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#109 「UNWRITTEN」 2007-12-22 (Sat)

 クリスマス。千年先もクリスマス。

 Little Mustaphaは押入を開けて留守番電話の説明書を取り出すと、それを見ながら留守番電話をいじり始めました。

ミドル・ムスタファ-----何やってるんですか?

Little Mustapha-----この大量にあるメッセージの途中を飛ばして聞く方法がないかと思ってね。もしかすると、どうしてこんなことになったのか解るかも知れないし、何かの良いアイディアが得られるかも知れないから。…ああ、なんだ。この三角が二つ並んだボタンを押せばいいのか!


留守番電話-----5ヒャクケンメノ・メッセージ。ピーッ!「みなさん、あれからどうしてますか?このあいだ召使いロボットにあなた達の様子を見に行かせたら、また寝ていたということでしたよ。もうそろそろ酒ばかり飲むのはやめた方が良いんじゃないですか?私は召使いロボットの話を聞いて私の書いた「睡眠の季節」という話を思い出しましたよ。その話の中で主人公の音夢屁端(ネムヘバタ)は寝てばかりいたために何かとてつもない…(未完)」メッセージ・オワリ。


ミドル・ムスタファ-----これはいつ頃のメッセージなんでしょうね?

Dr.ムスタファ-----あのマイクロ・ムスタファがロボットを持っているということは、我々が起きていた日からかなり経っているだろうなあ。

ニヒル・ムスタファ-----それよりも、この留守番電話はメッセージの残された日付とかは記録できないのか?

Little Mustapha-----さあ?それは成り行きで決まるからね。この留守番電話は謎だらけなのはもう知ってるでしょ?それじゃあ、試しにもう一件聞いてみようか。もう少し後のほうが良いかな。


留守番電話-----6ヒャクケンメノ・メッセージ。ピーッ!「みなさん。ちょっと聞いてください。このあいだ法律が変わったおかげで私はやっとセクシーアンドロイドと結婚できることになりました。こんな嬉しいことはありませんよ!私はこの喜びを「新婚の季節」という小説で表現しようと今、構想を練っているところです。この小説が書き上がれば何かとてつもない…(未完)」ピーッ!メッセージ・オワリ。


Little Mustapha-----なんかイヤなことを聞いちゃったな。

Dr.ムスタファ-----人間の嫁さんはもらえなかったということだな。

ニヒル・ムスタファ-----そんなの聞いてても埒があかないぜ。きっとその中にはマイクロ・ムスタファからの未完のメッセージばっかりだぜ。きっとそのうちアンドロイドが暴走したりして「何かとてつもない」ことが起きてたりするんだ。

Little Mustapha-----そうだね。ボクらが見てこなかった未来の世界は間違った方向へ進んでいたんだね。それじゃあ留守番電話のネタはここでオシマイにしようか。

ミドル・ムスタファ-----ネタじゃないでしょ。それよりもこの状況をなんとかしないと。

Little Mustapha-----それじゃ、みんなで何とかするための方法を考えましょう。

一同-----ウ〜ン…

ニコラス刑事-----おい、ここだと少しだけテレビが映るぞ!

ミドル・ムスタファ-----こんな時に何をやってるんですか。それよりも何とかして未来警察から逃げる方法を考えないと、タイヘンなことになりますよ。

ニコラス刑事-----でも、今年はこのワンセグ・ケータイを自慢したくて来たんだから、ちょっとぐらい良いだろ。おっ、これはよく見たらロボット・ウッチーじゃないか!

Little Mustapha-----うわー、ホントだ。

ミドル・ムスタファ-----ちょっと、あなたまで一緒になって見なくてもいいじゃないですか!

Little Mustapha-----まあ、そんなに慌てたっていい方法は見つからないよ。それにボクらはまだ見つからないかも知れないし。

ミドル・ムスタファ-----どうしてそんなことが言えるんですか。

Little Mustapha-----今テレビでボクらのことがやってるんだけど、まるで見当違いの場所を捜索してるんだよね。ほら…。


 なぜかワンセグ・ケータイでは映る「未来のテレビ」で気楽な感じで盛り上がっています。1000年後でもこの時間はいつもの夕方のニュース番組がロボットバージョンで放送されているようです。担当しているのはロボット版のスタジオのキャスターとロボット版人気女子アナ、ウッチーこと内屁端アナです。ロボット・ヴォイス・トランスレーターをとおして彼らの声が聞こえてきます。


ロボット内屁端-----みなさん。ここがどこだか解りますかあ?

