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#121 「NADA」 2008-12-20 (Sat)

 その頃Little Mustaphaの部屋では、主要メンバー達が妙に盛り下がってしまったのを不審に思った偽Little Mustaphaがテレビをつけていました。彼と謎の電話の相手が計画していたことが上手くいきそうにないという感じになっていたので、電話で聞いた助言に従って偽Little Mustaphaはテレビをつけたのです。

 テレビに映っているのはいつもの夕方のニュース番組ではなくて、地味な感じのニュース番組でした。


スタジオのキャスター-----…ということで、与党と野党がヨ・リーグとヤ・リーグになるかも知れないというニュースでした。さて、今日は12月24日です。クリスマスムード一色の町からマニアの間では大人気の鈴屁端(スズヘバタ)アナが中継でお伝えします。

鈴屁端-----はい。こちらは都内にある教会の中なんですが、これから子供達による賛美歌の合唱が始まろうとしています。それではしばらくの間、子供達の美しい歌声を聞いてください。


 いつものバタバタした感じとは違って、予定どおり賛美歌の合唱が始まりました。テレビからは子供達の歌声が聞こえてきます。それまでうつむいて黙ってしまっていた主要メンバー達はこの歌声を聞くと何故かそれに聴き入ってしまいました。

 賛美歌の合唱が終わると偽Little Mustaphaは部屋の中の様子をうかがってからテレビを消しました。


ニヒル・ムスタファ-----なんていうかさあ、オレ達もそろそろこんな平和な感じのクリスマスが良いよな。

ミドル・ムスタファ-----そうですねえ。私達はもしかするとクリスマスというものを間違って解釈していたような、そんな気分です。

Dr.ムスタファ-----それは同感だなあ。


 主要メンバー達は何かに取り憑かれたような虚ろな目をして話しています。発言はしていませんがマイクロ・ムスタファも同様でした。偽Little Mustaphaはこれを見て少し安心したようでした。


偽Little Mustapha-----あなた達はどうしてこれまで間違ったクリスマスを過ごしてきたと思うのですか?

ニヒル・ムスタファ-----それはサンタがオレ達のリクエストどおりのプレゼントを持ってこないからさ。

偽Little Mustapha-----それは違いますよ。あなた達はいるはずのないサンタにプレゼントをリクエストなどするからいけないのです。あなた達がそこに気付いてまともな人間になるのなら、きっとこれからはステキなクリスマスがあなた達のところにもやって来るでしょう。神様は天からまともな人間をみているのです。そしてまともな人間だけにステキなクリスマスをもたらしてくれるのです。

ミドル・ムスタファ-----それはどういうことですか?これまで来たサンタのような人たちはなんだったのですか?

偽Little Mustapha-----それは、まともでない人たちのところへやって来る疫病神のようなものなのです。そこで私は考えました。あなた達が間違ったリクエストなどをしないようにするにはどうすればいいか。

Dr.ムスタファ-----どうすれば良いんだ?

偽Little Mustapha-----あなた達は何もしなくて良いのです。私があなた達の望んでいたプレゼントを買っておいたのです。それを受け取ればきっとあなた達はもうこれからサンタにプレゼントをリクエストする必要もありませんし、こんな薄汚い部屋に集まることもしなくても済むのです。それではプレゼント交換といきましょうか。

ミドル・ムスタファ-----交換といってもボクらは何も持ってきていませんが。

偽Little Mustapha-----それは良いのです。あなた達がまともになってくれるのなら、それが私にとっての何よりのプレゼントなのです。


 いつもとは違うテレビのニュース番組から流れてきた賛美歌のせいで、偽Little Mustaphaに洗脳されかかっているメンバー達は偽Little Mustaphaの話を嬉しそうに聞いていました。偽Little Mustaphaはプレゼントの箱のところに行くと、それをメンバー達に渡していきました。


偽Little Mustapha-----じゃあ、これはミドル・ムスタファさんに野球盤です。それから、これはニヒル・ムスタファさんにモデルガンです。そしてDr.ムスタファさんには良く解らない複雑な機械。そしてマイクロ・ムスタファさんには暗い小説全集です。さあ、遠慮せずに開けてください。それを開けたらあなた達もまともな人間です。

ミドル・ムスタファ-----ホントにいいんですか?

