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#088 「シカダマン」 2006-09-24 (Sun)

 今回は過去4回のお話の続きです。また長くなってしまうので「おさらいリミックス」はなし。内容を忘れた人はもう一度読み返してください。


#084「ボツ」

#085「今週のデジタルリマスター」

(#086「預言」)

#087「Puzzled」

 大事件なのか、そうでもないのか解らないミステリアスな事件が盛り上がってきたところで、なぜか酒盛りが始まってしまったLittle Mustaphaの部屋。Little Mustapha's Black holeの主要メンバーにセミ男、ニコラス刑事がいい具合に酔っ払ってきたようです。

Dr.ムスタファ----- …というわけでねえ、この理論でいくと透明人間は湿気に弱くなってしまうんだよ。最悪の場合、溶けてなくなっちゃうかもしれんなあ。

ニコラス刑事-----へえ。そうなんですか。それじゃあやっぱり「透明人間になって女湯に…」というのは夢の話なんだなあ。

ニヒル・ムスタファ-----先生、またウソの話してるの?

Dr.ムスタファ-----何を言ってるんだ。これは私の研究の結果を総合して得られた結論だよ。ウソなどどこにもないぞ。

ニヒル・ムスタファ-----だから、先生の研究自体がウソでしょ。

Dr.ムスタファ-----なんだと!そんなこと言ってるとキミには透明人間になる薬はやらんぞ!

Little Mustapha-----そんなことより、なんかおかしくない?

ミドル・ムスタファ-----何がですか?

Little Mustapha-----今回は怪しすぎるセミ男さんとニコラス刑事さんも登場してるのに、何かが足りない。

ミドル・ムスタファ-----ああ、そういえばそうですねえ。電話がかかってこないのに録音されている留守番電話のメッセージとか、今回はそういうのがありませんねえ。

ニヒル・ムスタファ-----今回はサンタの話じゃないからいいんじゃないか?

Little Mustapha-----そう考えればそうなるかも知れないけど、これじゃあ話が盛り上がらないよ。

Dr.ムスタファ-----別に盛り上がらなくてもいいだろ。

ミドル・ムスタファ-----それだと読んでる人が怒りますよ。…まあ、読んでる人がいればの話ですけどね。

マイクロ・ムスタファ-----あの、みなさん…

一同(マイクロ・ムスタファ除く)-----なんだ!?キミいたの?

マイクロ・ムスタファ-----ちょっと、いい加減にしてくださいよ!私はさっきから何回も喋ってるでしょ!

Little Mustapha-----まあまあ、そうカッカしなさんなって。それで、なにか話があるの?

マイクロ・ムスタファ-----テレビなんかはどうですか?こういう時にはこちらから行動に出ないと。

Little Mustapha-----テレビって、テレビをつけろということ?

ニヒル・ムスタファ-----それじゃあ全然こちらから行動に出てないけど。

マイクロ・ムスタファ-----まあ、そういわずにテレビを見ましょう。何もしないでくだらない話をしているよりはましですよ。

Little Mustapha-----じゃあ、そうしようか。

 Little Mustaphaがテレビをつけると夕方のニュース番組がやっていた。この時間は予定を変更して、とある住宅街で起きた事件の様子を伝えているようだ。尚、予定しておりました「激安グルメの旅・東京湾ヘドロを食べ尽くせ!千円で大満足、海の幸が危ない!」は後日放送。

スタジオのキャスター----- …いやあ、なんとも恐ろしい事件ですねえ。それではここで現場からの中継です。地獄の淵からはい上がってきた人気女子アナ、ウッチーこと内屁端アナウンサーを呼んでみましょう。ウッチー。現場は現在どのような状況になっているでしょうか?

