7.
モオルダアが精神や魂の世界でくだらないやりとりをしているとも知らずゴンノショウ達は一心に祈祷をあげていた。そしてその祈祷は三日三晩続いた。彼らはもうモオルダアが助からないと半分あきらめかけていたのだが、私の一存でモオルダアは助かることになったのだ。
こんな祈祷でホントに人の命が助けられるのか?と思っていた数人は、昏睡状態から目覚めたモオルダアを見て今まで知らなかった不思議な現象がこの世には存在するのだ!と密かに盛り上がっていたのだが、ゴンノショウは冷静に死の淵から戻ってきたモオルダアに必要な処置を施していった。
目覚めたものの衰弱しきっていたモオルダアにゴンノショウは儀式の続きを行っていった。神棚に飾るような榊で水をかけられたり、そば粉を固めて作ったようなまずい食べ物を食べさせられたりしてモオルダアは朦朧とする意識の中で「勘弁してほしい」と思っていたのだが、一通りの儀式が終わるとモオルダアは再び社に戻され、そして深い眠りについた。
モオルダアが目覚めると暗い社の中に土井那珂村の村人達の姿が目に入った。それから一番近くにいたゴンノショウが満足げにモオルダアを見つめていることに気付いた。モオルダアは体を起こそうとしたのだが、長い間横たわっていた影響で体に上手く力が入らずに、体を起こすにはかなり苦労した。体を起こしてあぐらをかいた状態になっても、頭の中で脳ミソがフワフワと浮かんでいるような不思議な感覚で目が回りそうだったが、しばらく一点を見つめているとそれは次第に治まってきた。ここでやっとモオルダアは現実世界へと戻ってきたような気がしていた。
モオルダアが社の中を見渡すと、ここにいるのはほとんどが好奇心旺盛な村の少年達であることが解った。なぜ好奇心旺盛なのかということは彼らの目を見れば解る。彼らは今、村に伝わる祈祷によって黄泉の国から戻ってきたモオルダアという奇跡を目の前にして目を輝かせているのだ。(でもモオルダアが戻ってきたのは私のおかげだけどね。)
モオルダアにまともな意識が戻ってきたことを確認するとゴンノショウが話し始めた。
「この祈祷さ終えるめえさ、気いつけなさればならねばごとあるだぎゃな」
ここまで言った時にモオルダアが不思議そうな顔をしてゴンノショウを見つめたので、ゴンノショウはもう少し解りやすく話すことにした。
「この祈祷を終えるめえに、注意事項があるっぺえな。これがら四日の間は仕事しだり服を着替えだり風呂もだめなんだぁ」
ゴンノショウと村人達はモオルダアがどんな反応をするか見守っていたが、彼らの予想に反してモオルダアは「それはたやすいことだ」と思っていたので、ただ頷いただけだった。都会からやってきたもんがそんなこと出来るワゲねえ!と思っていた村人達は予想が外れてガッカリだったようだ。
ゴンノショウもちょっとガッカリだったのだが、それは表には出さずに自分の横に置いてあったものをモオルダアに渡した。
「土井那珂村の子供達からの贈り物じゃて」
モオルダアは皮で作られた大判の封筒大の袋を受け取った。もちろん中身が何か気になるモオルダアはその場で袋を開けて中をとりだした。ここで少年達の目はさらに輝きを増していたのだが、モオルダアはそこには気付かなかったようだ。袋に入っていたものを取り出したモオルダアは慌ててそれを袋の中に戻さなければいけなかった。
袋の中に入っていたのは、一目でそれがそうと解る、解りやすいエロ本だったのだ。
「あんさがうわごとで欲しがっておりましたけんな。子供達からの贈り物だげども、ホントはわてのもんじゃがの!」
そう言われても少しも状況を把握できていないモオルダアだったが、少年達がニヤニヤしながら彼を見つめる視線を感じて、ここは話題を変えるべきだと思った。
「それはそうと、ボクは意識を失っている間に不思議な場所にいたような気がするんだよねえ」
モオルダアが言うと、ゴンノショウはすぐにそれを理解したようだった。
「それはあんさの魂の中にある世界だっちゃ。みんなそこからやって来るし、そこにあんさの全部があるじゃて」
モオルダアにはゴンノショウが何を言っているのか良く解らなかったが、あそこで降板した登場人物や私に会ったことはただの夢ではないということがなんとなく解った。モオルダアの様子を見てゴンノショウは立ち上がった。そして「終わったぎゃ」というと周りにいた村人達に合図して社から出ていくように促した。社から出ていく少年達は一様にニヤニヤしながらモオルダアを見つめていた。モオルダアは自分が意識を失っている間にどんなうわごとを言っていたのか?と考えて少し心配になっていた。「優秀な捜査官がうわごとでエロ本をリクエストしたりはしないはずなんだが…」と思ってはいたものの、あまり自信はなかった。