偽Little Mustapha-----良いですよ。それを開けたら新しい世界があなたを待っています。

ニヒル・ムスタファ-----でもさ、なんかもうヘンなクリスマスがなくなるってのも寂しくないか?

偽Little Mustapha-----何を言っているんですか。そのプレゼントを受け取らないというのなら、いつか必ずとんでもない災いがあなたを襲いますよ。

ミドル・ムスタファ-----そんなこと言っても、とんでもない災いにはこれまで何度も襲われてましたよねえ。

偽Little Mustapha-----あなたまで、そんなことを言うのですか!?それではここはひとまず休憩しましょう。一度テレビを見てそれから考えたら良いのです。そうすればきっとあなた達が間違っていることが解りますから。

マイクロ・ムスタファ-----その前に、ちょっと良いですか?

偽Little Mustapha-----ああ、あなたもいたんですか。

マイクロ・ムスタファ-----あなたもそれを言うんですか?!それはどうでもいいですが、その電話のところが点滅してるのって、留守番電話のメッセージじゃないですか?


 偽Little Mustaphaがまたテレビを付けて怪しい賛美歌をメンバー達に聴かせようとしたのかどうか解りませんが、その前にいいタイミングでマイクロ・ムスタファが留守番電話のメッセージに気付いたようです。偽Little Mustaphaがこの部屋にいる時はなぜか全ての着信で呼び出し音が鳴って、留守番電話にメッセージが残るようなことはなかったのですが、偽Little Mustaphaは少し慌てた感じで電話を見つめていました。


ミドル・ムスタファ-----メッセージを聞いた方が良いんじゃないですか?

ニヒル・ムスタファ-----そうだぜ。重要なことかも知れないし。

偽Little Mustapha-----そ、そうですかね。でもおかしいですね。電話は一度も鳴らなかったのに。

Dr.ムスタファ-----そんなことは良くあることじゃないか。


 偽Little Mustaphaは恐る恐る電話のボタンを押しました。するといつものように機械が喋るぎこちない声が聞こえてきました。


留守番電話-----ゴゴ・ゴジ・ゴ・ジュウ・ゴ・フン。ピー!「やあみんな!久しぶりなんだなぁ!というよりもはじめましてかな。ボクはブラックホール君なんだなぁ!いきなりのボクの登場にビックリしているかも知れないけど、ボクはLittle Mustapha's Black holeに災いが起きる時に現れる伝説のマスコットだからね。だからこうして現れたんだな。そんな伝説知らないよ!という感じかも知れないけど、これはさっきボクが考えた話なんだなぁ。だからそんな伝説は誰も知らないんだなぁ。それじゃ、またすぐにボクに会えるはずだから楽しみに待っているんだなぁ」メッセージ・オワリ!


ミドル・ムスタファ-----驚きましたねえ。今のは行方不明になっていたブラックホール君じゃないですか。

ニヒル・ムスタファ-----しかも、なんでいきなりここの留守番電話にメッセージを残したりするんだ?

Dr.ムスタファ-----それよりも、ニセ…じゃなくてLittle Mustaphaは大丈夫か?真っ青になってるぞ。

偽Little Mustapha-----何故だ?何故生きているんだ!

ミドル・ムスタファ-----何がですか?

偽Little Mustapha-----そんなはずはない!生きているはずはないんだ!

