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#051 「シークレット・3.4」 2005-05-15 (Sun)

 我が輩はLittle Mustaphaである。名前は、というか名前がLittle Mustaphaなのである。このところ変な神様にこのコーナーを乗っ取られて、たいそう困っているのである。ということで、今回も前回の続編なのだ。


-----前回までのあらすじ(かなりリミックス風)-----


やあ、調子はどうだね?私は「オカマっぽいコンビニ店員」にされるのは嫌なので、鳥居をくぐって神社の中に入ると、手を合わせている男のほうをじっと見守った。「神様。一生のお願いです。どうか私に、春風のいたずらを・・・」何でもいいですけど、チラリズムですよ。十回ぐらい?『北風のいたずら』じゃないのか?「思いません!」アイアンメイデンのTシャツを着ていたけど、そこが私にはまた恐ろしかったりするのですが、チラリズムですよ。まあそうだけどこの後起こる何かを待つしかなさそうでした。

 それから長い間、息の詰まるような沈黙が続きました。こんな時に何を話しかけても神様は何も喋らないことは解っていました。それでも私はこの沈黙に耐えかねて「ハロー!」とか「ニイハオ!」とか言ってみましたが、やっぱり神様は黙ったままでした。

 何も起きないまま時間が経ち、やがて辺りが暗くなり始めた頃でした。神様がかすかに眉毛を動かしてから私のほうに顔を向けました。

「来たよ!」

神様はこう言うと私に気持ち悪い笑顔を作って見せました。

 いったい何が来たのかと思っていると、二人の男性が話しながらこちらに向かってくるのが解りました。彼らは私と変な神様が座っているこの小さくて薄暗い本殿の前まで来て立ち止まりました。二人はバイクか何かに乗ってきたのか、F1レーサーみたいなつなぎを着ていました。二人とも話しに夢中になっているようで私たちが本殿の中にいることには気付いていないようです。二人のうち一人がポケットから小銭を出して一枚をもう一人に渡しました。二人はほぼ同時にそれを賽銭箱に投げ入れました。

 かたかた音を立てながら二枚の小銭が賽銭箱の底に落ちていきました。この人達もまた五円玉みたいです。


「おい、お前何をお願いしたんだ?」

「決まってるだろ。今度のレースで優勝できるようにだよ。お前もそれをお願いしに来たんじゃないのか?」

「残念ながらそうじゃないんだよ。まあ、あれだけリハーサルしたんだから、ボクらの優勝は間違いないんだけどね。それよりももっと重要な問題があることにキミは気付かないのか?」

「オレはレースだけに集中してるからね。問題なんてどこにもないね」

「あまいなキミは。どんなにリハーサルしてもボクらに足りないものがあるんだよ。それはレースクイーンだよ。レースクイーンがいなければ出場さえできないぜ」

「えっ、そうなの!?レースクイーンがいないとレースに参加できないの?」

「そうだよ。だからボクは上手いことレースクイーンが見付かりますようにってお願いしたんだよ」

「レースに参加できないんじゃ大変だな。でもそれを神頼みでいいのか?」

「ここの神社は願い事が叶うってことで有名だし。大丈夫なんじゃない?」

「ダメだよそんなの!オレは今度のレースに全てを賭けてるんだぜ。毎日夜遅くまでリハーサルして。何とかしないと」

「何とかしないと、って言ってもねえ。いったいレースクイーンなんてどこに行けば会えるんだ?しかも雇ったらお金かかるんだろ?」

「そうなのかよ。こまったなあ。…そうだ、キミの昔は綺麗だったと言い張っているお母さんはどうだ?厚化粧とコスチュームでごまかせば何とかなるんじゃないのか?」

「やめてくれよ。母親がレースクイーンのレーサーなんて。恥ずかしくてレースどころじゃないだろ。それよりもキミの千代大海似のお姉さんはどうだ?」

「あんなの無理に決まってるだろ」

「まあ、そうだよねえ」

「そうだよねえ、って。失礼な!でもあれじゃあどうしても無理だな」

「あー、困ったなあ…」

「困ったねえ…」

「やっぱり神様にお願いしとくしかないのかなあ」


 こう言って一人の男がまたポケットから小銭を取り出して賽銭箱に投げ入れました。今度は一円玉だったようです。

 神様は満足げに私を見ています。


「いやあ、今のもかなり良かったよねえ。キミもそう思うでしょ?」

「良いとか悪いとかの判断はどこですればいいんですか?だいたいリハーサルとかレースクイーンがいないと参加できないとか。あの人達は何のレースに出ようとしてるんですか?」

