部屋
こうしてプレゼントの予感など微塵も感じさせないままクリスマス・パーティーは終了しました。犬サンタ君達の持っていた装置でメンバーは一人ずつ自分の家に転送されていきました。今回の舞台となった家にはあとから別のエージェント達がやって来て調査をするそうです。
Little Mustaphaが明かりの点いていない自分の部屋に戻されてからも、しばらく魂が抜けたようにボーッとしていました。久々に変に盛り上がってしまって、ワケの解らないことを喚いたりして。あんなふうにテンションが上がったあとというのは、なんとも言えない虚脱状態に陥ってしまいます。
自分は自分という人間に向いてないな、とかそんな事も思っていました。
それからどれくらい経ったか良く解りませんが、Little Mustaphaはようやく部屋が暗すぎることに気付きました。そこに気付くと同時にもう一つの事にも気づいたのです。それはいつもならけっこうマズいことになるのかも知れません。しかし今日起きたことを考えると、些細な事のようにも思えてしまいそうです。
Little Mustaphaはまずルームランプを点けてから、電球色に照らされた部屋でもう一つの事に対処することにしました。
そのもう一つの事とは、あの留守番電話です。「いつもならクリスマス・パーティー中にマイクロ・ムスタファがそれに気付いて、その内容を再生したりする、留守番電話のメッセージが残されていることを示すランプ」が点滅しているのです。
ここでまた恐ろしいメッセージを聞くことになったら、もう何も出来ることがないという状態のLittle Mustaphaでしたが、彼にはそれが危険なものではないのがなんとなく解りました。
留守番電話機のランプはいつものピカピカする赤や緑ではなくて、少しぼやけたようなパステルカラーという印象の色を次々に点滅させていたのです。
内容が何だとしても、この点滅を消さない限り気になって眠れないというのもいつものことなので、Little Mustaphaは再生ボタンを押しました。
留守番電話-----ニセン、ニ、ジュウ、イッケンノ、メッ、ッセイジ、ガ、アリマス!サイショノ、メッセイ、ジ!ゴゴ、ゴジ…ゴゴゴ…ゴ…ピーッ!「ちょいと、どういう事なんですの?今年もあたくしに黙ってクリスマス・パーティーを開いているのかとおもったら、その部屋に人の気配がないじゃありませんこと?こんな事が許されると思っているのかしら?あたくしは毎年過密なスケジュールにも関わらず、パーティーに参加するための少しの時間は空けてあるというのに。それに今年は20周年イヤーだというのに、あたくし活躍の場が用意されてないって気がしませんこと?その部屋に人の気配が戻って、そしてあたくしに謝罪する気があるのなら、あたくしのお屋敷に電話するんですのよ。電話番号は666の…」ピーッ!メッセイジ、オ・ワ・リ!ツギノ、メッセ、イジ!ゴゴ…ゴゴゴ…。
やっぱりプリンセス・ブラックホールでした。しかし、全く問題がなかったワケではありません。メッセージは2021件残されているということなのです。今のメッセージの再生時間を単純に2021倍してみると、Little Mustaphaがこの部屋にいなかった時間を簡単に越えてしまうのですが、そこは気にしてはいけません。
残りのメッセージを聞く間、他にすることはないのかと思って部屋をウロウロしていると、足下に見慣れない紙切れを見つけました。
それは宅配便の不在連絡票のように見えましたが、文字やデザインなどがどこかで見た感じです。Little Mustaphaは、それがサンタへ送る「プレゼントリクエスト用紙」のデザインと一緒のものだということがすぐに解りました。
今夜、サンタはここへやって来ていたのでしょうか?不在連絡票の宛名のところが途中まで書かれていたのですが、それ以降が書かれていないのも気になりました。
Little Mustaphaが不在連絡票を手にしたままここで何があったのかをボンヤリ考えていると、部屋にあった悪魔デバイスが動き出して人の声が聞こえてきました。
これはかなり不意打ちだったので、Little Mustaphaは心臓が止まるかと思うぐらい驚きました。そして鼓動が早くなって手が震えそうになったまま悪魔デバイスを覗き込みました。
画面には何も映っていませんが、知っている声が聞こえてきます。
悪魔デバイス-----Little Mustaphaさん。まだ起きてますか?
