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#092 「ヴァンサンタ」 2006-12-22 (Fri)

 最近街を歩かない私ですが、それでもちゃんと解っています。街はクリスマスムード一色に決まっています。ブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)でもクリスマスが近づくにつれてなにやら慌ただしくなってきました。今年こそインチキサンタとの戦いに終止符を打つことが出来るのか?そして今年こそ望みどおりのプレゼントをもらうことが出来るのか?

 ということで、今年も恒例のサンタスペシャルです。


(これまでのサンタスペシャル:「×(ペケ)マス・スペシャル パート2」「Black-holic Special ---Peke Santa---」「Black-holic Special ---Peke Santa---(後編)」「ロブ・サンタ」

1.


12月17日。人のほとんどいない公園にミドル・ムスタファとマイクロ・ムスタファがいます。


ミドル・ムスタファ-----何ですか?いきなりこんなところに呼び出して。

マイクロ・ムスタファ-----どうも、来てくれて助かりました。私はどうしても気になって仕方がないのです。今年のクリスマスのことが。

ミドル・ムスタファ-----そりゃそうですよ。今年こそプレゼントをもらわないと。そのためにこれまで何度も作戦をねってきたじゃなですか。失敗するわけにはいきませんからねえ。

マイクロ・ムスタファ-----いや、私の気になっているのはその作戦が成功するかどうかではないのです。これまでもクリスマスには危険な目に合ってきましたが、今年はこれまでで一番恐ろしいことになりそうな気がするのです。

ミドル・ムスタファ-----何を言ってるんですか!今年はこれまでみたいな失敗を繰り返さないようにLittle Mustapha一人にまかせずに私達が一緒に作戦を考えて、それから正確なサンタの住所を調べてプレゼントのリクエストの手紙を送ったんですよ。それなのに今さらそんなことを言って。

マイクロ・ムスタファ-----それはそうですが、私はやっぱり今年は中止した方がいいと思うんです。

ミドル・ムスタファ-----キミはプレゼントが欲しくないのか?

マイクロ・ムスタファ-----そりゃプレゼントは欲しいですが、命の危険を冒してまでもらう気はないのです。みなさんが「それでもやる」というのなら私は止めませんが、私は今年のクリスマスパーティーには参加しません。

ミドル・ムスタファ-----どうしちゃったんですか?最近あなたはクリスマスになると妙に怯えた感じですよ。まあ来ないというなら仕方ないけど。それより、どうして私だけにそんな話をするんですか?

ミドル・ムスタファ-----それは、あなたが一番まともというか、信頼できるというか。とにかく私にはあなたが一番冷静だと思えるからです。でも、パーティーを中止しないと言うのなら仕方がありませんね。

ミドル・ムスタファ-----当たり前だよ。プレゼントは必ずもらわないとね。

マイクロ・ムスタファ-----それじゃあ、最悪の事態にならないようにあなたにこれを渡しておきましょう。

ミドル・ムスタファ-----なんですかこのカバンは?

マイクロ・ムスタファ-----その中には十字架、聖水、鏡と木の杭が入っています。もし今年も怪しいサンタがやって来たら、まず鏡にそのサンタを映してみてください。Little Mustaphaの部屋には鏡がないようですから、私が用意しました。それで、もしサンタが鏡に映らないようだったら十字架と聖水を上手く使って、サンタがひるんだところを木の杭でサンタの心臓を…

ミドル・ムスタファ-----ちょっと待ってくださいよ。もしかして今年は本当に吸血鬼がやって来ると思ってるんですか?

マイクロ・ムスタファ-----そうです。「吸血鬼が街にやって来る」です。

ミドル・ムスタファ-----なんだそれ?

2. 12月22日


 夕方のニュース番組はいつものようにダラダラと激安グルメ情報のコーナーが始まろうとしていました。


スタジオのキャスター-----さてお次は、東京湾ヘドロ料理を食べ尽くせ、激安ランチから人気シェフの…。あっ、ここで緊急のニュースが入ったようです。現場から人気女子アナのウッチーこと内屁端アナがお伝えします。

内屁端-----はい!現場のウッチーです。みなさんここがどこか解りますかあ?

スタジオのキャスター-----どこでもいいですよ。緊急の臨時ニュースなんですから早く内容を教えてください。

内屁端-----はい!現場のウッチーは今、クリスマスムードに包まれて綺麗にピカピカライトアップされている広場へやって来ているのです。そして、なんとこの広場の片隅にある植え込みでカピカピにひからびた身元不明の遺体が発見されたのです。

スタジオのキャスター-----カピカピってどういうことですか?干からびているとなるとその遺体は相当長い間放置されていたということなんですか?

内屁端-----そんなことは知りません。先程、私が野次馬でバーってなってる現場をガーッとかき分けて警察の方に話を聞いたところによると、まるでミイラのようにカピカピだったということです。

スタジオのキャスター-----なんだか良く解りませんが、それはつまり…

内屁端-----はい!現場の内屁端です。人の話は最後まで聞いてください!私が警察の方にザーッとしたところを聞いてみたところ、その遺体はなんと死後10時間も経っていないということが解ったんです。

スタジオのキャスター-----それなのに、カピカピだったということですか?

内屁端-----そうなんです!きっと冬で空気がカピカピに乾燥していたうえに、イルミネーションがピカピカしていたのが原因ではないかと思われます。遺体にはほとんど体液がなかったということです。

スタジオのキャスター-----その説に科学的な根拠はあるのですか?

内屁端-----そんなことは知りません!

スタジオのキャスター-----ここでいったんCMです。

3.


 その頃ブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)ではLittle Mustaphaとミドル・ムスタファがクリスマスパーティーの準備をしていた。


ミドル・ムスタファ-----どうして今年に限ってこんなことをするんですか?

Little Mustapha-----今年に限ってじゃないよ。ボクはやっと気付いたんだよ。これまではただプレゼントが欲しいってだけで、むこうのことは何も考えてなかったからいけなかったんだよ。こうやってクリスマスツリーを飾ってサンタを喜ばせないとね。

ミドル・ムスタファ-----クリスマスツリーって言っても、これモミの木じゃないでしょ?どう見てもクリスマスツリーには見えませんよ。

Little Mustapha-----いいんだよ。気持ちの問題なんだから。こうやって星とかキラキラの玉とかをぶら下げておけばクリスマスツリーに見えてくるでしょ?

ミドル・ムスタファ-----全然見えませんよ!

