4. さびれたデパートの前
[ばあやが誰かを待っている]
[アティラーノン入場]
アティラーノン : ばあや!
ばあや : おお、姫様。無事にお着きになりましたか。
アティラーノン : もう、ばあやったら。あたしはもう立派な大人よ!ここに来るぐらいどうってことないんだから。子供扱いしないでちょうだい。
ばあや : ばあやにとっては姫様をお守りするのが一番の勤め。どんな時でも心配せずにはおれませぬ。
アティラーノン : それにしても、思った以上にこの国は平和ね。そして静かだわ。どうしてこんなに静かなのかしら?
ばあや : 今日はこのデパートが定休日なのでございます。それで周りの商店も店を閉めているということで、こんなに静かなのでございます。
アティラーノン : これではちょっと寂しいわね。こんな寂しいところでホントにあたしの「夢みた人」は現れるのかしら?
ばあや : それはばあやにはなんとも言えませぬ。それよりもデパートの人がお待ちかねじゃ。そろそろイベントの打ち合わせを始めなくてはなりません。早く中へまいりましょう。
[アティラーノン、ばあや退場]
[モオルダア、スケアリー入場]
スケアリー : ちょいとモオルダア、ホントにここであってるんですの?
モオルダア : そうだけど。でもキミにはまだ何も話してなかったよねえ。どうしてそんなふうに疑ったりするんだ?
スケアリー : そうではなくて、ここって、あのどこかの国のなんとかというお姫様がイベントをやるっていうデパートですわよ。
モオルダア : それはどうにも怪しいなあ。
スケアリー : 怪しいってどういうことですの?
モオルダア : 今回の件がボクらに任されたのにはもちろん理由があるんだけどね。
スケアリー : それはあたくし達が優秀な捜査官だからに決まっていますわ。
モオルダア : そうじゃなくて、このテロには政治や宗教的な理念がないんだよ。なんと言っていいか解らないけどね。ある予言書を解読していた人がいて、その人の説によるとどう考えても数日中にここで爆弾テロのような恐ろしい事件が起こるということなんだよ。そんな予言で警察が動くワケにもいかず、ボクらが捜査を依頼されたんだけど。
スケアリー : まあ!それじゃあ、あたくし達はその怪しい予言書の研究者のどうでもいい説のためにこんな捜査をしているの?そんなことなら、あたくしはニコラス刑事さまとイベントの警備をいたしますわよ。そんな予言なんかに振り回されるのは御免ですわ!
モオルダア : でもどっちにしろこのデパートに来ることに変わりはないんだから。もしかすると、そのどこかの国のなんとか姫も何か関わりが…。あれ、誰か来るぞ!
スケアリー : ホントですわね。
[モオルダア、スケアリー物影に隠れる]
[ニコラス刑事入場]
ニコラス刑事 : ああ、まったくどうして私がこんなことをしなければいけないんだ?私は凶悪犯罪や手強い知能犯相手に自分の能力を使うべきなのだ。それがどうしてイベントの警備なんか。思えばあの高原での事件が私の人生を狂わせたのかも知れない。あの時に、あの二人が現れなければ…。あの事件が謎を残しながらも解決したおかげで私は東京に戻って来られたワケだが。なんだか戻ってからの私はさっぱり良いところがないな。伝説とか予言がどうとか、このおかしなイベントの警備はあの二人にピッタリだと思っていたのだが、まさか断るとは考えもしなかった。私がこんな警備を担当するなんて…。
出世の道は平坦かも知れない。しかし正義の道は長く険しい。私は刑事になんかならなければ良かったんだ。
[スケアリー出てくる]
スケアリー[歌] : それは違うわ
あなたには出来るわ
あたくしの愛の力で
あなたは変わるわ
ニコラス刑事 : あれ?スケアリーさんじゃないですか。私は今回のイベントの警備を断られたと思っていたのですが、間違いだったのですか?
スケアリー : もちろん。そんなことはございませんわ。あたくしがあなたからの依頼を断るはずはございませんから。ウフフフッ。
[モオルダア出てくる]
モオルダア : そうじゃないでしょ。ボクらにはもっと重要な任務があるんですよ。
ニコラス刑事 : あれ?モオルダアさんも。でもどうして二人はここにいるんですか?
スケアリー : モオルダア、あなたは一人で怪しいテロの捜査をすれば良いんですわ。あたくしはニコラス刑事さまとイベントの警備をいたしますから。
ニコラス刑事 : いやあ、それなら大丈夫ですよ。それよりもテロってなんですか?そんな恐ろしいことがあるのなら二人はそちらに専念していただきたいし、それに我々も出来る限り協力したいと思いますが。
スケアリー : テロなんてそんな大したことじゃありませんわ。ホントかどうか解らない予言の話ですもの。それよりもイベントの警備のほうが大切ですわ。あたくしとニコラス刑事さまがイベントの警備をしてモオルダアがテロの捜査をすれば良いと思いませんこと?
モオルダア : それはどうでも良いけどね。それよりも、どこかの国から来るお姫様とこのテロの情報は何か関係があるとは思わないか?
スケアリー : それは関係ないですわ!
ニコラス刑事 : でも、まったく違うことをしているはずなのに、ここでこうして我々が出会ったということは偶然ではないかも知れませんよ。
スケアリー : そのとおりですわ!
ニコラス刑事 : それじゃあ、ボクは警備のことについてこのデパートの責任者と話がありますから。なにか解ったらお互いに連絡を取り合いましょう。それでは。
[ニコラス刑事退場]
スケアリー : ああ、行ってしまいましたわ…。それでモオルダア。その予言というのはなんなんですの?
モオルダア : それはここで話すにはちょっとややこしすぎるんだけどね。それよりも今日はキミなんかおかしくないか?
スケアリー : どこがおかしいというんですの?あたくしはいつも変わらず完璧ですわ!
モオルダア : それなら良いんだけど。
[モオルダア退場]
スケアリー : ああ、ニコラス刑事さま!どうしてあなたはニコラス刑事さまなの?バラの花の名前がニコラス刑事さまだったらバラはニコラス刑事さまで、ニコラス刑事さまはバラですの?
スケアリー[歌] : おかしなことね
頭の中がイバラの道よ
あなたのことを思うだけでも
トゲが刺さるの
あたくしの胸を
チクチクニコラス
晴れた青空
曇らすニコラス
[スケアリー退場]