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#038 「Black-holic Special ---Peke Santa---(後編)」 2004-12-18 (Sat)

後半は更に長いため9ページにわけました。付き合いきれんわ!

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(今回は前回の続きです。先に前回の話を読まないと意味が解りません)


前回のあらすじ(リミックスふう)


「何ですかこれは?」


「何だ、迷惑メールかよ」


「つまり彼はボクらが知り得ないことでも知っているかも知れない、ということだよ。それはマイクロ・ムスタファ本人さえも気付いていないことなのかも知れないけどね。本当のサンタを呼べるのは、彼だけかも知れないよ」


「あたくしの汗つきシャツが欲しいなんて言っている変態野郎のマイクロ・ムスタファ様はそちらにいらっしゃるの?」


「私の考えではここの電話へおかしなメッセージを残していくのは人間ではありません」


「それじゃあ、キミはまだサンタへの手紙は出してないのか?」


「いや、一応出しておいたよ。マイクロ・ムスタファが必ずしも本物のサンタの居所を知っているとは思っていないからねえ」


「何ですの?偉そうに。でも、あなたのおっしゃることも否定できませんわね。子供達の夢が託された手紙を盗むなんて許せないことですわ」


「もしもし、マイクロです。・・・もしもし?・・・もしもし?」


「キミは今日来ないんじゃなかったの?」


「Little Mustaphaが暗殺されたら、ボクらは重要な情報を手に入れる機会を失うことになるからね」


「もしキミ達がまだ家にいるのなら、今すぐ誰にも気付かれないようにそこから離れるんだ。キミ達の命が狙われている可能性がある」


「それが出来るのは多分、我々の五感を越えたところに存在しているもの」


「笑え・・・笑うのだ・・・なぜ笑わない。・・・笑え・・・笑うのだ・・・なぜ笑わない・・・」


埋め立て地にある大きな公園


 クリスマスイブだというのにとんでもないことが起きてしまったようだ。この公園の付近には何十台ものパトカーがやって来ていた。公園全体が事件現場として一般の人間の立ち入りは禁止されている。

 そこへモオルダアとスケアリーが到着した。いつもなら彼らがエフ・ビー・エルだと言って事件現場に入ろうとしても警官には意味が伝わらずに一苦労するのだが、今回彼らは特別出演なのでそんなところに時間をかけてはいられません。ここはすんなり事件現場に入れたことにしましょう。

 現場に入った瞬間からモオルダアが目を向けられる場所はどこにもなかった。彼の大嫌いな酷たらしい遺体がそこら中に転がっているのだ。モオルダアは無意識のうちにスケアリーのコートの裾をつかんでいた。強がってお化け屋敷に入ったはいいが、入ったら怖くなって泣き出しそうな子供のようである。さすがのスケアリーもこの現場の様子に驚きを隠せなかったのか、しばらくはモオルダアが怖さのあまり彼女のコートをつかんでいるのに気付かなかった。しかし、それに気付くと彼女はパシッとモオルダアの手を叩いて払いのけた。

「いったいこれはどういうことですの?」

「地獄ですよ。これは地獄です」

モオルダアはパニックに陥って何を喋っているのか自分でも解っていない。

「ちょいと、モオルダア。しっかりしてくださいな。せっかくのクリスマスだというのに、どうしてこんな気分の滅入る大量殺人事件の捜査なんかしなくちゃいけませんの?」

スケアリーの声の調子で彼女がいらついていることに気付いたモオルダアは、ハッとして我に返った。彼にはスケアリーを怒らせることが何よりも怖いことだと充分に解っていた。

「これだけの人間が殺されるなんてちょっと普通じゃないよね。でもそれだけじゃボクらの出番とはならないよねえ。それは警察の仕事だから。でも、目撃者がサンタだと言うことが解ったんだ。しかもそのサンタを調べたら、銃を持っていることが解って捕まったってことだよ」

「じゃあ、犯人はそのサンタの恰好をした人だというのかしら?それで、あたくし達の捜査している事件とはどんな関係があるって言うんですの?もったいぶらないで話していただけませんかしら」

「キミはここの住所をしってる?」

こう言ってモオルダアはサンタ宛手紙紛失事件の証拠品であるLittle Mustaphaの書いた手紙をスケアリーに見せた。

「あらまあ、ここはその手紙に書かれていた返信先ですの?それじゃあ、さっき捕まったサンタ男が手紙盗難の犯人てことじゃないかしら。そうならあたくし達の捜査は終了ですわ」

「それはどうかな。ここで起きた殺人は彼の犯行じゃなさそうだよ。ここの遺体は頭がつぶれていたり、内蔵が飛び出していたり。銃を持っている男がそんな殺し方をするわけがないからね」

モオルダアは考えに集中するあまり無意識のうちに遺体を眺めていたが、ふと自分が見ているものがなんであるかに気付いた。彼はキャッと変な叫び声をあげて、またスケアリーのコートをつかもうとした。スケアリーはさっと身をかわしてそれをよけた。

「それから、もう一つありますわねえ。あなたみたいな言い方をすれば、これはあなたがこのまえ言っていた政府の闇組織による犯行でもなさそうですわね。そういうところの人間ならこんな派手な殺し方はしませんから」

