11. 遺体安置所
モルダアが到着するとスケアリーは建物の入り口のところで待っていた。モルダアはスケアリーの顔色をうかがってみたが、多少ほとぼりは冷めているようだった。
「やあ、待たせたね。僕等はすっかり騙されてしまったみたいだよ。あのガキは盲目なんかじゃなかったんだぜ」
モルダアの白々しい態度にスケアリーは少しあきれたのか、モルダアを睨みつけて脅かすのをやめにした。
「もうそんなことはどうでもいいですわ。あなたも、確かめたかったのならあんな卑怯な手を使わずに私に頼めば良かったんですのよ」
「キミはボクが触りたいと言ったら・・・」
モルダアはここまで言って言葉を飲み込んだ。以前、彼は同じことを言って痛い目に遭っているのだ。
「それよりも早いとこ調査に取りかかりませんこと。あたくしもう何だか疲れてしまいましたわ」
二人は遺体が保管されている部屋へと向かった。
12.
「人間かどうか解らないのに人間の遺体と同じ場所に保管してるのか」
人造人間にお目にかかれると思って多少興奮していたモルダアは他の人間の遺体の入ったケースに囲まれていることにまだ気付いていない。普段なら絶対にこんなところには入らないはずなのに。
「そりゃそうですわ。人間じゃなくても少しは人間らしいところもあったんですから。それにさっきもいったように血液だって・・・」
そう言って、スケアリーが少女の遺体の入ったケースを引き出そうとした。
「ちょっと待って!血液ってどのくらいあったの?」
「ほんの少しですわよ。まあ、あなたにはちょっと怖いかも知れませんが、すぐに慣れますわ」
そう言うと、スケアリーはぐいと取っ手を引っ張って少女の遺体の入ったケースを引きずり出した。モルダアは顔を背けていたが何時までもそうしていても仕方がないので思い切って遺体の方に目をやった。
メスで切り開いた後の縫い目が痛々しい感じだったが、それでも遺体は発見された時と同じように綺麗な人間の肌の色をしていた。これなら大丈夫。モルダアはホッとして遺体に近づいた。
「それで、何を見たいんですの?もう一度切り開いて見せましょうか」
「いやいや、それはいいよ。さっき言ってた背中の穴を調べたいんだ」
スケアリーが遺体を裏返すと背中の真ん中に小さな穴が開いていた。モルダアが穴の周りを押してみる。この人造少女の背中は本物の人間と全く同じような弾力を持っていて、モルダアはなんとなく気味が悪いと思っていたが、ここまで来たら怖がっていられない。その穴を注意深く観察した。穴の中には金属の部品のようなものが見えた。それはどうやらナットで固定されているようだった。
「この金属の部品は調べてみたの?」
「そんなことはしませんわ。あたくしは自転車屋さんじゃありませんから」
「まあそうだろうねえ」
確かにそれは、自転車の空気を入れる部分に似ていた。自転車屋さんじゃなくてもこれぐらい取り外せそうなものだが。
「何かペンチなようなものをたのむ」
モルダアが人造少女の遺体を見ながらスケアリーの方に手を差し出した。まるで手術中にメスを要求する外科医のようだ。
「ご自分で取ったらどうなんですの?」
スケアリーは腕組みをしてモルダアの様子を見ていた。モルダアは仕方なく近くの解剖用の道具が置いてあるプレートの上からナットを回せそうな器具を探した。モルダアは歯を抜く時に使うのと同じあの恐ろしいペンチを見つけだして、遺体の背中に取り付けられた金属をはずした。そして、はずした金属を鼻の前に持ってきて臭いをかいでみた。それからそれをスケアリーの鼻の前にも持っていった。
「あっ、臭っ!何なんですのこの臭いは!?」
「ボクが田舎のおじいちゃんの家に行くと、裏の沼でよくこの臭いを嗅いだよ。メタンガスなんだろ、あれは」
「まあ、そうですけれど。メタンガス自体にはあまり臭いがありませんのよ。臭いのは生成の過程で出来る不純物の方ですわ」