 Little Mustaphaとミニ・ムスタファはLittle Mustaphaのすぐ近くまでやってきていました。途中で何体ものゾンビとすれ違い、頭がつぶれていたり、体が半分にちぎられている死体をいくつも見てきました。そして干からびた死体がレジのところに転がっているコンビニではBGMでPrincess Black holeのステキなシングル曲が流れているという異常な光景も見てきました。

「やっぱり私は小屋に残っていた方が良かったんじゃないかな」

ミニ・ムスタファはこの状況と自分がここへやって来たことが関係しているかのように言いました。

「そうかも知れないけど、あそこにいたままでは何も出来ないしね。どうせ明日になれば全てはいつもどおりになってるんだよ。クリスマスなんて昔からそんな感じだからね」

Little Mustaphaが言うとミニ・ムスタファは頷いてから少しニヤニヤしていました。

 二人はLittle Mustaphaの部屋の前までやってきました。Little Mustaphaは扉を開けて中に入り、ミニ・ムスタファはLittle Mustaphaと別れてどこかへ行ってしまいました。いったい彼らは何をしようとしているのでしょうか。

 Little Mustaphaの部屋では先ほどのブラックホール君からのメッセージを聞いて動揺した偽Little Mustaphaが混乱した感じで電話をいじったりメンバー達に良く解らない質問をしていました。メンバー達はあやうく受け取ってしまいそうになったプレゼントを元の場所に戻して偽Little Mustaphaの様子を見守っていました。偽Little Mustaphaは相変わらず混乱したままでしたが、最後にテレビのリモコンを見付けてテレビのスイッチをいれました。

 おかしなことになったらテレビをつけろ、と先ほど偽Little Mustaphaが電話で話していた相手は言っていました。そして一度はテレビの力でメンバー達を半分洗脳していたのです。今度もテレビをつけたらなんとかなるに違いないと思って偽Little Mustaphaはテレビをつけたのです。

 するとテレビにゾンビ化した内屁端アナのアップが映り、ゾンビ内屁端アナは「ウオォォォ!」と地獄の底から聞こえてくるような叫び声をあげました。突然それを見たメンバー達は「ウワァァァ!」となりました。偽Little Mustaphaは慌ててテレビを消しました。


Dr.ムスタファ-----なんなんだ今のは?あれはいつもの女子アナじゃなかったか?

ニヒル・ムスタファ-----そうかも知れないな。腐った死体みたいな顔だったけどな。

ミドル・ムスタファ-----そんなことよりも、また外は大変なことになってるとか、そういうことじゃないですか?

偽Little Mustapha-----いや。大丈夫ですよ。大丈夫なんです!なんにも起こっていませんから。

Dr.ムスタファ-----なんでそんなにムキになってるんだ?

偽Little Mustapha-----ムキになってなんかいません。あなた達が素直にプレゼントを受け取らないからです。きっと神さまはお怒りになって私達に恐ろしいビジョンを見せたに違いありません。

マイクロ・ムスタファ-----ちょっと、まってください。今の話を聞いて私は何かとてつもない…


 ちょうどその時、Little Mustaphaの部屋の扉が開いて不自然なカツラをかぶったLittle Mustaphaが入ってきました。Little Mustaphaの理論でいうと、偽者ではあるが、もうすでにLittle Mustaphaがいるので、Little Mustaphaが二人存在してはいけないことになっています。カツラをかぶっているのは多分違う人間として登場したということなのでしょう。


偽Little Mustapha-----誰ですか、あなたは?

Little Mustapha-----はあ。探偵の金田二ともうします。

Dr.ムスタファ-----キンダニ?なんか顔がLittle Mustaphaそっくりじゃないか?

ニヒル・ムスタファ-----そんなことはどうでもいいんだぜ。

ミドル・ムスタファ-----探偵のキンダニさんがここへなんの用ですか?

Little Mustapha-----私はある方に頼まれてブラックホール君さんという方の消息を調べていたんです。そして得られた数々の情報をつなぎ合わせてそこに出来た線を辿っていくと、どうしてもあなたに行き着くんですよ。Little Mustaphaさん。

偽Little Mustapha-----なんですか?わ、私はブラックホール君なんて知りませんよ。

Little Mustapha-----ええ、そうかも知れません。しかし、あなたが本当のLittle Mustaphaさんでないとすると、そうはならないんですよねえ。

偽Little Mustapha-----なんてことを言うんですか?!私はLittle Mustaphaですよ。生まれた時からずっと私はLittle Mustaphaです。それなのにいつしか偽者に私の大事なホームページを乗っ取られて…

Little Mustapha-----そんなことよりもLittle Mustaphaさん。そこの電話機が点滅しているのって留守番電話のメッセージじゃないですか?

