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#130 「ソリティア」 2009-12-19 (Sat)

クリスマス なにか起きれば それで良い


 Little Mustaphaが涙ぐむほど感激しながら見つめる先には、セクシートナカイの姿がありました。なんと、今年ここにやって来たのは以前にやって来た陰鬱なトナカイとは違うセクシートナカイだったのです。

セクシートナカイ-----あの、ベランダから入って来てしまってすいません。玄関に鍵がかかっていたもので。ニャン!

Little Mustapha-----ああ…あの…、なんていうか…イロイロとアレなんだけど。最初に聞くべきは、何で「ニャン!」なのかな?というところかな?

セクシートナカイ-----お気に召しませんでしたか?こう言うと喜ぶと言われていたのですが。

Little Mustapha-----言われた、って誰に?

セクシートナカイ-----先輩のトナカイさんです。それに、私がここに来たらすごく盛り上がるって聞いていたのですけど…。私じゃ役不足だったでしょうか?

Little Mustapha-----いやいや、そんなことはないよ!セクシートナカイさんが来てくれたんだし。まあ、今日はほとんど一人も同然だから、そういう時には意外とテンション低いからね。でも、こんな日にセクシートナカイなんて、これ以上のことはないからね。…あれ?なんかボクはマズいことを言ったかな?

セクシートナカイ-----私はセクシートナカイじゃありません!

Little Mustapha-----そんなところを気にするのか?まあいいや。

セクシートナカイ-----私はセクシートナカイじゃなくて新米の研修中トナカイです。トナカイ先輩が独立するから新入トナカイを募集していたんで、今年からトナカイになることが出来たんです。

Little Mustapha-----ああ…あの…、イロイロ気になる発言があったと思うんだけど…まあいいか。

研修中トナカイ-----それにしても、今年は二人だけなんですか?

Little Mustapha-----ああ、まあね。でもたまにはトナカイさんと二人きりのクリスマスというのもステキなんじゃないかな。エヘヘヘ…。

研修中トナカイ-----私も入れたら三人になりますけど。そちらにいる方は、ウワサに聞いていた影の薄い方ですね。私が想像していたよりもずっと影が薄いですね。まるで影が薄い人のさらに薄い影という感じです。

Little Mustapha-----あれ?!もしかしてトナカイさんって…

マイクロ・ムスタファ-----私のことが見えてるんですか?

研修中トナカイ-----そうですけど。見えたらいけないんですか?

Little Mustapha-----ボクには声しか聞こえないけどね。その声すらホントに聞こえているのかすら解らないけど。彼は今別の次元にいるという設定なんだよね。

研修中トナカイ-----だからそんなに影が薄いんですか。

Little Mustapha-----でも、どうしてトナカイさんにはマイクロ・ムスタファが見えるんだ?

研修中トナカイ-----私達は人間とはちょっと違いますから、次元の壁みたいなものはあまり関係ないんです。ニャン!

Little Mustapha-----いや、その「ニャン!」というのは、何かの誤解だと思うんだけど。「ニャン!」と言われても、ボクらはそれほど喜ばないんだけどね。まあ「ワン!」よりは女の子っぽい、という感じはするけど。

 Little Mustaphaの部屋ではなんとなく盛り上がる要素であるトナカイがやって来たのですが、ミニ・ムスタファの部屋に来ている三人は恐ろしい事実に気付いてたいそう盛り下がっていました。


ミドル・ムスタファ-----それじゃあ、再生してみますよ。


 ミドル・ムスタファがミニ・ムスタファの部屋にあった留守番電話のメッセージ再生ボタンを押しました。すると、そこからどこかで聞いたことのある恐ろしい声が聞こえてきました。


留守番電話-----ゴゴ・ゴゴ・ゴジゴジ・ゴジゴゴ・ゴ・フン。ピー!「フフフフフッ…。Little Mustapha's Black holeの諸君。というよりもLittle Mustaphaを裏切った軽薄な諸君、といった方が良いかな。キミ達のおかげで今年はとても楽しいクリスマスになりそうだよ。フフフフフッ。楽しいといっても、キミ達にとっては想像を絶する恐怖の連続だと思うがね。キミ達を始末したら後はLittle Mustaphaを消しさえすれば全ては私の思い通りだな。そうだろ?Little Mustaphaを裏切ったキミ達もそのことは解っていたんだろ?でも、物事はいつでも思いもしなかった方へと進んでいくものだよ。キミ達はLittle Mustaphaを裏切って良いことが起こると思ったかも知れないが、残念ながら今日でキミ達は最後だよ。これからキミ達に何が起こるのか、詳しく教えたらつまらないから、少しずつ教えることにしておこう。それでは今年の想像を絶する恐怖の第一弾は…、ジャーン!今キミ達がいる場所はミニ・ムスタファの部屋ではないんだよ!ハッハッハッハッハ!」メッセイジ・オワリ。


ミドル・ムスタファ-----なんですか、これは?!ここはミニ・ムスタファの部屋じゃないって言ってますよ!

