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#174 「LMBのクリスマス殺人事件」 2016-12-24 (Sat)

 扉に手をかけたものの、少し恐くなって躊躇するLittle Mustapha。しかし、ここから出ないことには食べ物にも酒にもありつけません。それにプレゼントを貰うチャンスもなくなってしまいます。そんな事に比べたら扉を開ける恐怖なんてちっぽけなものです。Little Mustaphaは思いきって扉を開けました。

 するとそこには無限の空間が広がっています。地面もなければ空もない。何もない空間が果てしなく続いているのです。その何もない中のいたるところに窓のようなものが不自然な感じで浮かんでいて、そこから光が漏れてきます。その様子は宇宙にいびつな形の沢山の星がきらめいているようにも見えました。


Little Mustapha-----なんだこれは?ボクら外に出たけど、なぜか立ってるよね。地面がないのに。

サンタ君-----これは不思議な場所だなあ。地面も空もないのに。なぜか頭のある方が上のような気もしますよね。

Little Mustapha-----そういえばそうだ。でも、宇宙が舞台のロボットアニメとかも、みんな同じ方向を上にしてるしね。そういう事なんじゃない?

サンタ君-----どういうことか解りませんけど。

Little Mustapha-----でも、こうやって歩くと。…ほら。ボクだけ上下の軸がキミとズレていく。

サンタ君-----ちょっと、そういう事やると目が回るからやめましょうよ。

Little Mustapha-----そうだね。それじゃ、とりあえずどこかを基準にして上下を決めようか。あの格好つけた感じの観音開きの窓っぽいヤツ。アレを天頂という設定にしようか。

サンタ君-----そうですね。というか、そこら中で光ってるのって窓なんですかね。

Little Mustapha-----まあ、窓のようには見えるけど。でも窓だけが空間に浮かんでるというのもなんか変だよね。とりあえず、あそこの窓っぽいものを覗いてみようか。


 二人は近くにあった窓のような光の漏れてくる穴のようなものを覗いてみました。そこには壁があるワケでもありません。ただ窓があって、横から見るとその後ろにはなにもないのです。ただ前から見る時だけその向こう側を覗くことができるようです。

 その窓の向こうには人とはちょっと違う人のような生き物が歩いています。Little Mustapha達が覗いている事には全く気づいていないようです。


Little Mustapha-----あれは、なんだ?人がいっぱいいるけど。おーい!開けてくれ!…と思ったら窓の下にドアノブが付いてるけど。開けてみるか。

サンタ君-----ドゥワァ!ダメですよ。

Little Mustapha-----なんだ?そんなに慌てて。

サンタ君-----向こうにいるのは人間じゃないですよ。

Little Mustapha-----確かになんか変な感じだけど。…あ、良く見ると上着が後ろ前じゃないか。何やってんだ、あの人達は?

サンタ君-----違いますよ。あれは人間にそっくりですが、騙されてはいけない、という種族なんです。サンタの講習で聞いたことがあるんです。

Little Mustapha-----色々と、なんだそれ?って感じだけど。

サンタ君-----あれは、上着が後ろ前なんじゃなくて、頭が人間とは反対に付いているんです。つまり背中の方向が前になってるんですよ。彼らはスゴく獰猛だからウッカリ近づいたらいきなり襲ってくるって。

Little Mustapha-----なんでそんな人達がここにいるんだ?

サンタ君-----これは、もしかして…。ちょっと他の窓も見てみましょう。

 そのころブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)では、何かをしないといけない気がするけど何も出来る事がないので、仕方なくダラダラと宴会が続いていました。


Dr. ムスタファ-----…ということでな。ラズパイをグラビアアイドルの愛称かなんかだと思ってると、恥をかくからな。気をつけないとな。

ニヒル・ムスタファ-----なんだそれは?

ミドル・ムスタファ-----もしかしてワカパイのこと言ってますか?

ニヒル・ムスタファ-----なんだよ。そんなの間違えるの先生ぐらいだぜ。

Dr. ムスタファ-----だが、科学的には似ているだろう?

