18. スケアリーの報告書より抜粋
結局あの生物が何だったのか、そして本当に存在していたのかは不明のままですわ。モオルダア捜査官によれば「裏で大きな組織が関与している」とのことですけれど。今回の捜査で得られた証拠から、そのような組織の存在を断定することは出来ませんのよ。
そして、必死の捜索にも関わらず行方の解らなかった遠條刑事ですけれど。二日後に都内の病院で発見されましたのよ。発見当時は一時的な記憶喪失で身元がわからなかったのですけれど、警察から行方不明の遠條刑事ついて首都圏の主要な病院へ連絡が行っていたので、すぐにその患者が遠條刑事だということが解りましたのよ。
精密検査の結果、遠條刑事に異常は見付かりませんでしたわ。そして、あの展示場での記憶は途中から全て無いとのことですわ。さらにどうやって遠條刑事がその病院へ搬送されてきたのかも解りませんのよ
しかし、いまだに多くの謎を残したまま捜査を打ち切らないといけないのは残念ですわね。未知の寄生生物がいるということを証明するものがなくなってしまった今、これ以上捜査は必要ないと判断されてしまいましたわ。
だからといって、安心していいとは限りませんのよ。あたくし達の身の回りには、常に未知の危険があるかも知れない。そう思って用心しなくてはいけませんわね。
19. モオルダアの報告書より抜粋
謎の救急隊員により遠條刑事は助けられ、そしてあの展示会会場でも大きな騒ぎを起こさずにすんだ。それはあの状況においては最良の結果だったかも知れない。しかし、氷室君の遺体の扱いに関する不可解な点なども含めて、このまま捜査を打ち切って良いワケはい。これはスキヤナー副長官に異議を申し立てるべきだが、そういうのって副長官に言うことなのかな?まあ、とりあえず言ってみよう。というよりも、この報告書は副長官に提出するんだったな。
そして、あの寄生生物がどうして生まれたのか。冷凍庫に入って写真を撮る悪ふざけが原因とは思えないが、そんなことが話題になっているのと、今回の事件が同じ時期に起きたのは偶然がもたらした皮肉な結果なのか。或いはいくつかの「悪ふざけ」は何かをカモフラージュするために意図的に誰かが行わせたものなのか。
もしも、病院で私の見た二人組や、救急隊員が何かを隠蔽するために行動していたとしたら、その隠蔽したいものはどうして人の目に触れる場所に出てきたのだろうか。故意なのか、過失によるものなのか。証拠を隠したと思われる者達の行動があまりにも的確で迅速であったことも考えると、あの寄生生物の人体への影響を調べるために密かに人体実験を行っていたとも考えられる。
問題はその実験の先にあるものかもしれない。彼らはあの生物を兵器として使って、敵を無力化させる目的で作ったのか。そうではなく人間の脳を操り感染者をゾンビ兵士として戦わせることを目的としているのか。
ただし、あの生物の存在が確認されなければ、それを考えるのは無意味かも知れない。しかし、その存在の可能性を否定して、実際に被害が出た時になってから対策を考えるのは危険なことである。冷凍庫の中での警官の不審死、そして遠條刑事の異常行動。それらは未解決のまま怪事件としてペケファイルとして保管されるだけで良いのだろうか?