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#204 「シュンニュンリュィウィチュリュムニ」 2023-12-24 (Sun)

 それは二年前のクリスマスのことだったんだワン。Little Mustaphaは自分の部屋のトイレの扉とちょうど同じ場所にある時空の扉を命と引換えに悪の組織に渡すことを拒み、強引な方法で窮地を脱したんだワン。しかしその代償は、扉の向こうに現れたサリーヌちゃんの入浴シーンでLittle Mustaphaがお湯をかけられただけではなかったんだワン。あの時ほぼ完成していた複製の時空の扉はLittle Mustaphaが壊した瞬間に強力なエネルギーを発生させたんだワン。その時にLittle Mustaphaから意識のようなものが時空間に放たれてしまったんだワン。

 時空間とは過去にも未来にも繋がっている場所だワン。だからそこに解き放たれた意識がすべての始まりの場所へ到達することもあり得るんだワン。そして、その意識が全ての物事の根源となることもだワン。

 時空を超えてやって来る全ての善良な魂も強大な悪も、Little Mustaphaの行動がなければ生まれなかったし、すべての次元で世界はバランスを保って存在できていたはずだったんだワン。

 その後、我々は時空間の混乱を収めることに専念することにしたんだワン。Little Mustaphaに責任を問うという意見もあったけど、最終的にLittle Mustaphaの行動で今のところ平和が保たれているという事でもあるから、Little Mustaphaのやったことに関しては正しい行動だったということになったんだワン。

 しかし時空間の混乱を収めることが困難を極めるということが解ってくると、根本的な問題を排除すべきという考えを持つ人が現れたんだワン。そして、密かに暗殺者を雇ってLittle Mustaphaを亡き者にしようとする者まで現れたんだワン。その人物が雇ったのが去年のクリスマスに現れた深淵の暗殺者だったんだワン。

 彼らはどの次元とも関わることのない遠く離れて孤立した次元からやって来るんだワン。それだから進んだ文明を持つ次元の研究者でさえ、その言葉すら良く解っていない状態だったんだワン。ところが、そんな彼らの言葉に精通している人物が一人いるのを我々は知っていたんだワン。なぜならその人物は我々捜査局の捜査官だったからだワン。

 暗殺という行為も、深淵の暗殺者を雇う行為も重大な犯罪なんだワン。だから我々はその捜査官がLittle Mustaphaの暗殺を企んでいることの証拠をつかもうと密かに捜査をしていたんだワン。ところがおかしな事が起きたんだワン。

 去年のクリスマスにやってきた深淵の暗殺者はLittle Mustaphaを目の前にしていながら暗殺を中止したんだワン。その時に何が起きていたのか?それは彼らの言葉を理解できる人がいれば解ったかも知れないんだワン。でもそれは不可能になったんだワン。何故ならLittle Mustaphaの暗殺を中止した深淵の暗殺者は彼を雇った捜査官のところへやって来て、捜査官を殺してしまったからだワン。

 深淵の暗殺者達は冷酷だけど、誇り高い人達とも言われているんだワン。だからそういう行動をするのには何か理由があったに違いないんだワン。だからその後はずっと深淵の暗殺者達の言葉の研究を続けているんだワン。そして、一つ解ったことがあるんだワン。それは暗殺者がLittle Mustaphaの暗殺を中断する直前、テレビの人が人形を使って喋っていたんだワン。その人形の喋ったのが深淵の暗殺者の使っている言語によく似ているということなんだワン。

 不思議なことにお天気のお姉さんが人形で喋る時には、言語としての特徴が殆どない変な音の連続なんだけど、もうひとりの怖いアナウンサーが使って喋ると言語的な特徴を持った音声になるってことだワン。だから今年もあのアナウンサーが人形を使って喋るかも知れないから、犬弟子サンタがクリスマス・マーケットを偵察していたんだワン。そして、やっぱり変なことが起きたんだワン。

 犬サンタ君が真剣な表情で話しました。そして話が終わるとまだ食べていない残りのジャーキーを静かにかじり始めました。

 Little Mustaphaは犬サンタ君の話の中に自分の暗殺のことが何度も出てくるので、恐ろしくて青白くなっています。


Little Mustapha-----ちょっと、なんでそんな恐ろしい話を今まで黙ってたんだ?