ニヒル・ムスタファ-----まあ、そんなに慌てなくてもいいぜ。あの留守番電話にメッセージを残すヤツは時々ハッタリをかますことがあるのは知ってるだろ?オレ達を恐がらせたいだけなのさ。

Dr.ムスタファ-----わしらを恐がらせて何になるんだ?

ミドル・ムスタファ-----そうですよ。それにここがミニ・ムスタファの部屋でないのなら、どこだって言うんですか?ここはまるっきりLittle Mustaphaの部屋そのまま、という感じですし。なんだか私はすごく不安になってきましたけど。

Dr.ムスタファ-----そのとおりだな。こういう時はどうすればいいんだ?いつものように飲み続けていれば何かワケの解らないことになって解決するのか?

ニヒル・ムスタファ-----それは違うと思うぜ。

ミドル・ムスタファ-----でも、他に解決策はあるんですか?

ニヒル・ムスタファ-----さあな。でも…、なんとなくだが、オレ達はなにかとてつもない間違いをおかしているような気もするな。

 ミニ・ムスタファの部屋ではないっぽいどこかでは三人がヤバいことになっているようですが、Little Mustaphaの部屋では研修中トナカイさんがやって来てにわかに盛り上がっています。


Little Mustapha-----イロイロと気になる部分はありますが、せっかく我々の予想を遥かに超えたトナカイさんがやって来たことだし、ここでもう一度今年のクリスマスパーティーを仕切直しとしましょうじゃございませんか?

研修中トナカイ-----私は正式なトナカイじゃなくて、まだ研修中ですけど…。

Little Mustapha-----そんなことは気にしなくてもいいよ。前にやって来た陰鬱なトナカイには比べものにならないしね。それから、その頭に被ってるやつとかもはずしてもいいよ。そういうのには特にこだわってないしね。…どちらかというと、もっと自然体のキミが知りたいんだよね…。エヘヘ…。

研修中トナカイ-----被ってるって、何がですか?

Little Mustapha-----何が、って。その角の生えた帽子というか頭巾みたいなそれだけど。

研修中トナカイ-----そんなものは被ってませんよ。

Little Mustapha-----えっ?!…ということは、その頭は生まれた時からそのままで…、というか、そのセクシーコスチュームみたいなのも、もしかしてアレなのか?

研修中トナカイ-----そうです。私達は人間のように服を着たり何かを頭に被ったりはしません。トナカイですから。私達はいつでも生まれたままの姿。つまり、私達は…いつでも裸…とか…

Little Mustapha-----なんか、自分で説明しながら顔が真っ赤になってるけど。それ以上の露出は期待できないということだね。

研修中トナカイ-----…。

Little Mustapha(小声で)-----ヤバい…。なんかトナカイさんが泣きそうなんだけど。

マイクロ・ムスタファ(小声で)-----私にそんなことを言われても困りますよ。あなたがセクハラ気味のことを言うからいけないんですよ。

Little Mustapha(小声で)-----でも、あんな格好でやって来たら、そんな感じの人、というかトナカイだとか思ってしまっても…

研修中トナカイ-----あの、パーティーはどうするんですか?せっかくプレゼントも持ってきたのですから。

マイクロ・ムスタファ(小声で)-----どうやら、ダイジョブそうですよ。

Little Mustapha-----ああ、そうだったね。今日はイロイロと予期しないことが起きるから肝心なことを忘れてしまうよね。エヘヘ…。今日はクリスマスイヴ。何で今日がクリスマスイヴなのかは知らないけど、今日はプレゼントが貰える日だから、もっと楽しくないといけないよね。それじゃあ、トナカイさんの分の酒も持ってくるけど、ウィスキーで良いのかな?というかウィスキーしかないんだけど。

研修中トナカイ-----そうじゃなくて、今日はコレを飲むんじゃなないですか?あなた達がプレゼントにリクエストしたこの「サンタの国のサンタの酒」を。

Little Mustapha-----いや…?!それはリクエストした覚えはないけどね。まあ、いつも出てくるから出てきても驚かないけど、ボクらがリクエストしたのはマイクロ・ムスタファのための「暗い小説全集」とボクのためのアルトサックス(或いはプレステ3、もしくはプレステ2でも良いけど、それでもダメならPSPかDSiとか、それでもダメならPSP goとかでもとりあえず満足するけど、もしかすると最近は普通にエレキギターがそろそろ欲しい)だったんだけど。

研修中トナカイ-----そうなんですか!?

