「サマータイム(第一話)・C'est la Vie」

01. 警察署 in 静岡県下田市

 真っ暗な部屋の中から窓の外を眺めている。今年の太陽はやけに張り切っていつもより何倍もその光の輪を広げているように思える。窓の外には太陽の熱に照らされた真っ白な世界が広がっている。セラビ刑事のような年寄りには少し応える暑さであったが、そうも言っていられない事件が起きたようだ。

 電話で事件の知らせを受けた背裸眉(セラビ)刑事は、持っていた受話器を半分たたきつけるようにして電話機の上に置いた。彼が刑事になってからずっと追い続けている連続殺人事件がまた発生したのである。彼が刑事になったのが何時のことかというと、もう三十年近くも前である。三十年もの間連続殺人事件が起こっていたとしたら、これはちょっとしたギネスものであり、犯人は伝説的な殺人鬼ということになるだろう。そして、そんな事件をマスコミが放っておくはずがない。しかし、誰もそんな事件のことを知らないのは、この事件を連続殺人事件と考えているのはセラビ刑事ただ一人だからである。

 セラビ刑事はあと何年かすれば定年という歳にしてはキビキビとした動きで上着を着ると、事件現場へと向かった。彼は事件が起きるたびに、まだ手がかりすらつかめていない犯人の顔を思い浮かべる。そしてそのたびに想像の中の犯人は彼の無能さをあざ笑っているのだ。この犯人逮捕への執念が彼を何時までも若いままにしているのかも知れない。

 警察ではセラビ刑事の追っている事件の被害者の死因を事故死、或いは病死として処理している。これらの被害者の死因については不可解な点が多いものの、セラビ刑事の独断だけで連続殺人事件としてしまうのは問題があったようだ。そのためマスコミも大々的に事件を報じることはなかった。地元の噂好きの連中はこの事件を何かの祟りだとか、妖怪の仕業だとか、本当に殺人事件なのだとか言って話を盛り上げている。それから世の中には、こういった不可解な事件の犯人が宇宙からやって来た知的生命体の仕業だと思ってしまいがちな人間もいる。

02. エフ・ビー・エル、ペケファイルの部屋

 モオルダアは一人で椅子に座り何かの資料を嬉しそうに眺めている。何が嬉しいのかは良く解らないが一人でニヤニヤしているモオルダアはとても気味が悪い。そこへ疲れた顔をしたスケアリーが入ってきた。

「あーあ、ホントにイヤになってしまいますわ。こうジメジメしていると、あたくし休暇を取って南仏の別荘にでも行こうかしら・・・」

ここでスケアリーはモオルダアのニヤニヤ に気付いた。

「ちょいとなんですの?気持ちが悪い。あなたもしかして変なキノコでも食べたんじゃないでしょうね」

「変なキノコは食べてないけど、変な事件が起こったんだよ。しかも、警察の方ではこれまでのボクらの活躍がかなり評判らしくてね。是非とも協力して欲しいって言ってきたんだ。やっぱりボクみたいな優秀な捜査官は引っ張りだこなんだなあ」

それで嬉しかったのね・・・。それにしても、今までそんなに活躍していたのかどうか、私には良く解りませんが。スケアリーはどうでもいいといった感じで椅子に深く腰掛けた。

「それで、何が起きたと言うんですの?もう虫はイヤですわよ。気持ちが悪いから」

「キミはキャトル・ミューティレーションってしってる?」

モオルダアのこの一言でスケアリーの表情が曇った。この人はまたくだらないことを言っていますわ。そんな感じ。

「それって昔流行ったやつでございましょう?牧場で牛が死んでいて調べてみるとその牛から血液と内蔵がなくなっていたっていう。それが宇宙人の仕業なんて言っていましたわねえ。そんな話はあたくし信じていませんし、それにどうして流行が終わるとそういった事件が起こらなくなってしまうのも可笑しな話ですわ。ミステリーサークルだってそうですわ。あれ、最近はほとんど出現しないじゃありません?」

