「503」

21. F.B.L.ビルディング

 モオルダアとスケアリーはその後どうなったのか、ということだが特殊部隊のような人達の車から特殊な飛行機に乗せられ、その飛行機で東京まで連れてこられるとそのまま釈放されたという事らしい。結局、いつものように何もなかったことになって事件はウヤムヤにされていくようだった。

 モオルダアはペケファイル課の部屋に一人、今回の事件を頭の中で整理しようとしていた。するとそこへスキヤナー副長官が入って来た。

「おい、モオルダア!何をやっているんだ」

「何って、別に。…それよりも、もうダイジョブなんですか?」

「んっ?!まあな、だいぶ良くなった」

スキヤナー副長官はそう言ってから「しまった!」と思っていた。「誰かに内臓を魔改造された気分だよ」という上手い表現を今度こそ言えるチャンスだっただが。だいたいモオルダアがそんなことを聞くとは思っていなかったのだが、モオルダアは不意にまともな人間らしい事を言うようだ。

「そうですか、それは良かった。でもどうしてスケアリーのお姉さんの事件を調べてたりしてたんですか?あなたは上からの圧力にはちょっと弱いのかと思っていましたが」

「何を言っているんだね。板挟みの役職とは関係なく、私はやるべき事をやっていただけだよ」

そうは言ったが、実はあまりやることがなくてヒマだったから、まだ解決していない事件を調べていたということなのだが。しかし、それによって例のメモリーカードやそれにまつわる陰謀らしきものに関係している人間を一人逮捕できたのだ。しかも、その犯人は身の危険を感じると取り引きを持ちかけてくるような器の小さい男でもあった。それによってモオルダアとスケアリーがだらだらと時間をかけて追いかけている大きな謎に関して何かが進展するとも思われた。

「とにかく副長官の大活躍、ということですかね。…それよりも何でここに来たんですか?まあ、だいたい解りますがヒマだったから、という事ですよね」

モオルダアはいつも特に用事もないのにやって来るスキヤナーがヒマだということをだいたい解っていた。しかし、スキヤナーは今回はそうでもないという感じで真面目な表情で話し始めた。

「いや、今回はそうでもないんだがね。あの犯人に関してだけど…」

モオルダアは明らかに悪い知らせを話し始めようとするスキヤナーを見て表情を曇らせていった。

22. 警察署

 スケアリーは警察署の前で誰かを待っていた。彼女の待っているのは姉のダネエである。無許可で銃を所持していたということで現行犯逮捕されてしまったのだが、その辺はスケアリーやF.B.L.の理解ある誰かが上手いこと取りはからって起訴はされないことになったようだ。今は警察署で必要な手続きをしてこれから帰るということだろう。

 スケアリーはいったい今回の事件は何だったのだろうか?と考えていた。自分の体から取り出された金属片の事や、姉のひき逃げ事件を追っていたスキヤナーが襲われたり。そういうところを考えると、自分が大きな陰謀の渦の中に巻き込まれていくような不安な気持ちになるのだった。お得意の「科学的に解明」という事では済まされないような、つかみ所がなく曖昧で、それでいて完璧に計算された巨大な犯罪とでも言うのか、そんなところに恐怖を感じずにはいられなかった。

 そんなふうに深刻な感じで考えているスケアリーを見付けてモオルダアが近づいて来た。彼はスケアリーの表情を見たとたんに「これはマズいなあ」と思っていたのだが、スキヤナーからいつもの「面倒な知らせをスケアリーに伝える役」をやらされることになってしまったので仕方がない。こういうことは時間が経ってからだとさらに良くない感じになるのだし。

「スケアリー…」

モオルダアがなるべく彼女を刺激しないようなソフトな声で話しかけたが、そういうことを意識している時には上手くいかないものである。ヘンタイっぽいイヤラシイ声を出してしまったモオルダアはまたスケアリーに睨まれるのだと思ってウンザリしていたが、そうでもなかった。

「あら、モオルダア。何ですの?」

「いや、あの…。お姉さん大変だったね」

予期せぬ答えにモオルダアも調子が狂ってどうでも良いことを返してしまった。

「そうですわね。でもダネエは言っていましたわよ。全てには意味があるって。自分がひき逃げにあっても生きていたことや、それによって自分がスキヤナー副長官の警護が出来て犯人を捕まえる事が来たということ。その前にスキヤナー副長官が襲われるという悪いこともありましたけれど、そんなことを含めて全てが意味を持ってあたくし達をどこかへ導いているんだって。ダネエらしいと思いませんこと?」

モオルダアはスケアリーがいつもは否定するような話を自分からしていることを不思議に思っていた。それからさっきの険しい表情はただ彼女がイラついているだけではなかったのだと思い、少し気になっていた。そうはいっても、モオルダアは良くない知らせを彼女に伝えないといけない。

「あの、これがどういう意味を持っているのか解らないけど…、ちょっと悪い知らせがあるんだけどね」

「何ですの?」

スケアリーはまだ落ち着いた感じだった。それがモオルダアにとっては逆にすごく恐ろしい感じもしたのだが、モオルダアは先を続けた。

「あのルイス・カジナリを名乗っていた男だけど、拘置所で遺体で発見されたらしいんだ。スキヤナー副長官の話だと自殺に見せかけてるけど、恐らく殺されたんだろう、って。口封じだね」

それを聞いたスケアリーはしばらく黙ってしまった。そこには姉のダネエが言うような何かの意味があるのだろうか?多分、そこには何もない。しかし、あることに気付いたという意味では何かがあったのかも知れない。そこには自分が戦うべき何か大きな相手がいるという事に。そう思ってスケアリーは少し厳しい目つきで顔を上げるとモオルダアを見た。モオルダアはちょっと焦ったようにしていたのだが、そんな事は気にしていても仕方がないのでスケアリーは気付かなかったことにしたが。

「それで、クライチ君はどうなったんですの?」

「絶対にあそこにいたはずだけどね」

一度呼吸を整えてからモオルダアが続けた。

「まあ、あのルイス・カジナリという人が殺されたとなるとクライチ君もそのうち消されるという運命かも知れないけどね」

スケアリーにとってクライチ君がどうなろうと関係のないことでもあったが、彼の持っていたメモリーカードにはあの金属片に関する情報があったのかも知れないとか、放射性廃棄物の処理施設に何があったのかとか、そういうことが解っていたかも知れないと思うと、彼女の中に何かが沸き上がってくる感じがしていた。

「きっとそうですわね。誰が生きて誰が死ぬか。運命は変えることが出来るかも知れませんが結局はやり直すことは出来ないのですし、変えたと思ってもそれが運命ですものね。本当に全ての物事には意味があるのかも知れませんわ。でもあたくし達が真実を知るまでは間違った選択は出来ないということでもありますわ」

スケアリーが言うのを聞いたモオルダアは、なんだかすごい話を聞いたような気もしたのだが、話が大きすぎてよく意味が解ってない感じだったので、なんとなく頷いただけだった。