸太郎-----こういった事件というのは以前にもなかったわけではありません。アメリカやヨーロッパでは七十年代から何度も似たような事件が起きていました。そして八十年代には香港、台湾でも繰り返しこういった事件が起きていたのです。興味深いのはこういう事態に陥った時に最終的な避難場所となるのがデパートというのがこれまでの定説となっていたのですが、今回はデパートが事件の中心となっていることです。今回の場合、政府が即急に対応しなければ…

内屁端-----新しい情報が入りました!やっぱり私の説は間違いではなかったようです。先ほどとはまた別の店員に聞いたところ、浮浪者サンタの侵入事件の時に浮浪者に噛み付かれた警備員がいたそうです。その警備員が噛み付かれた傷口はしばらくすると腐っていきそれは瞬く間に体中を腐らせてしまったというのです。

キャスター-----ホントですか?嘘でしょウッチー。

内屁端-----嘘じゃありません。しかもまだ続きがあります。警備員は体中が腐っても死なずに生きていたそうなんです。そして驚くべきことに、腐敗が進行すると伴に着ていた服がサンタの服に変わっていったということです。つまりこういうことです。その警備員が感染した恐ろしいウィルスがデパートでバーって広まったんです。それしか考えられません。だから中にいる腐ったサンタは全員デパートの店員と客なんです。

キャスター-----面白い意見ですがそんな思いつきの考えはテレビで言うのは控えた方がいいですよ。キムさんはどう思いますか?

裸太郎-----面白い考えではあります。もし本当ならデパートは占拠されたのではなく、良識のある人間によってウィルスを広めないよう内部から閉鎖されたということでしょう。気を付けなければいけないのは、彼らの人間としての感覚がいつまでもつかという…

内屁端-----あっ、ちょっと待ってください。今、デパートの出入り口が開いて中からサンタが出てくるようです。みなさん見てください、大量の腐ったサンタがボーっとしてダーってなって出てきます。現場が混乱してガーってなってますが、ウッチーはなんとかしてサンタにインタビューしてみます。


 ウッチーは腐ったサンタにインタビューしようとデパートのほうへ向かったのですがすぐに警官に止められてしまいました。それでも何とか警察の静止を振り切ろうとしていたウッチーですが周りの野次馬やその他の報道機関の人間などがどんどんデパートの方へ押し寄せてきてバーってなって映像がガーってなってきたので画面はスタジオに切り替えられてしまいました。

 Little Mustaphaはここでテレビを消しました。


ミドル・ムスタファ-----なんだかまた変な事件が起こったようですねえ。

Little Mustapha-----あんなのやらせに決まってるだろ。最近のテレビは全部やらせなんだよ。

Dr.ムスタファ-----でもどのチャンネルも同じ事件やってただろ。もしかして本物なんじゃないか?

ニヒル・ムスタファ-----先生、クリスマスなんだぜ。

Dr.ムスタファ-----ああ、そうだった。

ニコラス刑事-----おいおい、またそれで納得しちゃうのか!?

マイクロ・ムスタファ-----ニコラス刑事さんはどう思うんですか?

ニコラス刑事-----ん?キミは誰だ?

マイクロ・ムスタファ-----マイクロ・ムスタファです。影が薄くてすいません。(*7)

ニコラス刑事-----ああ、そうなのか。私も嘘だと思うよ。あんな事件はあり得ない。でももう少しウッチー見てたかったなあ。カワイイよねえあの子。

一同-----別に…(*8)

ニコラス刑事-----えっ、そうなの!?私だけ?


注5:これまでLittle Mustapha達が集まると必ず彼らに恨みを抱いている何者かが彼らに電話をかけてきていた。(戻る

注6:プリンセス・ブラックホールはどこで聞いたか知らないが毎年クリスマスに彼らが集まっていることを知っていて、自分を呼ばなかったことに対する怒りのメッセージをLittle Mustaphaの留守番電話に残す。しかし、Little Mustapha達は誰一人として彼女の連絡先を知らない。ちなみにプリンセス・ブラックホールはここにいます。(戻る

注7:マイクロ・ムスタファは影が薄すぎてその存在に気付いてもらえないことが良くある。(戻る

注8:[豆知識]ブラックホールに女子アナブームが来たことはまだない。(戻る

6. 更に1時間後のブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)


Dr.ムスタファ-----…というわけで、この実験が成功すれば何でも透けて見える眼鏡を作ることも可能なんじゃよ。

ニコラス刑事-----ほう、それは素晴らしい。

ニヒル・ムスタファ-----そんなの嘘に決まってるじゃないか。全部先生のスケベ妄想だよ。

Dr.ムスタファ-----何を言うんだ!私の研究はエロのためにあるんじゃないぞ!