「彼らだって何時までも同じことばかりはしないさ。彼らは計画的にことを進めてるんだよ。血液と内臓を取り出すのは次の段階への準備ということだね。高原牧場の事件では牛が丸ごと誘拐されたじゃないか。あれがきっと次の段階ということだと思うけどね」

「あれが誘拐だという証拠はありませんわ。どうでもいいですけど、今回の事件というのはまた牛なんですの?」

「いやいや、今回はさらに次の段階ってことになるかな。内臓が抜き取られた人間の遺体が発見されたんだ」

モオルダアは得意げに持っていた資料をスケアリーに渡した。

「しかも、これは今回が初めてじゃないんだ。ペケファイルの資料によれば、似たような事件がたくさんあるんだ。しかもどれも今回の事件発生現場の近くで起こっている。ニンゲン・ミューティレーションだよ。また血液と内臓を抜き取られてミイラ化した遺体が発見されたとなれば、まさしく我々の出番じゃないのか?」

スケアリーは資料を見て異常な事件が以前から起こっていたことは認めたが、モオルダアの言うことはまるで信じていなかった。

「モオルダア、あなたはそんなことをおっしゃっていますけど、あなたの言っていることは矛盾だらけですのよ。宇宙人さん達が牛の内臓と血液の調査を済ませてそれから牛を誘拐して、それと同じようにニンゲンの内蔵と血液を調べてから今度はニンゲンを誘拐するというのね」

「そうだよ。ある動物が体内に持っている細菌やウィルスが彼らの驚異になることもあり得るからねえ。それで下調べってわけだよ」

「でも,あなたは以前にこう言っていましたわよ。彼らは何人ものニンゲンを誘拐して人体実験をしているって。今更内臓と血液を調べても意味がないんじゃございませんこと?」

「ああ、そうだったねえ・・・」

急にモオルダアの元気がなくなっていく。それを見たスケアリーは得意になっている。

「モオルダア、捜査というのはもっと科学的に行わなければいけませんのよ。この資料に書いてあるように、このミイラ化した遺体は全部事故死か病死ですわ。内臓がないのは野犬か何かの動物に食べられたに違いありませんわ。こんな事件は調査するだけ無駄ですわ」

 モオルダアは自分のニンゲン・ミューティレーション説を簡単に覆されてかなり弱っていたが、事件への関心が薄れていたわけではなかった。死体がミイラ化するというのは特殊な環境下でしか起こりえない。それに、どの遺体も森や雑木林と言った湿気の多い場所で発見されている。そんな場所ではミイラ化するよりも前に腐食が始まるはずである。仮に何かの偶然で自然にミイラ化が起こったとしても、彼の元にある資料は別の問題を提示している。

 ミイラ死体となったAという人物は家族から警察に捜索願が出された二日後に遺体が発見されている。家族の話によるとAは夕方、友達のところに遊びに行くと言って家を出たまま帰らなかったそうである。友人はその日Aとは会っていないようだ。Aが遺体になってからミイラになるまで二日以上はかかっていないということになる。こんな短期間にミイラというものはできあがるのであろうか。宇宙人ネタで盛り上がってしまったモオルダアの少女的第六感は、盛り上がったついでにモオルダアに新たな好奇心の種をまいているようだ。それにこれまでの被害者が全て若い女性だったというところもモオルダアの興味を惹いた。

「ねえ、スケアリー。人間というのはこんなに簡単にミイラになるものかなあ」

スケアリーはモオルダアに痛いところをつかれた。実は最近疲れ気味のスケアリーはあんまり仕事はしたくなかったようである。しかし、仕事をさぼるために嘘をつくわけにもいかない。

