Little Mustaphaとサンタ君に何が起きたのか解らないまま時間は進み、夜は更けていきます。
サンタ君-----なんか心配になってきたんですけど。ボクらってホントに死んでないですよね?
Little Mustapha-----そんなふうに改めて聞かれるとボクも心配になってしまうけどね。でもこれまでの経験上、死んでたらいつまでもこんなところにはいられないってことだし。そのうち閻魔大王のところにいって色々と手続きがあるはずなんだけど。
サンタ君-----その時間がまだ来てないってことだとすると?
Little Mustapha-----うーん…。なんていうか、サンタのくせに心配性だなあ。でも死んでたら死んでたでどうにもならないしなあ。
サンタ君-----そうじゃなくて、生きてるんだったら、どうにかして元の世界に戻らないと。ボクはサンタなんですから。
Little Mustapha-----ああ、そういうことか。でも、一つ気になるのは、そのテレビの中で映っていた人間界のテレビでも変なクリスマス展がやってたよね。地獄の女子アナが紹介していたのとほとんど同じだったけど、場所は明らかに別の場所だったし。
サンタ君-----そうでした。あんなクリスマス展はサンタに対する冒涜ですよ。あんなものがやっているんじゃ余計心配になってきます。なんとしてもボクは人間界に戻らないと。
Little Mustapha-----そうは言っても、そこにある扉からいきなり外に出る、っていうのはなんとなく危険な気がするけど。
サンタ君-----それは解ります。何もない部屋にテレビと扉だけ。どっちもタダそこにあるだけ、ってワケじゃなさそうですしね。
Little Mustapha-----そう。そして、この二つは何か重大な事に関する比喩的な表現に他ならない!…ってことで、まずはテレビで情報収集だな。
サンタ君-----なんでそうなるんですか?
Little Mustapha-----テレビが暗に示しているものが理解出来れば、この扉が何を象徴しているものなのか、自ずと理解出来るのではなかろうか?
サンタ君-----なんか難しそうに話しますね。とにかくテレビを見れば良いんですかね。
Little Mustapha-----多分そうだよ。
テレビといっても映っているのはLittle Mustaphaの部屋です。
(部屋の外から)-----早く開けるんだワン!寒くて風邪ひいちゃうんだワン!
ミドル・ムスタファ-----やっぱり犬サンタ君でしたね。
ニヒル・ムスタファ-----最近は犬サンタじゃなくて、色々と違う職業になってるけどな。
ミドル・ムスタファ-----今開けますよ。
犬サンタ-----ああ、寒かったんだワン。
ミドル・ムスタファ-----やあ、犬サンタ君。
犬サンタ-----今年は犬サンタじゃないんだワン。探偵の金田犬耕助なんだワン。
Dr. ムスタファ-----キンダイヌ?
ニヒル・ムスタファ-----今回はちょっとパターンを変えてきたな。
犬サンタ-----でも紛らわしいから犬サンタでも良いんだワン。
ミドル・ムスタファ-----そうですね。なんかキンダイヌだとマイクロ・ムスタファがちょっと納得いかない感じですからね。
犬サンタ-----なんでかワン?
ニヒル・ムスタファ-----マイクロ・ムスタファはいつも密かに名探偵役を狙ってるからな。
マイクロ・ムスタファ-----そんなことはありませんよ。私はいつでも私です。
犬サンタ-----良く解んないんだワン。
モオルダア-----やや!犬がいる。どこから入ってきたんだ?
ミドル・ムスタファ-----ベランダからですよ。この家は玄関からよりベランダから来る客の方が多かったりしますからね。
犬サンタ-----探偵の金田犬耕助だワン!
モオルダア-----探偵?探偵がここになんの用だ。
犬サンタ-----ある人に頼まれて捜査してるんだワン。
ミドル・ムスタファ-----ホントですか?
犬サンタ-----今のはウソだワン。
Dr. ムスタファ-----なんだ、適当な。
モオルダア-----そんな事よりも、玄関から戻ってくる時にこんなものを見付けたんだけどね。
ミドル・ムスタファ-----なんですか、それは?
ニヒル・ムスタファ-----パーティー用のクラッカーじゃないか?
ミドル・ムスタファ-----もしかしてLittle Mustaphaはそんなに盛大に盛り上がるつもりだったんですかね。
Dr. ムスタファ-----まあ、プレゼントを貰って、乾杯して、パーン!ってクラッカーがはじける。素晴らしい光景だとは思うがね。
ニヒル・ムスタファ-----じゃあ、せっかくだから、クラッカーも使って盛大に乾杯し直すか。
犬サンタ-----ちょっと待つんだワン。そのパーンって音、恐いから誰か耳を塞いでて欲しいんだワン。
ミドル・ムスタファ-----なんか、いちいちカワイイですね。
ニヒル・ムスタファ-----じゃあ、しょうがない。オレが耳を塞いでるから、オレの分のクラッカーは先生が鳴らしてくれよ。
Dr. ムスタファ-----それじゃあ、私の分が鳴らせないぞ。
ミドル・ムスタファ-----二個ぐらい一緒に鳴らしましょうよ。それじゃあ、コップにそれぞれ酒を入れたら、せーの…!
一同-----メリークリスマ〜ス!
[パーン!]