スタジオのロボット・キャスター-----だから、さっきも言ったように人類がいるかも知れないという場所でしょ?

ロボット内屁端-----そのとおり!ここでは人類発見の知らせを受けてガシガシと駆けつけた未来警察達がバーッとなって捜索を続けています。

スタジオのロボット・キャスター-----人類による被害の報告などはありませんか?

ロボット内屁端-----そんなことは私が知るわけありません!それではここにいる未来警察の方に話を聞いてみたいと思います。今回見つかった人類はどのようにしてこれまで存在を隠していたのでしょうか?

未来警察の方-----…ガソリンは飲めません。他の質問をしてください。

ロボット内屁端-----いえ、そうじゃなくて、人類はどのようにしてこれまで存在を隠してきたのか?ということなんですが。

未来警察の方-----…人類。…人類。…ガソリンは飲めません。他の質問をしてください。

ロボット内屁端-----…どうやら、未来警察の方は緊張のためか回路が上手く機能していないようです。それではいったんスタジオにお返ししまーす!(…おい、これどういうことだよ!てめぇ…)

スタジオのロボット・キャスター-----…あー、とても恐ろしい事件ですね。それではCMのあとは、グルメコーナー。激安ランチから高級ガソリンまで。見所満載です!


ミドル・ムスタファ-----なんでこれで「見当違いの場所」を探しているって解るんですか?

Little Mustapha-----だって、こんな風景見たことないじゃん。これはここからかなり遠いところだよ。

ミドル・ムスタファ-----ちょっと、しっかりしてくださいよ。あれから1000年経ってるんですよ。風景が同じなワケないじゃないですか。

Little Mustapha-----あっ、そうか。ということはそこの窓から外を見たらどうなってるんだろう?

ミドル・ムスタファ-----というか、どうして今まで誰もそれをしなかったんでしょうねえ?

ニヒル・ムスタファ-----見るのが恐いからに決まってるさ。

ミドル・ムスタファ-----確かに、恐いですねえ。でもこういうことは主役の仕事ですから、ちょっと確かめてくださいよ。

Little Mustapha-----ボクが?またヘンなことを主役にやらせようとして。まあ、仕方ないから見てみるよ。


 Little Mustaphaが立ち上がって窓を少しだけ慎重に開けてみました。Little Mustaphaは「ハッ」と小さくオドロキを声をあげたまましばらく動きませんでした。それからゆっくりと窓を閉めてから、元の場所に座りました。


ミドル・ムスタファ-----どうでした?

Little Mustapha-----多分みんなは見ないほうが良いと思うよ。

ニコラス刑事-----なんでだ?

Little Mustapha-----なんだか世界の終わりだったよ。街が全部廃墟みたいになってる。それと、とりあえず言っておくけど未来警察の姿も見えたよ。

ミドル・ムスタファ-----それは「とりあえず」じゃなくて真っ先に言ってくださいよ!

ニコラス刑事-----どうするんだ?「始末される」ってことは「バラされる」ってことだろ?

Little Mustapha-----それって、どっちも遠回しな表現だけど。

Dr.ムスタファ-----しかし、この廃墟のようなところにいる私らでさえ見つけるくらいだから、彼らから隠れることなんて出来ないんじゃないか?

ニヒル・ムスタファ-----隠れることなんてないのさ。こんな世界からはおさらばしてしまえば良いのさ!

ミドル・ムスタファ-----そんなことは出来るんですか?

ニヒル・ムスタファ-----未来サンタが言ってただろ?「タイムトンネル」を使ってやって来たって。今はちょうど未来サンタのいた3007年なんだぜ。きっとどこかに「タイムトンネル」で人間を過去に転送する装置があるはずだから、それで過去に戻ればいいってワケさ!

Little Mustapha-----そうだね。ボクらも未来サンタさんみたいにドーン!とド派手に過去へ帰れるワケだ!

Dr.ムスタファ-----それは、ちょっと問題だぞ。

ニヒル・ムスタファ-----どうして?