「純粋なメタンガスじゃ大爆発は起こらないだろうしなあ」
「モルダア、ここに何か詰まっていますわ」
スケアリーが金属の部品の中からピンセットで何かを取りだして、モルダアに見せた。
「何かの繊維みたいだね。キミ、これがなんだか調べてくれないか」
「あたくしは、あなたの指図は受けません!」
「へっ?」
「でもまあいいですわ。あたくしも少し興味がわいてきましたから。でもそれは明日にさせていただきますわ」
モルダアはすぐにその物質がなんなのか知りたかったが、今日はなるべくスケアリーの機嫌は損ねない方がいいように思われた。もう痛いのは勘弁です。
「それにしても、ミセタという人はどうしてこんなものを作ったんでございましょうか?これは明らかに犯罪ですわ。完全ではないにしても、一部は人間なんですのよ。きっと、クローン技術を使っていらっしゃるんだわ。そんなことが許されてはなりませんのよ!」
スケアリーが妙に息巻いている。こうなってくれるとモルダアには都合がいい。しかし、一つ間違っている。
「スケアリー。いくら何でも一人の人間の力ではこんなものは作れないよ。それに出しっぱなしのミセタにはとうてい無理だね。この人造少女はミセタの少女連続誘拐殺人で最初の被害者になる予定だったんじゃないかな。つまり、この人造少女を作った人間は他にいて、ミセタがそうとは知らずに誘拐したと考える方が理にかなっているよ。まあ、これは彼が捕まれば全て解るだろうけど。問題は誰が作ったのかということだな」
「この金属の部品は何かの手掛かりになりませんかしら?」
「うーん、どうだろう?」
モルダアは遺体を見ながら少し考えていた。
「この人造少女の中で人間のものでない、つまりゴムとか金属で出来た部分はどのくらいあるんだ?」
「そうですわねえ・・・。骨はグラスファイバーのようなもので出来ていましたわ。それから、皮膚は全部人間のものだったんですけれど、足の裏だけはゴムで出来ていましたわ。きっとこの人造少女の細胞は自分で新しい皮膚を作ることが出来なかったんじゃないかしら。それで、すり減りやすい足の裏は皮膚よりも丈夫なゴムで作ったんですわ」
モルダアはそれを聞くと、人造少女の足を持ち上げて、足の裏を照明に近づけた。
「モルダア、何をなさっているの?そんなことをなさってるとまた変態モルダアと呼ばれてしまいますわよ」
そう呼んでいるのは今のところスケアリーだけだ。モルダアは少しも気にせず足の裏を念入りに調べている。
「芸術家とか職人とか、物を作る人間は作品にサインを入れたがるものだよ。スケアリー、ちょっとこの足の裏のゴムをはがしてくれないか?」
モルダアがあまりに熱心なのでスケアリーは文句を言いたいのを我慢してモルダアの言うとおりにした。
メスを使って慎重に足の裏のゴムをはがしていくスケアリーが何かに気付いた。
「あら、いやだ。これなんですの?」
モルダアが見るとゴムの裏側にアルファベットが印刷されていた。そこには「BANGDAY」と書かれていた。その文字を見てモルダアも驚いたようだ。そして、上着の下に手を入れてサスペンダー型のホルスターからお気に入りのモデルガンを取りだした。(どうしてモルダアがモデルガンを持っているのかについては、前回、さらに詳しくは前々回のエピソードを参照してくれたまえ)
モルダアがそのモデルガンをひっくり返してスケアリーに見せた。
「これは、どういうことですの?」
目の前の現実が信じられないといった感じだ。モデルガンのグリップの底には、全く同じ書体で「BANGDAY」の文字が刻まれていた。
「これは驚いたね。キミは知らないかも知れないけど、このBANGDAY(バンデイ)というメーカーは玩具メーカーとしてはなかなか知られた会社なんだ。つまり、この人造少女はバンデイの新しい玩具だったってことだな」