Little Mustapha-----まあまあ。でも何でも透けて見える眼鏡ならもうボク持ってるよ。

一同-----ホントに!!

Little Mustapha-----嘘だよ。それよりも、大事件だよ。酒がなくなっちゃった。

ミドル・ムスタファ-----え、もうないんですか?あんなに買ってあったのに。

Dr.ムスタファ-----それじゃあ買いに行かんとな。誰が行くんだ?

ニヒル・ムスタファ-----それは一番たくさん飲むLittle Mustaphaが行くべきだぜ。

Little Mustapha-----イヤだよ。外は寒いもん。ここはものまね大会で一番似てなかった人が行くことに…


 怪しいものまね大会が開かれようとしている時でした。ブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)の扉が静かに開いて誰かが入ってきました。Little Mustapha達が扉の方を見るとそこには一匹のトナカイがいました。

「こんばんわー。トナカイです」

トナカイは低くこもった眠そうな声でLittle Mustapha達に挨拶しました。

「こ、こんばんわ。オグラ・ユーコです」

突然、喋るトナカイがやって来たことに驚いたLittle Mustaphaはものまねキャラ(*9)のまま挨拶してしまいました。


トナカイ-----ごめんなさい。ビックリさせてしまいましたか。玄関に鍵がかかってなかったんで勝手にあがってきてしまいました。

Little Mustapha-----いや、そうじゃなくて。どうしてトナカイなんだ?ということにみんな驚いているんだけど。

トナカイ-----だってクリスマスじゃありませんか。

一同-----まあ、そうだけどねえ…。

トナカイ-----今日はみなさんにサンタのおじさんからお届け物があります。はいこれ。サンタの国のサンタの酒。(*10)

Little Mustapha-----わあ、すごいグッドタイミング!

ミドル・ムスタファ-----でもどうしてサンタのおじさんはこんなものをくれるんですか?

トナカイ-----今年はあなた達からの手紙が来なかったもんで、もしかするとあなた達にサンタを信じる心がなくなったんじゃないかって。サンタのおじさんはたいそう心配されてました。それでみなさんにサンタを信じる心を取り戻してもらうために酒をプレゼントというわけです。

ニヒル・ムスタファ-----酒じゃなくてオレ達の欲しいプレゼントをくれたら絶対にサンタのことは忘れないぜ。

Little Mustapha-----それは言えてるねえ。アルトサックスはいつになったらくれるんだ?

トナカイ-----そんなことは言わずに、みんなで楽しく飲みましょうよ。私もつきあいますから。

ミドル・ムスタファ-----トナカイさん。ホントはあなたが飲みたかっただけなんじゃありませんか?

Dr.ムスタファ-----せっかく来たんだから飲んでいったらよかろう。

Little Mustapha-----なんだか今年はいろんなのが出てくるなあ。そう言えばニコラス刑事さん。仕事は?

ニコラス刑事-----ああ、それなんだけどねえ、もう殺人サンタは出てきそうにないからこのままここで飲むことにするよ。実を言うとね私が殺人サンタに関する色々な情報をキミ達に聞かせることになってたんだけど、文字数の関係でそこは削除することになったらしいから。

Little Mustapha-----なんだそれ?まあいいか。


注9:Little Mustaphaはオグラユーコのものまねが得意ということになっている。#063「TENNESIE」でそのものまねが披露されている?(戻る

注10:二年前にLittle Mustaphaの部屋にやって来たサンタは大量の酒をおみやげに持ってきた。このトナカイはその時に来たサンタのそりを引いているトナカイであると思われる。(戻る

7.

また更に1時間後。ブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)


Dr.ムスタファ-----…というわけでこのクスリの開発が成功すれば、飲んだ人はたちまちギターが弾けるようになって女の子にモテモテになれるんじゃ。

ニコラス刑事-----ほう、それは素晴らしい!

ニヒル・ムスタファ-----そんなの嘘に決まってるだろ。先生はスケベなことばっかり考えてるから…

Dr.ムスタファ-----何を言うんだ!私の研究は全て人類の…

Little Mustapha-----まあまあ。そうおこらないで。でもギター弾けるだけじゃ女の子にもてないよ。

ニヒル・ムスタファ-----なんだ、そうなのか。

ミドル・ムスタファ-----何でニヒル・ムスタファがガッカリするんですか?

Dr.ムスタファ-----キミが密かにギターを練習しているっていう噂は本当なのか?

ニヒル・ムスタファ-----それはどうでもいいことさ。ところでさっきのニュースがどうなったのか知りたくないか?