内屁端-----ハーイ。現場のウッチーでーす!一部でわたくし内屁端がゾンビサンタに食べられたという報道がなされましたが、あれは全部うそっぱち!ゾンビサンタに襲われそうになったウッチーはゾンビサンタがガーってなって来たところをダーってして見事に生き延びていたのです。

スタジオのキャスター-----ウッチー。余計なことはどうでもいいから現場の状況を伝えてください。

内屁端-----はい。私は今、宅配便のダンボールに詰め込まれていた大量のアブラゼミが主婦を襲うという恐ろしい事件の現場に来ています。襲われた主婦、○○の奥さんは駆けつけたガードマンのコスプレ男に救出されて、幸いにも無傷だったのですが、主婦を助けようとしたガードマンのコスプレ男はアブラゼミの逆襲にあい重体だということです。つい先程、ガードマンのコスプレ男を乗せた救急車がヤブ医者の待ちかまえる病院へと搬送されていきました。

スタジオのキャスター-----ウッチー。ヤブ医者って何ですか?

内屁端-----実は私、以前にガードマンのコスプレ男の搬送されていった病院へ行ったことがあるのですが、あそこはヤブ医者だらけ。その病院で盲腸の手術を受けたウッチーのお腹の中には今でも執刀医の眼鏡が入っているのです。

スタジオのキャスター-----眼鏡が?!

内屁端-----そうなんです。その眼鏡をお腹の中に忘れたオトボケ医者のいる病院の名前は…

スタジオのキャスター-----ここでいったんCMです。

Little Mustapha-----ねえ、これってこの近所じゃない?

ミドル・ムスタファ-----ホントにテレビをつけたら何か起きましたねえ。

ニヒル・ムスタファ-----しかも、大量のアブラゼミが主婦を襲ったって。

ニコラス刑事-----もしかするとセミ泥棒と関連があるのか?

セミ男-----いや、ちょっと待ってください。セミの立場から言わせてもらうと、セミは人を襲ったりしませんよ。

Dr.ムスタファ-----でも実際にニュースになってただろう?

セミ男-----それは人間の視点で考えるからいけないんです。セミたちは決して人間を襲うつもりではなかったはずです。多分ダンボールが開けられたことに驚いて一斉に飛び出してきたのを○○の奥さんは襲われたと勘違いして…

マイクロ・ムスタファ-----ちょっと待ってください。

Dr.ムスタファ-----なんだ、また人の話に割って入って。

マイクロ・ムスタファ-----私には何か気にかかることがあるのです。

ニヒル・ムスタファ-----なんかキミはいつでも何かを知ってるような口調だなあ。

マイクロ・ムスタファ-----これは、性格だから仕方ありませんよ。それよりも、私が気になるのは病院に運ばれたガードマンのことです。セミ男さんのいうことも解りますし、私もセミが意志を持って人間を襲うとは思いません。しかし、あの現場で人間を襲ったセミが実は人間の手によって何かとてつもない…

Little Mustapha-----あっ、CM終わったよ。

スタジオのキャスター-----ここで新たなニュースが入ってまいりました。先程のセミ事件のすぐ近くにある研究施設で研究員の野原健作と助手の補佐田助手が遺体で発見されたもようです。この研究施設では、どこかの暑い国にだけ生息するセミの研究が行われていたということですが、これは「アブラゼミ主婦襲撃事件」と関連があるのでしょうか?現場にウッチーが急行しています。ウッチー。早速、現場の様子を伝えてください。

内屁端-----…っていうか、そんなのないから。結婚なんてねえ…

スタジオのキャスター-----ウッチー?現場の様子を…

内屁端-----…結局、金でしょ?つきあうのと結婚は別。愛なんて関係ないから…

スタジオのキャスター----- …まだ準備が整っていないようですね。それではここで芸能ニュースにいきましょう!

セミ男-----あれ!あそこは私がいた研究室ですよ!やっぱりあの人たち死んでたんだ。

ニコラス刑事-----おっと、これは問題ですよ。キミの容疑はセミ泥棒から殺人容疑に変わってしまったようだね。

Little Mustapha-----それはどうかなあ?話の流れからすると、彼らはアブラゼミに襲われたとした方が良いんじゃないかなあ?

ニコラス刑事-----それはそうだが、なんせセミ男なんだぞ。セミ男ならアブラゼミを洗脳して人を襲わせたりも出来るんじゃないのか?