Little Mustapha-----まあ、そうだね。でもあくまで「気持ちの問題」だから。それよりもマイクロ・ムスタファが来ないってのは本当なの?

ミドル・ムスタファ-----そうなんですよ。本当に吸血鬼が来ると思っているみたいですよ。

Little Mustapha-----でもマイクロ・ムスタファにしてはめずらしく一つ足りないものがあるよね。どうしてニンニクをカバンの中に入れなかったんだろう?

ミドル・ムスタファ-----そうですねえ。

Little Mustapha-----でもニンニクはあってもなくてもいいようなものだけどねえ。今年はニンニクを焼いてつまみにして飲もうか?そうすればもしサンタが吸血鬼だったとしても逃げていくしね。

ミドル・ムスタファ-----それから、銀製の弾丸とかもないですねえ。でもそれは手に入れる方が難しいか。

Little Mustapha-----まあ、どうでもいいよ。今年はあれだけ入念に調べたんだから、ホントのサンタが来るに決まってるんだから。…そうだ。その十字架と聖水と鏡はこのクリスマスツリーの飾りにしちゃおうよ。ケチってキラキラの玉とかちょっとしか買わなかったからぶら下げるものが足りなくなってきちゃったよ。

ミドル・ムスタファ-----いくらぶら下げてもこの木はクリスマスツリーには見えませんよ。これ、もしかしてイチョウの木じゃありませんか?

Little Mustapha-----あっ、解っちゃった?まあ、気にしない。それよりも、マイクロ・ムスタファが来ないとかいってもホントは来たりするんじゃないか?しかもそれは本物のマイクロ・ムスタファじゃなくてマイクロ・ムスタファの姿をした誰かで、危機に直面したボクらを救ってくれたり…。

ミドル・ムスタファ-----それは前に使ったネタだからないんじゃないですか?

Little Mustapha-----そういえばそうだねえ。どっちにしろ、今年はホントのサンタが来るのにねえ。そんな感じだとマイクロ・ムスタファは一生プレゼントはもらえないぜ。

ミドル・ムスタファ-----そうですよねえ。

4.


その頃、サンタの国のサンタの家では、サンタさんが一枚の手紙を読んで途方に暮れていました。

「何だこの人達は?もうイヤになっちゃうなあ…」

そう言ってサンタのおじさんは読んでいた手紙を机の上に置きました。その手紙の差出人はLittle Mustaphaになっていました。

5. 12月24日


 夕方になるとブラックホール・スタジオにいつものメンバー(マイクロ・ムスタファ以外)がやって来ました。いつもはやる気のない彼らも、今日だけはサンタにプレゼントをもらおうと張り切ってやって来ます。


ニヒル・ムスタファ-----いったい何なんだこれは?

Little Mustapha-----何なんだ、って。見れば解るでしょ。クリスマスツリーに決まってるじゃん。

Dr.ムスタファ-----これ、クリスマスツリーなのか?私はてっきりモダンアートのオブジェかと思ったよ。

ニヒル・ムスタファ-----モダンアート?これのどこにアートな感じがあるんだよ?

Dr.ムスタファ-----だって、理解不能だろ?だからアートなんだよ。

ミドル・ムスタファ-----理解不能だからアートってのは、どうなんでしょうねえ?まあ、このクリスマスツリーに意味を見いだすとすれば、台風の後の街路樹という感じですかね。

Little Mustapha-----おいおい。キミも一緒に作ったんだから、そんな風に言うなよ。ステキなクリスマスツリーじゃないか。そのイチョウの木、持って帰るの大変だったんだからね。

ニヒル・ムスタファ-----そんなことはどうでもいいのさ。それよりも今日こそは大丈夫なんだろうな?

ミドル・ムスタファ-----ダメなはずはありませんよ。今年はちゃんとみんなで正確なサンタの住所を調べて手紙を出したんですから。

Little Mustapha-----そうだよ。後はボクの手料理でも食べながら楽しく飲んで、明日の朝起きてみたら、枕元にはプレゼントの山だよ。

Dr.ムスタファ-----手料理って何だ?

Little Mustapha-----焼きニンニクだよ。

ミドル・ムスタファ-----ホントにそうしたんですか?まさかあなたはマイクロ・ムスタファの言うことを信じてるんじゃないでしょうね?

Little Mustapha-----まさか、そんなことはないよ。でもあの話が今日の献立のヒントにはなってるかな?

Dr.ムスタファ-----あの話って何だ?

ミドル・ムスタファ-----マイクロ・ムスタファがいないのは、彼が今日ここには吸血鬼がやって来ると思ってるからなんです。見てくださいよ、あのクリスマスツリーを。マイクロ・ムスタファから渡された十字架や聖水がぶら下がってるでしょ。

Dr.ムスタファ-----あの鏡は何だ?

ミドル・ムスタファ-----あれもそうです。

Dr.ムスタファ-----何で鏡が必要なんだ?

ニヒル・ムスタファ-----死人は鏡に映らないのさ。

Little Mustapha-----そんなことより、パーティーを始めるよ!クリスマスっぽくしてないと、サンタに失礼だからね。今年はたくさん酒を用意したんだ。スコッチにバーボンに、トウモロコシのもライ麦のもあるよ。

ニヒル・ムスタファ-----どうしてクリスマスにウィスキーなんだ?

ミドル・ムスタファ-----それを今さら疑問に思っても仕方ないですよ。それよりもパーティーらしくしましょうか。彼の言うことにも一理ありますからねえ。

6. その頃、近所の公園では


 ニコラス刑事はうつむいてあごに手を当てたままため息をつきました。「これで三人目」とつぶやいて目の前のビニールシートをめくりました。シートをめくるとそこにはカピカピにひからびた遺体がありました。ニコラス刑事は手袋をはめた手で遺体の上唇をめくって見ました。

「どうですか?」

後ろにいた別の刑事が彼に聞きました。

「また同じだな」

ニコラス刑事はそう答えると、また遺体にシートを被せました。

7. 再びブラックホール・スタジオ


Little Mustapha-----なんだかヒマだねえ。

ミドル・ムスタファ-----そうですねえ。ただクリスマスっぽくして待っているというのは、退屈ですよねえ。

Dr.ムスタファ-----それじゃあ、万が一に備えてプランBも考えておかないか?今からなら電撃銃も持ってこれるぞ。

ニヒル・ムスタファ-----先生。そんなことしたら、今年の計画は大失敗だよ。そうやって強引な方法でやろうとするからこれまでは失敗してたんだぜ。だから今年はおとなしく良い子にしているという作戦にしたんだからね。

Dr.ムスタファ-----そんなこと言っても、万が一ってこともあるだろうが。

Little Mustapha-----まあまあ、そういわずに。ヒマな時にはいつものようにテレビでも見れば良いんだよ。

ミドル・ムスタファ-----それはどうでしょうか?そんなことをしたら、またいつものように変な事件が起きていて、それがここのすぐ近くで…ということになりかねませんよ。

Little Mustapha-----そんなことはないでしょ。だって今年はまだへんな留守電のメッセージも残されていないようだし。

ニヒル・ムスタファ-----それは、留守電を気にする人が来てないからじゃないか。みて見ろよ。留守電のランプが点滅してるぜ!