ミドル・ムスタファ-----上手く話をそらそうとしてますねえ。

Little Mustapha-----でもニュースの続きも気になるなあ。まだやってるかなあ。


 Little Mustaphaはテレビを付けましたがどのチャンネルも映りません。砂嵐やカラーバーが表示されるだけです。


Little Mustapha-----あれ、おかしいなあ。まだ放送終了の時間じゃないだろ。

ニコラス刑事-----そうだな。まだ放送終了には早すぎる。それに全部映らないなんてことはあり得ないぞ。

トナカイ-----クリスマスだからじゃありませんかねえ。

ニヒル・ムスタファ-----それはないね。クリスマスだからこそいつもより力を入れて放送しないとテレビじゃないぜ。

Little Mustapha-----なんかつまんないなあ。

ミドル・ムスタファ-----ラジオはどうですかねえ?テレビであれだけやってたんだからラジオでもやるでしょう。


 Little Mustaphaはラジカセを持ち出してスイッチを入れました。選局用のつまみをグルグル回してみましたが聞こえてくるのはノイズだけです。


Little Mustapha-----あれ。ラジオもダメみたいだな。AM局は全部受信出来ない。

Dr.ムスタファ-----FMはどうじゃ?

Little Mustapha-----今やってるけど。…やっぱりダメだなあ。あのニュースは諦めるか…。

マイクロ・ムスタファ-----ちょっと待ってください。

ニヒル・ムスタファ-----なんだ?また留守番電話か?

マイクロ・ムスタファ-----そうじゃありません。この周辺だけで放送をしているミニFM局があるという噂を聞いたことがあります。そこならもしかすると受信出来るんじゃないでしょうか。私はこの状態から推測して何かとてつもない…

Little Mustapha-----それで、周波数はいくつ?

マイクロ・ムスタファ-----えーと66.6だったと思います。

Little Mustapha-----ああ、そう。…って、このラジオに六十なんてのはないぞ。一番少ないのが76だよ。

マイクロ・ムスタファ-----そうなんですか?これは更にミステリーになってきましたね。私は以前に私の書いた「ラジオの季節」という小説でこのような、何かとてつもない…

Dr.ムスタファ-----一番少ない周波数に合わせたら何とか聞こえるんじゃないか?

Little Mustapha-----そうかな。やってみようか。


Little Mustaphaが言われたとおりにやってみると、なんとラジオから幽かに声が聞こえてきました。


ラジオ-----…ですからこれを聞いている生存者の皆様は決して家の外には出ないでくださいまし。新宿で発生した腐ったサンタは次々に人を襲いそして増殖していきましたのよ。それで瞬く間に東京中がゾンビサンタだらけになってしまったのよ。みなさんはテレビをご覧になった?ガーッとかバーッとかいうアナウンサーがゾンビサンタに食べられるところを。今思い出しても気分が悪くなりますわ。それから気を付けなくてはいけないのはゾンビサンタに噛まれると噛まれた人もサンタウィルス(*11)に感染してゾンビサンタになってしまうそうですわよ。ですから知り合いがゾンビサンタに噛まれたらその人はもう元の人ではありませんから同情などせずに逃げてくださいな。…


ミドル・ムスタファ-----なんですか、これ?

Little Mustapha-----これってプリンセス・ブラックホールかなあ?

ニヒル・ムスタファ-----なんでラジオ番組なんてやってるんだ?

ニコラス刑事-----そんなことより、ウッチー喰われちゃったのか?なんてことだ!

Little Mustapha-----でも全部やらせでしょ。テレビもラジオも。

Dr.ムスタファ-----そうそう、全部作り話だよ。心配はいらんよ。


ラジオ-----…東京の人間がほとんどいなくなってしまった今、ゾンビサンタ達は近隣の都市へと移動している可能性もありますわ。その人達になんとかして警告したいのですけど、このミニFM局からではそれが出来ませんのよ。それに電話も無線も通じませんの。ですからあたくしはただ祈るしかありませんわ。そして、あたくしはこの付近に生存者がいると信じてこの放送を続けますわ。今夜は番組のあとセレブの集まるクリスマスパーティーに出かける予定でしたのに、ひどいことになってしまいましたわ。それからあたくしに黙ってクリスマスパーティーをしているLittle Mustapha様達は許しませんわ。あんな人たちはゾンビサンタに食べられてしまえばいいんですのよ。