「モルダア、現在の法律ではこんなものを作るのは犯罪ですのよ」
「それは、そうだよ。でも近い将来クローン人間が法律で認められるようになったら、そのうち人造人間だって。そうなった時にこの人造少女をいち早く売り出せばバンデイは大儲けが出来るってわけだ」
「こんなものが流行ったら、人類は滅亡してしまいますわ」
「でもほしがる人は沢山いるだろうなあ」
モルダアは自分が人造少女の改良版の人造美女を購入することを想像して、思わずニヤッとしてしまった。しかし、次の瞬間、大きく首を振って「いや、いかん!そんなことをしちゃダメだ!」とつぶやいた。スケアリーはその様子を不思議そうに眺めていた。やっぱりこの人は変態なんですわ・・・。
13. 夜
モルダアは自分の部屋へ帰るとしばらくテレビを見ていたが、そのまま眠ってしまった。今はタニマダ先生の巨乳に押しつぶされる夢でも見ているのかも知れない。警察署では、昼間モルダア達と話をした刑事が、事件の捜査と爆発事故の後かたづけのために疲れ切ってしまったのか、自分のデスクで居眠りしている。スケアリーはとっくの昔にふかふかのベッドに入って、すやすやと眠りについている。人は誰でも寝ないでは生きていられない。そして、安心して眠れるものはそれだけで幸せでなのである。
ここに、眠れない人間が一人いる。タニマダ先生は部屋の明かりを消して、何度も眠りにつこうとしていたが、目を閉じてもいっこうに眠れる様子はなかった。昼間の出来事がそれほど彼女にストレスを与えていたのだろうか?タニマダ先生は先ほどから起きあがるたびに窓やドアのところに行ってちゃんと鍵が掛かっているかを確かめている。今はもう眠ることを諦めたのか、ベッドに座っている。部屋の電気は消えたままだ。タニマダ先生は何かにおびえているのだ。何度戸締まりを確認しても安心できないくらいに。
タニマダ先生の部屋の電話が鳴った。タニマダ先生はハッとして、一瞬逃げ出すかのように腰を浮かせた。しかし、それが電話の音だと解るともう一度ベットに腰を下ろした。電話はベットから手の届くところにある。電話が鳴り続けているが、タニマダ先生はなかなか出ようとしない。時刻はもう深夜の二時を過ぎている。こんな時間に誰が電話をかけているのだろうか。タニマダ先生は電話が鳴り終わるのを祈るように待っていたが、それはなかなか鳴り止まない。タニマダ先生がゆっくりと電話に手を伸ばし、受話器を取った。
「先生。いけませんよ、起きていいるのは解ってるんですから」
受話器から小さな低い声が聞こえてくる。声は小さいがはっきりと聞き取れる。冷酷な感じのするしゃべり方だ。
「いいですか、先生。約束は守ってもらわないと、こちらも面倒なことになるんでねえ」
「解っています。警察には何にも話してはいません」
「おっと、あんまり大きな声で話さないでくれませんかねえ。人に聞かれちゃ困りますから」
「でも、私どうすれば・・・」
「なに、簡単ですよ。普通にしていればいいんですよ。昼間やってたようにね。後は我々が処理しますからねえ。あなたはそれまで、黙っていてくれればいいんですよ。くれぐれも変な気は起こさないでくださいよ。我々はこの件が片づくまで、密かにあなたに監視を付けていますから。もし、あなたが約束を守らないようなことがあれば・・・解っていますね。それじゃあ先生、お休み」
タニマダ先生はほとんど落とすようにして受話器を置いた。その手はかすかに震えているようだった。この怪しすぎる電話はいったい何を意味しているのであろうか。カーテンが少し開いているを見たタニマダ先生はあわててそれを閉じた。そして、またベッドに座り込むと頭を抱えてうずくまった。
「ああ、どうしてこんなことに・・・」
タニマダ先生にはこの不安な夜が何時までも明けることがないように思われた。
14. 警察署
取調室の前にいるモルダアを見つけてスケアリーが近寄ってきた。
