「忘却」

11. ローンガマンのアジト

 もうイヤになってしまいますわ!ただでさえ今回の出来事に腹が立っているのに、ローンガマンのみなさまったら、あたくしが訪ねて行ってもあたくしが本物のあたくしであることを証明しろ、なんて言うんですのよ。

 ですから、あたくしはあたくしだって何度も言っているのに、それじゃあ信用できないんですって。この建物の入り口にカメラが設置してあるのも知っていますし、あの方達はそれであたくしの姿を見ているはずなんですけれど。

 それで、あたくしは開けないと承知しませんわよ!ってことをちょっと強めに言ったんですの。そうしたら、なぜかあの方達はドアを開けたんですのよ。これってどういう事なのかしら?でも、今はそんな事よりも話を進めなくてはいけませんわね。

「それで何か解りましたの?こういう面倒なことになったのは、半分はあなたのせいでもあるのですからね。何もないなんてことは許されませんのよ」

あたくしがフロシキさんに向かって言うと、フロシキさんは何のことか解らないって感じで両手を広げて手のひらを上に向けるポーズをしたんですの。この仕草にあたくしまた腹が立ってきそうだったのですけれど、そこはこらえることにしたんですのよ。そうしたら、もう一人のメンバーである元部長さんが説明を始めたんですの。

「もちろん、カメラ映像の送信先は解りましたよ。暗号化はされていましたけど、一般的な方法でしたからね。つまり相手も人間の技術を使っているってところでは一安心じゃないか、って事ですけどね」

「何を言っているのか解りませんけれど、まさか彼らっていうのが人間じゃないとか、本気で思っているんじゃないでしょうね?」

「でもやったことは人間業とは思えないがな」

フロシキさんが話しに入ってきましたわ。彼はこうして何でも決めつけたような感じで話すのですけれど、それはあたくしには通じませんのよ。実際に見えている部分だけでは人間業ではなくても、その裏には何かのカラクリがあるものですわ。

「それで、送信先はどこになっていたんですの?」

「兜町にあるビルのようです。ここにデータを受信したサーバがあるだけで、ここに彼らがいるのか解りませんが」

元部長さんはパソコンの画面に表示した地図を指さしながら説明していましたのよ。

「ちょいと、それ大丈夫なんですの?モオルダアが言うにはインターネットはもう乗っ取られたって事でしたわよ」

「ヤツはこういうことに関しては素人だからな。NoScriptが絶対だと思っていやがる」

「そうですわね。インターネットなんかやらずに雑誌を見ていたらよかったんですのよ」

あたくしが言ったらフロシキさんは少し気まずそうにしていましたわ。

「ここのネットワークは今のところ安全なんです。さっきも言ったように彼らは特別な技術を使っているわけではないですから。ボクらがいつもやっている方法で安全にインターネットを使うことも出来ます。今のところは」

「今のところ、ってどういうことですの?」

「これまでのことを考えると、インターネットの仕組みそのものを変えてしまうとか、そういうことはあり得ると思うんです」

「そんなことが解っているならどうして誰も止めようとしないんですの?」

「もちろん誰も何もしなかったワケじゃありませんよ。いわゆるハッカーと呼ばれる人も何人かが彼らの事を探ろうとしたんですけど。でも外に出て活動すると問題が起きるんです。彼らは何もしなくなる。まるで何事もなかったかのように普段の生活に戻っていくんです」

「それはつまり、誰かから脅迫されたって事なのかしら?」

「それも考えられますが…」

「最近じゃ人間の記憶の一部を消す装置なんてのもあるからな」

フロシキさんが言うとどうしてもリアリティがなくなりますわね。でもこれで少しは話が見えてきたのかしら?

「それじゃあ、あたくしにその兜町のビルの住所を教えてくださいな」

「えっ?!まさか行くんですか?」

「そうですわよ。だってあたくしがやらないと他に誰もいないんでございましょ?」

「まあ、それもそうですが…」

「それでは、協力ありがとうございましたわ。きっとこれで問題も解決ですわね。それではごきげんよう」

あたくしがそう言ってローンガマンのアジトを去ろうとした時でしたわ。

「スケアリーさん」

これまでずっと黙っていたリーダーのヌリカベさんの声がしたんですの。

「手強い相手です。気をつけて」

無口にもほどがあるヌリカベさんですけれど、彼が何かを話すのは本当に重要な時だけ。きっとあたくしの事を心から心配してくださっているのですけれど。でもどうしてもヌリカベさんのあの視線と話し方には少しゾッとしてしまいますの。