8. 一方そのころスケアリーは
モオルダアが土井那珂村で発見されて、村人達の儀式によって不思議な体験をして、そして目覚めた後は時々こっそりエロ本を見たりしている間、スケアリーには面倒な問題が色々と起こっていた。いや、もしかすると私にとって面倒な問題かも知れない。
まず、スケアリーの元へローンガマンのメンバー(正式にはメンバーではない)フロシキ君がやってきた。彼はモオルダアが死んだというウワサを聞いて、悲しみに暮れてスケアリーの元へとやってきたということだったが、スケアリーには色々と理解できないことがあった。モオルダアとはまだ数回しかあったことのないフロシキ君がどうしてそこまで悲しむのか?ヌリカベ君や元部長ならまだ解らないでもないが、フロシキ君が言うには「オリジナルに従えばオレがここに来ることになっているから」ということらしい。しかし、それではまだ納得できない部分もある。スケアリーはまだ自分の高級アパートメントに戻らずに実家にいたのだが、どうしてフロシキ君は彼女の実家の場所を知っているのだろうか?
スケアリーは「何なんですの?!」と思いながらも、やってきたフロシキ君を迎え入れたが、あまり飲めない酒を飲んで何を喋っているのか解らないフロシキ君がこのまま寝込んでしまうのは面倒だったので、スケアリーの態度は素っ気なかった。フロシキ君も眠そうな目の奥で「なんか違うな」ということを感じ取ったのか、要点だけを話すとフラフラしながら帰っていった。
フロシキ君がスケアリーに伝えたのは、国家機密になっている例のファイルを盗み出してモオルダアに渡した男が殺害されたということだった。オリジナルに従えば、この事実によってモオルダアの無実が証明されるのだが、今のところモオルダアには何の容疑もかけられていない。しかし、あのファイルを盗み出した男が殺されたというのなら、今回の事件に何か関連があるのかも知れないということで、翌日スケアリーはFBLへ行くことにした。
停職中のスケアリーはいつものようにFBLビルディングに入ることは出来ない。外部の人間のために設けられた入り口でセキュリティーチェックを受けなくてはいけないのだ。こんなものはいつの間に出来たのか知らないが、FBLビルディングやFBLそれ自体は時と場合によって姿を変えるのだ。このthe Peke-Files シリーズが始まった当初はこのビルにいるのはスキヤナー副長官とスケアリーとモオルダアだけだったのだが、シーズン2で大量のエキストラが登場して、FBLビルディング内は賑やかになり、そしてシーズン3からはFBLという団体はさらに大がかりで、そして用心深く「誰も信じるな」という雰囲気になっているのである。
スケアリーはこの面倒な設定を煩わしく思いながらもルールなのだから従わないといけないと思い、一般用の入り口にある金属探知器をくぐることになった。
「スケアリーさん。クビになったってホントっすか?」
金属探知器の前にいたスケアリーにエキストラの警備員が馴れ馴れしく聞いてきた。スケアリーはムッとしたのだが、ここで怒っても仕方がないので、無理をして微笑んで見せた。
「クビではなくて、停職中ですわよ。あなたには関係ないことだとは思いますけれど」
言い終わる前にスケアリーの眉間にはしわが寄っていた。警備員はそれを見てちょっとすまなそうにしていた。スケアリーはそんなことは気にせずに金属探知器をくぐった。ポケットの中の鍵などは全部出したはずだったのだが、探知機は何かに反応してピ〜ンとウンザリするような音を立てた。「そんなはずはありませんけど…」と言いながらスケアリーは着ている服やコートのポケットを触って確かめていたが、何も入っていなかった。
「たまにあるんですよ。この機械はたまにおかしくなるんです。もしかすると作者の都合かも知れませんけどね」
スケアリーの様子を見ていた警備員がそう言うと、より精密な手に持つタイプの金属探知器を持ってスケアリーのところへやってきた。「一応、規則っすから」と言って警備員はスケアリーの胸の辺りからコートの下まで金属探知器をかざしていった。金属探知器は何の反応も示さなかった。