Little Mustapha-----そうなんですよ。…というか、今年もクリスマスは半分オワタということなのかな?

マイクロ・ムスタファ-----そんな気もしますが。

研修中トナカイ-----うぃ…。

Little Mustapha-----うぃ、ということらしいですよ、マイクロ・ムスタファ君。

研修中トナカイ-----まことに申し訳ございませんが、今年はサンタのおじさんがどこかへ旅に出ているということになっていて、サンタの国もてんやわんやでございまして、それで、リクエストの手紙を処理するサンタの叔父さんもプレゼントの配布にかり出されてしまって、私達トナカイやサンタの孫娘さんも総出でクリスマス業務をこなそうと頑張ったのですが、どうしても全てのプレゼントリクエストの手紙を読むことが出来ずに、読めなかった分は推測でプレゼントを用意してしまったのです。うぃ…。

Little Mustaphaとマイクロ・ムスタファ-----ァァァ……

 トナカイがやって来てすぐに今年もプレゼントを貰うことに失敗したことが解ってしまったのですが、今年はそれよりも別の場所の三人に深刻な問題が起きているような気もします。あれから三人はどうしたのでしょうか。


ミドル・ムスタファ-----ここがミニ・ムスタファの部屋でないとしても、ここには何か意味がありますよね。これだけLittle Mustaphaの部屋にそっくりなのだから。

ニヒル・ムスタファ-----それはそうだと思うけどな。ただ、もうその辺を考えても埒があかないと思わないか?

Dr.ムスタファ-----つまり、またいつものように飲んだら良いということだろ?そろそろ私の発明品の話もして来たくなったしな。

ニヒル・ムスタファ-----そういうことじゃないよ。飲みたかったら勝手に飲んでたら良いけどな。これまで、何がどうなっているのか解らない時にはどうしていたのか、そういうところを考えた方がいいぜ。

ミドル・ムスタファ-----例えば、テレビを見たり?

Dr.ムスタファ-----なんだ、そんなことか。それならもったいぶらずに最初からテレビのスイッチを入れたらいいんだ。

ニヒル・ムスタファ-----まあ、そうだけどな。オレは進んでテレビをつけるような男だと思われたくないのさ。

ミドル・ムスタファ-----なんでそう思うのか良く解りませんが、とりあえずテレビをつけてみましょうか。


 そう言うとミドル・ムスタファが立ち上がってテレビのところに行くとスイッチを入れました。そこにあったのはLittle Mustaphaの部屋にあるのと同じブラウン管のテレビだったのですが、電源を入れるとブーンという音がしてしばらく画面は暗いままで、なかなか映像が映し出されませんでした。


ミドル・ムスタファ-----なんかすごく古いテレビみたいな映り方ですね。

Dr.ムスタファ-----もうすぐアナログ放送も終わるしな。

ニヒル・ムスタファ-----それは関係ないぜ。


 三人はくだらないことをいいながら少しずつ明るくなっていく画面を見つめていましたが、次第にそこに何が映されているのか明らかになってきました。映っているのは白黒の映像で、そこはどこか屋外の広場のような場所でした。どこかの高い場所から広場全体を映しているようでしたが、真ん中に何かの物影が確認できた以外、そこには動くものはほとんど映っていませんでした。

 三人はこのほとんど動きのない監視カメラの映像のようなものを不思議そうに見ていました。やがて画面が広場の中央にズームしていきました。すると広場の真ん中の物影が何であるか次第に解ってきます。それはどうやら横たわっている人のようでした。

「これは映画かなんかですかね?」

ミドル・ムスタファが言いましたが、ニヒル・ムスタファは「こんなのはクリスマスイブにやる感じじゃないぜ」と返しました。

 そうしているうちに画面に映る人間の姿が次第に明らかになってきました。そして、それが人間ではなくて「かつて人間だったもの」であることが解りました。広場に横たわっていたのは、内臓を何かに食いちぎられたかのように辺りにまき散らして倒れている人間の死体でした。

 カメラは死体が画面いっぱいの大きさになるまでズームしていくとそこで動きを止めました。

「なんで、こんなものがテレビでやっているんだ?」

Dr.ムスタファが言いましたが、誰もそれに答えませんでした。

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