「それが解れば神様はいらないよ」

「あなたが神様でしょ!」

「そうでしたね。でも今のは神様ジョーク。盛り上がって来たんだからジョークの一つも入れないとねえ。キミはまったくユーモアに欠ける男ですよ。そんなことよりも、あと少し待っていればもっと凄いことが起こるような気がするんだけどねえ。もし、今キミが帰るとか言いだしたら、わしの神様パワーでキミをオカマっぽいコンビニ店員にしてしまうんだが、どうだね?」


 なんだか神様の日本語はめちゃくちゃになっていますが、そんなことよりそろそろ帰りたいと思っていた私は困ってしまいました。こんなところで神様パワーを持ち出すとは。もしかすると私が帰りたいと思っていることが神様には解っているのかも知れません。何しろ神様ですから。

 しばらくここに居るしかなさそうです。


 陽は沈み、排気ガスでかすむ空にはぽつぽつと星が静かに瞬く時間になっていました。さっき神様が言ったとおり、何かが起こるようでした。ちょうど先程、二人の男がやって来たのと同じように神社の入り口のほうから声が聞こえてきました。どうやら今度は二人の若い女性のようです。若い女性に特有の喋り方をしいるので、私はそれが若い女性であると思ったのです。神様の言った「もっと凄いこと」ってこのことなのでしょうか?私は神様に私の考えを悟られてしまうと解っていても、なぜか二人に女性の声が近づくにつれて気持ちが妙に盛り上がっていくのを押さえることができませんでした。でもそれは二人の女性がこの本殿の前にやって来るほんの僅かの間だけでした。落胆した私を見て、神様はとても満足そうでした。

 ここへやって来たのは「若い女性」ではなく、「見る人によってはギリギリ若いと思うかも知れない」という感じのビミョーな感じの二人の女性でした。それでも色気があったりしたらいいのですけど、私が格子戸の隙間からみた二人の様子は、まるで鍋とやかんが喋っているようでした。まあ、平たく言うと可愛くないのです。ブスなのです。でも、この二人はどう考えても自分たちがカワイイと思いこんでいるようです。私はなんだか腹が立ってきたので、格子戸を開けてこの二人に説教をしようかと思いましたが、神様はそれを解っていたのか、軽く咳払いをして私を止めました。「まあ、見ていなさいよ」と、そんな感じで私を見ていたのです。


「ねえねえ、知ってた?○○子ってこの前プラ○ドガールのオーディション受けたんだって」

「えー、ウソー!?チョーマジで?」

「チョー生意気だと思わない?しかも、もしかすると合格かもー、とか言ってんの」

「えー、ウソー!?チョーマジで?」

「でも、はっきり言って○○子ってブスじゃない?○○子になれるんだったら、あたしもあなたも絶対プラ○ドガール間違いなしでしょ」

「えー、ウソー!?チョーマジで?」

「ていうかプラ○ドガールなんかより私はマジでレースクイーン狙ってるし」

「えー、ウソー!?チョーマジで?」

「レースクイーンとかやってると男とかチョー凄いらしいよ。あとあれってチョーカワイイじゃん。ヒラヒラのとかミニスカートみたいなのとか。あとレーサーとかってかなり凄いじゃん」

