クリスマス やって来たのは トナカイさん
Little Mustaphaが半分ネタのコップを片付けて戻ってくると、留守番電話のメッセージを再生するボタンを押しました。いつもなら、謎の恐怖メッセージかPrincess Black holeからのメッセージが再生されることが予想されたのですが、今回はいつもと違う感じでした。
留守番電話-----ゴゴ・ゴジ・ゴヒャク・ゴ・フン。ピーッ!「あの、これはLittle Mustaphaの部屋であっていますよね?だとしたら、そこにLittle Mustaphaがいるはずだから電話に出て欲しいのですけど。私はミドル・ムスタファです。今回私達がそこにいないことにあなたが腹を立てているのは良く解っているのですが、今はそれどころではないので、もしもそこにいるのなら、どうか電話に出てください。お願いします」メッセージ、オワリ!
Little Mustapha-----なんだこれは?そんなこと言われても電話は鳴らなかったしね。
研修中トナカイ-----でも、良いんですか?なんだか困っているようでしたけれど。
Little Mustapha-----どっちかっていうと、困ってるのはこのボクだということをあいつらは気付いてないんだよ。あんな薄情なヤツらはどうでもいいからね。それよりも、トナカイさんの作った料理をまだ食べてなかったじゃん。
研修中トナカイ-----ああ、そうでしたね。あの、あまり自信はないですけど、一生懸命作ったので食べてください。
Little Mustapha-----…?
研修中トナカイ-----あの…、どうかしました?
Little Mustapha-----…いや、なんというか。これは何?
研修中トナカイ-----台所に行ったのですが、あまり食べられるものがなかったので、あるもので作ってみたんですけど。
Little Mustapha-----それで、これは何?
研修中トナカイ-----サボテンです。
Little Mustapha-----まあ、そうだよね。…だいたい見た感じで解っていたんだけど。というか、このサボテンはどこにあったの?
研修中トナカイ-----植木鉢ですけど。
Little Mustapha-----やっぱりそうだよね。トナカイさんには解らないかも知れないけど、これはボクが育てていたサボテンだったりするし…
研修中トナカイ-----まだ収穫時期じゃなかったですか?
Little Mustapha-----そういうことじゃなくて、これは食用じゃなかったりしたんだけど…。
研修中トナカイ-----うぃ…。でも台所にはこれ以外に食べられるものはなかったんですよ。
Little Mustapha-----でも、冷蔵庫の中にスパムっていうグタグタの肉があったでしょ?
研修中トナカイ-----冷蔵庫って何ですか?
Little Mustapha-----冷蔵庫を知らないの?食べ物が腐ったりしないようにするための、いつでも冷たい箱なんだけど。
研修中トナカイ-----サンタの国はいつでも氷点下ですから、そんなものは知りません。
Little Mustapha-----ああ、そうか!今になってやっといろんな謎が解けてきた気がするぞ!トナカイさんや、サンタの孫娘さんがミョーに薄着でセクシーな感じなのは、ここが冬でもサンタの国と比べたら暖かすぎるからなんだ!そうでしょ?
研修中トナカイ-----何のことだか解りませんけど。サンタの孫娘さんの衣装とかはサンタのおばさんが全部決めているみたいですよ。
Little Mustapha-----誰それ?
研修中トナカイ-----おじさんがいたらおばさんもいて当然だと思いますけど。
Little Mustapha-----まあ、そうだけどね。…それよりも、そっちのお皿の料理は何なの?何かちょっと美味しそうなフライみたいだけど。
研修中トナカイ-----ああ、これですか。どうぞ食べてください。ソースをかけて食べたら美味しいと思いますよ。
Little Mustapha-----このミョーに細長いカツみたいなものは、もしかしてプリッツのカツかな?…というか、ここにプリッツはなかったと思うけど。とにかく食べてみるけどね。…。…というか食べられないんだけど、これは何だ?
研修中トナカイ-----引き出しを開けたら入っていた木の枝です。
Little Mustapha-----それはつまり割り箸のことかな?
研修中トナカイ-----そういう名前なんですか?
