「忘却」

2. 素敵なカフェ

 休暇明けにいきなりリフレッシュするなんて変な話ですけれど、それもこれも世の中の平和を守るためと思ったら仕方のないことですわね。それにしても私の思ったとおり、やっぱりここは素敵なカフェでしたわ。何しろ「素敵なカフェ」という名前のカフェなんですもの。素敵でないわけはありませんわね。

 今日は少し蒸し暑いようですけれど、日よけのついたテラスですし、風通しも良くて心地良いですわね。こういう場所にいると道行く人々の姿も素敵に見えますのよ。でもこの平和な日常を守るのがあたくし達の務めですものね。そんな事を考えてあたくしはこの素敵なカフェで再び活力をみなぎらせているのですわね。

 そこへ注文したサンドウィッチセットが運ばれて来ましたのよ。素敵なカフェは食べ物も飲み物も素敵ですわね。そう思って、あたくしはサンドウィッチに手を伸ばしたのですけれど、そこであることに気付いたんですの。

 いくつか並んでいるサンドウィッチの間に一枚のカードが挟まっていますわ。これって何かのメッセージが書かれていたりするお店のサービスなのかしら?そんなことも考えたのですけれど、このカードの感じからするとそうでもなさそうですわね。

 おかしいですわ、って思ってそのカードを手に取ってみると、それはどこかの駐車場の駐車券のようなカードでしたの。やっぱりおかしいですわね。それに、もっとおかしな事もあるんですのよ。そのカードにはメッセージも書かれていたんですの。もちろん、お店からお客様へのメッセージなんかじゃございませんわ。これはもっと何か重要なことに違いないんですの。

 エフ・ビー・エルの捜査官として、そんなところにはすぐに気付きますのよ。あたくし達の知らないところで何かが起きている。そして、それを放っておけば取り返しのつかないことになるかも知れない。そんな事なのかも知れませんわ。

 そのカードには「騙されるな!」と書かれていましたのよ。あたくしは急いで、そしてさりげなくカードをスーツのポケットにしまいましたのよ。そしてなるべく自然な感じで辺りを見回してみたんですの。

 突然の出来事にこうやって冷静に対処できるのは、あたくしの素晴らしいところですわね。あたくしはこれまで通行人を眺めていたのと同じ感じで、そのまま視線をテラスの方へ向けて見たんですの。すると、一番端の目立たない席に見たことのある顔を見つけたんですのよ。

 そう、あの方とは一度会って話をしたことがありますわ。そして、それはとても重要な機密に関わる話でしたわ。あの方の名前は…そう、ドドメキ様ですわ。あたくしとモオルダアに政府の極秘情報を教えてくれた方。

 ドドメキ様はあたくしの視線に気付いたのかどうか解らないのですが、それからすぐに店から出て行きましたわ。それが何を意味しているのか、あたくしに解らないワケはありませんわね。休暇明け早々にあたくしの実力を見せる時が来てしまったようですけれど、その代わりちょっと急いでサンドウィッチを食べないといけなくなりそうですわ。