Little Mustapha-----ホントだ。これは今年もイヤな展開になってきたねえ。

Dr.ムスタファ-----聞いてみるのか?

Little Mustapha-----もう、聞くしかないでしょう。


 Little Mustaphaが留守番電話機のボタンを押します。


留守番電話-----ゴゴ・ゴジ・ゴ・フン。イッケンデス!「…ニコラスだけど。今日は『超能力学園Z』を持って遊びに行こうと思ってたけど、厄介な事件が起きてしまってねえ。ちょっと無理そうなんだ。残念だけどまた次の機会ということかな。それから例によって事件はそちらのクリスマスパーティーに何らかの形で影響を与える気もするから、くれぐれも気を付けるように。何かあったら私の携帯に連絡すればすぐに駆けつけるぞ。私の携帯の番号は…」ピー!メッセイジ・オワリ。


Little Mustapha-----誰だ、この人?

ミドル・ムスタファ-----いい加減に覚えてくださいよ。もう何回もここにやって来ているニコラス刑事さんですよ。

Little Mustapha-----そうだっけ?そんな人いたっけ?

Dr.ムスタファ-----キミは本当に覚えてないのか?なんだか心配になってしまうよ。

ニヒル・ムスタファ-----それよりも、どうするんだ?また事件が起こっているって言ってたぜ。これはテレビをつけて確認した方が良いんじゃないか?

ミドル・ムスタファ-----それは出来ませんよ。知らなければ知らないで何も起きないかも知れないんですから。ヘタに知ってしまうと、気になって良くありませんよ。

Little Mustapha-----でも知らない方が気になるよねえ。


Little Mustaphaがテレビを点けました。


ミドル・ムスタファ-----ああ、なんてことを!そういうことはちゃんと全員で議論してからにしてくださいよ!

Dr.ムスタファ-----でもまあ、点けてしまったものはしょうがないなあ。

ニヒル・ムスタファ-----どうせキミ以外は全員見たいと思ってたみたいだしな。


テレビではお馴染みのニュース番組がやっています。


スタジオのキャスター-----それではここで世間を震撼させている「連続カピカピ遺体事件」の続報です。現場の人気女子アナ、ウッチーこと内屁端アナに伝えてもらいます。ウッチー、その後どのようになりましたか?

内屁端-----はい、現場の美人女子アナのウッチーです。ところで、この事件の本当の名前を知っていましたかあ?

スタジオのキャスター-----本当の名前とはどういうことでしょうか?

内屁端-----私が仕入れた情報によりますと、この事件の本当の名前は「連続カピカピ吸血鬼殺人事件」だったのです。

スタジオのキャスター-----全然意味が解りませんが。

内屁端-----実はこれまでに見つかった身元不明の遺体には共通した特徴があったのです。それは遺体の犬歯が普通の人よりもバーッと発達していて、まるで吸血鬼のようだというのです。これは現場にいた刑事さんが私のファンだということで、私だけに特別に教えてくれた情報なので間違いありません。

スタジオのキャスター-----それはなんだか謎めいていますねえ。それから「殺人事件」といっていましたが、やはり見つかった遺体は殺人によるものだということで間違いないのですね。

内屁端-----はい。遺体には鋭利な刃物でガーッとしたような跡があることから警察では殺人と見て捜査を進めているということです。この情報を刑事さんから聞き出すために、私はその刑事さんの持っていた「超能力学園Z」のDVDにサインをさせられましたが、これも仕事のためと、我慢してサインしました。

スタジオのキャスター-----別に、サインぐらいは我慢しなくても書けそうですが…。それではここでいったんCMです。


ミドル・ムスタファ-----やっぱり、見なければ良かったんですよ。これじゃあ今日も絶対にサンタは来ませんよ。おまけにマイクロ・ムスタファが予想したとおり吸血鬼が出てきてしまったじゃないですか。

Little Mustapha-----いやいや。まだそんなに悲観することはないと思うけどねえ。吸血鬼が出てくることは出てきたけどね。殺されてたのが吸血鬼だったじゃないか。

ニヒル・ムスタファ-----そうだな。誰かが吸血鬼に殺されたというのだったら、こっちも危険かな、と思ってしまうけどね。今回はそれほど気にすることもないはずだぜ。

ミドル・ムスタファ-----そうですかねえ?

Dr.ムスタファ-----そんなことより、だれか来たみたいだぞ。玄関が開いた音がしたぞ。

Little Mustapha-----ホントだ。もしかしてマイクロ・ムスタファがやっぱりプレゼントが欲しくなって来たんじゃないか?


 一同が耳を澄ましていると玄関からこの部屋に向かって歩いてくる足音が聞こえました。そして静かに部屋のドアが開きました。

「ゴメンくださいまし。玄関が開いていたもので勝手に入ってきてしまいました。」


一同-----うわー!セクシーサンタだ!

8.


 その頃、捜査本部ではニコラス刑事が「超能力学園Z」のDVDを眺めていました。

「ねえ、これ知り合いに自慢しに行きたいんだけど。ちょっと行ってきて良いかな?」

「ダメですよ。こんな忙しい時に。しかも、変なリポーターに勝手に捜査のことを話したりして。あれはかなり問題になってますよ」

「ああ、そうなのか。いやねえ、どうにもあの子はカワイイからねえ。しかも警察手帳にサインもらおうと思ったのに、緊張してたからこのDVD出しちゃって」

ニコラス刑事はなんだか嬉しそうに話しています。よほどウッチーのことが好きなのでしょう。でも今はそれどころではないのです。毎年この地域ではクリスマスになると何かが起こる。そしてそれは多くの住民を巻き込む血の惨劇となることだってあるのです。去年はLittle Mustaphaの家で酔っ払ってしまって何も出来なかったニコラス刑事ですが、今年こそはベテラン刑事としての腕の見せ所です。

 ニコラス刑事は腕組みをして考えました。どうして犯人は犬歯の発達した者だけを狙うのか。どうして被害者はカピカピなのか。そんなことは考えても解らない。ニコラス刑事はだんだんめんどうになってきました。

9.


