8. 高原署
田んぼの畦道で見つかった牛の解剖を終えたスケアリーは廊下でモルダアの姿を見つけた。窓の外を眺めて何か考えているようである。
「ちょいとモルダア、いままで何をしていらしたの?」
モルダアはスケアリーを見てキャッと情けない悲鳴を上げた。スケアリーは牛の解剖を終えたばかりで白衣は血だらけだった。
「なんだよそれ。キミ血だらけだぞ」
「当たり前ですわ。それより、あなたのそれは何ですの」
スケアリーの視線はモルダアのワイシャツに向けられている。ワイシャツにはソフトクリームをこぼしたシミが沢山ついている。
「これは・・・いや、なんでもない」
危うく一人でソフトクリームを食べたことを話してしまうところだった。
「ウシさんの解剖はとっても大変でしたのよ。それから、介蔵さんの解剖もしましたのよ。なんだかとってもエキサイティングな解剖でしたわ」
「キミは何でも解剖するんだねえ」
「あたくしは無免許ですから。無免許に限界はありませんのよ」
「???」
「介蔵さんの遺体、ご覧になります?まだ縫い合わせてないからいろんなところが見えますわよ」
「いやあ、今日のところは遠慮しておくよ。それより、何か解ったのかい?」
「あなたに、お伝えする事は沢山ありますわよ」
スケアリーは血まみれのゴム手袋をモルダアのほうに差し出した。モルダアはまた悲鳴を上げてのけ反った。それを見てスケアリーはなんだか嬉しそうである。スケアリーは早くもモルダアの弱点を発見したようだ。
「それじゃあ何からお話しいたしましょうか?」
「何でもいいから、重要なことからお話ししてくれないか」
「それじゃあ、お話しして差し上げますわ。まず一つ目は、介蔵さんはなかなかいい体をしていましたのよ。なんだか切り刻んでしまうのがもったいなかったんですのよ」
「それで?」
「それだけですわ」
「それだけって、そんなことが一番重要なのか?」
「あら、あたくしには重要なことですわ。それじゃあ二つ目は、介蔵さんの頭蓋骨に小さな穴があいていましたのよ。肉眼ではほとんど見えないくらいの小さな穴でしたわ。過去の記録を見ても介蔵さんには特に病歴もありませんし、怪我をして治療をした記録もありませんでしたわ」
「それこそ重要な事じゃないか。それで、キミの意見ではその穴は何なんだ?」
「あたくしの意見では、その穴は小さな穴ですわ」
「???」
「それから、ウシさんのほうですけど・・・」
「ちょっとまて!小さな穴とはどういう事だ?キミはただ遺体をバラバラにしただけでなんにも考えていなかったのか?」
「まあ、なんて事をおっしゃるの。あたくしは普通の人では気がつかないような小さな穴を見つけたんですのよ。それだけでも大変なことなんですのよ。何でしたら、あなたがもう一度遺体を調べてみてはいかが?」
「それは、ちょっと、無理だけど・・・」
モルダアが小さくなっていく。
「こんな事は考えられないかな。その小さな穴から介蔵さんの脳に何らかの処置を施した可能性はないかな」
「さっきも言ったように、介蔵さんには頭部への外科手術の記録はございませんのよ。それにあんな小さな穴から脳の手術をするなんて不可能ですわ」
「地球上の技術ではね」
「あらいやだ。またそんなこと言って」
「介蔵さんの脳は調べたのか?」
「まあ、ざっとは調べましたわ」
「もっと詳しく調べてみてくれないか。きっと何かがあるはずだ」
「あなた、またあたくしに命令して。何様のおつもりですの?まあ、いいですわ。そのうち調べて差し上げますわ」