セミ男-----そんなことを言わないでくださいよ。そんなことが出来るのなら私はアブラゼミにあなたを襲わせますよ。

マイクロ・ムスタファ-----ちょっと待ってください。そんなことより、みなさんは今のニュースをちゃんと聞いてたんですか。死んでた二人の名前はLittle Mustaphaの書いた原稿に出てくる人と同じじゃないですか。

ミドル・ムスタファ-----そういえばそうですねえ。偶然ですかねえ?

Dr.ムスタファ-----世の中には不思議なことがあるもんだなあ。

ニヒル・ムスタファ-----先生。科学者がそんな呑気でどうするんだよ。

マイクロ・ムスタファ-----とにかく、私の話の続きを聞いてくださいよ。

Little Mustapha-----続きって?キミはなんか話してたっけ?

ニヒル・ムスタファ-----おいおい。ほんの数分前のことも忘れてるのか?

Little Mustapha-----まあね。飲み始めると別の顔だから。

ミドル・ムスタファ-----意味解りませんよ!

マイクロ・ムスタファ-----良いですか?喋っても。この事件の謎を解くには、まず生態系における人間の役割というものから考える必要があります。

Dr.ムスタファ-----そんなことならわしの方が得意だぞ

ミドル・ムスタファ-----まあまあ、ここはマイクロ・ムスタファにまかせておきましょうよ。

マイクロ・ムスタファ-----人間は生態系の頂点に君臨している。それは誰の目にも明らかです。人間は生きるために知恵を使い、あらゆるものを食料としてきました。そして、多くの動物を殺してきたのです。我々がまだ原始的な知能しか持たない時には、それは全て生きるためにしてきたことでした。動物を殺すのも全て生きるためです。しかし、文明化された私たちはいつの間にか生き物に対して虐殺を始めたのです。もともと食料にするため以外に生き物を殺すことがなかった人間は、いつしか「怖い」とか「気持ち悪い」という理由だけで生き物を殺すようになってきました。果たしてこれは人間特有の性質なのか。或いはどんな生物も「怖い」とか「気持ち悪い」という理由で別の種を虐殺したりするのでしょうか。もしも、今回のアブラゼミ事件で主婦を襲ったアブラゼミが○○さんの奥さんのことを「怖い」とか「気持ち悪い」と思っていたのなら、これは何かとてつもない…

 マイクロ・ムスタファがここまで話した時、玄関で呼び鈴が鳴った。

ミドル・ムスタファ-----あれ?誰か来ましたよ。

Little Mustapha-----ホントだ。鍵が開いてるのに勝手入って来ないということは普通の人だな。

 Little Mustaphaが玄関に向かった。しばらくしてLittle Mustaphaは大きなダンボールをいくつも抱えて部屋に戻ってきた。

Little Mustapha-----宅急便だったよ。

Dr.ムスタファ-----なんだその大量のダンボールは!?

ミドル・ムスタファ-----また通販で変なもの買ったんですか?

Little Mustapha-----なんだろうね?こんなもの買った覚えないけど。しかも、このダンボールはでかいくせに妙に軽いんだよね。玄関にはまだ沢山ダンボールがあるよ。

ニヒル・ムスタファ-----品名はなんて書いてあるんだ?

Little Mustapha-----「梨」だって。

ミドル・ムスタファ-----梨はそんなに軽くないでしょう?

Little Mustapha-----でも「梨」って書いてあるんだから「梨」でしょ。もしかしたらドライフルーツとかかもね。

セミ男-----ああ!それ開けちゃダメ!

Little Mustapha-----なんですか、いきなり。驚いちゃうじゃないか。

セミ男-----とにかく、それを開けるのはやめてください。私には解るのです。そのダンボールにはセミが入っています。

Dr.ムスタファ-----でも「梨」って書いてあるんだろ?

ニヒル・ムスタファ-----先生。品名なんて何とでも書けるんだぜ。

ミドル・ムスタファ-----そうですね。それにセミ男さんはセミには敏感なのかも知れないし。

Little Mustapha-----やっぱりこの中のセミも開けたら襲ってくるのかなあ?