「それは、あたくしも気になってはいたんですけど。確かにこの点だけは奇怪ですわね。でもこれは警察に任せた方が・・・」

スケアリーの浮かない表情を見てモオルダアの少女的第六感がさらに働いた。

「スケアリー。この事件がどこで起きたのか知ってるのかい?湯煙の街、下田だぜ!」

「あらまあ、そうでしたの。それなら調査してみる価値はありそうですわ。あたくしお風呂セットを用意してきますわ」

スケアリーは下田行きの準備のため部屋を出ていった。でもどうしてモオルダアはここまでしてスケアリーを説得する必要があったのだろう。パートナーが事件性を否定しても怪しいと思ったら一人でも捜査に向かうのが優秀な捜査官じゃないのか?でも私は知っています。モオルダアは車を持っていないのでスケアリーが一緒じゃないと身動きがとれないのです。

03. 遺体発見現場

 セラビ刑事は遺体発見現場の様子を見て多少あっけにとられていた。ここは普段はほとんど人がやってこない森の中。その点は今までのミイラ死体事件と変わらなかった。しかし、遺体の周囲の様子が今までとはまるで違う。今回の遺体発見は被害者の死から発見までの時間が一番短い。それが原因とも考えられたが、長年ミイラ化死体の事件を追ってきたセラビ刑事には納得のいかないことが多い。遺体からは内臓が抜き取られていたものの、ミイラにはなっていない。それに何よりもおかしなことに遺体の周囲には、遺体をここまで引きずってきた時に出来た跡や、足跡などが残されていた。今までの事件ではこんなことは一度もなかった。そのためにセラビ刑事を三十年も追う羽目になったのであり、そのためにこれらの遺体は事故死、或いは病死として片付けられてきたのである。それにここで死んでいるのは若い女性ではなく、浮浪者風の中年男性だった。「犯人ももうろくしたのかな?」これらの事件を連続猟奇殺人と考えているセラビ刑事はこんなことを考えてみたが少しも面白くなかった。

 死体を前にして呆然としているセラビ刑事のところへもう一人の若い刑事が近づいてきた。この刑事は古媚手清(コビテ・キヨシ)という、野心に満ちた若者である。彼はセラビ刑事の元へ慌てた感じで近寄ってきた。

「ちょっと、セラビ刑事。困りますよ勝手に捜査を始めちゃ。エフ・ビー・エルの捜査官が来ることになっているんですから」

「何だと!?おまえはこの状況を見て何とも思わないのか?これは明らかに殺人じゃないか。しかも、犯人はこれだけ手掛かりを残しているんだ。その何とかっていうところの役立たずの捜査官なんか待っていたら犯人が逃げちまうよ」

セラビ刑事がつばを飛ばしながらもの凄い勢いで言い返すので、コビテ刑事も少し尻込みしたが、それでも何とかセラビ刑事を説得しようとしてみた。

「頼みますよ、セラビさん。これは上からの命令なんですから。下手に逆らったりしたらあなたこの事件の担当をはずされてしまいますよ」

担当をはずされると聞いてセラビ刑事は少し弱気になった。セラビ刑事は何とかしてこの犯人を自分の手で捕まえたいと思っている。何しろ三十年もこの事件を追ってきたのだから。

「ちくしょー。解ったよ。その無能な捜査官が来るまで待てばいいんだろ。でもなコビテ。上の命令なんかに従ってたらどんな事件も解決しないんだ。よく覚えておけよ」

コビテ刑事はこれを聞いて感心したような表情を見せたが、内心では何とも思っていなかった。

 コビテ刑事は事件解決に情熱を注ぐタイプの人間ではない。彼はとりあえず出世がしたかった。目の前にいるセラビ刑事はプライドと名誉のためにろくな人生を送れなかった。コビテ刑事はそんなふうにだけはなりたくなかった。だから刑事としての正義などは二の次なのだ。上からの命令には必ず従う優等生にならなくてはいけないのである。

04. 事件現場へ向かうスケアリーの車の中

 エフ・ビー・エル・ビルの前を出発した車は、スケアリーとモオルダアを乗せて快調に進み下田の事件現場まで近づいてきた。しかし、ここで渋滞に巻き込まれてなかなか前に進めない。今、世間は夏休み。この辺りは行楽客を乗せた車で毎年大渋滞になるのである。ノロノロと五メートルほど進んでは止まる車を運転しているスケアリーはかなり苛立っているようである。隣の車の中では学生風の男女のグループが楽しそうにじゃれ合っている。これを見てスケアリーのイライラは増すばかり。