Dr.ムスタファ-----過去に帰るのはいいが、そこには私らが寝ているんだぞ。

Little Mustapha-----でも寝てるんなら良いんじゃないの?押入にでも入れておけば、どうせ1000年後に目覚めるんだから…。あれ?ということは押入で目覚めたボクらもまた今のボク達と同じようなことになるわけで…。なんだかワケが解らなくなってきた。

ミドル・ムスタファ-----解りやすくタイムトラベルの罠にはまっていますねえ。

ニヒル・ムスタファ-----それじゃあ、どうすれば良いんだ?

Dr.ムスタファ-----どうしたものかなあ?

一同-----ウ〜ン…

Little Mustapha-----あっ、そうだ!良いこと思いついちゃった。

ミドル・ムスタファ-----なんですか?

Little Mustapha-----おそらくこの時代でも存在し続けているであろう未知の物質。Little Mustapha's Black holeを取り巻いている暗黒のクマといえば?

ミドル・ムスタファ-----ダー・クマタンですか!?

Little Mustapha-----そう。彼ならきっと何とかしてくれるよ!

ニコラス刑事-----なんだ、そのダー・クマタンというのは?

Little Mustapha-----まあ、詳しいことは面倒だから過去のBlack-holicを読めば解るよ。それよりも、ここはみんなでダー・クマタンを呼んでみよう!それじゃあみんなで声を合わせて、せーの!

一同-----お〜い!ダー・クマタ〜ン!


 みんなで声を合わせ、恥ずかしい感じでダー・クマタンを呼びました。すると彼らの心の闇の中でダー・クマタンの陰鬱な声が聞こえてきました。


ダー・クマタン-----誰ですか?懐かしい名前で私を呼ぶのは。

Little Mustapha-----やった!これでなんとかなるよ!

ダー・クマタン-----ああ、誰かと思えばLittle Mustaphaじゃないですか。どうしたんですかいきなり。これまで何度も私はあなたのところに行ったのに、あなたは寝てばかりで何もしてくれなかったじゃないですか。人間の友情なんてそんなもんですね。

Little Mustapha-----それには深いわけがあるんだよダー・クマタン。それよりも、この状況をなんとかしてくれたら、きっとここにいる全員がキミの友達になってくれるぞ、ダー・クマタン!

ダー・クマタン-----私はもうダー・クマタンではないんですよ。あなた達が寝ている間に私の謎が解明されてしまったんです。私はもうミステリアスな謎の物質ではなくなってるんです。…私が何だったか、聞きたいですか?…いや、それはよした方が良いですね。きっとガッカリします。ガッカリしすぎて何も出来なくなるでしょうから。とにかくもう私はダー・クマタンではないのです。「かつてダー・クマタンと呼ばれていた物質」とか「元ダー・クマタン」と呼んでください。ああ、もう私はすっかりやる気をなくしましたよ。それじゃあ、私はこれで帰りますね。もう二度と私を呼んだりしないでくださいよ。


 心の闇の中に現れた元ダー・クマタンは夕闇の中へ溶けるように消えていってしまいました。その後、空には夜の闇が広がっていきました・


Little Mustapha-----やっぱり「ダー・クマタンオチ」は封印されてたか。

ミドル・ムスタファ-----なんですかそれは。それよりもどうするんですか?

Little Mustapha-----ダー・クマタンでだめなら、もう助かる見込みはないかもね。

ニコラス刑事-----それは困るなあ。私はただワンセグ・ケータイを自慢しに来ただけなんだぞ!

ニヒル・ムスタファ-----勝手に人のうちに上がり込んで酒まで飲むからいけないのさ。

Dr.ムスタファ-----ホントだぞ。全くもって我田引水だ!

一同(Dr.ムスタファ除く)-----それは違うなあ。


Little Mustapha-----ということで、なんだかいつもの雰囲気になってきたから、酒でも飲もうか?

ミドル・ムスタファ-----本気ですか?

Little Mustapha-----本気だよ。これまでのことを考えてみると、こんな風に「どうやって助かろうか?」なんて考えてなかったじゃん?今回は必死に頑張ってるから上手く事が運ばないような気もするよ。

ニヒル・ムスタファ-----ない知恵を絞っても無駄ってことか?それなら飲むしかないのか?