Little Mustapha-----やっぱりそうなるか。これでやっとクリスマスらしくなってきたなあ。

マイクロ・ムスタファ-----でもいいんですか?これがもし現実のことだとしたら。私たちは何かとてつもない…

Dr.ムスタファ-----大丈夫じゃよ。ゾンビの設定が映画と同じなんてのはあり得ない。

ミドル・ムスタファ-----そうですよねえ。もう少しリアリティーを出さないとねえ。

トナカイ-----それじゃあ気を取り直して飲みましょうか。

一同-----そうしようか。


注11:[豆知識]ハンタウィルスというのは存在するがサンタウィルというのは今のところ存在しない。(戻る

8. 屋外


 町中はゾンビサンタで溢れかえっています。そしてLittle Mustaphaの家の周りにもあちこちにゾンビサンタの姿があります。どうして彼らがサンタの恰好をしているのか。そんなことを考えても仕方がありませんが、多分クリスマスだから?

 ゾンビサンタだらけになった町はひっそりと静まりかえり、彼らが空腹のために上げるうめき声だけが聞こえてきます。ゾンビサンタ達はノロノロと歩き回り時々電柱にぶつかったりしながら生きた人間を捜しています。この町の人々はゾンビサンタに食べられたか、何とか助かっても噛み付かれたためにゾンビ化してしまったようです。きっとこの辺りにいる生きた人間はラジオのスタジオにいるプリンセス・ブラックホールとLittle Mustapha達だけでしょう。

 Little Mustaphaの家のあるこの町にはゾンビサンタが次々に集まってきます。東京のはずれにあるここは隣の都市へと移動するための通り道になっているようです。ゾンビサンタ達は道で別のゾンビサンタに出会ってもお互いを襲うことはしません。全ての感覚がなくなっているように見えても、そこは判断出来るようです。手当たり次第に噛み付くのではなく何かゾンビサンタの本能のようなもので判断しているのでしょうか?それとも見た目で判断しているのでしょうか?

 人間を求めて歩き回るゾンビサンタはプリンセス・ブラックホールのいるスタジオへやって来ました。ゾンビ達はスタジオのドアを開けようと両手を上げると上手く動かせない指先をドアにかけてゆっくりと押したり引いたりしていました。しかし、スタジオは厳重に戸締まりしてあって開きそうにありません。そこへ遠くから笑い声が聞こえてきました。それはLittle Mustaphaの部屋から聞こえてくる笑い声。ゾンビサンタだらけで静かな街に彼らの笑い声は遠くまで響き渡ります。今夜もしこたま飲んだLittle Mustapha達がくだらない話に盛り上がっているに違いありません。スタジオの前にいたゾンビサンタ達はゆっくりと振り返ってよろめきながらLittle Mustapha達の笑い声が聞こえてきた方へ向かっていきました。


9. また再びブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)


一同-----ワハハハハ。

ニヒル・ムスタファ-----先生。それを言うなら「百聞は一見にしかず」だぜ。

Dr.ムスタファ-----キミは何を言ってるんだ。「木を見て森を見ない」にも同じ意味は含まれているんだぞ。私の研究によればなあ…

Little Mustapha-----まあまあ。そんなことより、さっきからトナカイ君に元気がないようなんだけど、いったいどうしたのかな?

トナカイ-----あの、実は私…今の仕事をやめようかと思ってるんです。

ミドル・ムスタファ-----仕事って、サンタのそりを引くやつでしょ?どうしてやめちゃうんですか?楽しそうな仕事じゃないですか。

トナカイ-----周りから見れば楽しそうに見えるかもしれませんが、実際にやると少しも面白くないんです。

ニコラス刑事-----何を言っているんだ。どんな仕事にだってイヤなところは必ずあるんだ。そんなことじゃ何をやっても長続きしないぞ。

トナカイ-----でもダメなんです。私には才能がないみたいなんです。

Dr.ムスタファ-----それで、サンタの仕事をやめたら何をするつもりなんだ?

トナカイ-----実家に帰って家業を継ごうかと…。父は鹿狩りをしている猟師なんです。

一同-----…。

ミドル・ムスタファ-----それじゃあ、仕事をやめたら来年からはトナカイさんとは会えなくなりますねえ。

Dr.ムスタファ-----せっかく知り合えたのになあ。

ニヒル・ムスタファ-----人とトナカイの関係なんてそんなものさ。

一同-----…。

Little Mustapha-----なんだかシリアスな話を聞いてたらテンション下がってきちゃったなあ。


 トナカイが突然悩みをうち明けてしまったので、それまで大いに盛り上がっていたLittle Mustapha達は次第に無口になっていきました。それでもみんな無言のまま飲み続けます。そうして黙って飲み続けている彼らの顔色はどんどん青白くなっていき、目のしたにはクマまでできていました。とても不健康な感じです。


