球君島・第三話
キュベレイ団員-----おい、ジム団員。オマエをボールを木に引っかけた罪とボールを釣鐘の下に入れた罪で逮捕する。
ジム団員-----なんすかそれ?そんなことはしてないって言ったじゃないっすか。
キュベレイ団員-----それなら、ボールが釣鐘の下に入れられた時間にオマエのアリバイを証明できる人がいるのか?
ジム団員-----その時ならみんなを探して島を歩いてたっすけど。
キュベレイ団員-----それじゃ、アリバイを証明できる人はいないということだな。残念だが一緒に来てもらおうか。
可愛いジム-----た、大変だぁ!
キュベレイ団員-----なんだ?オマエはいつも大変だな。
可愛いジム-----そ、それが大変なんです。またボールが取れなくなりました。
ザク巡査-----なんだって?!
名探偵ズゴック-----しまったぁ...。
可愛いジム-----あそこです。
ザク巡査-----これは酷い。
キュベレイ団員-----いったいどうやすればあそこにボールが入るなんてことになるんだ?
コルタナ団員-----解析中...。あの上の窓から投げ入れられたようね。
ジムⅡ団員-----こんな鉄の網があったんじゃボールは取れませんね。
キュベレイ団員-----これでこの島の全てのボールが使えなくなったワケか。
ジム団員-----こんどは絶対オレじゃないっすよ。ずっとみんなと一緒にいたっすからね。
キュベレイ団員-----謎は深まるばかりだ...。
レッシィ団員-----あーぁ。この島狭いからジムⅡ君と二人きりになれるチャンスがないし、それにヘンな事件まで起きて。イヤになっちゃうなぁ。
ボール夫人-----ホントにイヤな事件だこと。
レッシィ団員-----やだ、なんですか?いきなり。
ボール夫人-----また会いましたね。これは偶然なのか、それとも運命の巡り合わせか。
レッシィ団員-----狭い島なんですから、何度会ってもおかしくないですよ。
ボール夫人-----そうかしら。それにしても恐ろしい事件でしたね。ボール君達がみんな取れなくなってしまった。でもあなたにとっては都合が良いことかも知れない。
レッシィ団員-----私に何の関係があるんですか?
ボール夫人-----もう忘れたのかしら。あなたが財産を相続するためにはボール君と結婚しなければいけなかったこと。遺言状にはそう書いてあったはずです。
レッシィ団員-----えぇ?そうでしたっけ。なんかちょっと違ってた気がするけど...。それに、それって何年も前の話ですし、この島とも関係のない事でしたよ。
ボール夫人-----いいえ。もうそんなことはどうでもイイのです。あの三兄弟が取れなくなったことで、私はやっと本当の事を言うことができるのです。
レッシィ団員-----本当の事?
ボール夫人-----そうです。私は...。
ボール夫人-----私はあなたの母親なのです。
レッシィ団員-----やだ、なに言ってるんですか?そんなの有り得ないですよ。
ボール夫人-----そんなことはありません。こうしてこの島で巡り会えたのも親子の絆があればこそ。
レッシィ団員-----ウソ言わないでくださいよ。だいたいあなたみたいな丸っこい人から私みたいなスレンダーな美女が生まれるワケないですからね。
ボール夫人-----うぅ...!
名探偵ズゴック-----そのとおりです。
ボール夫人-----あ、ズゴックさん。
名探偵ズゴック-----あなたはシーズンシート欲しさに恐ろしい計画を立てたのですね。
ボール夫人-----計画なんて、どうしてそんな事を言うのですか。私はあなたが手紙を持ってくるまでシーズンシートが売り切れたことなど知らなかったのですよ。
名探偵ズゴック-----いや、そこは私も騙されるところでした。でもあなたは私が手紙を持ってくる前にシーズンシートが売り切れいていた事を知っていたはずです。そこであなたは我々応援団員のことを密かに監視して、決起集会がこの島で行われることを知ったのです。あの手紙も、書いたのは小さなボール君ではなくて、あなたが書いたものを小さなボール君に預けたものです。そして、無人島のはずのこの島に本ボール家とワケボール家という二つの家系をでっち上げた。その二つの家の争いのあげくにボール君達が取れなくなったと見せかけようとしたのです。
ボール夫人-----そんなことありませんよ。この島には昔からボール家があるんです。
名探偵ズゴック-----そうは思えませんね。まだ出来ていないお寺を急いで作ろうとしていたのもその証拠です。なぜか小坊主になっていた旧ザク団員の話を聞いて私はそこに気付いたのです。
レッシィ団員-----でも、何でそんな事をする必要があるんです?
名探偵ズゴック-----それは、あなたをジム団員と結婚させるためです。
レッシィ団員-----えぇ?!なんで?
