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#038 「Black-holic Special ---Peke Santa---(後編)」 2004-12-18 (Sat)

後半は更に長いため9ページにわけました。付き合いきれんわ!


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 部屋では相変わらず芯の折れた鉛筆で何かを書いている音がしていました。鉛筆を握る力はだんだん強くなっているようで、もう何も書かれていない原稿用紙はビリビリに破けていました。それでもガリガリという音が絶え間なく続いています。原稿用紙がおかれていた木製の机は鉛筆で引っかかれたために塗装が剥げて、所々生の木がむき出しになっていました。

 その時、絶え間なく動いていた彼の手が急に動かなくなりました。それでもまだ書き続けようと鉛筆を握る手に力を入れたようで、その手は小刻みに震えていました。そしてとうとう握る力に耐えられなくなった鉛筆は乾いた音を立てて二つに折れてしまいました。

「誰だ!私の邪魔をするのは!」

彼は顔を上げて誰もいない部屋で叫びました。そこにいたのはマイクロ・ムスタファではありませんでした。マイクロ・ムスタファの面影は残ってはいたのですが、その顔を見てマイクロ・ムスタファだと言える人は誰もいないでしょう。色白だった彼の顔は固まった血のような赤黒い色をしていました。頬の肉は何日も遭難していた登山者のようにほとんどなくなって、骨と皮だけのようです。それでも目だけはギラギラと輝いていました。この顔に角が生えたら、誰でもこれを悪魔と呼ぶに違いありません。

「誰も私の邪魔をすることは出来ないのだ!」

その悪魔がそう叫ぶと、締め切った部屋に突風が吹きました。部屋中に散らかっていた原稿用紙が舞い上がってその悪魔の頭上を舞っています。すると次の瞬間ぴたっと風が止み机の上には新品の原稿用紙が置かれていました。悪魔の手には新しい鉛筆が握られています。その鉛筆で悪魔はまた一心に何かを書き始めました。

事件現場付近の住宅街


 先程からスケアリーの運転する車がこの住宅街を行ったり来たりしている。どうやらスケアリーはちゃんと殺人鬼を捜しているようでした。時折、家の周りにクリスマス用のイルミネーションをつけている所があると、スケアリーはクリスマスに自分を捜査にかりだしたモオルダアに対する怒りを抑えるのに苦労していた。それでも、先程の事件現場の様子を思えば、それはなんとか押さえることが出来た。あそこにいた被害者達はもっとひどい目に遭っていたのだから。

 スケアリーは事件現場のことを思い出して、あそこで何が起きたのか考え始めた。あのサンタの恰好をした男が言っていたようなことが本当に起きたのでしょうか?一人の人間があれだけのことをすることはまず不可能である。しかし、それをやったのが人の想像を超えたものだとしたら?そんなものは彼女一人で捕まえることが出来るのだろうか?いや、それはあり得ないことだ。スケアリーはサンタ男やモオルダアの言っていたことを頭の中から消そうと必死になっていた。「だって、あたくしは科学者ですから」

 スケアリーの車は薄暗い住宅街の中でも特に人気のない所にやって来た。ここで彼女は車の速度を更に落として辺りを注意しながら慎重に進んでいった。この辺なら犯人が一時的に身を隠すのにはちょうどいい。

 スケアリーはふと時計に目をやった。時刻はもう零時を過ぎていた。それを見て彼女は車を止めた。「はあ、クリスマスイブが終わってしまいましたわ・・・」スケアリーはつまらなそうに時計を眺めていた。その時、彼女は車のライトが照らす暗い道の先を誰かが横切ったように感じて、あわててそちらに注意を向けた。道の先は十字路になっているようだ。スケアリーがそこへ向かって再び車を走らせようとした時、彼女は女性の叫び声を聞いたように感じた。

 スケアリーは慌てて車のエンジンを止めて、窓を開けて耳を澄ましてみた。何も聞こえてこない。しかし、このまま何もせずにいるわけにもいかない。もしかするとこの先の十字路を曲がった先ではまた先程の公園のように恐ろしい事件が起きているかも知れないのだ。スケアリーは銃を取り出すと、静かに車のドアを開けた。

 彼女がおそるおそる車から降りようとしている時、彼女の携帯が鳴った。さすがのスケアリーもこの電話の音には驚いたようだ。彼女はビクッと体を震わせてから電話に出た。電話をかけてきたのはモオルダアだった。

「ちょいとモオルダア。いったい何なんですの?今、ちょうど話が盛り上がってきた所なんですのよ。邪魔するのはやめてくださらない?」

盛り上がってきた、とか言われても何のことだか解らない。モオルダアはなんだか気まずそうに話し始めました。

「ああ、それはすまなかったねえ。それより、キミ今どこにいるんだ?」

「あたくしは、ちゃんと犯人を探して付近の住宅街を捜索中ですのよ」

「そうなのか。それなら、キミ。気をつけた方がいいよ。犯人はきっとその辺にいるはずなんだ。さっきサンタのおじさんから聞いたんだけどね、サンタのおじさんはLittle Mustaphaを知っていたんだよ」

「知っていたって、それはどういうことなんですの?」

「ボクが例の手紙を見せて、何か知っていることはないか?と聞いたら、なんとサンタさんは二年前にLittle Mustaphaから偽名で手紙を受け取っていたことが解ったんだよ。その時サンタさんは実際にLittle Mustapha、その時には妄蔵と名乗っていたらしいけど、その家に行ったらしいんだ。そこでサンタさんは数人の男達に囲まれて危険な目にあったらしいんだよ」

「それはいったいどういうことですの?犯人はLittle Mustaphaだと言うんですの?」

「いやいや、そうじゃなくてね。それよりLittle Mustaphaの家っていうのは多分、今キミがいる場所の近くだと思うんだよ。公園の殺人鬼もLittle Mustaphaを探していたんだから、彼もきっとその辺にいるはずなんだ。殺人鬼は会う人みんなにLittle Mustaphaの場所を聞いてたみたいだからね。一人ぐらい知ってる人がいて教えたかも知れないよ。今ボクはそっちに向かってるんだけど、犯人はとっても恐ろしいヤツだからね、ボクが行くまでキミは一人でヤツを捕まえようなんてしちゃダメだぞ」

「あなたが来たって何の役にも立たないんじゃないんですの?それにあたくし、ついさっき怪しい人影を見つけたんですのよ。これから、ちょっと調べてきますから。あなたも来るんなら、早く来てくださいませ」

スケアリーは電話を切ると、車を降りて前方の十字路へ向かった。

 スケアリーが十字路を曲がるとその先には男女が倒れていた。近づいてみると二人は確認するまでもなく、すでに息絶えているようだった。男のほうはうつぶせに倒れていたのだが顔は上を向いている。殺人鬼に首をねじられたのだろう。頭が後ろ前を反対にしてついているかのようだった。それから、男の腕がなくなっていた、その腕は隣に倒れている女性のほうの胸に突き刺さっていた。またホラーじみていますわ。スケアリーはそう思いながら二人の遺体のそばにしゃがんで、状況を詳しく調べようとした。その背後から人影が近づいていることにはまだ気付いていないらしい。


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