Little Mustapha-----そうだけど、これは食べ物ではなくて食べ物を食べるための道具なんだな。
研修中トナカイ-----エエッ!そうなんでか?私はまだ研修中なので、そんなことは知らずに…。だってサボテンも木の枝もお腹が空いたら食べるしかない、というものなんですよ。
Little Mustapha-----ああ、そうか。トナカイさんは基本的に草食だからね。
研修中トナカイ-----ホントにすいません。私が研修中なばかりに迷惑ばかりかけてしまって…。うぃ…。
Little Mustapha-----いやいや、そんなに落ち込まれてしまうと、なんかボクが悪者になってしまう感じだし…。あの、このコロモは美味しいよ。ソースをつけたら串カツの先とか根本のあの辺みたいな味で、アレはアレで病み付きになる味だからね。この割り箸カツは世紀の発明になるかも知れないよ。
研修中トナカイ-----それはどうでもイイですけど。うぃ…。
Little Mustapha-----どうでもいいの?!…というか「うぃ」って…?
研修中トナカイ-----なんだか、電話が鳴りそうな気配がしますよ。
Little Mustapha-----鳴りそうな気配?!
Little Mustaphaが黙って電話を見つめていると、トナカイの言ったとおりに電話が鳴り出しました。いつものようにLittle Mustaphaが電話の音に驚いてビクッとしましたが、何事もなかったようなフリをしました。ついでに隣の次元にいたマイクロ・ムスタファもビクッとしていたのですが、誰にも見られてないからまあいいか、と思っていました。
それはそうと、電話が鳴ったので出ないといけません。Little Mustaphaがいつものようにハンズフリーモードで電話に出ました。(いつものように説明すると、ハンズフリーじゃないと読んでいる人に会話の内容が解らないからです。)
Little Mustapha-----もしもし。
電話-----やあ、Little Mustapha's Black holeの諸君。どうやら今年もみんなで楽しくやっているようだね。
Little Mustapha-----あれ?その声はミニ・ムスタファだな!何だよ、今年は誰もいないのを知っていて嫌がらせだな。そっちこそ今年はみんなそろって楽しくやってるんでしょ。
ミニ・ムスタファ(電話)-----そんなことはないんだけどね。本当はミドル・ムスタファ達がやって来る予定だったんだけど、やっぱり彼らを仲間にするという作戦は失敗したみたいなんだよね。
Little Mustapha-----ホントに?それじゃあ彼らは今どこにいるんだ?
ミニ・ムスタファ(電話)-----ここでも、そこでもないということはそれ以外のどこかだな。
Little Mustapha-----それはそうに違いないけどね。…というか、当たり前のことじゃんか。それより、何で電話なんかかけてくるんだ?ボクらが一緒にいたり会話をするのはけっこう危険という設定じゃなかったっけ?去年はモンスターだらけだったし。
ミニ・ムスタファ(電話)-----それはそうなんだけど、ブラックホール君が「今年は恐ろしいことがあるからLittle Mustaphaに伝えた方がいいんだなぁ!」って言ってたから。
Little Mustapha-----そんなこと言っても、毎年恐ろしいことは起きてるんだけどね。
ミニ・ムスタファ(電話)-----まあ、そうか。でも、そろそろ電話を切らないと、モンスターだらけになるといけないから。それじゃあ。
Little Mustapha-----なんだか怪しい展開になってきたなあ。マイクロ・ムスタファ君はどう思う?
マイクロ・ムスタファ-----……。
Little Mustapha-----あれ?ちょっと、いつもはこういう時に未完の小説を引用するのに、なんで黙っちゃうの?
研修中トナカイ-----あのかた、トイレに行ったみたいですよ。
Little Mustapha-----なんだ、そうなのか。姿が見えないというのはなんだか面倒だな。
研修中トナカイ-----それよりも、恐ろしい予感がするのですが。
Little Mustapha-----なにが?
研修中トナカイ-----さっきのコップに描かれていたリボンを付けたネコが本当に現れるような気がして。
Little Mustapha-----ヘンなところを気にするんだね。少なくともあのネコはこの次元には存在しないからね。いるとしたらマイクロ・ムスタファのいる次元だし。
研修中トナカイ-----本当にそうなら良いのですが。
Little Mustapha-----それよりも、気になっていたんだけど、トナカイさんはマイクロ・ムスタファの姿が見えたりして次元の違いはあまり関係ないとか言ってたけど、その辺には詳しいのかな?
研修中トナカイ-----研修中ですが、その辺は解りますよ。
Little Mustapha-----それじゃあ、この世界はもの凄く細かい点の集まりで出来ていて、その点と点の間にある隙間に別の次元が存在してるっていうのはホントなの?