名探偵ズゴック-----あの五年前の遺言状を覚えていますか。あれによると、あなたがシーズンシートの購入の権利を相続するためにはボール君、旧ザク団員、ジム団員の三人の中から一人を選んで結婚しなければいけなかったはずです。
レッシィ団員-----そういえば、そんな気がする。
名探偵ズゴック-----ボール夫人は始め、ボール君とあなたを結婚させようとしていましたが、それが無理だと解ると別の方法を考えたのです。あなたがボール君以外と結婚してもシーズンシートの購入の権利を自分のものに出来るように。
レッシィ団員-----それで、私のお母さんとか言い出したんですか?そんなウソで私を騙せると思ってたんですか?もぉ。
ボール夫人-----ふん。もう少しのところだったのに。でもどうなの?レッシィ団員。あんたジム団員と結婚するつもりはないかい?もちろん私の娘として。
レッシィ団員-----何でですか。私にはジムⅡ君がいるんですからね。
ボール夫人-----ものは考えようだよ。ジム団員と結婚すればジムⅡ団員との距離も近づくじゃないの。そんな背徳な関係ほど燃え上がるってこともあるのよ。
レッシィ団員-----げぇ...!なに言ってるの?そんなこと信じらんなぁい!
ボール夫人-----あらそうなの。せっかくジム団員を早めに連れて来ることに成功したのに。全部だいなしじゃない。それじゃ、もうこの島にも用無しだから、この辺で失礼しますね。今年もハマスタを応援する準備をしないと。あなた方もちゃんと応援しなさいよ。
レッシィ団員-----あれ、行っちゃった。良いんですか?逮捕しなくて。
名探偵ズゴック-----そうですが。でもボールを取れなくしただけなら、犯罪になるのかどうか...。
キュベレイ団員-----おお、探偵。何をしていたのだ。今この和尚を尋問していたところだ。寺がないのになぜ和尚がいるのか?ということだしな。
名探偵ズゴック-----それなら、もう大丈夫ですよ。目玉和尚さん。いや目玉さん。もう和尚のフリをする必要はありません。
目玉和尚-----どうしてその事を...?
レッシィ団員-----ぜんぶボール夫人の自作自演だったんだって。もうやんなっちゃう。
名探偵ズゴック-----ボール夫人はレッシィ団員とジム団員を無理矢理結婚させようとしていたのです。
ジム団員-----なんでオレなんすかね?
名探偵ズゴック-----それは五年前のあの遺言状にまで話がさかのぼるのですが。
旧ザク団員-----ああ、なんかありましたな、そんなことが。
ザクレロ団長-----あの時に比べると、レッシィ団員は随分と性格が変わったみたいだがな。
レッシィ団員-----余計なお世話でス!
名探偵ズゴック-----それはともかく、レッシィ団員にボール夫人が自分の母だと信じ込ませることが出来ずに、計画は失敗したようです。
コルタナ団員-----解析中...。それじゃあ、目玉和尚さんやボール君達はどうしてこの島に来たのかしら?
名探偵ズゴック-----ボール君達はまだ子供ですから、連れて来るのは簡単だったと思います。最初に会った時の様子からすると、本当にこの島に遊びに来ていたようにはしゃいでましたから。
キュベレイ団員-----じゃあニセ和尚はどうなのだ?まさかボール夫人とグルになってボールを取れなくしたんじゃないだろうな?
目玉和尚-----それが...、恥ずかしい話でございまして。実は私は以前からずっと寺の和尚に憧れて、いつか和尚になりたいと思っていたのです。おそらく SNS にそういう夢を書いていたのをボール夫人が見付けたのだと思いますが。私に寺をやってみないか?と持ちかけてきたのです。しかも最初から小坊主付きという好条件でした。あまりの嬉しさに、私は疑うこともせずに引き受けてしまったのです。
ザク巡査-----それが恐ろしい計画の一部だったということですか。
目玉和尚-----まさか、あんな恐ろしい事に自分が関わっていようとは。金輪際和尚になろうなどと考えるのはやめることにします。
コルタナ団員-----だいたいボール夫人に誘われて和尚になるというのがヘンだわ。
ザクレロ団長-----まあ、細かいことを言い出すとなあ。なんで旧ザク団員が小坊主になってたのか?ってこともヘンだし。まあ、予想どおりではあったが、犯人が解って良かったじゃないの。
名探偵ズゴック-----そうなのです。私はボール君が木に引っかかっていた時の目玉和尚のつぶやきに騙されるところでした。あの時に本当のことに気付いていれば、ボール君達が三人とも取れない状況になることは防げたかも知れない。
ジムⅡ団員-----それってどういう事ですか?
名探偵ズゴック-----あの時和尚さんが「サイン違いじゃが仕方がない」と言ったのを私は聞いたのです。それにどんな意味があるのか、私はずっと考えていました。しかし、結局そのネタは広がらなかったのです。なぜなら、その言葉に裏の意味などなかったから。目玉和尚さんはジム団員を犯人だと考え、そうつぶやいただけでした。ジム団員はキャッチボールをしているといきなり変化球を投げたりしますし。それで暴投になったりもしますから。
旧ザク団員-----その場限りのネタだった、と。
名探偵ズゴック-----そうなのです。それから団長のニュータイプのネタとか、小坊主の「どこかで聞いたような台詞」なども、マニアックですがネタであることに気付くとちょっと面白いかも知れません。
ジム団員-----なんかワケ解んなくなってきたっすね。
キュベレイ団員-----それよりも、あの釣鐘の件はどうなのだ?あの重たいものを誰がどうやって持ち上げたのだ?