 一方、ブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)では、突然現れたセクシーサンタに一同驚きのあまり固まってしまっていたのですが、彼らが状況を飲み込むかどうかは関係なく、一同ニンマリするとこの嬉しい訪問者を迎え入れました。


Little Mustapha-----いやあ、良く来たねえ。さあ遠慮せずにこちらへ。

ニヒル・ムスタファ-----おい、何でキミの隣に座らせようとしてるんだよ!

Little Mustapha-----何言ってるんだよ。主役はボクなんだからそうなるに決まってるだろ?

ミドル・ムスタファ-----いや、そうはいきませんよ。こうなってくるともう主役はセクシーサンタさんですからね。

Dr.ムスタファ-----それじゃあ、公平にセクシーサンタを中心に半円を描くようにして私らが座ったら良いんじゃないか?

ニヒル・ムスタファ-----それって公平なのか?

Little Mustapha-----でもまあ、それでいいか。主役が真ん中ということで。それじゃあセクシーサンタさん。そちらへどうぞ。

セクシーサンタ-----あのう。私セクシーサンタじゃなくてサンタの孫娘なんですけど。それに私そんなにセクシーじゃありませんし。

Dr.ムスタファ-----いいねえ。控えめなところがいいですよ。

Little Mustapha-----控えめセクシーなセクシーサンタなんて滅多にお目にかかれませんよ。エヘヘ。

ニヒル・ムスタファ-----おい、キミ達みっともないぞ。それではキャバクラに来た客みたいじゃないか!

Little Mustapha-----キミこそその口調は明らかにいつもと違うではないか。

ミドル・ムスタファ-----みなさん、ちょっと落ち着きましょうよ。ところでサンタの孫娘さんはどうしてここへ?

サンタの孫娘-----それがちょっと悲しいお知らせなんですが、みなさんの招待した祖父のサンタは今日忙しくてどうしてもここへ来られないということなので、代わりに私が来たんです。

一同(サンタの孫娘除く)-----エー!?

Little Mustapha-----…でも来てくれたんだからいいじゃん。それよりサンタの孫娘さん、お腹空いてない?焼きニンニクとかニンニクを焼いたヤツとかニンニク焼きとかあるけど。

サンタの孫娘-----それじゃあニンニクを焼いたヤツを少しだけいただきましょうかしら。ほんの少しで結構ですよ。私、実をいうとここに来る前にラズベリーのケーキを食べて来ちゃいましたから。私あのケーキには目がないんですけど、私達がこちらへやってこられるのは年に一度だけですから、来ると必ず食べないと気が済まないんです、ウフッ。

ミドル・ムスタファ-----ああ、それで口の周りが赤くなってたんですね。なんだか気になってたんですよ。

サンタの孫娘-----あらイヤだ。私ったら。ウフフッ!

ニヒル・ムスタファ-----ちょっと、楽しい会話に水を差すようで悪いんだけど、みんな何かを忘れてないか?

Dr.ムスタファ-----何かって何だ?

ニヒル・ムスタファ-----オレ達の本来の目的がどうなるのかってことだよ。

ミドル・ムスタファ-----それはもうどうでもいいんじゃないですか?

Little Mustapha-----そうだよ。こうやってセクシー、じゃなくてサンタの孫娘さんが来てくれたんだし。

Dr.ムスタファ-----そうだな。気になるならキミが聞いてみたらいいんだ。

ニヒル・ムスタファ-----まったく、そんなことだから毎年計画が失敗するんだよ。サンタの孫娘さん。一つ聞きますが、あなたはおじいさまから預かってきた物とか持ってませんか?

サンタの孫娘-----あら、祖父は何も言ってませんでしたけど?

ニヒル・ムスタファ-----やっぱりそうなのか。こうやって、ヤツはいつでも何かと理由をつけてオレ達にプレゼントを渡さない気なんだよ。

Little Mustapha-----おいおい、そんなことを言ったらサンタの孫娘さんに失礼じゃないか。

サンタの孫娘-----もしかして、みなさんは私の祖父にプレゼントのリクエストをなさったんですか?

ミドル・ムスタファ-----そういうことですが。

サンタの孫娘-----それじゃあプレゼントは届きませんよ。祖父はプレゼントを配るのが仕事ですから。リクエストはサンタの叔父さんに送らないといけないんですよ。

一同(サンタの孫娘除く)-----エーッ!?

Little Mustapha-----それじゃあ「サンタさん」と「サンタのおじさん」は別人だということ?

サンタの孫娘-----そうですよ。時々間違える人もいるみたいですけど。

Dr.ムスタファ-----なんてことだ。ひらがな表記の悲劇だ!

ミドル・ムスタファ-----でもそんなに悲観することはありませんよ。これで来年からは間違いがなくなるはずですよ。

Little Mustapha-----それもそうだね。じゃあ今年はプレゼントは我慢してサンタの孫娘さんを半円で囲んで楽しく盛り上がろうか。サンタの孫娘さん、飲み物は?ウィスキーを水で割ったお洒落なカクテルとか、何でもあるよ。


 今年もプレゼントがもらえないと解ってもサンタの孫娘がいるおかげで何となく盛り上がっているブラックホールのメンバー達です。しかし、ニヒル・ムスタファだけが一人で青ざめてサンタの孫娘を見つめていました。

 ニヒル・ムスタファは頃合いを見計らって隣にいたミドル・ムスタファを連れて隣の部屋に行きました。

10. 隣の部屋


ミドル・ムスタファ-----どうしたんですか、顔が真っ青ですよ?

ニヒル・ムスタファ-----大変なことになったよ。

ミドル・ムスタファ-----なんですか、あなたらしくない。

ニヒル・ムスタファ-----見ちゃったんだよ。鏡を。

ミドル・ムスタファ-----鏡って、あのツリーに飾ってあるヤツですか?

ニヒル・ムスタファ-----そうなんだよ。あの鏡が偶然視界に入ってきたんだけど、そこにサンタの孫娘が映ってないんだよ。それにここへ来た時からおかしいと思ってたんだけど、あの女の口の周り見ただろう?ラズベリーとか言ってたけど、あれは血の色だよ。

ミドル・ムスタファ-----それは考え過ぎじゃありませんか?あのツリーには十字架も飾ってあるし、さっきからニンニクを焼いたヤツとか普通に食べてるじゃないですか。

ニヒル・ムスタファ-----それはそうだけど、もしものことを考えると。キミ、マイクロ・ムスタファから吸血鬼退治セットをもらったんだろ?