モオルダアが遺体を見てまたパニックになってしまったのでスケアリーがモオルダアの言うべきことを喋った。

「そう、そう。そういうことだよ。それよりも早くここを出ようよ」

恐さに耐えきれなくなったモオルダアはスケアリーを引っ張って急いで公園の外に向かった。


「ちょいと、なんですの。あたくしが遺体の様子を調べないと事件のことが解らないじゃありませんか」

「いや、それはいいんだよ。あんな所にいたらボクがまともに会話が出来なくて話が前に進まないだろ」

「それはそうですけど、もしあの遺体の中にLittle Mustapha様の遺体があったらどうするんです?」

「それはないと思うよ。Little Mustaphaは自分がああなることを恐れてわざと違う住所を書いてあったんだと思うぜ」

公園の外にきたモオルダアはだいぶ普通に話せるようになっている。

「それよりも、犯人はどんな方なんですの?ちょっと異常な方かしら?でもこの殺し方は、何て言うか猟奇殺人の域を超えていますわ。こういうのって何て言うのかしら・・・」

「ジェイソンみたいだろ?」

スケアリーはこのモオルダアのおバカな意見を否定したかったが、あながち間違いとも言えなかった。犯人はもの凄い腕力で、出会う人を次々と機械的に殺していったかのようだ。

「もしかすると犯人は人間ではないかも知れないな」

「ちょいと、真面目にやってくださりませんか?人間ではないってどういうことですの?またエイリアンとか地底人とかが出てくるんじゃないでしょうねえ」

「いや、それよりももっと恐ろしいかも知れないよ。それに根拠だってちゃんとあるよ。キミは紛失したサンタ宛の手紙が見つかったあのサンタの国のようなところの謎は解けたのか?」

「・・・それは、まだ解っていませんけど。あれはきっと映画のセットみたいなものですわ。実際にあたくし達はそこにいたんですから、あのサンタの国のようなところが実際にあることは確かですわ」

いったい二人は何を話しているのでしょうか?実は紛失した手紙を見つけてから帰ったあと二人は手紙を見つけた家について調べていたのです。家に住んでいた人間が解ればすぐに犯人は見つかると思ったようです。しかし、サンタの家のようなところに住んでいた人間の記録はどこにもありませんでした。それよりもそこに家があったという証拠もありませんし、サンタの国のようなところというのも世界中どこを探してもないのです。

 始め彼らは何かの理由で幻覚でも見たのではないかと思っていましたが、彼らの手元にはあるはずのない場所で見つけてきたLittle Mustaphaの手紙がちゃんとあるのです。この謎を解くために二人が悩んでいるところへ今回の公園での連続殺人が起こったのです。

「キミは作家の予知能力については知ってるかな?」

「なんですのそれ?予言とかそんなやつですの?そんなものはインチキに決まってますわ」

「そうじゃなくて、作家の書いた事件がまったく関係のないところで実際に起こったり、そういうことがあるんだよ。つまり話が現実化するんだ」

「そういうのは、話が現実になったんじゃありませんわ。作家というのはあり得ることを書くものですから。それに、そういう話を書けるのが作家の感性ですわ。世の中を見る目が鋭いんですのよ。それから、作り話をまねた犯罪というのもありますわ。まったく、最近は小説といえば中身は犯罪だらけですからイヤなことですわ。あたくしはもっと美しいものが読みたいんですけども」

「まあ、それはどうでもいいけどね。ボクの説をキミが言うように片づけてしまうと簡単だよね。でもこの社会を動かしているのは個人の意志ではないよね。社会を形成している集団の意志だ。でもその集団は個人から成り立っている。作家の作品は社会自体に影響を与えないけど、個人には影響を与えることが出来る。個人が集まって社会が出来ているのなら、作家の書いたことが社会を動かしてると考えることも出来るんだよ。作家に影響された個人からなる集団の意志によって書いたことが現実化されるんだ。でも今回の事件の場合はそれとはちょっと違うね。ボクの考えでは途中の部分が省略されているんだ。この事件の鍵を握る誰かの想像が、個人や社会を通り越してそのまま現実のものになったとしか考えられないよ。その人物はきっと頭の中で今回の事件のような話を思いついたに違いないと思うんだよ。キミはサンタの国のようなところの出てくる話なんて知らないだろ?でも実際にボクらはそこに行って手紙を見つけてきた。そのことやここで起きた恐ろしい連続殺人を説明するのには、こう考えるのが正しいと思うよ」

モオルダアはこう言うと得意げにスケアリーを見たが、そこにスケアリーはいなかった。彼女はモオルダアの屁理屈を聞くのが面倒だったようで近くの自動販売機であたたか〜い缶コーヒーを買って戻ってくるところだった。

「もう言いたいことは言い終わりましたの?」

「うん、まあ・・・」

「どうでもいいですけど、あの捕まったサンタに話を聞いてみませんこと?その方があなたの話を聞いているよりもよっぽどましですわ」

彼らが話しているすぐそばにはパトカーが止まっていて、中には捕まったサンタの赤い服が見えた。

「それじゃあ唯一の目撃者に話を聞いてみようか」

モオルダアはなんだか納得がいかないまま、スケアリーとそこへ向かった。


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