「HANAKO」

16.

 タニマダ先生のマンションの向かいにはまだ二人の怪しい男がいて、タニマダ先生の家を見張っていた。二人はタニマダ先生の部屋から出てきたモルダアの姿を目で追っている。

「あの男、何か感づいたんじゃありませんか?始末しちまいましょうか」

「いやあ、それはよした方がいい。あれは、F.B.l.の捜査官だ。あの男に手を出したらやっかいなことになるぞ」

「F.B.l.?何ですかそれは?」

「オレが知るわけねえだろ。これを書いてる作者でさえ解ってないんだ」

「何ですかそれは。それより、大丈夫なんでしょうねえ?」

「なに、先生には十分警告しておいたよ。まあ、いざとなったら少し脅かしてやれば絶対に喋りはしないよ」

この怪しい二人はまた黙ってタニマダ先生の部屋の監視を続けた。でも何で私のことまで知ってるの?

17. 再び警察署

 取調室の前でモルダアが待っているとスケアリーが中から出てきた。

「あら、随分とお早いお帰りですこと。あの少年から五千円は取り戻せたんですの?」

「それが、ダメだったよ。・・・ボクはキミに五千円取られたこと話したっけ?」

「あなたのすることはだいたい想像が付きますわ。でもまあ、あたくしもあの少年をとっちめてやりたいとは思っていますから、少しは協力してあげてもよろしくってよ」

「そうか、それはよかった・・・」

モルダアは話が違う方向へ進んでいることにようやく気付いた。

「そんなことより、ヤツはどうだったんだよ。変態ミセタは」

「ああ、そうでしたわね。あたくしが見たところによると、ミセタはあなたが思ってるほどの変態ではなさそうですわよ。どちらかというとあなたの方が上かしら。確かに以前は精神的に不安定で入退院を繰り返していたそうですけど、最近とても厳しいテストをパスして正常だということが認められたそうですわ」

「ええ!?そうなの。それじゃあ、あの人造少女はどう説明するんだよ」

「そこが良く解らないところですわ。ミセタが病院でテストを受けている時もミセタの家には人造少女がいたんでございますから。でも、この人造少女自体が正常では考えられないものですから、そんなところをおかしいと思うのも無駄なことかも知れませんわ」

「それで、人造少女のことは何て言ってた?」

「それなんですけど、あなたの予想とは大分違っていましたわ。ミセタは殺害目的で少女を連れてきたんじゃないと言っていましたわ。でも、そのころはまだミセタの精神状態も完全ではありませんでしたから、ああいったことになってもおかしくはありませんわね」

「というと?」

「五年前のことですわ。ミセタは車で千葉県の山の中を走っていると道ばたに少女がうずくまっていたんだそうなんです。辺りには人気もないし、町までは相当の距離があるところだったので、ミセタが不審に思って少女に話しかけたそうですの。でも少女は何にも答えなかったんですの。無理もありませんわね。あの人造少女には脳がなかったんですから。それで、ミセタは家まで送るから車に乗るように、と少女に言ったそうよ」

「それは、どうにも危険な光景だねえ」

「普通ならそうですわね。それからミセタは近くの町まで車を走らせて、町の中で少女にどこで降ろせばいいかとか、住所はどこかとか色々聞いてみたそうですけど、少女は黙ったまま。町の景色を見ても表情一つ変えることはなかったそうですわ。そうなると、ミセタが不安になってしまいますのよ。なにせ前科があることですし、それが未成年に対するわいせつ行為だったんですから。見知らぬ少女を自分の車に乗せているところなどを見られてしまっては大変なことになりますわ。それでミセタは急に怖くなって少女を乗せたまま自分の家に帰ってきてしまったそうですのよ」

「何で、途中で降ろさなかったんだろう?」

「そりゃ、あなたならそうするかも知れませんわね。でも少女を一人町中に置き去りに出来なかったんですのよ。行動はおかしなどころがありますけれど、それは病気のせいですわ。ミセタは優しい人なんですのよ。以前に捕まった時のわいせつ行為だって、あれは見せただけだったそうですわよ」

