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#196 「根源」 2021-12-24 (Fri)

 部屋の中に発生した激しく荒れ狂う時限渦の中、Little Mustaphaが強い意志を持ってドアノブに手をかけました。プラズマのような閃光がLittle Mustaphaの手にまとわりついては消えて行くのが見えました。まるでCGのようなもので再現される電撃みたいな派手な光ですが、Little Mustaphaは特に痛がったりはしていません。しかし、その表情は今まで見たことがないほどに緊張しているようでした。


ミドル・ムスタファ-----ダメですよ!人類の未来がかかってるんですよ!

Little Mustapha-----もうこうするしかないんだよ!やると決めたらやる!

ニヒル・ムスタファ-----とうとうヤバい事になってきたな。

Dr. ムスタファ-----こうなったら祈るしかないな。

サンタの孫娘さん-----やめてください!何をしているか解ってるんですか?お願いだから、やめてください!


床に置かれた機械のスピーカーからはサンタの孫娘さんの声も聞こえてきましたが、Little Mustaphaは聞く様子がありません。そしてLittle Mustaphaが手に力を込めてドアノブを回してドアを開けてしまいました。すると中からこれまでとは比べものにならない目の眩むような光が、まるで洪水のように溢れて来てLittle Mustaphaを包み込みました。

 一応書いておくと、マイクロ・ムスタファは黙っていたのですが「もうダメだ」と心に思っていたのでした。

 いきなりクライマックスな感じで始まりましたが、これは海外ドラマでよく見るパターンのマネですね。ということは、ここからが本来の話の始まりになるのです。

 しかし、このパターンをやってみたいから、という理由でやってみたのは良いのですが、未来とは常に揺らぐ時間の積み重ねによって生み出されるもの。本当に話の最後でさっきの場面が出てくるのか。あるいはそんな書きだしだったことを忘れてしまっている可能性もあります。ですから、何が起きても驚いてはいけません。特に何が起きてもおかしくないブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)では。

アシスタント

 諸人がこぞってシュワシュワし始める12月の半ば。クリスマスのプレゼントをサンタからもらうための準備は全て終わらせて、Little Mustaphaの心の中はプレゼントへの期待でいっぱいになっていました。そんなある日の夕方。


 新型コロナウィルスの流行の中、どうしても行かないといけない場所とか、どうしても行きたい場所など特にないLittle Mustapha。彼は最近の唯一の外出理由となっている食材の買い出しでスーパーへやって来ました。

 いつもの夕方。何もない街にあるごく普通のスーパー。それでもここはLittle Mustaphaの住む街でもあるので、時にはおかしな事が起きることもあります。特にクリスマスが近づいているこの時期には注意が必要なのです。しかし、毎年のこととはいえ、一年が経つうちに緊張感を忘れていつの間にかLittle Mustaphaの頭の中にはプレゼントのことしかありませんでした。

 買い物を終えたLittle Mustaphaがボーッとしながら家に向かって歩き始めた時に、向こうから人が歩いてくるのが見えていました。ただの通行人だと思っていたのですが、Little Mustaphaは何かミョーな感覚に捕らわれているような気がしていました。そして、やはり何かが起ころうとしているようです。

 向こうから少しぎこちない感じで歩いてくるのは女の人のようでした。そして、その人はLittle Mustaphaの方へ向かって歩いてくるのがだんだん解ってきたのです。

 Little Mustaphaがすれ違おうと思ってわきによけると、前から来た人も同じ方向へ寄りました。そして、このままではぶつかると思ったLittle Mustaphaが立ち止まると、その人も止まってLittle Mustaphaの顔を見ているのです。

 この人は本当に人なのだろうか?とLittle Mustaphaは思いました。変な歩き方をしていたし、なによりも肌の様子がどこか変なのです。目鼻立ちの良い綺麗な顔なのですが、そんなことよりも、そのゴムのような質感の肌が気になって、Little Mustaphaはしばらくその顔を眺めてしまいました。