ニヒル・ムスタファ-----そんな事言ったらパイが付くもの全部グラビアアイドルだぜ。

Dr. ムスタファ-----そんなことになったら気が散ってかなわんなあ。

ミドル・ムスタファ-----そういう事じゃないと思いますが。

マイクロ・ムスタファ-----ちょっと、待ってください。今はそんな事を話している場合ではないと思うのですが。

ニヒル・ムスタファ-----でも留守番電話も特に変化なしだし。

ミドル・ムスタファ-----そうですね。といっても、もうすぐ12時ですけどね。Little Mustaphaは現れないし、街で変な事件も起きないし。

犬サンタ-----でも何か起きそうな気がするんだワン。


 犬サンタ君が言うと、何が起きるのだろう?と思った一同は静まりかえって様子をうかがいました。すると突然、何もしていないのにテレビがつきました。全員ゾッとしてゾワゾワっとなったのですが、恥ずかしいのでお互いに気付かないフリをしていました。

 テレビには放送局でトラブルが起きた時用の「しばらくお待ちください」という感じの画面が表示されていました。


Dr. ムスタファ-----なんだ?だれかリモコン踏んづけたか?

ミドル・ムスタファ-----いや。リモコンならそこに落ちてますし。

犬サンタ-----アッ、なにか映るんだワン!

ニヒル・ムスタファ-----アレって、もしかして…。


テレビ-----ちょっと、何やってんのよ。始めるわよ。良いの?…段取り悪いわね。喋って良いのか?って聞いてんのよ。


ミドル・ムスタファ-----なんかゴタゴタしてるみたいですが、アレって地獄の占い師のカズコですね。


テレビ-----じゃあ、やるわよ。…オマエ達。人間どもよ。良く聞きなさい。あと数分しかないのよ。悔い改めるのなら今のうちにしておきなさいよ。12時になったらオマエ達に新しいクリスマスをプレゼントしてやるから。ちゃんと首を洗ってまってんのよ。良いね。


ニヒル・ムスタファ-----なんなんだ、これは?

ミドル・ムスタファ-----なんか恐ろしい事を言ってましたけど。これって私達だけに言ってるんじゃないですよね。「人間ども」とか言ってましたし。

Dr. ムスタファ-----そうは言ってもなあ。アイツも人間なんじゃないのか?

ニヒル・ムスタファ-----地獄に行ったり戻ったりしてるんだぜ。そろそろもう人間じゃなくなってるんじゃないか?

ミドル・ムスタファ-----でも、これどうすれば良いんですかね。Little Mustaphaもいないし。これまで何も起きなかったから、普通に飲んで普通に酔っ払っていますけど。ここでいきなり恐怖のクリスマスなんですか?

ニヒル・ムスタファ-----まあ、落ち着こうぜ。こういう時のために心強い味方がいるんじゃないか。犬サンタ君。例のサンタの酒って今年も持ってきてるんだろ?

犬サンタ-----あれはまだダメだワン。

Dr. ムスタファ-----なんでだ?アレを飲んでたらいつもワケが解らない間に上手く行って解決するんだし。アレはいつだって科学的だぞ。

ミドル・ムスタファ-----科学的の意味が全然わかりませんが。それよりも、なんでダメなんですか?

犬サンタ-----そんなものよりももっと頼りになる人が来るんだワン!

一同-----頼りになる人?!

犬サンタ-----ああ、やっと来たんだワン!


 犬サンタ君が言うと、ベランダに出られる大きな窓が開きました。そこにはサンタの孫娘さん改め、長官の孫娘さんの姿がありました。でも紛らわしいからサンタの孫娘さんで良いですよ、と長官の孫娘さんが言うと思うので、以下サンタの孫娘さんに統一。


サンタの孫娘-----ああ、良かった。間に合いましたね。

一同-----アッ、サンタの孫娘さん!どうしてここに?

サンタの孫娘-----…?!どうしてみなさん一緒に喋るんですか?…あ、今はそんなところを気にしている場合ではありませんでした。人類の危機なんです。

ミドル・ムスタファ-----なんか全然話が見えてきませんね。

サンタの孫娘-----詳しいことはあとで話しますから。今は電話を使わせてください。

ニヒル・ムスタファ-----電話?…まあオレ達のじゃないけど。どうぞ。

サンタの孫娘-----あ、これですね。

ミドル・ムスタファ-----あの、出来ればハンズフリーモードでかけてもらうと。ボクらにも話が解るから、後々の説明が楽になるかと…。

サンタの孫娘-----いや、それだとハウリングを起こすので。でも、みなさんにも会話は聞こえるはずですから大丈夫ですよ。

ミドル・ムスタファ-----はあ…。


 その時、また誰もいじってないのにテレビがひとりでにつきました。


テレビ-----人間ども。ついにこの時が来たよ。楽しいクリスマスなんて、もう一生無いからね。これからはオマエ達が罪を償うクリスマスになるんだよ。…ん?なによ。電話?!今はそんな場合じゃないって解るだろう?…え?!それより大事な電話ってなによ、まったく。解ったわよ。

サンタの孫娘-----そんな事はさせません。

テレビ-----なによ、いきなり電話してきて。

ミドル・ムスタファ-----あれ、テレビからサンタの孫娘さんの声が。ということは、電話してる相手はカズコなのか!