「えー、ウソー!?チョーマジで?」

「けっこうきてるって感じ?ミニスカートとかヒラヒラとかさせたりとかしたら、かなりやばくない?もうチョーマジでレースクイーンになりたいんだけど」

「えー、ウソー!?チョーマジで?」

「レースクイーンとかチョー募集してるとことかってあったらマジで行くしかないっしょ」

「えー、ウソー!?チョーマジで?」

「ていうか、あなたさっきからコピーとかペーストで喋ってない?マジで」


 これだけ言うと二人は神様にお願いもせずにどこかへ行ってしまいました。「お前ら、何しに来たんだよ!」と思わず言ってしまいました。変な神様はそんな私を嬉しそうに見ています。


「こんな風にして、レースクイーンの質は年々落ちていくんだよ」

「そうですよねえ。あんなのがレースクイーンだったらいないほうがましですよ」

「ところで、キミは気付かないのかね?」

「何をですか?」

「今日、ここで起こった出来事についてですよ」

「あっ、そう言われるとそうですね。最初に来たのが『春風のいたずら』によるヒラヒラを望んでいる人で、次の二人組がレースクイーンを見つけたい二人のレーサーで、最後の鍋とやかんがヒラヒラさせたいレースクイーン志望。つまりこの三人が出会えば全てが上手くいくということですね!」

「まったくキミはダメだねえ。全てがそんなふうに丸く収まると思っているからキミはいつまでたってもダメなままなんだよ。もっと考えなさいよ。最後の二人はわしにお願い事もしなければ賽銭も入れていかなかったでしょ。あんな願いは叶える必要なしなんだよ」

「はあ、そうですか。でもそれじゃあ話がうまくおさまりませんよ」

「だからキミが最後の二人に代わってレースクイーン…いやキミは男だからレースキングになるんだ。ヒラヒラのミニスカートで傘持って。どうだ?今日キミをここに呼んだのもそのためだったんだがね」

「えっ、ウソ!?マジで!」

「ウソじゃないよ。マジだよ。キミは今日からレースキングとして生きていくんだ。上手くいけばテレビとかに出てタレント活動ができるかもしれんよ。でもダメな場合はヘアヌードかな」

「そんなの嫌に決まってるでしょ。だいいち、最近ボクは太股の毛が異常に汚いことに気付いてしまって、けっこうショックなんですから。絶対に嫌です」

「じゃあオカマっぽいコンビニ店員のほうが良いの?」

「どっちも同じくらい嫌だよ!」

「そうなのかあ。それはなんだか非常に…」

「非常に?」

「非常に…非常口!」

「何だよ!おじさんギャグかよ!」

「じゃあ、これはどうだ?微妙に微妙口!というのは」

「全然意味が解りませんよ」

「ああ、そうか。そんなことよりキミ。非常口はそこだから、早く逃げたまえ」


そう言うと変な神様は壁に空いたネズミがやっと通れるような小さな穴を指さしました。


「何でこんなところから出なきゃいけないんですか?」

「これは言いにくいことなんだが、どうやら何者かによってこの本殿が放火されたらしいんだよ。それでセキュリティー装置が働いてキミの後ろの扉はロックされてしまったから出口はその穴しかないんだ」

「ちょっと待ってよ。そんなの全然セキュリティーじゃないじゃん。火事の時は非常口が開かなくちゃ意味がない」

「だから、そこの穴が開いたじゃない」

「こんな小さな穴から出られるわけないでしょ。神様パワーでこの扉なんとかしてくださいよ」

「さあ、それはどうかなあ。キミの態度次第でどうにでもなるんだが。どうだね、レースキングになる気はあるのかね?」

「だから嫌だって言ってるでしょ。それにこのままじゃ神様だって焼け死んじゃうよ」

「残念でした。神様は死なないのよ〜ん」


 どうやら大変なことになってきたようです。私はどうしていいのだか解らず、この神社へ来たことを後悔することすら忘れていました。なんだか本殿の中が熱くなってきたようです。それに焦げ臭くなってきて、煙のせいか目を開けているのが辛くなってきました。

 いったい私はどうしたら良いのでしょうか。生き延びてレースキングとかオカマっぽいコンビニ店員として生きていくべきなのか。それともここで、名誉ある死を選ぶべきなのか。というより、名誉って何の名誉だよ!