「ホントに見せただけだったのかあ。でも出てたのではなくて見せたのならそれはれっきとした犯罪だよ。それで、その後人造少女はずっとミセタの家に?」

「そのようですわ。始めはすぐに少女の家を見つけて帰そうと思っていたそうですけど、何しろ少女は何も喋りませんし、文字を書いて見せても反応がなかったそうですわ。それから、何も食べずに生きていられる少女を見てミセタはとっても驚いていたそうですの。うふふ、あとミセタはおかしなことを言うんですのよ。その少女は時々おならをするんですって。うふふふ」

「メタンガスだ!」

「そうかも知れませんわね。うふふふ。ああ、そうそう。それで思い出したんですけど、少女はミセタが見つけた時からずっとランドセルを降ろさなかったそうですわ」

「やっぱりランドセルは燃料タンクだったんだな」

「昨日の爆発事故から考えたら、花子はランドセルからエネルギーを得ていたといえますわね」

「花子ってだれ?」

「あの人造少女にミセタが付けた名前ですわ。犬にはポチ。猫にはタマ。女の子は花子。ということらしいですわよ。ミセタは少女に名前を付けて自分の家におくことにしたらしいんですの」

「そこはちょっと犯罪者っぽいところだな。ところで、ミセタは花子が人間でないと知っていたのかなあ?」

「さあ、どうかしら。そんなことはどうでもよかったんじゃございません?ミセタは花子が彼の心に空いた穴を埋めてくれたと言っていましたのよ。実際に彼の病気の症状は見る見るうちによくなって、その結果テストもパスできたんですから」

「癒し系人造少女というわけか。でもどうして学校のトイレなんかにいたんだろう?」

「さあ、解りませんわ。ミセタがうっかり戸締まりを忘れて外出したスキに花子は家を出ていったということですけど。でも脳のない人造少女のすることに理由なんかあるとは思えませんわ」

「キミは人間の意志が脳だけに宿っていると思っている?ボクの考えじゃ脳以外のどの器官にも人間の意志というのがあると思うんだけどねえ」

モルダアはスケアリーに反論されると思って身構えていたが、スケアリーは黙っている。

「どうしたんだ?ボクがなんか失礼なこと言ったか?」

「あたくし喋りすぎて疲れましたから、しばらく黙っていようと思って。ホントに、どうしてあたくしがあなたのために、こんなに沢山お喋りをしなくてならないんですの?どうせ何にもしてこなかったのなら、あなたも取調室に居るべきだったんだわ。ホントに腹が立ちますわ」

なんだかスケアリーの機嫌が悪くなってきたようだ。でも大丈夫。モルダアには一応収穫があったのだから。

「何にもしていなかった訳じゃないよ。ほら、ここにちゃんとあの少年の家の電話番号が」

モルダアはスケアリーにタニマダ先生から渡されたメモを見せた。でもスケアリーはまだ喋るつもりはないようだ。

18.

 スケアリーが黙ってしまったのでモルダアは困っている。少女を車に乗せたミセタもきっとこんな気分だったに違いない。そんなことをモルダアが思っていると、廊下の向こうで二人の姿を見つけて近づいてくる者がある。昨日、女子トイレにいた刑事である。

「これはこれは。F.B.l.の優秀な捜査官様じゃないですか。おそろいでどうしたんです?」

刑事は嬉しそうに二人に話しかけた。刑事は自分の力でこの事件をほとんど解決したと思っているようだ。

「どうやら、お二人にはわざわざ来てもらうこともなかったようですなあ。そうそう、モルダアさん。あんたの言ってたバンデイとか言うメーカーですけどねえ。私はあんたのおかげでとんだ恥をかくところでしたよ」

モルダアは昨日、この刑事にバンデイについて調査をするように言ってあったのだ。

「何か解ったんですか?」

「キミの無能さは良く解ったよ。あっはっは。冗談、冗談。あの人造人間を作ったのは全く別のところにいたんだよ。キミはバンデイが作ったに違いないとか言っていたが、私はそんなことは絶対にないと思っていたねえ。まあ、これを見てみなさいよ」

