問題
パーティーはぎこちない会話とぎこちない沈黙を繰り返しながら続いていました。
Dr. ムスタファ-----ああ、ちょっと。そろそろトイレに行こうかな。この家のトイレはどこなんだ?
Little Mustapha-----ん?!…ああ、この部屋をでてすぐ右のドアだけど…。
Dr. ムスタファ-----右ね。それじゃ失礼。
マイクロ・ムスタファはこのミョーに静まっているパーティーのなかでも、いつもどおり静かにしていました。そして、あることに気付いてハッとしたのですが、何か言おうとした時にドアの向こうからDr. ムスタファの声が聞こえてきたので、発言のタイミングを逃してしまいました。
Dr. ムスタファ-----おい、ここトイレじゃなくて風呂場だぞ。
Little Mustapha-----良いんだよ。「大」じゃなくて「小」なんでしょ?
Dr. ムスタファ-----「小」だが。まさか風呂場でしろっていうのか?
Little Mustapha-----いや、実はトイレにちょっと問題があってね。使わない方が良いから。科学的に考えて、流したあとは同じところに行くんだし、問題ないよ。
Dr. ムスタファ-----問題ないって、それはそうだが。…。
納得したのかしてないのか解らないような感じで、Dr. ムスタファの声は聞こえなくなりました。
また静かになったので、今度こそという感じでマイクロ・ムスタファが口を開きました。
マイクロ・ムスタファ-----あの、コマリタさん。
コマリタ-----…。
Little Mustapha-----丁寧に「さん」とか付けると反応しないみたいだよ。おい、コマリタ!
コマリタ-----何でしょうか?
マイクロ・ムスタファ-----さきほどウンサーと言っていましたが。ウンサーとは何ですか?
コマリタ-----ウンサーの発見はアンドロイドの開発に革命をもたらしました。より人間らしい行動や思考をするために欠かせない要素です。
マイクロ・ムスタファ-----それは実際に存在する物のことでしょうか?それとも概念のような物ですか?
コマリタ-----原子が集まって出来たものという意味では物ではありませんが、概念とも違うものです。
マイクロ・ムスタファ-----それは女子アナのような人が持っているような能力に似ているのではないでしょうか?
コマリタ-----女子アナ…?私は女子アナでよろしかったでしょうか?いいえ、それは大ハズレ!私はデジタル・アシスタントでアンドロイドのコマリタ・ナラ・ズイルベー!ズイ!ズイ!ズイルベー!コマリタ・ナラ・ズイルベー!
ニヒル・ムスタファ-----なんか急におかしくなったぜ。
マイクロ・ムスタファがウンサーについてコマリタに質問していると、コマリタの様子がおかしくなったようです。どうしたのかと一同が思っていた時、ドアの向こうからDr. ムスタファの叫び声が聞こえて来たのです。
Dr. ムスタファ-----ギャー!なんだこれは?!
急に大きな声がして一同はビクッとなってしまいましたが、ビクッとなったことを気付かれないように敢えて平気な顔をしていました。
すると、青ざめたDr. ムスタファが部屋に入ってきました。
Dr. ムスタファ-----なんだあのトイレは?
Little Mustapha-----だから、トイレは問題があるって言ったじゃん。
Dr. ムスタファ-----あんなのはただの問題で済まされるものではないぞ。
ミドル・ムスタファ-----一体どうしたんですか?
Dr. ムスタファ-----科学的に大丈夫といっても、人の家の風呂場で用を足すのは無理だと思ってね。こっそりトイレを探してみたんだよ。それで、明らかにトイレって感じのドアがあったから開けてみたら、中が酷い有様だったんだよ。
ニヒル・ムスタファ-----酷いって、どんなふうに。
Dr. ムスタファ-----ああ、出来れば思い出したくもないがな。床一面の汚物。さらに拭いてそのままになってるトイレットペーパーやら、色々とこびり付いているパンツなんかもあちこちに散らかっていて…。どんなに汚い公衆トイレでも、あれほどにはならんぞ!
ミドル・ムスタファ-----それどういうことですか?他は綺麗なのに、どうしてトイレだけそんなに汚いんですか?
Little Mustapha-----それは現実の家だからに決まってるでしょ。
ニヒル・ムスタファ-----つまり、現実のキミはトイレをそういうふうに使ってるってことか?
Little Mustapha-----知らないけど。でもボクが夢だと思っていた話の中で、トイレはいつも地獄のように汚かったんだよ。だから辻褄はあってるの!
話が怪しくなってきて、主要メンバー達はさらにLittle Mustaphaを追求したくなってきたのですが、ここにコマリタがいるのを思い出して、それ以上何かを聞くのを自重しました。
もしかするとLittle Mustaphaがそう言ったのは、彼らがサンタの孫娘達と連絡を取ったことをコマリタに気付かれないようにするためかも知れないからです。
しばらくの沈黙のあとマイクロ・ムスタファが口を開きました。
マイクロ・ムスタファ-----あの…ちょっといいですか、コマリタ。
コマリタ-----なんでしょうか?
マイクロ・ムスタファ-----この家のトイレはなぜ汚いのですか?
コマリタ-----それは第一に原因を解明して修正しなければならない不具合のようなもの。しかし、違うやり方で回避することも可能です。
マイクロ・ムスタファはなるほど、といった表情でしたが、他のメンバー達は何のことだかサッパリ、といった感じでした。