「やっぱりこれは作者の都合ですよ」
警備員は「入っても良いですよ」と言う代わりにニコニコしながらスケアリーに言った。スケアリーは警備員の言葉を聞いて心のどこかに違和感を感じながらFBLビルディングの中へと入っていった。
13階のスキヤナー副長官のオフィスに来たスケアリーはスキヤナーの予期しなかった態度に唖然としていた。スケアリーはファイルを盗み出した男が殺害されたことをスキヤナーに伝えていた。
「ですから、この男性の殺害はモオルダアの失踪と関連があるかも知れないと言っているんですのよ!」
「そうだとしても、これは我々が捜査すべき事件ではないと思うんだけどねえ。これに関してはもうすでに警察で捜査をしていることだしね。それに、キミは今停職中なんだから、いちいちこんな情報を持ってきてくれても意味はないんだよ」
「そうかも知れませんが、あたくしは捜査に協力しようと、こうしてやってきたんですから、少しはこの件に関しても考えてくれたって良いじゃございません?」
そう言うスケアリーの目は次第に怒りに満ちてきていた。モオルダアならすぐに「ごめんなさい」と言ってしまうところだが、スキヤナーはじっと彼女の方を見つめていただけだった。
「それはそうとね、キミの部屋の捜査願いが出てるんだけどね。キミがメモリーカードを隠してるってホントなのか?」
「そんなことはありませんわ!」
「そのメモリーカードのためにモオルダアがあんなことになったのか?」
「そんな気はしますわね」
「捜査に協力したいというのなら、そのメモリーカードを見付けてきたら良いんじゃないのかな。それじゃないとキミがここに来ても意味が無いんだよねえ」
そんなことを言われてもそのメモリーカードがどこにあるのかなど検討もつかない。「何なんですの!?」と言いながら、スケアリーはプリプリしながらスキヤナーのオフィスを出ていった。
これはいったいどういうことですの?スキヤナー副長官はモオルダアがいなくなって、もしかしたら死んでしまったかも知れないというのに、なんとも思っていないのかしら?元々あたくしとモオルダアとスキヤナー副長官の三人だけだったFBLなのに、あの人はモオルダアがいなくなって、どうしてあんな態度なのかしら。きっと、何かあるに違いないですわね。そうよ!きっとあの人は何か企んでいるに違いないですわ。この増えすぎたFBLの職員の中の誰かに影響されて、あの人も信用できない人になってしまったのかも知れませんわ!
そう考えながら13階から1階までやってきたスケアリーだったが、出入り口のところにある金属探知器を見て入る時に心のどこかに感じていた違和感を思い出していた。
「あれ!?もう帰るんすか?あっ、そうか。今は停職中の一般人だからあんまり長くここにはいられないんすね?」
出入り口のところでさっきの警備員がスケアリーに声をかけた。もちろんスケアリーはもの凄い形相で警備員を睨んで、警備員は「やばい!」と思ったのだがスケアリーはそれよりも気になることがあったので警備員に聞いてみた。
「あたくし、もう一度この金属探知器をくぐってみても良いかしら?」
スケアリーに睨まれた後だったので警備員は快く承諾した。スケアリーは一度警備員の横を通り過ぎてポケットの中から金属類を取り出すと、来た時と同じように金属探知器をくぐった。
すると来た時と同じようにピ〜ンというウンザリする音が鳴った。スケアリーと警備員はお互いの不思議そうな目を見つめ合っていた。
「何なんすかね?一日に何度もおかしな動作をしたりすることはないんすけどねえ」
そう言いながら警備員は手に持つタイプの金属探知器を持って、先ほどと同じようにスケアリーにかざしてみた。「さっきも反応しなかったのだから、もう一度やっても意味がない」とも思っていたのだが、警備員はさっきは調べなかった襟よりも上まで調べてみた。すると、スケアリーの首の辺りで金属探知器は反応した。
「ネックレスとかしてますか?」
スケアリーは警備員に聞かれると、解ってはいたものの一応手で首の辺りを確認してから「今日はしていませんわ」と答えた。
「おかしいっすねえ…」
おかしいことはおかしいのだが、ビルから出ていく人間に金属反応があっても問題はないので、警備員は出ていくスケアリーを見送るしかなかった。
FBLビルディングを出ていくスケアリーも警備員と同様に「おかしいですわ」と思っていた。そして、予想どおり私を睨んだ。