刑事がモルダアにゴムの板を見せた。

「これは防震用のゴム板ですか?これが何か?」

モルダアにこう言われて刑事は持っていたゴム板を裏返した。そこにはまたBANGDAYの文字が印刷されていた。

「バンデイっていう会社はこういったゴム製品なんかも作っているんだよ。キミはバンデイが人造人間を作っているなんていうから、私も信じかけたんだけどねえ。どう考えてもあんなオモチャ屋に人造人間なんかが作れるはずはないと思ってな。ということでバンデイに乗り込んで捜査を始める前に色々調べてみたら、バンデイが玩具だけじゃなくゴム製品を扱っていることが解ってね。それで、以前にバンデイに特殊なゴムを発注した企業や研究機関がないか調べてみたんだよ。そうしたら、ある大学の教授があの人造人間に使われているのと全く同じ種類のゴムを大量に購入していることが解ったんだよ」

「本当ですか?」

モルダアはかなり動揺しているようだ。それより、こんなところでまた新しい人物が登場してくるとは、ちょっといい加減じゃないか?まあ、いいか。

「それで、その教授っていうのは?」

「ハポン大学の呂古(ロコ)教授というんだが。なにやら怪しい研究をしているということで、誰からも相手にされてなかったそうだ」

「もうロコ教授にはあったんですか?」

「いやあ、それがねえ。実験中に爆発事故が起こって亡くなったそうだ。それにその爆発のせいで研究の資料が全部灰になってしまったとかで何を研究していたのか、大学の方でも良く解らないそうだ」

「それは、いつのことです?」

「五年前だ。クレイジー・ロコ教授が死んで人造人間だけが生き残ったということだろうよ。まあ、あの遺体は専門機関で調べてもらうことにしたから、キミたちはもう用なしってことだなあ。後は私ら優秀な警察に任せてきみたちは家でゆっくり休みたまえ。アッハッハッハ」

刑事は勝ち誇った顔をして二人に背を向けて歩いていった。

「刑事さん。クレイジー・ロコと言うよりはロコ・ロコといった方が正確ですよ。この場合」

「モルダア、何をいってらっしゃるの?」

やっとスケアリーが喋った。

「なんだか気に入らないから、ボクの知識をひけらかしてみただけだよ」

「あたくしもあの刑事さんはちょっと嫌な感じがいたしましたわ。でも事件はもう解決したみたいですし、私たちは帰った方が良さそうですわよ。それにあの少年の家に行って、たっぷりお仕置きをしてやりませんと」

これでは、何にも解決していない。ここに来てようやくモルダアの少女的第六感が多少働きだした。クレイジー・プロフェッサーのプロフェソール・ロコ・ロコにあんな人造少女が作れるはずはないのだ。モルダアはなぜだか知らないがそんな気がしてならなかった。しかし、今は何も手掛かりがない。仕方がないのでスケアリーの言うとおり少年の家に電話をかけてみることにした。

19. 警察署前

 モルダアが携帯電話でメモに書かれた番号に電話をしている。

「おかしいなあ。この番号は現在使用されておりません、だって」

「ちゃんと書かれたとおりの番号におかけになったの?」

「うん。それは間違いないけど。もしかして引っ越したのかなあ・・・」

「書いてある番号が間違っているのかも知れないわ。でもこのまま引き下がることは出来ませんわ。なんとしてもあの少年を懲らしめてやりませんと、気が済みませんわ!」

スケアリーは、妙にやる気を出している。彼女はポケットから電話を出すとどこかへ電話をかけた。

「もしもし、あたくしF.B.l.のスケアリーですけれど、ちょっと調べてもらいたいことがあるんですのよ。以前使われていた番号なんですけれども」

そう言ってスケアリーはメモに書かれた電話番号を読み上げた。どうやら電話会社にかけているらしい。調べるのには多少時間が掛かるようだ。

「F.B.l.って言ったら何でも出来るのか?」

「当たり前ですわ。F.B.l.に不可能はありませんのよ。でもそれは、あたくしに限ったことですけどね」

「それって、どういうこと?ボクじゃ・・・」

スケアリーが手を上げてモルダアを遮った。番号を調べ終わったらしい。電話の向こうの声を聞いて、スケアリーが眉間にしわを寄せている。何が解ったというのだろうか?

