15.
モオルダアがスケアリーからの電話に出ようとスマートフォンを取り出すと、そこへさらにメールが届いたことを知らせる通知が表示されて、何が何だか解らなくなったのだが、とにかく画面に表示されているボタンをタップすると通話する状態になった。
「ちょいとどうしたんですの?」
「何が?」
「息が切れてるんじゃございません?」
「そんなことはないと思うけどね」
そうは言ったものの、モオルダアもなんとなく息を切らしているような感じがしていた。体が動いてなくても脳ミソがパニックになると息が切れるのだろうか?だが、そんなことは今はどうでもイイ事なのだ。
「そんなことより、何かあったの?」
「あら、そうでしたわ。あの猫ちゃん達なんですけれど。捕獲した猫ちゃん達の中で一匹だけ他と違う猫がいたんですの」
「他と違うって?」
「あの家の状態を見たら解るとおり、あの猫ちゃん達は去勢手術を受けてなかったんですけれど。でもあのオイルを体につけていた黒猫だけが去勢されてたんですのよ」
なんだ、そんなことか。と思ったモオルダアが思ったことをそのまま口に出そうと思ったのだが、その時に彼の少女的第六感が彼に何かを訴えかけているような気がした。それはどうでもイイ事のようで、どうでも良くない事なのだ。その根拠は良く解っていないが、そう思えて仕方がない。
「ねえ、これどういう事だと思います?これってあの家にどこかの飼い猫が迷い込んでたのかしら?」
電話の向こうのスケアリーは今起きている事をまだ知らないので、呑気な感じに思える。そういえばさっきから猫のことを「猫ちゃん」とか言ってるし。もしかすると体を洗って綺麗になったあの猫達に癒やされてたりするのかも知れない。
「スケアリー。それよりも警察署に連絡して小根野がまだいるか調べて欲しいんだけど。恐らく小根野は移送の途中で行方が解らなくなっているはずなんだ。もしかすると警察はその事を隠すかも知れないな。もしそうなら逆に小根野が消えたのは確実って事でもあるんだけど」
「ちょいと、それどういう事なんですの?」
「恐らく、小根野は今あのオイルに感染しているよ。小根野を移送していた刑事がオイルにまみれて気絶しているのが見つかってるんだ。ボクはその刑事の見つかった場所に行くから、キミにも来て欲しいんだよ。小根野の連行されたあの警察署からそう遠くない場所だからキミの方が早く着くのかも知れないけどね」
スケアリーはそろそろ猫達の件を片付けてユックリできると思っていたところなのだが、モオルダアの様子からするとそれどころではないということが解ってきた。そして、これが彼女に猫の世話係をやらせた上役の鼻を明かせるチャンスでもあると思ったので、スケアリーもちょっと盛り上がって来ている。
「解りましたわ。警察に確認してあたくしもすぐに現場に向かいますわ」
二人が慌ただしく動き出して、やっと事件が盛り上がって来た感じがする。
スケアリーは警察署に電話して小根野の居場所についての確認をとったのだが、移送は終わっているはずだ、とか問題はないはずだとか適当な返事しか返ってこなかった。これはまさにモオルダアの言ったとおりなので、スケアリーは急いで小根野が消えたと思われる場所へと向かうことにした。