16.
きっと、どんな事を聞いてもハトは同じような調子で答えるに違いありませんわ。でも作り話というには返ってくる答えが具体的な気がして、信じてしまいそうになる話でもありますわ。
「解りましたわ。あなたの言っていることのいくつかは本当の事かも知れませんし、あなた方がしようとしている事も理解しましたけれど。でもどうしてそんな事をあたくしに教えてくれるんですの?そんな事をあたくしが許すはずはありませんし、あたくしの能力を使ってあなた方の計画が阻止されるとは考えなかったんですの?」
「止めようったて、もう遅いしな。その仕上げはアンタがやってくれたんだぜ。だからお礼として全部教えてあげたんだけどな。その辺は人間なんだな。やっぱり鈍いから気付かないよな。ハハハハ!」
「なんなんですの?!あんまり人をバカにすると承知しませんわよ!」
「バカにはしてないけどな。最後まで抵抗を続けていた面倒なヤツらがいたんだけど。アンタのおかげで居場所が解って、めでたく計画は完了!ってとこまで来てんだよな。賢い人間は最初からハトに従ったんだけどな」
どういうことですの?って思ったんですけれど、その時にあたくしの背後の扉が開いたのに気付きましたのよ。ハッと思って振り返ると、そこにいたのはドドメキさんでしたの。
「どういうことですの?!あなたまさか…」
あたくしが驚いているとドドメキさんは手のひらをあたくしの方に向けて落ち着くように、って合図をしましたのよ。
「こうするしかなかったんだがな」
ドドメキさんが言いましたのよ。
「でもあのカードに書いてあっただろ。『騙されるな』って」
それって、あのカフェであたくしを呼び出した時に使ったカードの事かしら。確かにあのカードにはそう書いてありましたけれど。でもそれってあまりにも理不尽じゃありませんこと?!
「そんなこと言っても解るはずがありませんでしょ!それって、なんなんですの!?それに一体あなたはどっちの味方なんですの?」
「まあ理解のある者として、人類の未来をキミ達、といってもスケアリー君一人だが、キミに託すということにしたんだがね。今回はちょっと時間がなさ過ぎた」
「あなたは人間を裏切ってハトに味方したっていうんですの?」
「そういうことじゃなくてな。まあ人間が生き残るためにどうするのが一番か?ということを考えるとだな…」
「もう、どうでもイイですわよ!」
腹が立ちますでしょ?いったい誰がこんな結末を考えつくって言うんですの?ドドメキさんに言われて捜査をしていくあたくしを、ハト達がつけて回っていたって事でございましょ?あの時のカードに書かれていた事が鍵になっていたなんて。こんな終盤のどんでん返しなんて、あたくし嫌いですわよ。
「まあ、そんなに怒らないでくれよ。これでみんな平和に暮らせるってわけだしな」
ハトが話に入ってきましたわ。この話し方は本当にイライラするんですのよ。
「平和ってどういうことですの?ハトに支配されてあたくし達が平和に暮らせるとでも言うんですの?」
「でもこれまでは実際に平和じゃなかったよな。戦争を始めて大騒ぎ、戦争をやめろって大騒ぎ。だけどハトが人間を管理したらそんな事にはならないぜ。もう戦争も自然破壊も、下らない争いごとも全部なくなるんだよ。信じないならそれでも良いけどな。でももうすぐそうなるんだし。抵抗しようにも、もう誰も仲間はいないと思うけどな」
「仲間がいないって、どういうことですの?仲間なら…」
いるのかしら?って思ってから、あたくしは仕方なくスマートフォンを取りだしてモオルダアに電話をかけてみましたの。
「やあ、スケアリー。電話は危険だと思うんだけど。もしかしてもう手遅れってことかな」
モオルダアまでこんな事を言っていますわ。
「ちょいと、これどういう事なんですの?あなたに言われたとおりローンガマンのみなさまのところへ行って、あたくしは真相を解明するということになるはずだったんですのよ」
「そうだったんだけど。まさかキミを使ってボクやローンガマンの居場所を探るとはね。もう非常階段にも監視カメラが設置されてしまったし。これからはどこに行くにもハトに見られているから、もう何も出来ないかもね。どっちにしろもう人間には何を言ってもボクらが変人扱いされてオシマイだよ。これまでもそうだったかも知れないけど、今はもっと酷いよ。結局世の中には目立ちたいだけの人間と、周りと同じじゃないとダメな人間ばかりで、そのどっちもハトの計画には都合が良かったんだろうね。目立ちたがり屋は危険だってことで記憶を消されて、ハトの手足となってるみたいだし。それ以外は何も気付かずに何となく生きている感じだな。だから騙すのも簡単だし。そんな中でボクらはどうするのか?ってことだけど。まあひっそり生きていくしかないんじゃないか」
もう何が何だか解らなくなりましたわ。どうしてハトなんかに世界を支配されないといけないんですの?
「もう解っただろ?結局人間はみんなで同じ事をやってないと心配になるってことだな。そして同じ事をやってない人を同じにしようと躍起になるもんだしな。そうでない場合もあるけど、そういう『出る杭』は危険だからハトが記憶を消すってことだな。それで、より多くの人がハトの思いどおりに動き出したら、それ以外の人間も流れに逆らえなくなるんだよ。裏でハトが糸を引いてるなんてことには気付きもしない。トイッタがホロッホーに変わったからといって他のサービスを使うのではなくてホロッホーを使ってくれたのもそのせいだと思うぜ。みんながホロッホーなら自分もホロッホーでイイや、ってな。人間なんてそんなもんだよな。ハトはバカにしてたクセに、そういうところは人間丸出しだもんな」
あたくしはもうこのハトの勝ち誇った態度に我慢がならなくなりましたわ。
「それならそれで良いですわ!たとえあたくし一人でも最後まで抵抗しますわよ。それじゃあ、帰らせていただきますわ!」
「おいおい。抵抗って。もう何も出来ないのは解ってるだろ?」
「そんな事ありませんわ!人間には知恵があるんですのよ!」
「でもハトの知恵の方が勝ってるって、今知ったばかりだろ?」
「黙りなさい!あたくしは帰ってからゆっくり対策を考えますから、これで帰りますのよ!イイですわね」
またハト達に襲われると思ったのですけれど、ハト達はあたくしが帰るのを静かに見守っていましたわ。それがどういうことを意味するのか。あまり考えたくはなかったのですけれど。あたくしは自分の家に帰りましたの。
明日からは辛く厳しい日々が始まるのですわね。