「モルダア。これって偶然なのかしら」

「どうしたの?」

「この番号を使っていたのはバンデイ研究所という団体だったんですって」

「バンデイ研究所!?」

このバンデイ研究所は玩具のバンデイと関係がないとは思えない。しかし、どうしてタニマダ先生がこの電話番号を知っていたのだろうか。或いはただの書き間違いでそれが偶然バンデイ研究所が使っていた番号と同じだっただけなのか。二人とも黙って考えていたが、メモを持っていたスケアリーがあることに気付いた。

「ねえ、モルダア。この字は少しおかしくありませんこと?ほら、よく見ると字が震えていますでしょ。学校の先生が書く字としましては、ちょっとお粗末じゃございませんこと?」

モルダアもメモを見てみた。確かに字が震えている。決して下手な字ではないのだが、所々で文字の線があらぬ方へ曲がろうとしているのを無理矢理強制したかのような字になっている。手が震えていればこんな字になるかも知れない。

「タニマダ先生には何かあるな」

モルダアは今朝タニマダ先生が部屋で見せたあの涙ぐんだ顔を思い出していた。それから別れ際に見せたあの笑顔を。それからあの巨大な胸を。

「タニマダ先生にはもう一度あって話を聞かなきゃいけないなあ。キミ、悪いけど行ってくれるかなあ?ボクはあの人を前にするとどうしても、何て言うか、自分を見失ってしまうんだよ」

「まあ、あなたならそうでしょうねえ。解りましたわ。それに、あたくしバンデイのことについて色々調べるのは面倒だと思っていたとこですから。それじゃあ、あなたはバンデイのことを調べてみてくださいな。きっと大変な作業だと思いますけど、くれぐれも手抜きにならないようにお願いいたしますわ」

「それなら心配いらないよ。バンデイの資料はさっきの刑事が集めてくれてたみたいだから。意外といいヤツかも知れないよ。あの刑事は」

これで、あのいやらしい刑事の鼻をあかすことが出来ると思ったのか、モルダアは颯爽と警察署の中に戻っていった。

20. タニマダ先生のマンション

 タニマダ先生はベランダへ出られる窓に掛けられたカーテンの隙間から外の様子をうかがっている。玄関から外に出れば向かいのマンションで見張っている男に見つかってしまうだろう。外へ出るにはベランダからしかない。タニマダ先生はもう何10分もこうして外をうかがっていたのだが、ついに覚悟を決めたのかカーテンを開けてベランダへ出た。そして非常用はしごの上げ蓋を開けてゆっくりと下のベランダに降りようとした。そのとき玄関でチャイムが鳴った。タニマダ先生は一瞬動きを止めたが部屋には戻らずそのまま下の階へと降りていった。一階まで降りるとタニマダ先生は道路へ飛び出し、裸足のまま走っていった。

 タニマダ先生の部屋の前ではスケアリーがイライラしながらチャイムのボタンを押し続けている。

「もう知りませんわ!」

タニマダ先生が出てこないので、スケアリーはエレベーターの方へ引き返していった。

21. 警察署内の一室

 モルダアがその部屋にはいると机の上に山積みにされた資料が目に入った。その山の向こうの窓際で一人の若い警官が椅子に座って雑誌をぺらぺらめくって暇そうにしていた。

「あの、バンデイの資料を調べたいんだけど。刑事さんはどこに行ったのかなあ?」

モルダアに声をかけられた警官は雑誌を眺めていた目を上げてモルダアの方を見た。

「ああ、あなたF.B.l.の人でしょう。確かモルダアさんだ。どうです、凄いでしょう。この資料の山。あの刑事はぼくらをこき使うくせに、自分では面倒なことを少しもやらないんですよ」

「この資料は全部キミが?」

「まさか。ボクと仲間の何人かで一晩かかりましたよ。でも、刑事は最後にちょっとだけ確認しただけなんです。あなた、資料を見たいんですか?持ち出さないんなら見てもいいですよ。ホントは刑事から見せるなと言われてるけど。もう事件は解決なんでしょ。それにボク、あの刑事は好きじゃないから」

