「SWINDLE」

4.

 ドドメキは取引場所の近くまで車を走らせると、車を止めドアを開けた。そしてスケアリーの方を振り返って言った。

「それじゃあ、これからはキミにまかせたよ?」

スケアリーは意外な展開に驚いて、逃げ出すように車から降りようとしているドドメキを危うくそのまま見送ってしまうところだったが、なんとかドドメキ呼び止めることが出来た。

「ちょいと、待ってくださいまし!なんでいきなり逃げ出そうとするんですの?」

一刻も早くこの場を立ち去りたい感じのドドメキではあったが、スケアリーに聞かれるといつものように落ち着いた感じでゆっくりと振り返った。

「キミなら解るだろう?これだけ彼らの秘密を知っている私が彼らの前にキミと一緒に姿を現せばどうなるか。私だってねえサイレンサー付きの銃で地味に暗殺されるのは嫌なんだよ。そこの角を曲がればそこが取引場所だ。あとはキミがなんとかしてくれ」

それだけ言うと、ドドメキは小走りに路地を曲がってスケアリーの視界から姿を消した。納得はしないまでも、ドドメキの言うことの半分ぐらいは理解出来たスケアリーは運転席に移ると静かに車を走らせ、ドドメキに言われた取引場所へと移動した。


 角を曲がるとすぐに怪しいワンボックスがスケアリーの目に入ってきた。そのワンボックスの数十メートル手前でスケアリーは車を止めた。昼間といってもこの寂しい倉庫街には彼ら以外の人影は見あたらなかった。スケアリーは助手席に置いてある鞄の中から注射器を取り出した。中には彼女が用意した普通の麻酔薬が入っている。

 スケアリーが車のドアを開けると、そのすぐあとに前方のワンボックスのドアも開いた。そのワンボックスから出てきた男がスケアリーに向かって言った。

「例の物は持ってきたな?」

スケアリーは持っていた注射器を持った手を上げてその男に見せた。それを見た男が言った。

「それでは十歩進んで、それを地面に置いたら元の場所まで戻るんだ」

黙って聞いていたスケアリーは目を細めて相手を睨みつけた。

「モオルダアを解放するのが先ですわ。モルダアの無事を確認するまで、この注射器は渡しませんわ!」

男はワンボックスの方を向いて何かを言っていたが、しばらくすると顔に布を被せられて両手を縛られた男がワンボックスの中から転げ落ちてきた。その男は意識があるのかないのかほとんど解らない状態でグッタリとしていた。

 それを見たスケアリーが言った。

「よろしいですわ。それじゃああなたが十歩進んでモオルダアを放しなさい。そうしたら、あたくしがそこにモオルダアと引き替えにこの注射器を置いていきますから。その方が賢明だと思いません?そのグッタリしたモオルダアを引きずっていくにはそうとう手間がかかりますでしょ。だからあたくしが変なまねをすることも出来ませんわ。あたくしがそのグッタリしたモオルダアを車の中に押し込んだあとにその注射器をあなたが拾えばいいんですのよ」

言われた男は横のワンボックスの中を見て誰かの指示をあおいでいる感じだった。多分、ウィスキー男にどうすればいいか聞いているのだろう。男は車の中を見ながら頷くと、倒れていた男を抱えてスケアリーの方へ向かってきた。そしてちょうど両者の中間地点まで来ると頭に布を被された男を放して元の位置まで戻った。それから男は銃を取り出すとスケアリーの方へ向けた。「おかしなまねをしたら容赦なく撃つからな」そんな感じでスケアリーのことを見据えている。

 スケアリーは前方で彼女に銃を向けている男と睨み合いながらゆっくりとモルダアの方へ歩いていった。グッタリと倒れているモオルダアのすぐそばまで来ると、男によく見えるように持っていた麻酔薬を地面に置いた。それからモオルダアを抱え上げようと彼の腕をつかんだ。

 その時、彼女は驚いて思わずつかんだ腕を放してしまいそうになった。彼女がつかんだモオルダアの腕は驚くほど骨張っていた。モオルダアは太っていたわけではなかったが、多少の筋肉と平均的な脂肪の付いた体型をしていたはずである。彼のすっかりやせ細った腕をつかんだ時に、スケアリーはドドメキの話していた拷問のことを思い出した。モオルダアは犯人達が拷問に使った自白剤のような物のせいでこんなにげっそりしてしまったのかしら?いくら変態モオルダアとはいえ、こんな風にされてしまってはあまりに可愛そうですわ。スケアリーは意識があるのかどうか解らないモオルダアに向かって話しかけた。

「モオルダア。もう大丈夫ですわよ。あたくしが助けてあげますから。そうしたらあなたは家に帰っていくらでもエロ本が見れるし、もっと元気になったら女風呂を覗いたっていいんですからね。ですから、今は絶対に死んではいけませんのよ」

スケアリーは自分の乗ってきた車の方へモオルダアを引きずって行った。いくら痩せたとはいえ、女一人でグッタリしている人間を動かすのには大変な労力を使う。ほんの十メートルほどの距離をゆっくりと移動していく。

 スケアリーに銃を向けていた男は、そのままゆっくりと二人の方へと向かってきた。モオルダアを引きずっていたスケアリーはそれを見て最悪の事態を考えた。「もしかすると、このまま二人とも殺されてしまうんじゃないかしら。だって、モオルダアを拷問してこんなにゲッソリさせてしまうような悪人達ですから、ここであたくし達を殺すことだって簡単にやってしまうんじゃないかしら」

 スケアリーは銃を向けたまま近寄ってくる男を見ながら必死に自分の乗ってきた車の方へモオルダアを引きずっていたが、なかなか車のところにはたどり着けない。そうしている間に男はスケアリーの置いた麻酔薬のところまで来ると、それを拾って中身を確認した。このあと男は用済みになった二人に向かって発砲するのか、それともそのまま去っていくのか。スケアリーは、ほとんどまばたきもせずに男の様子を見守っていた。

 男は麻酔薬を確認すると、ワンボックスの方へ走っていった。彼が乗車してドアが閉まると、ワンボックスは急発進してスケアリーの視界から消えていった。