ミドル・ムスタファ-----もらいましたけど、ほとんどツリーにぶら下げてありますよ。残ってるのは木の杭だけですけど。

ニヒル・ムスタファ-----それじゃあ、それを持って戻るぞ。

ミドル・ムスタファ-----まさか、それでサンタの孫娘さんを…

ニヒル・ムスタファ-----そこまではしないけど。万が一誰かが襲われそうになったら、木の杭を打ち込むしかないだろ。

ミドル・ムスタファ-----まあ、そうですけどねえ。

11.


 難事件を抱えて面倒なことになったと困っていたニコラス刑事のところへ警官がやって来ました。

「ニコラス刑事!怪しい人物を捕まえました。その怪しい人物は怪しいくせに自分は怪しくないと言い張っていまして、しかも自分はニコラス刑事の知り合いだから会わせろ、とも言っているんですが、どうしますか?」

怪しい事件に怪しい人物とは好都合です。どうせならとことん怪しくなってくれた方が良いと、半分投げやりになっていたニコラス刑事は少し胸の躍る感じがしました。

「それで、その怪しい男の名前はなんていうんだ?」

「マイクロ何とかというふざけた偽名を使っています」

「そうか。それならここに連れてくるんだ。怪しいがヤツだがそれほど怪しい男でもないぞ」

「なんだか、意味が解りませんねえ?」

「いいから早く連れてこい」

しばらくすると警官がマイクロ・ムスタファを連れて戻ってきました。

「どうしたんだねマイクロ・ムスタファ君。今日はキミ、パーティーがあるんじゃないのか?」

「いや、そうなんですけど。あのパーティーは危険すぎて行けませんよ。それにこの事件のことも知ってしまったし」

「それじゃあ、キミもLittle Mustaphaの家で行われるパーティーとこの事件とが関係していると思っているのかね?」

「まあ、そんなところです」

マイクロ・ムスタファはLittle Mustaphaの部屋とは違い、思う存分ミステリーについて語れるこの場所ではまるで別人のように自信を持って話しています。

 マイクロ・ムスタファはミドル・ムスタファに吸血鬼退治セットを渡しただけでは心配だったので、その後も彼らの近辺に異変がないか調べていたのですが、その時テレビで謎のカピカピ遺体事件を見るとすぐに怪しいと思ったようです。そしてその事件現場が次第にLittle Mustaphaの家に近づいていることも気になっていました。今、彼らのいる事件現場はLittle Mustaphaの家からすぐ近くにあるのです。

「キミはどう思うのかね。このカピカピ遺体事件の犯人はLittle Mustapha達も襲うと思うのか?」

「それは違うと思います。詳しいことはこの矢を放った者の正体が解らないことには何とも言えませんが」

そう言ってマイクロ・ムスタファはニコラス刑事に持っていた矢を見せました。ニコラス刑事はその矢を不思議そうに見つめました。

「これは銀の矢だねえ。こんなものどこにあったんだ?」

「このすぐ近くにありましたよ。遺体のあった近くです。きっと他の事件現場にも同じものが落ちていたに違いありません」

「おい、キミ。それは重要な証拠だからかってに持って来ちゃダメじゃないか!」

「でも警察の人はこんなものには目もくれずにこれを踏んづけて歩いてましたよ。それに私はちゃんとそこにいた警官に許可をもらってこれを持ってきたんですから」

「そうなの?じゃあ良いかな。それでこの矢を放った者が犯人というわけだな。そいつを捕まえれば無事に事件は解決ということだな。そしたら私はLittle Mustaphaの家に行って酒でも御馳走になろうかな」

なぜかマイクロ・ムスタファの話をすっかり信じているうえに、あんまりやる気のないニコラス刑事ですがマイクロ・ムスタファはそうでもないようです。

「いや、待ってください。私はそうは思いません。この矢がどうして銀製なのか解りませんか?」

ニコラス刑事はちょっと考えてから言いました。

「もしかして吸血鬼退治の銀製の武器ということか?でも銀製の武器だけでは吸血鬼を倒すことは出来ないぞ」

「そうかも知れません。でもこれはそこまでこだわっていない話ですからいいんじゃないでしょうか。多分、親玉の吸血鬼以外なら銀製の武器だけでも倒せるんです」

「なんだか都合のいい話だねえ。それでキミの言いたいのはどういうことなんだ?」

「つまり、こういうことです。どこかにいる親玉の吸血鬼が手下の吸血鬼をLittle Mustaphaの部屋に送り込もうとしているのを誰かがこの矢で阻止しているのです。しかし、恐ろしいことに吸血鬼はクリスマスが近づくに連れて力を増している気がするのです。その証拠にカピカピ遺体が見つかる現場がLittle Mustaphaの家に近づいてきているでしょう」

ニコラス刑事は感心して聞いているように見えますが、半分ぐらいしか理解していません。

「それじゃあLittle Mustaphaの家に行って見張ってれば良いんじゃないか?」

「しかし、それには問題があります。誰が吸血鬼かを見分けられるのはこの矢を放った人物だけしかいないのです。ですからまず我々はその人物を捜して詳しいことを聞かなければいけないのです」

「へえ…」

怪しい現場に怪しい人物が現れて話はさらに怪しくなってきたようです。

12. その頃、Little Mustaphaの部屋では


サンタの孫娘-----あれはクリスマスツリーというよりは、なんていうか台風の後の街路樹みたいですね。

Little Mustapha-----なんだキミまでそんなことを言って。ボクが苦労して持って帰ったのに。

Dr.ムスタファ-----キミの苦労はいつだって報われないということだよ。それよりもニヒル・ムスタファとミドル・ムスタファはどこに行ったんだ?

Little Mustapha-----そうだねえ。さっき出てったきりだね。もしかして主役のボクに気を使ってるんじゃないのかな?だとしたら先生もこの辺でどこかに行かないとね。後は若い二人で。

Dr.ムスタファ-----何を言ってるんだ。今日の主役は私だぞ!

Little Mustapha-----なんで急にそうなるんだ?

Dr.ムスタファ-----まあ、言葉のあやってやつだよ。

Little Mustapha-----どこが?