Little Mustapha-----あれ?!チャンネルが変わった。
サンタ君-----ホントですね。
Little Mustapha-----ああ、クラッカーのパーン!って音に反応したのか。探偵になった犬サンタ君が来て何かが解るかと思ったのに。面倒なテレビだな。
サンタ君-----ホントですよね。探偵の格好していたから、ボクらの居場所を推理したりしてくれると思ったのですが。
Little Mustapha-----とにかく、チャンネルを戻さないと。
[パーン!]
テレビ-----「…みなさん見てください。こんなにおっきなエビフライ…」
[パーン!]
テレビ-----「このあと、想像を絶する展開が…」
[パーン!]
テレビ-----「はい、それでは正解はこちら!…過払い金!過払い金!…」
Little Mustapha-----正解の前にCMかよ。
サンタ君-----それはどうでもイイですよ。
[パーン!]
テレビ-----「どこでもドア!」
[パーン!]
テレビ-----「なんと!袋に入っていたのはカリントウではなくて、大量の***!(えぇ〜…!)」
[パーン!]
テレビ-----「なんでやねん!なんでやねん!もうええわ!…ありがとうございました」
[パーン!]
テレビ-----「キャッホー!」
[パーン!]
テレビ-----「見てくださぁい!こんなに大きなイチゴが…」
サンタ君-----これって、さっきと同じ番組ですかね?
Little Mustapha-----いや、なんとなく違う気がするけど。
[パーン!]
テレビ-----「これだけ付いて、気になるお値段は?…」
[パーン!]
テレビ-----「今日ご紹介するのはこちら!食べるだけで太る、ノンノンファットシュガー…」
[パーン!]
テレビ-----「…1万円のところを、今から1時間以内にご注文いただくと、なんと9800円です!(ウソー!)」
Little Mustapha-----ダメだ。チャンネルが沢山あるのにロクな番組がやってない。
サンタ君-----いや、別に面白い番組探していたワケじゃないですよ。
Little Mustapha-----そうだった。それにしても、さっきのボクの部屋の映像はどうやったら出てくるんだ?
サンタ君-----もしかして、手を二回叩いたらチャンネルが戻ったりしないですかね。
[パンパン!]
Little Mustapha-----あれ?部屋の明かりが消えたぞ。
サンタ君-----ホントですね。
[パンパン!]
Little Mustapha-----おい!今度はテレビも消えたし。
サンタ君-----真っ暗ですね。
[パーン!]
Little Mustapha-----…なにも起こらない。
[パンパン!]
サンタ君-----アッ、二回叩いたら明かりがつきましたよ。
Little Mustapha-----どうなってるんだ、この部屋は?とりあえずテレビに触って、テレビをつけるか。それじゃ、テレビにタッチ…と。
「チーン!」
サンタ君-----なんですか今の音?
Little Mustapha-----チーンって音がしたけどテレビはついてないし。ミステリーだね、この部屋は。
サンタ君-----これって、もしかして今の音が答えなんじゃないですかね?
Little Mustapha-----答えって、何の?
サンタ君-----テレビが置いてある意味が解れば扉の意味も解るとか、そんな事言ってませんでした?
Little Mustapha-----ああ、あれか。適当に言ったことではあるんだけど。でもさっきの「チーン」ってのが答えだったら。…なんか全然意味が解らないし。
サンタ君-----こういう事を言うとまた心配性って言われるかも知れませんけど。ボクらのこの状況が夢のようなものだとしますよね。そして、ボクらの周りで実際に起きていることが夢の中にも影響を及ぼすこともあるかと思うのですが。テレビが消えて最終的に聞こえて来たあの「チーン」って音は、なにか不吉な音に思えるんです。
Little Mustapha-----それじゃあ、良く意味が解らないけど。
サンタ君-----人間は死ぬと、周りに集まってきた人が鐘を鳴らすでしょ。「チーン」って。あれってどういう意味があるのか解らなかったんですけど。もしかすると、こうやって死んだことに気付いていない人に、死んだことを気付かせるために鳴らしてるんじゃないか?って今思ったんです。
Little Mustapha-----サンタ君!キミはサンタのくせにそんなことを言うのか?あの鐘を鳴らすのは主に仏教徒だと思うんだが。まあ、でも日本人ならとりあえず鐘を鳴らすかも知れないけど。とにかく、そんな恐ろしい想像は良くないよ。前に死んで地獄に行った時にはちゃんと前振りもあったけど、今回はそんなのもほとんど無かったんだし。
サンタ君-----そうですかね。じゃあ、他に意味があるんですかね。
Little Mustapha-----そうに違いないよ。「チーン」っていうのが、なにも仏壇の鐘だけとは限らないし。だいたい「チーン」で最初に思い付くのが鐘ってところが良くないよ。「チーン」って言ったら普通は電子レンジだし。
サンタ君-----この状況と電子レンジがなにか関係してるんですか?
Little Mustapha-----そこの扉はもしかすると電子レンジの扉かもしれないよ。
サンタ君-----じゃあ、ここは電子レンジの中ですか?それはもっと不吉ですよ。
Little Mustapha-----まあ、扉の件はちがうとして。こういうのはどうかな。電子レンジが出てくるってことは、そろそろお腹空かないか?ってことじゃない。
サンタ君-----まあ、ないこともないですが。
Little Mustapha-----ほら。これこそ生きている証。空腹とはなんて素晴らしいんだ!
ミョーに心配性なサンタ君と、空腹であることを讃え始めたLittle Mustapha。彼らはどうなってしまうのでしょうか。