「503」

9. F.B.L.ビルディング:ペケファイル課の部屋

 F.B.L.ビルディングの地下にあるペケファイル課の部屋に入ると、明らかにいつもとは様子が違っていた。モオルダア達がパイパイ丸で見付けた深海で作業するための潜水服が部屋に置いてあったのだ。

「これは一体、何なんですの?」

「すごいでしょ。証拠物件として押収したんだけどね」

「そうですの。でも、何の証拠なんですの?」

「これにはオイルが付いていたんだよね。それと同じような物がパイパイ丸の乗組員であったゴルチエにも付いていたし。それから、彼の奥さんからも同じ物がね。ボクがいた石川町駅のトイレで彼女が倒れているところを見付けられたんだけど、どうにも怪しいよね」

「はあ…」

「このオイルは戦時中に使用されていた物なんだ。戦闘機とかね。だから海底に沈んでいる爆撃機にも同じオイルが使われていたはずだよね」

「そうなんですの?そういうことでしたら、あたくしよりもダナアに聞いた方が。あの方、父や兄の影響でけっこう戦闘機とかそういうところに詳しいんですのよ」

「まあ、そうなんだけどね」

誰が誰と話しているのかワケが解らない感じだったが、ここでようやく誰がここにいるのか明らかになってきた。モオルダアは押収した潜水服についての説明をしたかったのだが、スケアリーはどこかに行ってしまったし、一人で喋るのも寂しすぎるということで、なぜかスケアリーの姉のダネエ・スケアリーをここに呼んだようだ。

「それで、そのオイルがなんだというんですの?」

「これは少し特殊な物なんだ。つまり、始めゴルチエという船員についていた物が次はその妻についていた」

「どうしてそうなるのかしら?」

「ボクの考えでは、これは媒体なんだよね。つまり、何かの生き物がこのオイルの中に潜んでいて、オイルと共に人間に乗り移るんだ。その…、なんていうか、エイリアンみたいな生き物だと思うけどね。これを使って人間の中に入り込んでその人間を支配するとか…」

ここでスケアリーの姉は思わず吹き出しそうになって口に手を当てた。スケアリーならもっと前に反論を始めるか、この辺でイラつき始めるところだが、姉は妹よりも数倍穏やかな性格で、オカルト的な話にも興味があるのでただ上品に口に手を当てて目で笑っただけだった。

「あの、あたくしはあなたのことを否定したりするつもりはないのでございますけれど、でも、エイリアンとかUFOとか、そういう物はあたくし信じていませんのよ。オホホホホ」

オカルトな話もいけるスケアリーの姉ならもう少し盛り上がると思ったモオルダアは少しガッカリしていたが、もう少し先を続けないと、このオイルに関する説明が終わらない。

「これが何であっても、海底には何かがいて、それを見付けたゴルチエに乗り移ったんだ。恐らく戦時中にそこに戦闘機が墜落してからずっと海底で誰かが来るのを待ってたんだ。それはゴルチエからその妻に移って、そして今はクライチ君の中にいると思うんだよ」

「クライチ君さんって誰ですの?」

「ああ…。えーと、それはスケアリーに聞いたら解ると思うけど」

「そうなんですの。なんだか、あまりお役に立てなくて、申し訳ありませんでしたわね。それでは、この話をダナアに伝えれば良いんですのね」

「ええ、まあ。そういうことです」

なんとなく説明が終わったのでスケアリーの姉は部屋を出ていこうと扉のところまで歩いていった。

「あなたがダナアが言っているほど変な人でなくて安心しましたわ。ウフッ…。アデュー!」

出ていく時にそんなことをスケアリーの姉が言っていたのだが、一体スケアリーは自分のことをどういうふうに家族に話してるんだ?と思ってモオルダアはちょっとウンザリした感じになった。

10. コインロッカー

 しばらくペケファイル課の部屋でダラッとした感じになってしまったモオルダアは、これではいけないと思い、ひとまずローンガマン(詳しくはCAST参照)のアジトへ向かうことにした。いろんな要素が絡み合ってワケの解らない今回の捜査であったが、今やるべきことはなんとなく解っている。そして、それはなるべくなら非公式な感じでやるべきだとも思っていたようだ。

 モオルダアがローンガマンのアジトに行き、昨晩クライチ君から押収したコインロッカーの鍵をヌリカベ君達に見せた。モオルダアが昨晩クライチ君と一緒に歩いて向かっていたいた方角や、コインロッカーというキーワードなどから彼らはすぐに、とあるアイススケートリンクの名前を思いついたようだ。

 モオルダアはどうしてそんなすぐに彼らがロッカーの場所を見付けられたのか?と驚いていたのだが、ローンガマンのメンバーは滅多にしない運動の場として、そのスケートリンクをよく利用しているということだった。

 そんなことなので、さっそく彼らはそのスケートリンクに向かって、ローンガマンのメンバーがへっぴり腰でアイススケートを披露して利用客を装いながら、遠回しな感じで問題のロッカーの鍵を開けて、名刺サイズほどのケースが入っていると思われる封筒を取り出した。そんな風にする必要があるのか?という感じもするが、もしもそのロッカーに入っているのが例のメモリーカードであったとすると、それはある人にとっては巨万の富を生み出す情報が満載であるのだし、ある組織にとってはどんな手段を使ってでも取り戻したい物でもあるのだから、曲がりなりにも関係者の一人であるモオルダアがフラッとやって来てロッカーを開けるというようなことは好ましくないのである。


 ローンガマンのメンバーはアイススケートリンクの外に停車している車のところにやって来た。中にはモオルダアがいて彼らの戻ってくるのを待っていた。(前回の話とのつながりで一応書いておくと、この車はモオルダアの車でも、F.B.L.の車でもない。ローンガマンのフロシキ君が実家から借りてきた車である。)

 モオルダアは渡された封筒を開けて中身を取り出した。ローンガマンのメンバー達は中に重要な、というよりも世界の歴史が塗り替えられるような情報が満載の何かが入っているのだと思って、封筒から何が出てくるのか見守っていたのだが、封筒から出てきたのは何も入っていない半透明の小さなケースだった。半透明なので中が空なのは良く解った。

「空っぽだね」

モオルダアは「見てのとおりだ」という感じでローンガマンのメンバー達に言った。言われた方は「空っぽだな」という感じでモオルダアを見ていただけだった。