ここでやっとニヒル・ムスタファとミドル・ムスタファが部屋に戻ってきました。二人は黙って静かに元の場所に座りました。


Little Mustapha-----キミ達どこに行ってたんだ?

Dr.ムスタファ-----そうだぞ。こんな楽しいパーティーを抜け出して。それにミドル・ムスタファが後ろに隠してるのはなんだ?なんかプレゼントでも用意してるのか?

ミドル・ムスタファ-----ああ、いや。これは…何でもないです。

Little Mustapha-----あれ?それ吸血鬼退治グッズの木の杭じゃない?

ミドル・ムスタファ-----ええ、まあ…。

Dr.ムスタファ-----どうしてそんなものを持ってくるんだ?

サンタの孫娘-----それはきっと私のせいだと思います。

Little Mustapha-----それ、どういうこと?

サンタの孫娘-----お二人は私のことを吸血鬼だと思っているんでしょ?私はさっきから気付かれないかハラハラしてたんですけど、やっぱり気付かれてしまいましたね。私達サンタ一族は鏡に映らないんです。ですからよく吸血鬼と間違えられて…。何度か酷い目に合ってきたことも…

Little Mustapha-----おい!キミ達が変なものを持ってくるから。サンタの孫娘さん、泣いちゃったじゃないか!

ニヒル・ムスタファ-----でも万が一ってこともあるだろ!

Dr.ムスタファ-----こんな娘さんが吸血鬼だと本気で思ったのか?

ニヒル・ムスタファ-----だから万が一だって…。

Little Mustapha-----サンタの孫娘さんが吸血鬼なワケないじゃないか!

サンタの孫娘-----いいんです。もう気にしないでください。泣いたりして私がバカでした。もう気にしていませんから。

Dr.ムスタファ-----サンタの孫娘さんは物分かりが良いねえ。それに引き替えキミ達は。謝ったらどうなんだ?

ニヒル・ムスタファとミドル・ムスタファ-----ごめんなさい…

サンタの孫娘-----あら!?何かそこで電話機がピカピカしていますよ。

Little Mustapha-----電話機がピカピカ!?ああ、これは留守番電話にメッセージがあるってことだよ。

ミドル・ムスタファ-----それ、聞くんですか?

ニヒル・ムスタファ-----なんだかイヤな予感がするけど。

サンタの孫娘-----でもメッセージがあるなら聞いた方が良いんじゃないですか?

Dr.ムスタファ-----サンタの孫娘さんはそう言ってるが。

Little Mustapha-----じゃあ聞くしかないね。


Little Mustaphaがメッセージの再生ボタンを押しました。


留守番電話-----ゴゴ・クジ・ニ・フン。ピー!「ちょいとあなた達はいったいどういうおつもりなの!今年もあたくしを呼ばずにパーティーですの?それにその女はいったい何なのよ!ホントにあたくしを呼ぶ気がないのなら、あたくしはこのあいだの計画を実行いたしますわよ。まず最初の標的はLittle Mustapha様。あなたですわ!あなたはいつになったらあたくしの新曲を作ってくれるのかしら?これで今年も紅白には間に合いませんでしたわ!そんなあなたが最初に消されるのは当然のことですわ!もしそうなりたくないのなら、このメッセージを聞いたらすぐに連絡をするんですのよ。あたくしはあなた達がよく見えるところからあなた達を狙っていますからね。あたくしの連絡先は666の…」ピーッ!メッセイジ・オシマイ!


Little Mustapha-----や、やっぱり聞かない方が良かったかなあ。

ニヒル・ムスタファ-----だから言ったんだぜ。

ミドル・ムスタファ-----でも聞いても聞かなくても彼女を呼ばなかったら計画は実行されるんでしょ?

ニヒル・ムスタファ-----それもそうか。

サンタの孫娘-----いったいどうしたというんですか?その女の人は。

ミドル・ムスタファ-----実はですねえ。毎年このプリンセス・ブラックホールという人はここに招待して欲しいって電話をかけてくるんですけど、誰も彼女の連絡先を知らないから招待できないんですよ。しかも留守番電話のメッセージは知らない間に録音されているし。仕方なく放っておいたんですけど、このあいだ私達が集まった時に威嚇射撃があったんです。

サンタの孫娘-----威嚇射撃ですか?

ニヒル・ムスタファ-----それは大げさだぜ。

ミドル・ムスタファ-----矢を射ってこの家のドアベルのボタンに命中させたんです。それで彼女の弓矢の腕を証明して見せたんだと思うんですが、その矢に手紙が付いていて、今度のパーティーに呼ばなければ弓矢でボク達を狙うって言ってきたんです。

サンタの孫娘-----まあ!それは大変。でもさっきのメッセージでは、その人は今もここが見えるところにいてあなた達を狙っているって言ってましたよ。だからそこの窓から大声でその人を招待すれば良いんじゃないですか?

ニヒル・ムスタファ-----そんな手は通じないと思うぜ。

ミドル・ムスタファ-----でもやってみる価値はあるんじゃないですか?

Little Mustapha-----じゃあ、やってみる?

Dr.ムスタファ-----そうだな。「口に戸は立てられぬ」っていうからな。

ニヒル・ムスタファ-----先生。それ全然関係ないよ!

13.


 Little Mustaphaは立ち上がると窓を開けて慎重に外を見回しました。この暗い夜の闇の中にプリンセス・ブラックホールがいるのでしょうか?

「ブラックホール・スタジオよりプリンセス・ブラックホール様へ。今年も恒例のクリスマスパーティーを開催することになりました。つきましてはプリンセス・ブラックホール様にもご参加していただきたく…」

Little Mustaphaが口頭による招待状を最後まで言う前にLittle Mustaphaの家のドアベルが鳴りました。

「あれ、誰だろう?まさかもう来たのか?」

Little Mustaphaは不思議に思いながら玄関先と話が出来るようにインターフォンの受話器を取りました。


インターフォン-----やあ、私だ。ニコラスだ。

Little Mustapha-----ニコラス刑事さん?!

Dr.ムスタファ-----なんだ。あの男はまた仕事をさぼってここに来たのか?

ミドル・ムスタファ-----あの人、今は事件の捜査とかしてるんじゃないんですか。さっきの変な遺体の事件。

ニヒル・ムスタファ-----きっとあの人はいてもいなくても同じだから、いつでも抜け出せるんだろ。

インターホン-----どうでも良いから早く入れてくれないかね?外は寒くて凍えそうだ。

Little Mustapha-----はいはい。鍵は掛かってないから勝手に入ってきてくださいよ。

ミドル・ムスタファ-----あの人この前は勝手に上がってきたのに、もしかして今日はめずらしく玄関に鍵が掛かってるんじゃないですか?