「ちょいと、モルダア。こんな朝早くから呼び出して、いったい何だって言うんですの?あたくし、昨日は事件のことについて色々調べ事をしていたので、ほとんど眠っていませんのよ」
嘘ばっかり。
「まあ、いいじゃないか。あの変態ミセタが捕まったよ」
「あら、意外とあっさり捕まったのねえ。それで、どうなんですの?」
「予想どおり、爆弾テロの容疑は否定しているけどね。誘拐に関しては認めているようだよ。まあ、誘拐といっても相手が人間ではないから、盗難になるのかなあ。そうなると、誘拐より相当に罪は軽くなってしまうけど、こういう場合ってどうなるんだろうなあ。まあ、どうでもいいか。それより、キミ。ミセタから色々聞きだして欲しいんだけど。ボクはどうしても行かなきゃならないところがあるんだ」
モルダアはほとんど一人で喋っている。
「行くって、どこへですの?」
「タニマダ先生の家だよ」
「まあ、あなたはあの胸を拝みに行くつもりですのね。あなたって本当に・・・。まあいいですわ。変態は変態に同情するといいますから。あなたはミセタ容疑者とは話さない方がいいかも知れませんわ」
変態が変態に同情するなんて、誰が言っているのだろう?スケアリーは時々変なことを言う。
「そうじゃないよ、ボクは昨日の五千円を・・・じゃなくって・・・えーっと、とにかく彼女は何か重要なことを知っているはずなんだ」
モルダアは昨日彼から五千円をふんだくった少年の住所を教えてもらいに行くらしい。事件のことはいいのだろうか?まあいいか。モルダアはまだ気付いていませんが確かにタニマダ先生は怪しいんですから。
15. タニマダ先生の住むマンション
モルダアは三階にあるタニマダ先生の家のドアをノックしたが、中からは何の反応もなかった。しばらく待ってからもう一度、今度は強めにノックすると少し間をあけてドアが少しだけ開いた。その少し開いたドアの隙間からタニマダ先生の顔が少しだけ見えている。ドアにはまだチェーンロックが掛かっているようだった。
「あら、あなたはモルダア捜査官でしたわね?」
そう言うとタニマダ先生は一度ドアを閉めてチェーンを外してから今度は大きくドアを開けた。それと同時にモルダアの目にはやはり例の巨乳が飛び込んできた。ラフな服装のためか、昨日よりもさらに巨大に見える。
「ちょっとタニマ先生!昨日のあの少年ですけどねえ・・・」
「あの、私はタニマダですけど」
モルダアはまたタニマダ先生の胸に向かって喋っていたので思わず名前を間違えた。
「あっ、失礼しました。タニマダ先生」
モルダアはタニマダ先生に名前を訂正されて、視線を胸から彼女の顔に移した。タニマダ先生、昨晩は一睡も出来なかったのか、目の下にはくっきりとクマができかなりやつれた感じである。
「先生、大丈夫ですか?顔色が良くないようですけど」
「大丈夫です。昨日のことでちょっと疲れていますから。きっとそのせいですよ。それよりも昨日の少年というのは?」
「そうでした。あの少年なんですけどねえ・・・」
モルダアがここまで言った時、タニマダ先生はハッと息をのんでそのまま凍り付いてしまったように動きを止めてしまった。彼女は向かいのマンションの同じ階に見慣れない二人の姿を見つけた。ただでさえ青白い顔がますます青くなっていく。
「どうしたんです?」
タニマダ先生の様子を不審に思ったモルダアが彼女の見ている先に目をやったが、彼には何も見えなかった。向かいのマンションの二人はモルダアが振り向く前に物影に隠れたらしい。
「いえ、何でもありません。あの、ここじゃ何ですからどうぞ中に入ってください。さあどうぞ」
モルダアは何がどうなっているのか良く解らなかったが、言われるがままに部屋の中に入った。
「それで、何の話でしたっけ?」
呆然として部屋の中を眺めているモルダアに向かってタニマダ先生が言うと、モルダアは思い出したようにさっきの話の続きをした。