研修中トナカイ-----なんですかそれ?!クスクスクスクス…
Little Mustapha-----なんだかクスクスと笑われてしまったけど。
研修中トナカイ-----だって、この世界に隙間なんて…クスクスクスクス…
Little Mustapha-----またクスクス笑ってるし。
研修中トナカイ-----すいません。私は笑い出すと止まらないもので。クスクスクスクス…
Little Mustapha-----でも、そんなに面白いことでもないと思うけど。まあ、いいか。
トナカイがクスクス笑っていたその時です。なんと、部屋の扉が開いてマイクロ・ムスタファが入って来ました。ですが、マイクロ・ムスタファはまだ自分が意識だけの存在だと思っているので実際にLittle Mustaphaの部屋のある世界に戻って来られたとは思っていませんし、Little Mustaphaとトナカイはまだマイクロ・ムスタファには気付いていないようでした。
研修中トナカイ-----サンタの国のサンタの学校で習いましたけど、異次元の世界とかパラレルワールドというものは人間の考えているようなものとはちょっと違うんです。
Little Mustapha-----そうなの?というか、なんでそんなことを学校で習うんだ?
研修中トナカイ-----人間に不愉快な思いをさせないためには人間のことを良く知らないといけませんし。
Little Mustapha-----へえぇ。それで異次元の世界ってどうなってるの?
研修中トナカイ-----人間が異次元と言っている場所は正確には異次元ではありません。そこは人間の感覚や理解を超えたものが存在する場所。基本的にはあなたのいるこの世界と同じ場所にあるのですが、人間の理解を超えた存在というのはまったく同じ場所なのに別の世界のようになっている場所に存在しているのです。
Little Mustapha-----なんかゼンゼンわかんないけど。マイクロ・ムスタファが迷い込んでしまった次元というのは、この世界と同じ場所だけど違う場所ということなの?というか、これではトナカイさんの言ったことを繰り返しているだけだな。
研修中トナカイ-----研修中なもので、上手く説明できなくてすいません。でもこの世界にあるもので人間に認識できる部分というのは限られているということなのです。でも時々、何かの拍子に別の場所のものが人間に見える形で現れたり、マイクロ・ムスタファさんのように見えなくなってしまったり。
Little Mustapha-----つまり、マイクロ・ムスタファは見えてないだけで、実際にはこの部屋にいるということなのかな?
研修中トナカイ-----ちょっと違いますが、そう考えてください。
Little Mustapha-----なんかスッキリしない感じだなあ。
マイクロ・ムスタファ-----ちょっと待ってください!これはミステリーですよ。
Little Mustapha-----ウワァ!ちょっと。キミはいつの間にここにいたんだ!?
マイクロ・ムスタファ-----私はさっきから…あれ?自分でも気付きませんでしたが、私は今あなたの部屋にいるんですか?
Little Mustapha-----そのようだね。
研修中トナカイ-----あなたはいつの間に戻ってきていたんですか?
マイクロ・ムスタファ-----ちょっと…。もう…!異世界にいる時の私には気付いて、現実世界に戻ってきたら気付かないとか。もう…!
Little Mustapha-----あの、トナカイさん。彼はヘンな世界に迷い込んでそうとうなストレスだったみたいだし、これは推測だけど、マイクロ・ムスタファがキレたらそうとう恐いはずだから、その辺はあまり気にしない方がいいよ。
研修中トナカイ-----あっ、ごめんなさい。なにしろ研修中なもので。ニャン!
Little Mustapha-----ほら、トナカイさんが「ニャン!」と言ってるのだからマイクロ・ムスタファ君も機嫌を直して。
マイクロ・ムスタファ-----私は別に怒ってませんけど。
Little Mustapha-----まあ、とにかくマイクロ・ムスタファがこっちに戻ってきたんだし、ここはとりあえず乾杯といきませんか。キミがコッチの世界に戻ってこられて、こんな感じで一件落着というのは何だか物足りないクリスマスではあるけど。とにかく問題は解決したようだし、プレゼントは貰えなかったけど今日は三人で楽しくクリスマス・パーティーということで。
マイクロ・ムスタファ-----あの、そうはいかないかも知れませんよ。
Little Mustapha-----なんで?
マイクロ・ムスタファ-----その留守番電話ですが。
Little Mustapha-----あ、ホントだ。