ミドル・ムスタファ-----なんか、もうドロドロですね。

Little Mustapha-----なんか、もうグダグダだよ。


 時々こんな会話が交わされる程度で全員がただグタグタになって飲み続けています。その時、Little Mustaphaの家の外には先程彼らの笑い声を聞きつけた大量のゾンビサンタが集まってきました。先頭にいたゾンビサンタがもたれかかるようにしてドアを押すとドアは簡単に開きました。まだ彼の家のドアは鍵を掛けないままになっていたようです。先頭のゾンビサンタに続いて次から次へとゾンビサンタ達がLittle Mustaphaの家に入ってきました。

 ゾンビサンタ達はノロノロと家の中を歩き回ります。それでもLittle Mustapha達のいる部屋にたどり着くのにはそんなに時間はかからないでしょう。このままではLittle Mustapha達がゾンビサンタのエサになってしまいます。

 Little Mustapha達は今家の中に大量のゾンビサンタが侵入していることに気付いていません。彼らが酔っぱらっている上にゾンビサンタがあまり物音を立てずに歩き回るせいです。そしてとうとうゾンビサンタはLittle Mustapha達の部屋の前までやって来て戸を開けました。

 戸を開けたゾンビサンタはゆっくり部屋を見渡してLittle Mustapha達を見つけました。グタグタのLittle Mustapha達も戸が開いたことに気付いて一同ゆっくり振り返りました。Little Mustaphaは「また変なのがきた」と思いましたが、声に出していうのも面倒なほど酔っぱらっていたので黙っていました。

 ゾンビサンタ達とLittle Mustapha達はそうやってお互いを見つめ合っていましたが、しばらくするとゾンビサンタ達はゆっくりと振り返り部屋から出ていきました。するとLittle Mustapha達もまた元のように黙って再び酒を飲み始めました。

10. 朝


「みなさま!クリスマスの奇跡が起こりましたのよ!」

ラジオ局のスタジオでプリンセス・ブラックホールが興奮気味に喋っています。

「ゾンビサンタになっていた方達が元どおりの姿に戻ったんですのよ。これはきっとあたくしの祈りが天に届いたに違いありませんわ!あたくしの素晴らしさにみなさんきっと驚いているに違いありませんわね。これからは大女優であり歌姫であるあたくしは聖人としても活躍することになりそうですわ。でも残念なことに食べられてしまった方はもう戻ってきませんのよ。現在解っている情報によると食べられてしまったのはアナウンサーのウッチーこと内屁端さまだけのようですわ。そのほかに行方が解らなくなっている人はいないようですわ。それではゾンビサンタ関連の情報は続報が入り次第お伝えするとして、ここであたくしからステキなお知らせがありますのよ。人気映画シリーズ「バイオハザード」の続編のヒロインになんとあたくし…」

ラジオはしばらく終わりそうにありません。しかし、本当にプリンセス・ブラックホールの祈りのおかげで人々は助かったのでしょうか。昨晩、生存者がいる限り放送を続ける、といっていた彼女ですがあの後しばらくすると疲れて寝ていたのです。ゾンビサンタ達には何が起きたのでしょうか?

11. その頃、Little Mustaphaの部屋では


 ゾンビサンタ達が部屋からいなくなったあともしばらく飲み続けていた彼らですが、全員いつの間にか眠ってしまいました。全員だらしない恰好で雑魚寝をしています。

 朝の光が部屋の中に差し込んでくるとトナカイだけはそれに反応して目を覚ましました。最初から眠そうだったトナカイは更に眠そうな顔です。

「ああ、しまったなあ。朝になってる。早くサンタの国に戻らないと」

トナカイはLittle Mustapha達に挨拶をしてから帰ろうと思ったのですが全員ぐっすり眠っているのでそのまま帰ることにしました。トナカイの足下にはまだ開けていないサンタの国のサンタの酒が一本ありました。

「残りの酒は私が記念にもらっていきましょう」

トナカイは瓶をもって部屋を出ていきました。

 Little Mustapha達が目覚めた時には昨日の夜の出来事など全部忘れているでしょう。そして頭痛に頭を抱えながらフラフラと洗面所に行って鏡に映った真っ青なゾンビのような二日酔いの顔を見て自分で驚くにちがいありません。

 それからニコラス刑事。彼はいったい何しに出てきたのでしょうか?きっと彼には来年、活躍の場が与えられるでしょう。来年があればの話ですが。

トナカイ-----最後まで読んでくれてありがとう。みんなが頑張ってこのくだらない話を読んでいるのを見てボクにもやる気が出てきたよ。だからもう少しサンタの仕事を頑張ることにしたよ。それではまた来年会いましょう。