 変な神様はそんな私を涼しげな表情で見ています。その顔をみて私は思いました。レースキングもオカマっぽいコンビニ店員も嫌だし、ここで死んでもすこしも名誉ではない。そんな私の考えが解ったのか神様は私にこう言いました。

「どうするんです?レースキングになりますか?それともこのまま、うだるような暑さの中うだうだ死んでいくんですか?」

「うだるような、って言葉の使い方間違ってますよ!」

とか、つっこんでいる場合ではない。こうしている間にも火はどんどん燃え広がっているようだ。これって私が絶体絶命ってことでしょうか?やっぱりこんな時には神頼みでしょうか?とは言っても神様は今私の目の前で、あたふたしている私を見て嬉しそうにしているのです。


 ああ、困った困った。私はどうすればいいのでしょうか?このまま変な神様の言いなりになる?いやいやそれはできません。こんな時には…。そうだ!こんな時にはあの人を呼ぶしかない!神をも恐れぬあの占い師を!

 さあ、これを読んでいるみなさんも一緒に。大きな声であの人の名前を呼ぼうじゃありませんか。それじゃあ行きますよ。せーの!

「カーズーコ〜!」


と、その直後、雷鳴が轟いたかと思うと分厚い雲が星空を覆い風が吹き荒れました。良かった!みなさんの思いが通じてカズコが来てくれたようです。すると次の瞬間、地面を揺るがすような大音量でカズコの声が響き渡りました。

「ちょっと、ギャラも出ないようなところには出ませんからね!」

「えっ?」

「だから、ギャラは出るのかって聞いてるのよ」

「ギャラって言っても、今は五円しか持ってませんけど…」

私がこう言うと風はぴたりをおさまり、空にはまた星が静かに瞬き始めました。

 しまった。せめて五百円ぐらい持っていればよかった。そんなことを考えても仕方ありません。しかもさっきの風のせいで火の勢いはさらに強まったようです。雨ぐらいサービスしてくれればいいのに。でもそんなことを思っていても意味がありません。

 気付けばもう変な神様の姿もありません。もしかするとあの小さな非常口から逃げたのでしょうか。そんなことより、早く逃げないとしゃれになりません。もう炎は本殿の中まで燃え広がって、これまで真っ暗だったこの本殿をちらちら照らし始めています。

 私は慌てて振り返ると、扉をつかんで思いっきり引いたり押したりしてみましたが、本当にロックされているようで、びくともしません。私は頭の後ろに熱を感じて、中のほうに目を向けると、もう本殿の中は炎に包まれていました。ああ、もうダメだあ…

 目の前は真っ暗。

 私は最悪な死を選んだのでしょうか?いや、そうではありません。

 でも、目の前は真っ暗。

 それは私が目をつむっているから。目を開けてもそこには天国も地獄もありません。目をつむっていてもこの感じは解ります。私は自分の部屋の自分のベットで横になっているのです。私は助かったのだ。あれは全て夢だった。全て幻覚だった。そう思えたらどんなに幸せでしょうか。

 でも私は目を開けません。あの時、炎が私の目の前まで迫ってきた時。私はふと思ってしまったのです。「神様、なんとかして!」と。そして、そのあと私は最悪の選択をしてしまったのです。

 私が目を開けて鏡を見ると、きっとそこに映るのはヒラヒラのミニスカートのコスチュームを着たおぞましいレースキングの姿でしょう。私はできるだけこのまま目をつむっていようと心に決めました。

 すると、そんな私をあざ笑うかのような変な神様の生ぬるい声が私の頭の中に聞こえてきました。

「どうだね、凄いことが起こったでしょ。私が起こるといえば起こるのよ〜ん。我が輩は神様である。名前はDirector N.T.だ」


「えっ、なんで!?」


(「シークレット3」おしまい)

一番最後の部分が良く解らない方は、えーと…説明するのが面倒だから、このコーナーを第一回目から全部読んだらいいさ!