「穴匙」

15. 那場保家

 那場保家に向かう途中、モオルダアはゴンノショウから色々な話を聞いた。そして聞いていくうちに、注意して聞いていれば意外とゴンノショウの言うことも理解出来るということに気付いてきた。

「わてのところの親戚にゃホリヘっちゅうのがあって、あれもどえりゃあ訛りでな。だけども、仕事のあいだに事故にあいよれば、そのままお亡くなりになりもしでよ。なんでもむごたらしいことだべからな。…ホリヘの遺体を放置して逃げたようなヤツがいたらタダじゃおかねえよ!」

モオルダアはゴンノショウがいきなり普通の話し方をしたのに驚いた。そして、それはもしかすると彼がホリヘの遺体を置き去りにして逃げたのをゴンノショウが知っていてワザとそうしたのではないかと思って、モオルダアはゾッとしてゴンノショウを見つめた。ゴンノショウはこれまでと同様に静かな表情でいた。たぶん安心して良いのだろう、とモオルダアは思った。ゴンノショウさんとホリヘが親戚なのは偶然で、きっと最後に普通に喋ったのも偶然だろう。ゴンノショウが日本中の方言を使うとしても、その中には標準語に近いものだってあるのだろうから。

 ゴンノショウはモオルダアが冷や汗をぬぐっているのにも気付かずにまた静かに喋り出した。

「植物って土の中から顔をだす感じ?それって秘密とかでも一緒で、真実はそのうち解っちゃうみたいな?」

モオルダアはさらに驚いてゴンノショウの顔をまじまじと見つめてしまった。

「それって、方言なんですか?」

「おらあのばっさまはコギャルだっちゃ!」

モオルダアは、自分がからかわれているのではないかと思っていた。こういう場合は信じたフリをして驚いたようにしていれば、きっとそのうちゴンノショウがニヤニヤし出すに違いないと思った。そして、そのようにしていた。

 しかし、ゴンノショウはいつまでも表情を変えずに、さらに話し始めた。

「ちょっと前までは穴匙(アナサジ)村っちゅう村があったでな。そいつがある日突然消えよったんだべ。村人がみんな殺されちまったんだとか言うもんもおりますが、人間が跡形も残さず消えるこったあありまへんで」

「それはどういう事です?もしかして村人全員が異星人に連れ去られたとか、そういう話ですか?」

モオルダアは驚きと期待の入り交じった声で聞いたが、ゴンノショウは静かにクビを振った。

「穴匙村はな、隣の穴箸(アナハシ)村と合併して穴箸町になったんだべな」

どうしてそんな話をするのか疑問に思っていたが、モオルダアはすごく疲れた気分になった。そうこうしているうちに那場保家に到着した。