Little Mustapha-----そんなことはないよ。ここにいるのは鍵を閉めないタイプの人ばかりだからね。

ニヒル・ムスタファ-----それってどういうタイプだよ!


 そうこうしているうちにニコラス刑事が部屋にやって来ました。ニコラス刑事は一瞬サンタの孫娘に目をやりましたが、それ以上彼女を見ないようにして空いている場所に座りました。


ニコラス刑事-----なんだか寒いな、この部屋は。

Little Mustapha-----ああ、そうだった。プリンセス・ブラックホールの招待がまだ済んでなかったっけ。もうちょっと寒いけど、ボクらの安全のためだからね。


 Little Mustaphaはもう一度立ち上がって窓のところに行きました。

「あれ?さっきはどこまで喋ったっけ?」

そんなことを聞いても誰も覚えていません。

「仕方ないなあ。また最初からやるか。…ブラックホール・スタジオよりプリンセス・ブラックホール様へ。今年も恒例のクリスマスパーティーを開催することになりました。つきましては…」

その時、Little Mustaphaの部屋の電話が鳴り出しました。

「ああ、また邪魔された」

Little Mustaphaは電話のところへ行ってハンズフリー通話のボタンを押しました。なぜハンズフリーかというと、その方が解りやすいからです。


電話-----もしもし、マイクロ・ムスタファです。みなさんまだ生きてますか?

Little Mustapha-----なんだよそれ。生きてるに決まってるじゃないか。キミこそ大丈夫なのか。今日は吸血鬼なんかやってこなかったぞ。

電話-----それはまだ解りませんよ。今日はまだ終わっていないんですから。今私はどうすればあなた達を助けることが出来るか考えているんですが、どうしても良い案が浮かばなくて。でももう少しで何とかなりますから。


 この電話が鳴り出す前からニヒル・ムスタファはまた青ざめて隣のミドル・ムスタファの上着の裾を引っぱっていました。始めはミドル・ムスタファも何のことだか解らなかったのですが、ニヒル・ムスタファが指さす方を見て、彼の恐れているものに気付いたようです。二人ともあまりに恐ろしくてそのまま動けなくなってしまいました。電話はまだ続いています。


Little Mustapha-----何とかしなくても、何も起きないから平気だよ。そろそろキミもここに来れば良いのに。

電話-----それが一番危険なんです。今日は誰が来てもその部屋には入れないでください。それからプリンセス・ブラックホールを招待するのもやめてください。もしかすると、吸血鬼の親玉があなた達の知り合いに姿を変えてそこに現れるかも知れないのです。そうなったら、退治するのは大変なんですからね。それじゃあ気を付けてくださいよ。

14.


「そんなことを言ってもねえ」そう言いながらLittle Mustaphaが振り返ると、青ざめて震えているニヒル・ムスタファとミドル・ムスタファが目に入りました。

「どうしたんだ、キミ達?そんなに寒いの?」

恐ろしくてほとんど固まってしまったミドル・ムスタファですがやっとの思いで震える指を動かして、ツリーに飾ってある鏡を指しました。その奇妙な様子にLittle Mustaphaだけでなく他の人たちも鏡の方を見ました。

 開けっ放しの窓から入ってくる北風がツリーにつるされた鏡にあたって、鏡はゆっくりと回転しています。その鏡が回転しながら部屋の端から端までを映していきます。そして全員が気付きました。サンタの孫娘だけでなくニコラス刑事の姿までも鏡に映っていなかったのです。


一同(ニコラス刑事除く)-----うわーっ!本物の吸血鬼だー!!


 正体を知られた偽ニコラス刑事は一度うつむいて「ちょっと遅かったようだね」と言って低く笑いました。そして立ち上がるとLittle Mustapha達の方へ本当の姿を見せました。それはLittle Mustapha達が想像していた紳士のような吸血鬼の姿とはかけ離れていました。立ち上がった吸血鬼は2メートルを越えようかという大男です。そして顔の端から端まで開いている大きな口に鋭い牙が何本も並んでいます。どう猛な肉食獣のような鋭い目で彼らを睨みつけ、歯をむき出して威嚇しているのです。

 もちろんこんな状況でLittle Mustapha達に為す術はありません。ただ口をあんぐりと開けて吸血鬼を見ているだけでした。このままではLittle Mustapha達がやられてしまいます。吸血鬼が手を上げるとその手には鋭いかぎ爪がありました。そのかぎ爪をLittle Mustaphaの方へ向けて彼に襲いかかろうとした時です。空いていた窓を通して一本の矢が飛び込んできました。それは吸血鬼の背中に刺さり銀製の矢の先が胸から飛び出しました。

 不意をつかれた吸血鬼は矢の刺さった傷口を押さえながらもがき苦しんでいます。しかし、それだけでは吸血鬼を退治することは出来なかったようです。吸血鬼は苦しみながらも次第にLittle Mustapha達の方へ近づいていきます。

「吸血鬼退治セットを使ってください!」

混乱している中でサンタの孫娘の声が聞こえてきました。この声にそれまで固まっていたLittle Mustapha達は少しだけ我に返って慌てて動き出しました。

「はい、これ!」といってミドル・ムスタファはLittle Mustaphaに木の杭を渡しました。

「何でボクが?」

「だって主役でしょ!」

「こんな時だけ主役あつかいかよ!」

こんな良く解らないやりとりもありましたが、Little Mustapha達は慌ててツリーに吊してあった聖水や十字架を引っぱりました。ところがあまりに慌てていたためツリーが倒れて、それは運悪く部屋の電気のスイッチにあたりました。部屋の電気が消えた瞬間、吸血鬼がLittle Mustaphaに飛びかかってきました。

 暗闇の中に悲鳴や意味不明のわめき声が響き渡りました。それはしばらく続いていましたが、次第に音量が小さくなり最後にLittle Mustaphaが「わー」と小さく言ったのを最後に誰も何も言わなくなりました。

 しばらく沈黙が続いた後、ミドル・ムスタファの声がしました。

「あの。もう電気つけても良いですかねえ」

「良いんじゃないか。なんかもうあんまりパニックじゃない感じになったしな」

Dr.ムスタファが答えるとミドル・ムスタファが電灯を点けました。明かりがつくとLittle Mustaphaのうえに大きなカピカピの遺体が乗っているのが解りました。遺体の胸には見事に木の杭が突き刺さっています。

「ちょっと、見てないでこれをどけてくれよ」

Little Mustaphaに言われて他のメンバー達が彼に乗っていたカピカピ遺体をどかしました。Little Mustaphaはまだ放心状態で何が起きたのか解らないようですが、吸血鬼に襲われた瞬間に持っていた木の杭を吸血鬼の方に向けたため、それが偶然吸血鬼の胸に突き刺さったようです。

15.