「ちょいと、作者様!さっきから作者の都合でとか言っていますけれど、いったいあたくしに何をしたんですの?あたくしを変なふうに扱ったりしたら承知しませんわよ!」
そんなことを言われてもこうしないと話が続かないのでしかたがないのです。
FBLを後にしたスケアリーは知り合いの医師に連絡して、その医師のいる病院へと向かった。スケアリーは無免許だが、その医師はちゃんとした医師である。
医師とスケアリーは二人でレントゲン写真を眺めていた。それはスケアリーの首の周辺を写したものだった。そのレントゲン写真を見るとスケアリーの背中の首の付け根のあたりに小さな異物があるのがハッキリと写っていた。
「おかしいですわ。どうしてこんなものがあたくしの体内に入り込んだのかしら?」
「おそらく、仕事中でしょう。流れ弾とか、破裂した何かの金属片が刺さったのに気付かなかったんですよ」
医師からそう言われても、スケアリーには思い当たることがなかった。金属片が首の付け根に刺さって怪我をしても気付かないような緊張感のある銃撃戦などはこれまで一度もなかったのだから。
「気になるようなら、局部麻酔ですぐに取り出せますけど、どうしますか?」
いつどこで入ったのか解らない何かの破片が気にならないわけはないので、スケアリーはそれをとりだしてもらうことにした。
金属片は皮膚からそう深くないところにあったので、メスで小さな切り込みを入れるとすぐに取り出すことが出来た。医師の任務なのか、好奇心からなのか知らないが、医師は取り出した金属片を顕微鏡にのせて、レンズを覗き込んだ。
「うわぁ!スーパーカーだ!」
医師は何かに盛り上がって大きな声をあげたが、スケアリーには何のことだか解らなかった。
「これは、流れ弾なんかじゃありませんよ!これはきっと、凄く小さなグリコのオマケだ!」
それを聞いたスケアリーは全身から血の気が引いていくのを感じた。金属製の謎のグリコのオマケとは彼女がモオルダアのパートナーとして捜査を始めたばかりの頃の事件で、怪死した牛の体内に埋め込まれていた物でもあったのだ。モオルダアの説によれば、その牛はエイリアンに誘拐されて実験台にされたということだった。ただし、事実を確認するまでは不安になっているワケにはいかない。
「それはどういうことですの?」
そう言いながら、スケアリーは顕微鏡のところへ行ってレンズを覗いてみた。するとそこにはもの凄く小さいが、どう考えてもスポーツカーにしか見えない金属片が見えた。
「これは…、グリコのオマケみたいですわね」
そうは言ったものの、まだこの件に関して結論を出したくなかったスケアリーはその金属片を持ち帰ることにした。
9.
どうして自分の首の付け根から小さな金属製のスポーツカーが出てきたのか不思議で仕方なかったスケアリーだったが、エフ・ビー・エルに行って調べることも出来ず、どうしていいのか解らないまま、また実家へと戻ってきた。これまでに起こった様々なことで考えがまとまらずに、彼女の高級アパートメントの寝室にモオルダアのゲロが放置されていることも忘れてしまっているようだ。それに、実家に戻れば一人で寂しいということもない。実家にはスケアリーの姉もいて、アパートの一室で独り言を言うよりは彼女に話すことによって今彼女が抱えている問題や不安を解消できるような気もするのである。
スケアリーの姉はシーズン2で一度登場したのだが、スケアリーと話し方が同じという以外に特にどういう人物なのか解らなかったので、説明しておくことにする。
スケアリーの姉はスケアリーと違い、いわゆるスピリチュアルな世界が大好きなのである。血液型占いから霊魂の世界まで、こういった科学的でない話をするたびにスケアリーとは口論になるのだが、それでもこの姉妹はお互いを軽蔑するわけでもなく、姉妹としてそれ相応の信頼関係とか尊敬の念とかを持っていた。スケアリーがモオルダアの滅茶苦茶な理論に付き合っていられるのも、こういう姉の考え方を知っているからかも知れない。
そんな二人がスケアリーの体内から取り出した金属片について話しても、お互いの主張は平行線を辿るしかないのだが、それでも、何もしないよりは退屈しのぎになるので二人は金属片について話していた。
「いいですこと?エイリアンに誘拐された人がこういう物を体に埋め込まれるとか、そう言う話はナシですからね!」
「そうかも知れませんが、何もそれはエイリアンによる誘拐だけで片付けられる話ではないですわよ。何もないところから物質を生じさせる力を持った聖人は世界にたくさんいますわ!」