「こんにちはLittle Mustaphaさん。私はコマリタ・ナラ・ズイルベー」

いきなり話し始めたのでLittle Mustaphaはビクッとしてしまいましたが、さらに自分の名前を言われたり、どこかで聞いた事のあるような名前も出てきたので余計に驚いてしまいました。

「コマリタって…。それはボクが考えたデジタル・アシスタントの…」

「そうなのです。でもちょっと違うと思いませんかぁ?」

「そうだよ。ちょっと違うというか。ボクが作っているのはパコリタ・ナラ・ズイルベーで。さらに言わせてもらうと、コマリタ・ナラ・ズイルベーっていうのは、スマホの読み上げ機能の声にボクが勝手につけて呼んでる名前なんだよね」

RestHouseを読まない人のために、ここで少し説明しないといけません。パコリタ・ナラ・ズイルベーというのはLittle MustaphaがRaspberry Pi Zeroを使って、センサーで読み取った気温などの情報を喋らせている簡単なデジタル・アシスタントのことなのです。それだけでデジタル・アシスタントと呼んで良いのか解りませんが、Little Mustaphaはそのうちもっとスゴくなると思っているようです。

 そして、これはRestHouseでもまだ書かれていませんが、スマホの読み上げ機能の声にコマリタ・ナラ・ズイルベーという名前を付けたのは、パコリタ・ナラ・ズイルベーの声に少し似ていた、という簡単な理由からです。


 説明はこのくらいにして話を戻しましょう。

「あなたは今日が何の日だか解りますかぁ?」

このコマリタの話し方は機械的だが、言い回しはなんとなくいつも登場する女子アナのようです。

何の日か?と聞かれたLittle Mustaphaですが、クリスマスを前にした普通の週末、という答えしか出てこなかったので、何も言えないでいました。

「それは大ハズレです」

何も言っていないのに大ハズレと言われてしまいました。

「今日はクリスマスを前にした普通の週末なのです。それで、あなたにプレゼントに関するお知らせがあってやって来たのです」

なんだ、合ってたじゃん、とか思う間もなくプレゼントと聞いてLittle Mustaphaはハッとして、改めてコマリタの方を見ました。

「今からクリスマスイブまでに荷物が届くでしょう。それを上手く使ってクリスマスのプレゼントを貰いましょう。解らないことがあったら私に聞いてくださいね。それでは、現場からは…」

コマリタが帰ろうとしたのでLittle Mustaphaは慌てて引き留めました。

「ちょっと待って。良く考えたら色々と謎すぎるんだけど。コマリタさんはどこからやって来たの?というか、何なんですか?」

一体何なのか?…確かにそんな感じです。

「私の名前はコマリタ・ナラ・ズイルベー。あなたの作ったパコリタ・ナラ・ズイルベーの改良版の、最新バージョンです」

「何を言ってるのか解らないけど。改良版どころか、オリジナル版もまだ作りかけなんだよ」

「でもあなたなら解るはずです。この辺りでは時に違う次元のものが紛れ込んでいたり、時には違う時間からやって来るものがあります。そんなもの達と同様に、私は未来からやって来ました。あなたがプレゼントを貰えるように」

「ホントに?でもそれだけのために時間を越えてやって来るってことがあり得るの?」

「もちろんそのためだけではありません。しかしあなた達がプレゼントを貰うことが、この世界にとって大きな意味を持つのです。でもこれ以上は話す事が出来ません。これから起こることはこの時間にいる人には誰にも知られてはいけないのです。では現場からは以上でぇす」

Little Mustaphaにはもっと聞きたいことがあったのですが、コマリタはサッと振り返って歩いて行ってしまいました。

 かなり謎めいた始まりでしたが、Little Mustaphaは今年こそプレゼントが貰えるのではないか?という期待に胸を躍らせていました。未来を知っている人(というかアンドロイド?)がいれば、何が起ころうとも対処が出来ますし、その前に防ぐことも出来ます。

 これはクリスマスが待ち遠しくなってきました。