「穴匙」

まえがき

 これは the Peke-Files : Season 2 の最終回ですが、なぜかthe X-Files : Season 2 の最終回のネタバレを大量に含んでおります。なので、the X-Files : Season 2 をまだ見ていなくて、内容を知りたくないという方は読まない方が良いです。

 或いはthe X-Files : Season 2 の最終回を今回の話のパロディと思って見ることも可能です。そんなことをする人はいないと思いますが。

1. 朝の那場保家

「昨日の地震はかなりでけぇかったんでねえんべかな!」

那場保権之小(ナバホ・ゴンノショウ)の息子は食卓で年老いた父親に向かって興奮気味に話していた。ゴンノショウは虚ろな目で息子が話すのを聞いていたが、最後に頷いただけで特に話を広げようとはしなかった。

 そこへゴンノショウの孫、那場保権多(ナバホ・ゴンタ)がやって来た。

「ちょいとサイクリングに行って来るだげな!」

どこの訛りか解らない喋り方のゴンタに父親は「だべな」と良く解らない返事をした。それを聞いて出かけようとするゴンタをゴンノショウの言葉が引き留めた。

「蛇たちは気が立ってるでえの。見付けても関わらねえことだっちゃ!」

ゴンタは迷信深い祖父の言うことの正確な意味は解らなかったが、いずれにしても蛇を見付けても捕まえたりするような趣味はないのでそのまま頷いて玄関へと向かった。

 ゴンタの父にはゴンノショウが何かを言わんとしていることが良く解る。なにしろ生まれてからずっと、ゴンノショウの遠回しな抽象的な詩のような話を理解したようなしないような感じで育ってきたのだから。おそらく昨晩の地震と関係があるのだろう。

「何があるべな?」

ヘンな訛りでゴンノショウに聞くとゴンノショウは全てを悟った表情を変えずにこたえた。

「あなどんでけえくゆれとりましらほんまものにまじであらねばでてきちまうっぺな!」

ゴンノショウは誰にも理解出来ないようなヘンな方言で説明した。おそらく、真実が姿を現すとかそんな事を言っているのだろうとゴンタの父は思った。ゴンノショウは昔からそんな事ばかり言っていたのだから。


 ゴンタは彼の住む土井那珂村の山道を高校の入学祝いに買ってもらった自慢の12段変速の自転車で走り回った。それから1時間も経たないうちにゴンタは明らかな動揺を顔に浮かべて戻ってきた。

「ヘンなもんさでごんす!」

何と言っているのか良く解らないが、ゴンタに声をかけられた父と祖父は表情を曇らせて玄関先へと向かった。そこにはゴンタが運んできたミイラ化した遺体が横たわっていた。それは人間のような形をしていたが、それを人間の遺体と言うにはあまりにも異様な姿をした遺体であった。

「あらどんでもこらっでげべな。してこらまでこてねばね」

遺体を見たゴンノショウはそれだけ言って家の中へ戻って行った。

「何だって?」

ゴンタは父親にゴンノショウが何と言っていたのか聞いた。

「こんなもんさはすぐに元に戻しとくっちゃ。さもねえとやつらがやって来るでえな。とかそんな感じだべ」

ゴンタは頷いたものの父と伴にしばらくその異様な遺体を眺めていた。

2. 東京都千代田区、薄汚いアパートの一室

 男は平日の昼間にもかかわらず薄汚いソファに座って携帯ゲーム機をいじっていた。そんなもので遊ばなくても部屋にはいくつものパソコンが置いてあるのだが、それらは何か他の目的のために動いているようだった。一日中勝手に動くパソコンと、それらに囲まれて携帯ゲーム機をいじる生活は、はたから見れば何も起きていないのと同じことだった。そして、彼自身もこれが何も起きない生活であると思っていた。しかし、次の瞬間、彼に大きな変化が訪れることになった。

 勝手に動いているパソコンの中の一つが警告音を鳴らし、何かをダウンロードしていることを示す画面を表示した。男はソファから飛び起きて、そのパソコンの画面にへばりついた。

「スゴイよ!ヤバイよ!」

男は見た目から想像するよりも高い声で興奮して声を出していた。そして男はメモリーカードを取り出すとパソコンに接続して、ダウンロードされるファイルを片っ端からメモリーカードにコピーしていった。


 男が不正にそのファイルを手にしたことは、静かに世界に衝撃を与えていた。誰にも知られてはいけない機密事項が満載のファイルの流出によって、誰からも見えない場所で世界を動かしている人間達は「また面倒なことになった」と頭を抱えていた。

 この出来事は彼らの緊急連絡網で世界中の担当者に伝えられ、そして最終確認の電話がウィスキーのニオイのたちこめる部屋にかかって来る。その部屋でウィスキーをラッパ飲みする男は電話をとる度に「すでに手は打ってある」というのがそろそろ面倒になっていたが、とりあえず騒動が収まるまで「すでに手は打ってある」と言い続けなければいけないようだ。本当のところはまだ手は打っていなかったのだが。