偽Little Mustapha-----キャッー!…そんなことはあり得ません。さっきから電話が鳴ったのを誰も聞いてないんですよ。

Little Mustapha-----それでもメッセージがあるのなら聞いてみないといけませんねえ。


 キンダニに変装した(つもりの)Little Mustaphaは留守番電話のボタンを押してメッセージを再生しました。なぜかそれはいつもよりもさらに不自然な機械の声でした。


留守番電話-----ゴゴ・ゴジ・ゴゴ・ゴゴ・ジュウ・ゴジ・フ・ン・ピー!「Little Mustapha's Black holeの諸君。今年も盛り上がっているようだね。特にLittle Mustapha君は張り切っているじゃないか」

偽Little Mustapha-----誰なんですか?この男は?

Little Mustapha-----さあ、私に聞いても解りませんよ。謎めいたメッセージですねえ。

留守番電話-----「しかしLittle Mustapha君。キミは過去に犯した過ちが時間の経過とともに消えていくとでも思っているのかね?あの時キミがあの川でしたことを私は見ていたのだよ。川に沈んでいくブラックホール君を見ながらキミは何を考えていたのだね?これで全てが上手くいくとでも思っていたのかね?キミはまだ若かった。そしてあのころキミは自分がLittle MustaphaではなくてDirector N.T.だということもちゃんと解っていたはずだ。そしてブラックホール君を始末することによって全てから解放されると思っていたはずだ。しかし、そんな身勝手な理由でマスコットを川に沈めるようなことをして良いなんてことは決してないんだ。それはキミも良く解っているだろう。優等生気取りのDirector N.T.君ならな。そんな過ちは許されてはならないことだということを」メッセージ・オ・ワ・リ!

偽Little Mustapha-----私はLittle Mustaphaだ!Director N.T.なんて知らないぞ!私はLittle Mustaphaなんだ!

Little Mustapha-----それは違いますよ。あなたはまともな人間になろうとして、あなたが全ての元凶であると思っていたブラックホール君の殺害を思いついたのです。あなたは言葉巧みにブラックホール君を夜の多摩川に誘い出して泳げないブラックホール君を多摩川に突き落としたのです。冬の冷たい水の中に沈んでいくブラックホール君を見てあなたは自分の計画が成功したと思っていたはずです。でも物事はそう上手くはいかないものなのです。ブラックホール君は下流に流されていく間に、偶然そこを通りかかった人に助けられたのです。ブラックホール君が奇跡的に助かったおかげで私は全てを知ることが出来ました。あなたはLittle Mustaphaではありません。Director N.T. なのです。そして、何を隠そう、この私こそが本物のLittle Mustaphaなんだなぁ!


 Little Mustaphaはそう言ってカツラをとりました。偽Little Mustaphaはそれを見て「ぁぁぁぁぁ!」とヘンな悲鳴をあげました。

「そうだ!私はお前に生活を滅茶苦茶にされた…Director…エヌ…」

偽Little Mustaphaが何かに気付いて喋り出すと彼の顔がゴム風船のようにふくらんでいきました。そしてパンパンにふくれあがった偽Little Mustaphaの顔はバーンという大きな音とともに破裂しました。メンバー達は破裂した顔の中身のドロドロした物が自分たちにかかるのではないかと思って両手で顔を覆いながら体を横に向けていました。しかし、しばらくして辺りを見回してみてもそこには汚いものは何もありませんでした。


Little Mustapha-----ああ、なんとかなったようだね。ということでDirector N.T.は再び脳ミソが破裂してしまいましたとさ。

ミドル・ムスタファ-----なんですかこれは?何がどうなったのか、全然解りませんが。

Little Mustapha-----話せば長くなるんだけどね。とりあえずこの部屋を片付けない?


 Little Mustaphaが何を言っているのか解らないメンバー達でしたが、よく見てみると目の前にあった御馳走は全てカエルやミミズやネズミに姿を変えていました。それから偽Little Mustaphaが彼らに渡そうとしていたプレゼントは木の葉の山になっていました。

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