犬サンタ君-----ご主人さまの命令だから仕方なかったんだワン。Little Mustaphaに話すと恐がって余計なことをする可能性があるから、どうしても話さないといけなくなるまで黙っていて、って言われてたんだワン。それに、みなさんが何か変なことをして時空間の混乱が更に酷くなったりすると、Little Mustaphaを排除すべきという機運が高まってしまうんだワン。だからなるべく大人しくしていて欲しかったんだワン。

Little Mustapha-----そうなのか。でも今のところ時空がどうこうっていう感じのことはしてないよね。ということで、一安心ってことだと思うんだけど。

マイクロ・ムスタファ-----いや、ちょっと待ってください。犬サンタ君がそのことを話したということは、どうしても話さないといけない状況になっている、ということですよね。

犬サンタ君-----そうだワン。

Little Mustapha-----そうなの?ということは何か危険が迫っているってこと?

犬サンタ君-----そうかも知れないし、そうじゃないかも知れないんだワン。さっきあの恐い方のアナウンサーが人形を使って喋ったらアンドロイドの様子が変わったんだワン。それは人形を使って喋った内容がアンドロイド達に伝わったからだと思うんだワン。でも今のところあの複雑な言語に関しての研究はあまり進んでいないから、なんて言ったのかは解らないんだワン。

退役サンタ-----そうか。深淵の暗殺者か…。これはアンドロイド女子アナのようにはいかねえな。そうと知ってりゃ、もっと準備をしてきたんだが。

Little Mustapha-----というか、用心棒を依頼した時には説明してたはずなのに。もっと細けえことを気にしてくれないと、こういう時に困るんだから。

退役サンタ-----ちげえねえ。だが相手が深淵の暗殺者じゃ、準備した所でほとんど勝ち目はねえけどな。

ミドル・ムスタファ-----そんな?それじゃあ、何のための用心棒だか解らないですよ。

退役サンタ-----まあ、可能性は無いわけじゃねえぜ。お前らもちゃんと気合い入れていけばこっちにも勝機は生まれるってもんよ。

Dr. ムスタファ-----Little Mustaphaも大変だなぁ。

Little Mustapha-----え、ボクだけってこと?でもあれだよ。さっきのカズコみたいにお前達は知りすぎたってこともあるからね。みんなだって気をつけないとね。

マイクロ・ムスタファ-----そうですね。私達もLittle Mustaphaと同じく次元を行き来したりしてますし、あの扉が壊される瞬間にそこにいたのです。オプション的に我々も暗殺のリストに載っている可能性だってありますよ。

ニヒル・ムスタファ-----オプションって。なんか追加サービスみたいな扱いなのか、オレ達は?

マイクロ・ムスタファ-----そんな印象でしたか?たまにカタカナ語を使ってみたくなるんですが、思ったような感じでは伝わらないですね。

ミドル・ムスタファ-----そこは今気にしなくても良いと思いますが。

Little Mustapha-----でも、改めて思い出してみるとやっぱり恐いなあ。あの時はいきなり目の前に現れたからね。その深淵の暗殺者っていうのが。ちょうど椅子を使って防御の練習をしてたところに出てきたから、椅子が暗殺者の体にぶつかったんだけど。硬い金属みたいな感じだったよ。あれって体なのか鎧なのか解らないけど。どんな武器でも倒せないような雰囲気だったし。

退役サンタ-----まあ、鎧だとしたら、それだけの硬いものが必要なほど内側は脆いって事かも知れねえぜ。あるいはそれが体の一部で外骨格みたいなものだったとしたら、柔軟な動きは出来ねえってことにもなる。

Little Mustapha-----でもあんなにカチコチだしなあ。それに顔も恐いんだよ。ちょっとスズメバチみたいな感じなんだけど、全体が青白いっていうか。もしかすると目が青く光ってたのかも知れないけど。あんなものに狙われて生きていられたというのは奇跡だよね。

ミドル・ムスタファ-----せっかく退役サンタさんが弱点を見つけてくれそうな感じなのに、あなたが色々喋るからこっちも怖くなってきますよ。

Little Mustapha-----だって実際に恐いんだし。見た目だって言葉で説明するのが難しい程の恐さなんだよ。