そのうちじゃ困る。モルダアは言いたかったがスケアリーの機嫌が悪くなっている事に気付いていたから止めることにした。きっとこの女は怒るとすごく怖いに決まっている。
「それから、あなたに頼まれていた毛の分析結果が出ましたわ。あのフォークについていた毛は人間のものではないそうですわ。DNAを調べた結果 Macaca Fuscataに近い動物のものらしいいんですの」
「真っ赤っか?なんだって?」
「 Macaca Fuscataですわ。日本名はニホンザルと言うらしいわ」
「言うらしいわ、って。始めっからニホンザルって言ってくれよ。それよりも今、近いって言ってたよね。つまり、ニホンザルではないということなの?」
「そういうことになりますわ」
「じゃあ、なに?日本にサルは他にいないからねえ。新種のサルかなあ」
スケアリーは困った顔をしている。彼らは今、未知の生物の存在を示す証拠を手にしている。しかし、それを認めてしまったら、モルダアを喜ばせるだけである。スケアリーの困った顔を見たモルダアはすでに何かを感じていたようだ。モルダアの頭の中はドクター・ムスタファが宇宙人の技術で作り出した謎の生物の事でいっぱいである。
「それよりもモルダア。あなたは何をしていらしたの?ソフトクリームを食べていただけ、なんておっしゃったら承知いたしませんわよ」
やばい、ばれている。でも大丈夫。モルダアはちゃんと事件の手がかりを手に入れていた。ポケットから何かのパンフレットを取り出してスケアリーに手渡した。そのパンフレットにはこう書かれている。「高原村高原ファミリー・ランド&高原ファミリー・シー」-----大規模なレジャー施設を作る予定らしい。
「これは例の失踪事件の五人の家を回ってるときに見つけたんだ。書斎の引き出しの奥の方に厳重にしまわれていたんだよ」
「あなた、令状もなくてよくそんなことが出来ましたわね」
「えっ、令状なんかいるの?家に行ったら誰もいなかったから勝手に入って探して来ちゃったよ。それじゃあ、これを見つけたことは内緒ね。それよりも、おかしいと思わない?」
「何がですの?」
「このレジャーランド、例の五人が作ろうとしてたものらしいんだ。ボクはある人から介蔵さんたちが何かを計画していると聞いていたけど、レジャーランドとは驚きだねえ」
「よろしいと思いますわよ。あたくし遊園地は大好きですから」
「それはいいんだけどね。これだけの施設を作る金がどこにあると思う?この村にあるお金、全部出しても半分も作れないはずだよ。それなのにこんな計画を立てるということは、彼らには大金を手に入れる手段があったということだよ」
「どんな手段かしら?」
「彼らが身につけた技術をどこかの政府とかテロリストとかに売るんだよ。考えられなくはないねえ」
「まあ!」
スケアリーは驚いたのか、それともあきれたのか、よく解らない。
「そういえばさっき、牛のこといおうとしてなかった?」
「そうですわ、忘れるところでしたわ。牛の背中にこんなものが埋め込まれていたんですのよ」
スケアリーは透明のプラスチック製のケースをモルダアに見せた。中には小さな金属の固まりが入っている。
「このスポーツカーの形をした金属は、ボクにはグリコのおまけに見えるけど」
「この金属は地球上には存在しないものよ」
「ということは地域限定グリコってことか?!」
「そいうことね、モルダア」
9.