テレビ-----アンタが何しようと、これからは恐怖のクリスマスなんだよ。良い?私が楽しいクリスマスなんてものを殺してやったのさ。

サンタの孫娘-----本当にそう思っているのですか?

テレビ-----この状況を見て解らないのかい?サンタなんてチョロいもんだったよ。私だってバカじゃないからね。超人的サンタがサンタ業をやめて、もとのサンタに業務を引き継いだのは知ってるんだよ。ただ、ヤツらは数が多いのが問題だったけどね。だから、サンタを全員殺そうなんてことはしなかったのさ。その代わり、こっちの仲間にしてやったのさ。仲間になったサンタ達が人間達に裁きを下して、そして罰するんだよ。もちろん、抵抗したサンタは片付けてやったけどね。

サンタの孫娘-----酷いことを…。

犬サンタ-----酷いんだワン!

テレビ-----こうでもしないとね、人間達が滅ぶんだよ。あんた、見てごらんよ。ろくでもない子供達ばっかりじゃないのよ。大人に対して平気で酷いことを言うような子供達だよ。そんな子供達にプレゼントなんて渡してどうすんのよ。

サンタの孫娘-----それは、…そうかも知れませんが。

犬サンタ-----そこは認めちゃうのかワン?

テレビ-----だから子供にも、子供をしつけられないような大人にも罰を与えてやらないといけないのよ。

サンタの孫娘-----恐怖によって人間を支配するような事は許されません。そんなところから生まれるのは憎しみと、悲しみと、そんな事ばっかりですよ。

テレビ-----そうでもしないと人間は滅びる。だから私が助けようって言ってるのに、オマエはどうして抵抗するんだい。

サンタの孫娘-----あなたはまだ人間の素晴らしさを解っていないのです。それに、全てのサンタを思いどおりに出来たと考えるのも間違いですよ。

テレビ-----何を言ってるのよ。サンタ達は私に寝返ったか、殺されたか、どっちかだよ。

サンタの孫娘-----そうかしら?これを見なさい。若きサンタがその守護者と共に…。

テレビ-----なんなのよこれ。勝手に画面を切り替えてるんじゃないわよ。

サンタの孫娘-----あれ…?いない…。


 テレビには、さっきまでLittle Mustapha達がいた部屋が映りました。あの部屋にあるテレビにもその映像が映っているので、テレビの中のテレビにも同じテレビが映っていて、そのテレビにも同じテレビが…という合わせ鏡状態でもありましたが、それは特に関係ないのです。とにかく、そこにいるはずだったサンタ君とLittle Mustaphaがいなかったのです。


テレビ-----だから、この殺風景な部屋がなんだって言うのよ。

サンタの孫娘-----ねえ、犬サンタちゃん。ちゃんと言われたとおり部屋の鍵閉めてきた?

犬サンタ-----あぁ…。それはえーと。良く覚えてないんだワン…。

サンタの孫娘-----もぉ。ちゃんと一人で出来るって言うから任せたんだからね。

犬サンタ-----ごめんなさいだワン…。ウッカリしてたんだワン…。

サンタの孫娘-----今日はおやつ抜きだからね。

犬サンタ-----解ったワン。反省するんだワン…。


テレビ-----だから、なんなのよ?まさかハッタリかまそうってんじゃないわよね。


サンタの孫娘-----困ったわ。私、ちょっと行ってなんとかしてくるから、あとはよろしく頼みます。行くわよ犬サンタちゃん。

ミドル・ムスタファ-----よろしくって言われても。…ああ、行ってしまったけど。


テレビ-----ハッハッハッハ…!結局私の前では誰も無力なのよ。良いかい、人間ども。オマエ達は地獄に落ちる!


ニヒル・ムスタファ-----なんか、マズいことになって来たぜ。

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