「そんなものは全部トリックですのよ!あたくしが知りたいのは、いつどうやってこの金属片があたくしの体内に入ったのか?と言うことなんですのよ!」
「それを知りたかったら、あなたの覚えている記憶だけを頼りにするのは間違いですわ!」
「それはどういうことですの?もしかして、あたくしに『催眠術によって、失われた記憶を甦らせるアレ』をさせようとか思っているんじゃないでしょうね?」
「そういうことではありませんわ!あたくしは実際に書かれなかったエピソードの中に何かがあると思うんですのよ」
スケアリーの姉が何か変な事を言いだしたのだが、私は「催眠術によって、失われた記憶を甦らせるアレ」について書くのが面倒だと思っていたので、それはそれで一安心である。
「書かれなかったエピソードって何なんですの?」
「あなたは毎日のようにエフ・ビー・エルに出かけて仕事をしていらしたでしょ?それなのに、実際に書かれるのはその中の数日分しかありませんわね?ですから、もしかするとその書かれなかった話の中で激しい銃撃戦を体験していたり、危険な目にあったり、もしかすると…」
「もしかすると何なんですの?」
「それはどうでもいいですわ。その銃撃戦の緊張感で何か小さな破片があなたの首の後ろに刺さっても気がつかなかったとか、そういう…」
「そうではなくて、もしかするとあたくしがいつの間にかエイリアンに誘拐されたとおっしゃりたいのでしょう?良いですこと?エイリアンなんて存在しないんですから、そんないい加減なことを言うのはよしてくださらないかしら、ってさっきも言いましたでしょう?」
「でも、あなたの記憶に無いその金属片に関する納得のいく説明を求めるのでしたら、あなたの理解を超えたものの存在を考えないと上手く説明できませんわ!」
スケアリーには反論の余地がまだまだあったのだが、手元にある金属片を見るとなぜか反論しようという意志が萎えていくのを感じていた。
「科学的な説明はつくはずですのよ…」
それは姉に言うというよりも、スケアリーが自分自身に言ったようにも感じられた。
結局、実家にいても嫌な気分になるだけのような気がしてきたスケアリーは自分の高級アパートメントに帰ることにした。モオルダアのことやら、停職になったことやら、謎の金属片のことやら、彼女は自分の部屋にモオルダアの吐いたゲロがそのままになっていることはすっかり忘れている。一度に解決できない様々な問題を一度に解決しようと、頭の中を大いに混乱させながら車を運転して高級アパートメントの前まで来ると、駐車場に車を入れるために一度車を路上に停止させた。そして、バックミラーで後方を確認した時、彼女の頭の中の混乱はいったん治まって、新たな謎について考えなければならなくなった。スケアリーはスキヤナーが高級アパートメントの出入り口から出てくるのを発見したのだ。スキヤナーはスケアリーには気付かずにそのまま路駐していた自分の車に乗り込んで去っていった。
「何かしら?」とスケアリーはつぶやいてしばらく考えていた。彼女がエフ・ビー・エルに行った時にスキヤナーはメモリーカードをスケアリーが持っているのではないか、と聞いてきた。「もしかすると、あたくしの部屋までアレを探しにきたんじゃありませんこと?」と思ったスケアリーは何だか気味が悪いと思って、自分の部屋には帰らずにまた実家へ向かうことにした。
実家に戻ると、スキヤナーのことが気になるスケアリーは電話で先ほどの件について確認してみることにした。スキヤナーのオフィスに電話がつながるとスケアリーは多少いらついたような声でスキヤナーに確認した。
「ちょいと、あたくしに何か用ですの?」
「何のことかな?」
スキヤナーはとぼけた感じで聞き返してきた。これを聞いてスケアリーはさらに不信感を抱いた。
「あたくし、先ほどあなたがあたくしのアパートメントから出てくるところを見たんですのよ。あたくしに何か用があったんじゃありません?」
「なんのことだかわからんが、キミは電話番号を間違えてるんじゃないのかな。もう一度番号を確認してかけ直すんだな」
スキヤナーがそう言うとガチャリと受話器を置く音がして電話がきれた。スケアリーはしばらく呆然としていたが「何なんですの?」とつぶやくと、やっと受話器を耳から離した。そして受話器を置くともう一度「何なんですの?」と力無くつぶやいて、また頭の中を混乱させていた。