「スケアリー、ボクはこれから森へ行ってみようと思ってる」
「あら、そうですの?それじゃあ、あたくしは旅館に帰って温泉にはいることにいたしますわ」
「あれ、なんだ。キミは来ないのか?」
「あたくしは森へなんか行きませんわ。大事なお洋服が汚れてしまいますから」
こういう仕事に大事なお洋服なんか着てくるな!モルダアは頭の中で怒鳴ってみた。ちょっと虚しい。しかし、困ったことになった。モルダアはてっきりスケアリーが一緒に来るものだと思っていたが、一人で森へ行くのは怖い。もう陽はほとんど暮れている。今さらスケアリーに頼む訳にもいかないし・・・。モルダアは考えていた。「ボクの天才的直感はボクに森へ行けと命令しているが、これは正しい事なのか?もしかすると森へ行ってもなんにもなくて無駄足に終わるかも知れない。それだったらわざわざ森になんて行かなくても・・・いやいや、駄目だ。ボクは優秀な捜査官。ボクの直感が間違っているはずはない。でもどうしよう。きっと森は危険でいっぱいに違いない。そうだ、あのニコラス刑事を連れて行けば・・・。それは駄目だ。ボクはああいうタイプの人間は好きじゃない。悔しいがあいつは二枚目だ。女たちはいつだってあんな感じの男とつきあいたいと願うんだ。その願いが叶わなかったときの妥協として、僕等がいるんだ。全くやりきれないな。ボクはマイホームの代わりの自動車。フランス料理の代わりのファミレス。メロンの代わりの柿。でもボクには解ってるぜ。きれいな身なりをして、出来る男を気取っているみたいだけど、どうせどっかでへまをやらかしてこんな田舎に左遷されたに違いない。一流なのは顔だけで後は全部三流なのさ」
モルダアが、どうしてニコラス刑事と一緒に森に行きたがらないかよく解らないが、まあ毛嫌いというやつだろう。モルダアは一人で森へ行くことにした。
10. 悪魔の住む森
モルダアが森に着いた頃にはもうすっかり日が暮れていた。そこは森というより小さな山といった方が良さそうなところである。この地域が山間にあるので、そこら中が森のようであるし、山のようでもある。山に見えても住人が森と言えばそれは森なのである。森の入り口でモルダアはちょっと尻込みをしている。夕方から吹き始めた強い風が森の木々を揺り動かしている。森の外から見るとまるで森全体が一つの巨大な生き物のように見えた。モルダアは手足が震え出さないように一つ大きく息をして歩き始めた。森の中へ入ったモルダアは以外と落ち着いていることに自分でも驚いた。暗い森の中を懐中電灯の明かりを頼りに奥へと進んでいく。しかし、モルダアはどこへ行けばいいのか解っているのだろうか?多分解っていない。本当は怖がっているのかも知れない。怖くてそんなことは気にしていられないのだろう。
モルダアの恐怖感は森の中を歩き回った疲労のためか、次第に薄らいでいった。モルダアが時計を見るともう、森に入ってから一時間がたっている。「そろそろ、何かが出てきてもいい頃だけど」そう思って、モルダアは立ち止まって辺りを見回してみた。この先をさらに進むともうすぐ森から出てしまいそうな感じである。右側は木が生い茂っていてとても入っていけそうにない。左はほとんど崖のような急な斜面が下っている。「やっぱり何も無いのかな」モルダアは引き返そうとしたが、思いとどまった。そして、崖のすれすれまで慎重に進んで下をのぞいてみた。やはり彼の「少女的第六感」は本物なのだろうか。モルダアは崖の下に動くものを発見した。
「恐怖の人間サルだ!」モルダアの目に映ったのは全身毛むくじゃらの生物。介蔵じいさんとあの二人を殺した森の悪魔である。モルダアは自分の説を裏付ける未知の生物の発見にかなり興奮しているようだった。それにモルダアは「恐怖の人間サル」という名前まで考えていたらしい。それにしても、他にもっといい名前があるはず。イエティ、野人、恐怖の人間サル。どう考えても恐怖の人間サルではおかしい。これでは森の悪魔がかわいそうだ。