「事件が解決かどうかはキミの集めてくれたこの資料が決めてくれるよ」

「へえ、そうなんですか」

警官はまた雑誌を読み始めた。

 モルダアの前には何千枚もの資料とダンボール箱が綺麗に積み上げられている。その一部だけが崩されて散らばっていた。この散らばっている資料が刑事の調べた分なのだろう。

「ねえ、キミ。刑事はこれだけしか調べなかったの?」

「そうですよ。必要なことは全部解った、とか言って。始めはバンデイに関する資料を片っ端から集めろって言っていたのに」

「全く素人だなあ・・・」

モルダアも素人っぽいのだが。しかし、怪しいことは徹底的に調べなくてはいけない。とは言うものの、モルダアもこの資料の山を見て少しやる気が萎えていることは確かである。

「あの、キミ。この中にはどんな物があるんだ。分類わけとかしてあるのかなあ」

「さあ、どうだろう。ボクが集めた分は一応やってますよ」

警官がめんどくさそうに答えて机の前にやってきた。

「ここら辺が、バンデイから送ってもらった帳簿のコピーで、この辺がバンデイに関する新聞記事の切り抜き。ほとんどが経済面の記事ですけどね。それからこの箱の中はバンデイ研究所爆発事故の時の証拠品」

「バンデイ研究所!?」

モルダアが興奮して箱を開けた。中には爆発でバラバラになってしまった実験器具のかけらや、書類の焼け残りのような物が入っていた。

「バンデイ研究所では何の研究をしていたんだ?」

「新しいエネルギーの研究とか言ってましたねえ。石油に変わる燃料ってヤツですか。でももの凄い爆発だったんですよ。ボクも事故処理の手伝いに行かされましたよ。現場は、ここに建物があったとは思えないぐらいに見事に吹っ飛ばされていましたよ。ほら、これがそのときの新聞記事。見てくださいよ、ボクが写ってる」

モルダアは新聞の写真などは見ずに記事を読んでみた。どうやら生成したガスに引火したことが爆発の原因らしい。25人の研究員と一人の少女の遺体が発見された、と書いてある。

「この少女ってのは・・・」

「あの、人造人間だと思うでしょ?でも、爆発事故の被害者の遺体って大抵が体の一部だけなんですよ。だから身元だってちゃんと確認できてないんですよ。一応、研究員の一人の娘ということになっていますけど」

「そうなのかあ」

モルダアはまだ何かがあるだろうと思って証拠品の入ったダンボール箱をかき回し始めた。

「あんまり乱暴にしないでくださいよ」

「金属の部品と紙の資料を一緒に入れておいて、それはないだろう」

そう言いながらモルダアはダンボール箱の中をあさり続けた。すると底のほうから一枚の写真が出てきた。上半分は焼けてなくなっている。その写真の下の部分には沢山の足と白衣の下の方が写っている。上の部分を足せば、おそらく研究員の集合写真になるのだろう。

「おい、きみ!これを見てみろよ!」

モルダアが何かに気付いたようだ。モルダアの興奮する様子に警官も写真に興味を持ったらしい。モルダアの指しているところに目を近づけて写真を調べてみた。

「二人ですねえ」

警官もモルダアが何に驚いたのかが解ったようだ。沢山の長ズボンと白衣に混じって、二人分の赤い靴、ハイソックス、スカートをはいた足が映っている。

「この二人の少女が人造人間だったとしたら、一人は爆発で死んで、もう一体は残っていて昨日発見されたことになるなあ」

そう言いながらも、モルダアにはピンと来ない。これだけではバンデイが人造少女を作っていた証拠にはならないのである。

「この写真と遺体の足を比べてみれば解りませんかねえ?」

警官が言った。

「こんな薄汚れた写真じゃどうにもならないよ。それより他に何かないかなあ。これだけ資料があるんだし・・・」

やっぱりこの資料の山を片っ端から調べなければならないようだ。モルダアが途方に暮れて資料を眺めていた。

「あれ!?モルダアさん。こんなところにもバンデイ研究所がありましたよ」

警官が持っていた雑誌をモルダアに見せた。

「これは誰かが読んでいた雑誌だと思ったけど、これもバンデイに関する資料の一部だったんですねえ。よく見たら五年前の雑誌だ」

モルダアが警官に渡された雑誌を見る。

「キミ、お手柄じゃないか。これでこの事件が解決したら、ボクがF.B.l.の力を使ってキミがあの刑事より早く出世できるようにしてあげるよ」

「本当ですか!?」

警官は目を輝かせたが、嘘である。