 隣にいたモオルダアは事件のことを考えているのかどうかは知らないが、先ほどから一点を見つめていた。それからふと何かを思いだしたように少し体を前に乗り出すと、胸のポケットからボイスレコーダーを取り出した。

 いったい何を始めるのでしょうか。ちなみにこのボイスレコーダはモオルダアが最近購入した優秀な捜査官アイテム。スケアリーがボイスレコーダを使っているのを知って、無性に欲しくなったので急きょ購入したもの。

 モオルダアがボイスレコーダの録音ボタンを押して喋り始める。

「ダイアン。今回の事件には少し手こずるかも知れないよ。でもボクの才能を持ってすればすぐに解決するだろうけどね。まあ、ちょっとした日帰り旅行といった感じかな。しかし、この渋滞というのは体にこたえるね。ボクの天才的プロファイリングに影響を与えなければいいのだけど。それじゃあダイアン、スケアリーがボクを睨んでいるからこの続きはまた後で」

スケアリーはモオルダアのことを睨んでいるというか唖然として眺めているというか。イライラと驚きが同時に最高潮に達している。

「モオルダア。あなた何をしているの?」

「ん?これのこと?」

モオルダアは一度しまったボイスレコーダを再び取り出して見せた。

「ボクも優秀な捜査官としてこれ、使うことにしたよ」

「それはいいんですけれど。何で今使うんですの?それにさっきの喋り方は何ですの?それからダイアンってどなたなんですの?」

スケアリーが一度に大量のハテナをモオルダアに浴びせかけた。それに対して逆にモオルダアが不思議そうにしている。

「これってこういうふうに使うものじゃないのか。これに録音する時はダイアンに語りかけることになってるんだろ?キミは何を不思議がってるんだ?」

スケアリーは色々言い返したかったがこれ以上イライラするのはイヤなので軽くため息をつくと後は黙っていた。

 それにしてもモオルダアさん。そのボイスレコーダの使い方はどうなんでしょう。まあ合っているといえば合ってるんですけど。今時そのネタを知っている人がどれだけいるか。それにそれは違うドラマのパロディですよ。でも、まあいいか。FBIの特別捜査官ってところはいっしょですから。ここまでやったら後でコーヒーを飲んで決めぜりふも言ってもらいましょう。(このネタが解らない人はデビット・リンチの「ツイン・ピークス」を観ましょう)

05. 遺体発見現場

 セラビ刑事はコビテ刑事がいなくなったすきを見て勝手に捜査を開始していた。命令違反であってもいつ来るか解らないエフ・ビー・エルの捜査官二人を待っているのは確かにおかしい。それに遺体はすでにひどい悪臭を放ち始めていた。そのためか命令違反で捜査を開始したセラビ刑事に反対する警官もいなかった。セラビ刑事は何人かの警官に付近の捜索を命令した。凶器や取り出された内臓が見つかるかも知れないと思ったようだ。

 モオルダアとスケアリーを乗せた車はセラビ刑事が無断で捜査を開始してからまもなく事件現場に到着した。とは言っても、事件現場は森のかなり奥にあるため車を止めてから道のない森の斜面をしばらく登らなければいけなかった。

 現場を警備していた警官が息を切らして坂を登ってくるエフ・ビー・エルの二人を見つけて彼らに近づいていった。彼はセラビ刑事から二人が到着しても現場には入れるな、と命令されていた。