モルダアは双眼鏡を取り出して、崖の下を覗いた。真っ暗で何にも見えない。「くそ、このバカ双眼鏡め!」モルダアは双眼鏡を振ってからもう一度覗いた。振って見えるようになる訳はないのだが、人は夢中になるとよく解らない行動をするようである。モルダアは双眼鏡を諦めて、肉眼で下の様子を見ることにした。このとき後ろから人影が近づいていることにモルダアは全く気付いていなかった。
崖の下では恐怖の人間サルが、ニホンザルの群を操って何かの作業をしている。どうやら下には洞窟の入り口があって、サルたちはそこに何かを運び込んでいるらしい。恐怖の人間サルは身振りでサルたちに指示を出していたが、驚いたことに時々人間の言葉を使った。もちろんサルたちが人間の言葉を聞いて行動するわけではない。それはどちらかというと恐怖の人間サルの独り言に近いものだった。恐怖の人間サルはサルたちの様子を見ながら「早くしろ」とか「もたもたするな」とか言っているのである。恐怖の人間サルはほとんど人間と変わらない思考をするようだ。
モルダアは崖の上で腹這いになって下を覗いている。先ほど彼に近づいてきた人影はモルダアから少し離れた木の後ろでモルダアの様子をうかがっている。モルダアは下がよく見えないためか、崖から身を乗り出しては落ちそうになって、少し戻るといったようなことを繰り返していた。
やがてサルたちの仕事が終わると、恐怖の人間サルを先頭にサルたちは洞窟の中へと消えていった。これを見たモルダア、どうするのかと思ったら、どうやら洞窟の中に入ろうと決心したようだった。モルダアは時々男らしい。しかし、そんなときに限ってうまくいかない。モルダアが立ち上がったときだった。
「動くな!この変態野郎!」
モルダアのすぐ後ろに警察官が立っている。モルダアは驚いて両手を上げてしまってから後悔した。「しまった、こういう時は手帳を取り出して、エージェントだ!って言うんだった」
まあ、そんなことを言っても効果はないと思うが。
「おまえだな、覗きをしてたのは」
「へっ?」
「へっ、じゃない。さっき旅館から露天風呂を覗いてるヤツがいるって通報があったんだ」
モルダアが崖の下ではなくもう少し上の方を見ると、旅館の明かりが見えた。
「あれ、なんだ。ここは旅館のすぐ裏だったのか。ボクはここまで来るのに一時間も歩いちゃいましたよ」
「とぼけようったって駄目だぞ。ちょっと一緒に署まで来い」
「何言ってるんですか。犯人が見つかったんですよ。今すぐ下の洞窟に行かないと。あなたは重大なミスを犯すことになりますよ」
「犯人なら今捕まえたよ。私の任務は覗きの犯人を捕まえることなんだからな」
「ボクは覗きなんかしてませんよ。殺人事件の捜査ですよ」
「旅館の裏で双眼鏡持って殺人事件の捜査とは、大した嘘をつくもんだ。いいから、一緒に来い!」
警察官がモルダアの腕をつかんでねじり上げた。モルダアはアヒャヒャヒャヒャ、とよく解らない悲鳴を上げていたが、そのまま警察官に引っ張られて、パトカーのところまで連れて行かれ、高原署へ向かうことになった。
11. 再び高原署
両脇を警察官に抱えられて高原署に入ってきたモルダアは入り口のところで勤務を終えて帰宅する牛ノ尻巡査とすれ違った。牛ノ尻巡査はモルダアの方を見ながら近くにいた若い警官に聞いた。
「あいつ森にいたのか?」
「ええ、覗きの犯人がやっと捕まりましたよ。捕まえたときには殺人犯を見つけたなんて嘘を言ってたらしいですよ。まったく、ああいうふうにだけはなりたくないですよねえ」
牛ノ尻巡査はこれを聞いて少し顔をこわばらせたが、そのまま黙って外へ出ていった。
取調室ではモルダアが事情を説明するのに苦労していた。恐怖の人間サルの話など誰も信じてはくれない。取調室の外では精神科の医者を呼ぶべきかどうかが真剣に話し合われていた。
「だから、さっきから言ってるように恐怖の人間サルがいたんですよ。今すぐ行って調べてくださいよ」
「解ったよ。明日調べてきてやるから」
「明日じゃ駄目ですよ。今行かないとヤツらはどこかに行っちゃうかも知れない」
「ヤツらっていうのはキミの覗き仲間のことか?」
「違いますって。サルの群れとその親分の恐怖の人間・・・」