ミドル・ムスタファ-----なんだか、今年は緊張感がありましたねえ。

Little Mustapha-----ありましたねえ、じゃないよ!キミはあの場面でボクに木の杭を押しつけただろ!

ミドル・ムスタファ-----でもそれが結局功を奏したじゃないですか。

Little Mustapha-----でもまあ、これでキミはボクを主役と認めざるを得なくなるけどねえ。

ミドル・ムスタファ-----ええ!?それはちょっと。

ニヒル・ムスタファ-----それより、このカピカピ遺体はどうするんだよ。こんなのがあったら、他の事件の犯人も全部オレ達にされちゃうぜ。

サンタの孫娘-----それなら心配いりませんよ。その吸血鬼も鏡に映っていなかったんだから、元々人間ではなかったってことでしょ。だからみなさんは何の罪にもとわれないと思いますよ。それに、そんなにカピカピなら、そのうち粉になってしまいますよ。

Little Mustapha-----粉になってくれても、掃除が大変だなあ。

ミドル・ムスタファ-----どうせしないんだからいいじゃないですか。

Little Mustapha-----それもそうだけどねえ。それじゃ、とにかく無事に生き延びられたということで、飲み直そうか?

ミドル・ムスタファ-----またですか?

Dr.ムスタファ-----でも、せっかくサンタの孫娘さんもいるんだし…

サンタの孫娘-----あら、もうこんな時間!私そろそろ帰らないと。こんな遅くまで外にいたらパパに怒られてしまいます。

一同(サンタの孫娘除く)-----エー!?

サンタの孫娘-----私ももう少しゆっくりしていきたいんですけど、家が厳しくて。みなさん今日はホントに楽しかったです。どうもありがとう。それじゃあ!

Little Mustapha-----ああ、ちょっとまって!サンタの孫娘さん。来年の予定とかは…?

サンタの孫娘-----それが、来年からは私、サンタの見習いとして祖父と一緒にプレゼントを配らないといけないんです。だからここに来るのは無理だと思うんです。本当にごめんなさい。

一同(サンタの孫娘除く)-----エーッ!?

サンタの孫娘-----それじゃあ、もう行かないと。さようなら!


ミドル・ムスタファ-----行っちゃいましたねえ。

Dr.ムスタファ-----行っちゃったなあ。

ニヒル・ムスタファ-----それで、どうするんだ?

Little Mustapha-----もう、飲むしかないでしょ。

ミドル・ムスタファ-----そうですね。どうせそのうちマイクロ・ムスタファも本物のニコラス刑事もやって来るでしょうしね。

16


 サンタの孫娘が帰ってしまい意気消沈しているLittle Mustapha達は結局いつものようにグタグタ飲み始めようとしています。しかし、まだ忘れていることがあるのです。いまだに開けっ放しだった窓からまた矢が飛び込んできて、彼らの真ん中に刺さりました。Little Mustapha達が驚いてその矢を見るとそこには手紙が付けられていました。

「また矢文ですねえ」

そう言いながらミドル・ムスタファが矢を抜くとLittle Mustaphaに渡しました。

「これ、ボクに読めっていうの?なんだかキミは都合のいい時だけボクに主役らしいことをさせるなあ?」

Little Mustaphaは手紙を拡げると声を出してそれを読みました。

 どうです?これであたくしの実力がおわかりになったでしょう?でも残念ながらあたくしは本物のプリンセス・ブラックホールではありませんのよ。今日本物のプリンセス・ブラックホールはセレブの集まるパーティーに出席していてそれどころではないんですから。

 でもこれだけは知っておいてくださいな。敵だらけのあなた方にも密かに味方する人がいるということを。あなた方はいつも誰かに狙われていますし、助けてくれる人もほとんどいませんが、それでも誰かがあなた方を影で見守っているからあなた方はそうしてグタグタしていられるのですよ。この意味が本当に解った時に、あなた達は欲しかったプレゼントが貰えるかも知れませんわ。

メリークリスマス!


偽プリンセス・ブラックホールより。

Little Mustapha-----なんだこれは?

ミドル・ムスタファ-----みなさん、どう思います?

Dr.ムスタファ-----どうって言われてもなあ。

ニヒル・ムスタファ-----そんな茶番に付き合ってるより飲んだ方がマシだぜ。

Little Mustapha-----おっ、いいねえ。めずらしくニヒル・ムスタファが乗り気じゃないか。

ミドル・ムスタファ-----それじゃあ、乾杯しましょうか。


 一同が酒を注いでいるとまた変なタイミングで電話が鳴り出しました。


Little Mustapha-----なんだ?また電話だよ。

電話-----もしもし、マイクロ・ムスタファです。みなさんまだ生きてますか?やっぱり親玉吸血鬼は木の杭を心臓に打ち込まないと倒せないみたいです。さっき通りかかったセクシーサンタが教えてくれました。ですからいいですか。もし変な人がそこへやって来たら…

Little Mustapha-----マイクロ・ムスタファ君。もう遅かったようだね。我々はもうすでに吸血鬼と化してしまったんだよ。

電話-----ええ!?

ミドル・ムスタファ-----これからキミを襲いに行くから待っているがよい。

ニヒル・ムスタファ-----キミが今日ここで味わえなかった恐怖を存分に味合わせてやるぞ。

電話-----ちょっと、やめてくださいよ!

Dr.ムスタファ-----もう誰も我々を止めることは出来ないのだ。

一同(電話除く)-----フハハハハ!フハハハハ!マイクロ・ムスタファ君。キミも笑え!笑うのだ!

クリスマス

ジングルベルが

うっとうしい

今年も彼らに

プレゼントはなし


 ということで、去年よりは中身のあるペケマス・スペシャルでした。そして、この調子だと来年もやらなくてはいけないような感じになってきました。きっと来年もまた彼らは…。いや、来年の話をすると吸血鬼が笑います。(?)


 次回のBlack-holicは「いつまでもクリスマスネタを掲載していると一年中クリスマスツリーを飾っている家状態になるから気を付けろ特集」です。何でもいいから書きます。