「ここは事件現場です。関係者以外の立ち入りは出来ません」

「何言ってるんだ。我々は、我々はエフ・ビー・エル。フーッ。キミ達が、キミ達が呼んだから来たんだ」

坂を登ってきたモオルダアはかなり息が苦しそうで、上手くしゃべれていない。

「そうですわ。・・・。あたくし達はわざわざ渋滞を・・・、通り抜けて・・・、やっとここまでやって来たというのに。・・・。ホントに、失礼な方ですわ」

スケアリーも息が上がっている。二人とも運動不足のようだ。

「そうですけど、今はちょっとまずいんですよ。私の立場もありますから今は勘弁してくださいよ」

警官は二人を現場に入れなければいけないのは解っていたが、セラビ刑事は怒ると怖いので二人を前にして弱っている。そこへ、コビテ刑事が戻ってきた。警官はさらに悪いことになったと渋い顔をしている。きっと二人を中に入れないことをコビテ刑事にとがめられるに違いない。二人の刑事の間に板挟み状態でかわいそうな警官である。

「エフ・ビー・エルの方達ですね」

コビテ刑事は二人に気付いて声をかけた。それから警官に向かって言った。

「キミ、どうしてこの二人を入れないんだ」

「いやあ、あの、ちょっとした手違いといいますか・・・」

警官は冷や汗をかきながら何とかその場を取り繕ってみようとしていたが、全くダメである。その様子を見たコビテ刑事はだいたい事情が読めたようだった。事件現場はこの場所からはさらに斜面を登って平地になった場所にあるのでそこの様子は見えないが、熱血漢のセラビ刑事が無断で捜査を始めているというのは想像できる。

「まったく、よけいなことばっかりして」

コビテ刑事は小さくつぶやいてから、モオルダアとスケアリーを現場まで案内した。

 セラビ刑事はコビテ刑事がエフ・ビー・エルの二人を連れていたのを見たが、少しも悪びれることなく検分を続けている。

「セラビ刑事、あれだけ言ったのにどうして勝手に始めるんですか」

コビテ刑事がイラついた口調で言う。

「いいじゃないか。ここで遺体を観察してたってしょうがないぜ。それよりそこの二人!」

セラビ刑事がモオルダアとスケアリーを睨みつけた。

「あんた達は優秀な捜査官なんだろ。早く事件を解決してくれよ」

是非とも来てくれと頼まれたのに現場に来たら少しも歓迎されていない。モオルダアとスケアリーは変な気分だったが、とりあえず現場の状況を調べてみることにした。

 遺体にはすでにシートがかけられていた。モオルダアは無謀にもその遺体に近づいて行きシートに手をかけた。こんなことをして大丈夫なのでしょうか。モオルダアは死体が苦手。特に今回は血だらけでドロドロ。でもモオルダアはそのことを知りません。彼の頭の中でそのシートの下にはミイラ化した死体があることになっているのです。ドロドロはダメでもカラカラのミイラなら大丈夫。ミイラ死体なんて珍しいものへの好奇心が彼を第一にその死体の方へ向かわせたようである。

 モオルダアはバッとシートをめくった。モオルダアの予定ではここで謎のミイラ死体とご対面となるはずだったのだが、彼の目には想像とは違うものが飛び込んできた。モオルダアは自分が何を見ているのか理解できず一瞬固まっていた。やがて彼が今見ているのは血で赤黒く染まった人の顔であることが解った。その瞼は閉じられておらず、うつろな瞳がモオルダアを見つめているように見えた。モオルダアは慌ててシートを手から放すとキャっと悲鳴をあげて近くにいたスケアリーの腕にしがみついた。そして遺体を指さして言った。

「スケアリー!大変!血、血が・・・」

よく見るとモオルダアは無意識にスケアリーの服の袖に手をこすりつけて拭いているようだ。

「ちょいと、何をやっているの!」

スケアリーがモオルダアを突き放した。

「変死体に血はつきものですわ。まったく慣れないことをするからいけないんですのよ」

スケアリーが厳しい口調で言うと、モオルダアが手をこすりつけていた部分をパッと払った。それから今度は彼女が遺体のシートをめくった。

「まあ、これはひどい状態ですわねえ」

スケアリーも自分の予想以上に遺体の状態がひどいので多少驚いたようだ。しかし、ここで一番驚いていたのは二人の様子を見ていたセラビ刑事とコビタ刑事に違いない。あっけにとられた二人はしばらくこの「優秀な捜査官」達を呆然と眺めていた。