そこへスケアリーとニコラス刑事が入って来た。「最悪だ」モルダアが誰にも聞こえないようにつぶやいた。ニコラス刑事のヤツは心配そうな顔をしているが、絶対に心の中で笑ってるんだ。ボクが天才的頭脳を使ってもう少しで犯人を捕まえられるというところまで漕ぎ着けたのに、このニコラス刑事の野郎が台無しにするんだ。モルダアはほとんど泣きそうである。
「何してたんですか、モルダアさん。まさかホントに・・・」
ニコラス刑事が先に言いかけたが、すぐにスケアリーに邪魔された。
「ちょいとモルダア!あなたがあたくしの事に興味があって、あたくしのゴージャスなボディーをご覧になりたいのは解りますけど、覗きなんていうのは卑怯じゃあありませんこと?見たければ見たいとはっきりおっしゃってくれればいいんですのよ」
「キミは僕が見たいと言ったら見せてくれるのか?」
スケアリーは否定する代わりにモルダアにパンチを浴びせた。モルダアは驚いて言葉が出てこない。
「スケアリーさん、それはやりすぎですよ。モルダアさんが犯人と決まったわけではないんですから」
「あら、失礼いたしましたわ。あたくし、取調室の容疑者を見るとつい暴力を振るいたくなってしまうんですのよ。ウフフッ。ダーティーハリーならぬダーティースケアリーってとこですわ。ウフフフッ」
「モルダアさん、いったい森で何をしていたんですか?」
「捜査に決まっているじゃないか。スケアリー、ボクはヤツを見つけたんだ。恐怖の人間サルを」
「恐怖の人間サル?」
二人が同時に聞き返した。
「例の毛の持ち主だよスケアリー」
スケアリーは何のことだか解ったがニコラス刑事は何がなんだか解らない。モルダアは介蔵じいさん殺害現場で見つけた毛のことをニコラス刑事に説明した。
「本当ですか?スケアリーさん」
どうしてスケアリーに聞くんだ?ボクが信じられないって言うのか?どうやらモルダアはニコラスが何をしようと気に入らないらしい。すべてはモルダアの思いこみなのだが。
「本当ですわ。ニコラス様」
ニコラス刑事は頭を抱えている。モルダアはちょっと得意になっている。
「ボクの考えでは少なくともあと3人の命がねらわれていると思うね。犯人はこの村で起きた失踪事件の関係者を狙っているはずだよ」
「どうしてそんなことが言えますの?」
「黒幕がどこの組織の人間かは解らないけど、いずれにしろあの五人が手に入れた技術が外に漏れることは望んでいないはずさ」
「その技術って言うのは何なんですか?」
ニコラス刑事は半信半疑ながらも興味を示したようだ。
「介蔵さんの家に行って搾乳機やトラクターを調べてみれば解るよ、ニコラス刑事さん」
それを聞いてニコラス刑事は渋い表情になった。実は介蔵じいさんの家は先ほど何者かの手によって放火され、家にあったものはほとんどが灰になってしまったのである。
「うーん、困ったなあ・・・」
ニコラス刑事を困らせてモルダアはかなり元気を取り戻していた。しかし、放火とはどういう事だ?謎の組織の仕業か?モルダアも少し困ってしまった。そのとき取調室のドアが開いてニコラス刑事が呼び出された。何か事件があったようだ。ニコラス刑事と一緒にスケアリーも部屋を出ていく。「おい、キミのパートナーはそいつじゃなくてボクだぞ!」モルダアはまた少し落ち込む。
しばらくして、スケアリーだけが戻ってきた。
「モルダア、二人が遺体で発見されたようですわ」
「やっぱり、ボクの言ったとおりじゃないか」
モルダアがすっと立ち上がって目を輝かせた。
「それでどんな状況なんだ?」
「今、ニコラス刑事様が現場に向かっていらっしゃるわ。それからあなたはもうここを出てもいいそうですわよ。覗きの件は日を改めて取り調べをするらしいですわよ」
あれだけ説明してもまだモルダアの容疑は晴れていないようだ。
「ところでモルダア。二人ってどなたなの?お名前はなんとおっしゃるの?」
「まあ、それはいいじゃないか。きっと牛という字がつく名前だよ。そんなことより、ボクはもう一度あの森へ行って来るよ」
「そうですの。それではあたくしはステキなニコラス様のところへ行ってまいりますわ」
また一人だ。まあいいか。犯人はそっちにはもういない。森の洞窟に潜んでいるんだ。