「先生。あなたはあの少年が実は盲目ではないと知っていたんですか?」
「えっ、まさかそんなことはあり得ません」
「でもボクはあの子がもの凄い速さで走っていくところを見たんですよ。目が見えないならあんな速さではとても走れないですよ。それにね、テレビゲームを買うなんてボクに言ったんですよ。まあ、うまく騙すつもりだったんだろうけど、それを聞いてボクにはすぐあの子は目が見えると解っちゃいましたよ」
本当はうまく騙されたのだが。
「まあ、別にあの子を補導する訳ではないんですけどね。それは、他の人がやることですし、きっと悪いイタズラとして放っておかれるでしょう。でも、まあボクとしては大人を騙すのは良くないことだから、ちょっと懲らしめてやろうと思いましてね。それで、先生ならあの子の住所を知ってると思って来てみたんですよ」
こうは言っているが、五千円がないと今月はちょっと辛いモルダアであった。そんなことはどうでもいいのだが、モルダアのこの話を聞いてタニマダ先生は少し安心したような表情になった。彼女は昨日の遺体発見については何も聞かれることはないと思ったのだろう。
「それじゃあ、私の分もお願いできますか?あたしが胸を触られていた分も懲らしめてもらわないと」
タニマダ先生はこう言ってにっこり笑った。
タニマダ先生が胸の話などをするから、モルダアはまた先生の胸が気になりだした。それと同時に、先生は笑うと意外と可愛いんだな、なんてことも思っていた。タニマダ先生が先を続けた。
「でも私、あの子の住所は知らないんです。せっかく来ていただいてのに」
「そうなんですか・・・」
とモルダアが答えているが、今はタニマダ先生の胸の方が気になっている。あんな胸にしなくても、よく見れば可愛いのになあ。どうして大きくしたんだろう?「前はタニマダ先生の胸はあんなに大きくなかったんだよ・・・」モルダアの頭に昨日少年から聞いた話がよぎる。こんなことはモルダアには関係のないことだし、聞くべきではないことも解っている。解っていても、どうしても気になる、気になる。もう一つおまけに気になる。そして、とうとう尋ねてしまった。
「あの、先生。あなた今までに整形手術とか受けたことは?」
モルダアのこの質問に少し和らいでいたタニマダ先生の表情が一瞬でこわばった。
「あっ、すいません。ボク失礼なこと聞いちゃいましたね。何でもないですから、気にしないでください。それじゃあ、ボクはこのへんで失礼します」
モルダアは冷や汗をかきながら玄関へ向かった。
「モルダアさん、待ってください!」
モルダアがびくっとして立ち止まってから振り返る。見ると、タニマダ先生は目に涙をいっぱいにためて今にも泣き出しそうである。そして、その目でモルダアの目をじっと見ていた。しまった、こんな馬鹿な質問をして女の人を泣かせたら、優秀な捜査官失格だ。いや、それよりも男としてダメな感じだ。モルダアはなんと言っていいのか解らずただ立ちつくしていた。どうしよう?どうしよう?モルダアの顔からさらに冷や汗が吹き出してくる。
「あの、モルダアさん」
タニマダ先生が先に口を開いた。その声は涙をこらえて多少震えてはいたが、何か吹っ切れたようにしっかりとしたところもあった。
「あの、これはあの子の電話番号です。ここにかければきっと住所も解りますよ」
タニマダ先生は、思いがけないことを言われて唖然としているモルダアの手に一枚のメモ用紙を半ば強引に握らせた。
「ああ、どうもありがとう・・・」
なんだ、ボクが整形手術のことを聞いたのはどうでも良かったのかなあ?何がなんだか解らないまま、モルダアは玄関に向かって歩いていった。靴を履いてもう一度振り返ると、タニマダ先生がモルダアの方を見て先ほど見せたのと同じようににっこり笑ってモルダアを見送っていた。モルダアもヘヘッと不自然な笑顔を作ってそれに答えた。