レッシィ団員-----そうですよ。それに釣鐘が勝手に歩いたって話もあったんですよ。
名探偵ズゴック-----それならきっとこういうことです。まずボール夫人がボール君を睡眠薬かなにかで眠らせる。そしてボール君を眠らせたままの状態であの事件の場所まで運んで行って、そこに寝かせておくのです。そして、問題は釣鐘をどうやって運んだのか?ということですが。気付いている人もいるように、あれは釣鐘ではなくてスターマンなのです。
コルタナ団員-----だから、スターマンじゃないって。
名探偵ズゴック-----ボール夫人は船で届いたスターマンを箱から出して、言葉巧みにあの場所まで連れて行ったのです。なにも知らないスターマンはボール君を踏んづけてしまう。そしてそれはボールなので踏んづけたスターマンは転んだ拍子に逆さまになって、そしてボール君の上に落ちてくる。
ジム団員-----それマジっすか?
旧ザク団員-----まるで漫画ですな。
ザクレロ団長-----事実は小説よりも奇なり、ってことか。
コルタナ団員-----旧ザク団員は「漫画」っていったのよ。
キュベレイ団員-----それはどうでもよかろう。
レッシィ団員-----あ、誰か来ましたよ。
ザクレロ団長-----あ、あれは...。
オーナー・ダグラム-----やあキミ達。元気でやってるかね。
ザクレロ団長-----これはオーナー。お久しぶりであります。
オーナー・ダグラム-----いや、まったく良い季節になった。「春風や まりを投げたき 草の原」良い句だねえ。
コルタナ団員-----解析中...。正岡子規ね。
ジム団員-----なんで俳句なんすか?
オーナー・ダグラム-----今回はそういう話じゃなかったのかね?「むざんやな 甲の下の きりぎりす」とか。甲じゃなくて「メットの下」ならなお良かったがな。とにかく、そういうことだろう?
名探偵ズゴック-----実はですね。そっち方面は話が膨らまなかったので、今回は島の話なのですが事件と俳句は関連がないのです。
オーナー・ダグラム-----おや。それは残念。プロットはもっと綿密に考えないと。そんな事じゃキミ達はいつまで経っても報酬が貰えないままだよ。
レッシィ団員-----どっちみちオーナーは報酬なんて払う気ないんでしょ?
ザクレロ団長-----こ、こら。そんな口の利き方はいかんよ。
オーナー・ダグラム-----まあ、良いじゃないの。今年は頑張り次第でボーナスだってあるかも知れないぞ。
一同-----エーッ!本当ですかぁ?!
オーナー・ダグラム-----ウソに決まってるだろう。損得勘定抜きで心の底から自然と沸き上がってくる感情を表現する。それが真の応援というものだ。
レッシィ団員-----なんだ。期待して損しちゃった。
コルタナ団員-----解析中...。これで二度目だわ。
ジムⅡ団員-----それよりも、どうしましょうか。次の船が今日の最後の便ですよ。
旧ザク団員-----もうそんな時間ですか。
キュベレイ団員-----だが取れないボール君達を放って帰るのは忍びない。
オーナー・ダグラム-----なんだね。またボールが取れなくなったのか?そういうことなら私に任せなさい。その取れないボールというのはどこにあるのだ?
ザクレロ団長-----こっちですオーナー。
オーナー・ダグラム-----よっと!
ボール君-----ありがとう!
レッシィ団員-----うわぁ。さすがオーナー。ビッグですね。
オーナー・ダグラム-----よいしょ。
ボール君-----ありがとう!
ジム団員-----オーナーのパワーっすね。
オーナー・ダグラム-----うーむ...。これはどうにもならないなあ。
ボール君-----エッ?なんでボクだけ?出してくださいよ。この網外したら良いじゃないですか。
オーナー・ダグラム-----そんな事したら犯罪だからな。
ボール君-----そんなぁ...。
キュベレイ団員-----そこには屋根もあるしな。ちょっと我慢すれば島の管理人がくるだろう。その時に助けてもらうが良い。
ジムⅡ団員-----じゃあ、みなさん。そろそろ行きましょう。船が出てしまいますよ。
ボール君-----ちょっと待って。おいていかないでぇ...!
レッシィ団員-----ねえ見てあそこ。電線のところに鳥が3羽。あっちにも3羽。それからあそこに7羽。
ザク巡査-----まさに三三七拍子ですな。
ザクレロ団長-----我々には俳句よりも応援ってことだな。帰ったら早速準備だな。みんな、明日は応援の順番決めだから遅れないように。
一同-----はーい!
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