ミドル・ムスタファ-----ホントにいいんですか?私は良くないと思うんですが。

Dr.ムスタファ-----まあ「瓢箪から駒」とも言うじゃないか。

ニヒル・ムスタファ-----そのことわざはどういう意味で使ってるの?

Little Mustapha-----まあ、そんなことは、どうでもいいよ。それよりも、問題はどの酒を飲むかなんだけどね。ボクが1000年前のクリスマスのために用意したウィスキーを飲んで最後の時を待つのか、それともそこのバケツの中に入っているマンモスハイテンションなサンタの酒を飲むのか。

ミドル・ムスタファ-----サンタの酒を飲んだら、また仮死状態になって未来警察には見つからないかも知れませんね。

ニヒル・ムスタファ-----その代わり、また1000年後に目覚めて変なことになってるんだろ?

ニコラス刑事-----どうせだったら旨いほうの酒を飲んで、偶然助かる方がいいなあ。いつもはそんな感じだし。また千年も経ったらホントに帰ることが出来なくなりそうだぞ。

Little Mustapha-----ということは、どっちを飲むかに関してはなんとなく意見が分かれている感じだなあ。Dr.ムスタファはどうなの?

Dr.ムスタファ-----ちょっと待ってくれ。私は今ものすごいことをひらめいてしまったかもしれん。

ニヒル・ムスタファ-----なんだ?また、ことわざか?

Dr.ムスタファ-----まあ、今説明するから余計なことは言うな。みんなは生まれた時から常に我々に影響を与えている力というのを意識したことがあるか?

Little Mustapha-----ああ、そうか。反重力リアクターで何かをしようってことか。

Dr.ムスタファ-----おい、そんなに早く気付くなよ!

Little Mustapha-----だって早くしないと未来警察に見つかっちゃうから。

Dr.ムスタファ-----それじゃあ、結論を言うとな。我々は重力の影響下で眠り続けて1000年後に目覚めた。それが反重力の中だとどういうことになるのか、試してみたくはないか?ということだ。

ニヒル・ムスタファ-----重力が逆だって時間は逆行しないぜ!

Little Mustapha-----まあ、試してみる価値はあるよね。どうせボクはサンタの酒が良かったから多数決でもサンタの酒を飲むことになってたから。1000年眠って1000年前に戻ってたらラッキーだし。

 ホントにそんなことでいいのでしょうか?でも人間というのは追い込まれると、時に変なことをしてしまうものです。

 Dr.ムスタファは反重力リアクターのスイッチを入れて床に起きました。そして、その上に乗って天井へ落ちていきました。さらにまた一人、また一人と乗るとそのまま天井に向かって落ちていきます。反重力の不思議な力でニコラス刑事を除く主要メンバー達が全員が天井に落ちました。最後に残されたニコラス刑事はサンタの酒が入ったバケツを眺めながら考えています。


ニコラス刑事-----この酒はどうやって天井に持っていけば良いんだ?

Little Mustapha-----ああ、そうか。忘れてた!洗面所にバケツのフタがあるからそれでなんとかなるんじゃないの?


 なんとかなるかは知りませんが、ニコラス刑事が洗面所からバケツのフタを持ってきてバケツにフタをすると、バケツを抱えて反重力リアクターに乗ります。乗った瞬間に重力が反転して上に向かって落ちていくのですから、一歩間違えればサンタの酒が全部こぼれてしまいます。

 運動神経の鈍そうなニコラス刑事なので、一同心配して見守っていましたが、刑事というだけあって思っていたよりも運動神経が良かったようです。みんなホッとしてバケツからサンタの酒をコップにくみました。


Little Mustapha-----それじゃあ、気分的には今日二回目のマンモスハイテンション飲みを始めるよ。カンパーイ!

一同-----カンパーイ!…ガブガブガブ…。ウワー!マンモス・オッパッピー!!


 外では人類を抹殺しようとしている未来警察達が次第に彼らの元へ近づいているにもかかわらず、未来のブラックホール・スタジオではまたしてもおバカなマンモスハイテンション飲みが始まってしまいました。上手くいけば未来警察に見つかる前に眠りについて仮死状態になって、未来警察に見つからずに済むのかも知れません。

 しかし、目覚めた時に彼は何処に、いや何時にいるのでしょうか?


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