Little Mustapha-----あ、サンタの孫娘さん。
サンタの孫娘-----さっきは混乱していて何も言わないままでしたが。今日のあなたの行動は、あれが正解だったと思います。実際に他に何が出来たのかと考えると、私達は何も出来ませんでした。今回助かったのはあなたのおかげです。ありがとうございます。
Little Mustapha-----いやあ、そんなことを言われるとねえ。照れちゃうなあ。でも変なテンションで失礼な事を言ったかも知れないけど、そこは謝らないと。ごめんなさい。
サンタの孫娘-----良いんですよ。あなたがいなかったら今頃はどうなっていたか。でも次からはちゃんと私達の言うことも聞いてくださいね。
Little Mustapha-----もちろんだとも。何でも言うこと聞いちゃうよ!
サンタの孫娘-----フフッ…。……。
Little Mustapha-----あれ?なんか変なこと言ってしまったかな?
サンタの孫娘-----いや、大丈夫です。…それと一つ言っておかないといけない事があって。
Little Mustapha-----うん。
サンタの孫娘-----あれから今日の出来事の記録を分析してみたのです。あの扉の中で何が起きていたのかを知ることによって、次に備える事にもなりますから。それで分析結果を調べたところ、あなたの理論はだいたい合っていたようです。あれは不完全な次元の扉。最後に必要な要素があなただったのですが、あなたが機転を利かせて扉を違う目的で使ったから、扉とエネルギーのバランスが不安定になり壊れたのです。
Little Mustapha-----そうなのか。適当な考えでも正確なこともあるんだなあ。
サンタの孫娘-----ただ一つ気になることがあったのです。あの扉を開けた瞬間に、中の巨大なエネルギーに引かれて、あなたの意識の一部が時空の狭間に吸い込まれたようなのです。
Little Mustapha-----ってことは、ボクからは何かが抜け落ちてるってこと?
サンタの孫娘-----いや、それは問題ありません。本人の中で意識は無限ですから。
Little Mustapha-----それじゃあ、何が問題なの?
サンタの孫娘-----時空の狭間に迷い込んだ意識は、あらゆる場所、時間に広がって行きます。私達はそういった意識がどこからやって来たのかが解らずに、これまで頭を悩ませていたのです。その意識とは私達にとっても重要なものだったからです。それが解明されれば私達が存在している理由も明らかになるような、そんなものなのです。
Little Mustapha-----なんだか良く解らないなあ。
サンタの孫娘-----簡単に言うと、私達を作ったのはあなたなのです。
Little Mustapha-----エエッ?!
サンタの孫娘-----そして私達が戦っている敵も、全てあなたの意識から生み出されたのです。
Little Mustapha-----…ん?!…というと、これまで何年もボクら恐ろしい目にあわせていたのは…。
サンタの孫娘-----その可能性は高いです。でもこれはもっと研究しないといけません。何かが解ったら連絡できると思います。それでは私は行きますね。さようなら
Little Mustapha-----あっ…。ああ、さようなら…。
Little Mustaphaの手にはまだサンタからの不在連絡票が握られたままでした。
なにか、とんでもない間違いを犯してしまった気がします。そして、この続きを知るためには一年待たないといけないの?とかも。
こうして20周年イヤーのクリスマスは終わりを迎えたのでした。
ということで、20周年イヤーのクリスマス・スペシャルはいつもとちょっと違っていましたし、この先も何かがありそうな話になりました。
何が起こるのかはその時になってみないと解りません。
そして、今年もBlack-holicはなかなか更新できませんでした。まだ数日残っていますが、クリスマスで疲れ切ってしまうので、この数日間で何かが更新されたら、それはスゴい事。
ということで、スゴい事を期待したい人は期待していてください。
そうでない方はいつもどおりです。
お楽しみに。