セミ男-----それは解りません。この中のセミはアブラゼミではなくてミンミンゼミなんです。

ミドル・ムスタファ-----それは微妙なミステリー!

スタジオのキャスター-----ここで、先程の事件の続報が入ってまいりました。早速、現場のウッチーを読んでみましょう。ウッチー!

内屁端-----はい。私は今セミ事件の現場のすぐ近くにある遺体発見現場にやって来ています。みなさん、ご覧になれますでしょうか。この現場には伝染病対策の特別チームがやって来て、バーッとなって現場を封鎖しています。

スタジオのキャスター-----伝染病とはどういうことでしょうか?

内屁端-----なんと、ここで見つかった二人の死因は謎のウィルスによる感染症の疑いが強いということなのです。警察ではこの感染症がザーってなって空気感染する可能性もあるとして、付近の住人には外出を避けるように呼びかけています。

スタジオのキャスター-----となると、ウッチーたちや現場のスタッフも危険だということではないでしょうか?

内屁端-----そのことは専門家にうかがってみましょう。こちらの防護服で完全防備な方は特別チームの一員です。まず始めに、このウィルスとはどのようなものなのでしょうか?

特別チームの一員-----モゴモゴモゴ。モゲモガモゲ、モゴモゴ。

内屁端-----そうですか。すると大変危険なものである可能性もあるということですね。

特別チームの一員-----モゲモゴ。

内屁端-----付近の住民や私たちに感染したということはあるのでしょうか?

特別チームの一員-----モゴモゲモン、モゲモゴモゴモゲモンモゲモモ。モゲモガモガガゲモガモゲ。

スタジオのキャスター-----あのー、ウッチー。特別チームの一員の方ですけど、防護マスクをしているためか大変話し声が聞きづらいのですが。

内屁端-----そうですか。特別チームの一員の話をざっとまとめてみますと、ウィルスの特定はまだ出来ておらず、ここにいる全ての人はすぐに検査を受ける必要があるということです。現在のところ私自身の体に異常はありません。先程から多少の耳鳴りがピーってなってたり、目眩がパーッとしたりしていますが、これは疲労によるものだと思われます。

スタジオのキャスター-----そうやって自分で診断してしまうのは危険だと思いますけど。

内屁端-----そんなことはありません。ただ、先程よりも耳鳴りがひどくなってきた気がします。それからたった今、3度目の目眩に襲われました。今回は結構ひどいかも知れません。目の前がバーって暗くなっていきます。だんだん視界も狭くなってきました。これはどういうことでしょうか。マイクを持つ手に力が入りません。たった今、私の前にいるADの方が倒れました。

スタジオのキャスター-----大丈夫なんですか?

内屁端-----(倒れる)

スタジオのキャスター-----ここでいったんCMです。

「ねえ、あなた。…あなた!?…あなたってば!」

「うわあ。なんだキミか」

「なんだじゃありませんわよ。また居眠りですの?」

「うん。最近よく眠れないから」

「そんなゴム手袋みたいな顔して」

「ゴム手袋?」

「そんなことより、あなた。なんだか外が騒がしくありませんこと?」

「そういえば、そうだなあ。さっき外でテレビの人たちが来てたけど、ドラマの撮影でもやってるんじゃないのか?」

「あらいやだ。そんなこと言って!」

「何が!?」

「それよりもあなた。チャンスですわよ!」

「そうだなあ。もしもテレビのおかげでこの商店街が有名になればうちも商売繁盛だな」

「まあ、あなたって人は何をおっしゃってるの?」

「え!?そういうことじゃないのか?」

「ウフフッ。あなたはいつでもそうなんですから。うちが繁盛してしまったらあなたは何だというの?」

「???」

「あの騒ぎはドラマの撮影なんかじゃありませんわよ」

「じゃあ、何?」

「あれはセミたちの夢見た世界」

「???」

「ほら、あなた。あすこをご覧になって。夕方に満月!」

「…もう全然意味わかんないぞ」

第二部へ続く