「忘却」

9. FBLビルディング

 面倒な事になってきましたわね。こういう時こそあたくしが冷静で、理論的に物事を考えられるというところが重要になってくるんですのよ。これまでの事を考えるとこの世界で何か異常な事が起きているようなのですけれど、それだけで慌ててはいけませんわ。まずはこういう事に一番敏感に反応しそうな人の様子をうかがってみる、っていうのはどうかしら?あの方って、こういう時には意外と興味がなさそうな感じだったりすることが多いでございましょう?ですから、あの変態モオルダアが何をしているのか調べてみるんですの。

 ご存知のとおりペケファイル課のオフィスは地下にありますのよ。なんだか今回は地下がキーワードになっているようですけれど。でも、このオフィスの陰鬱な雰囲気はいつもどおりで、あたくしは気分が塞がってしまいそうですわ。

 そんなことよりもモオルダアはどこにいるのかしら?もう昼を過ぎてかなり経つというのに、あの方はまだやって来ていないのかしら?でもよく考えたらあの方は朝電話で話した時にはここにいたようですし、何かの用事でもあるのかしら?

 まったく嫌になりますわね。余計な事ばかりするクセに、こういう時にはどこにいるのか解らないんですもの。そうですわ!こういう時には憂さ晴らしにモオルダアにお仕置きですのよ!…ウフッ。あの方って自分の机の引き出しに下品な雑誌を隠しているんですのよ。そういうものを全部捨てたらあの方どんな顔をするのかしら?それに、そういうものがなくなればこの部屋の空気も綺麗になるに違いありませんわ。

 それで、あたくしはモオルダアの机の引き出しを開けてみたんですの。そうしたらそこに何があったと思います?あたくしちょっと拍子抜けした感じだったのですけれど。そこには使っていないメモ帳が数冊入っていただけでしたの。

 これって、どういうことかしら?モオルダアもやっと心を入れ替えたのかしら?でも、そんなことはあり得ませんわ。他の引き出しも調べてみるまでは結論は出せませんのよ。

 あたくしは机の全ての引き出し、さらには部屋中の引き出しをくまなく調べたんですけれど、どこにもモオルダアのエロ本はありませんでしたのよ。どういう事ですの?!こんな事があるはずありませんわ。モオルダアが心を入れ替えるなんて…。

 あらいやだ…。あたくしったら今回の事件とはまったく関係のない事を考えていますわ。でもあのモオルダアに何があったというのかしら?もしかして、変な雑誌を読んでいるところを上司に見つかったりしたのかしら?それなら納得ですわね。でもこんな地下に誰が来るっていうのかしら?スキヤナー副長官ならモオルダアの事を良く知っていますし、雑誌のことは見て見ぬフリなんですけれど。

 あたくしはまだモオルダアの雑誌のことを考えていますけれど、これがさらなる謎を呼びましたのよ。モオルダアがここで変態雑誌を読めなくなった理由はすぐに見つかりましたのよ。あたくしが何となく部屋を見回していたら、あたくしが最後にここに来た時には無かったものが見つかりましたの。

 部屋の天井のすみに隠されるように設置された監視カメラですのよ!これって一体どういう事ですの?あたくしは念のためにそこへ近づいて確認してみたのですけれど、やっぱりそれは監視カメラに違いありませんでしたの。小型で注意して探さないと気付かないようなカメラでしたけれど、そんなところに気付いてしまうあたくしの洞察力は素晴らしいですわね。

 カメラはどこに繋がっているのか解りませんけれど、どうやら無線で映像を送信しているようですわね。

 あたくしは少し気味が悪くなりましたのよ。職員に断りもなしに監視カメラを設置するなんて。エフ・ビー・エルはいつからそんな組織になったのかしら?詳しいことが解るまではあまりこの部屋に居たくありませんわね。どこに行くという事でもないんですけれど、あたくしは部屋から出ることにしましたのよ。