「炎上」

19. 翌日・FBLビルディング

 スキヤナー副長官がスマートフォンでテレビを見ているとモオルダアとスケアリーが彼の部屋に入ってきた。スキヤナーは旨方議員の事務所での張り込みに何の意味もなかったことを知って少し機嫌が悪い。ここに来た二人もこれは悪いタイミングだとは思っていたが、大量の猫を放置していなくなったことの説明はしないといけない。

「流山に何があったと言うんだね?」

あらかじめ何をしていたのかは説明してあったので、スキヤナーが最初に質問した。

「真知村議員が監禁されていたんですのよ」

「だがこれはキミ達の言っていたその家だよね」

スキヤナーは持っていたスマートフォンの画面をペケファイル課の二人の方へ向けた。その画面にはテレビのワイドショーで昨日の流山での火事のネタがやっていた。

「空き家が全焼。幸いにも死者も怪我人もいなかったって言ってるぞ」

スケアリーは丁度今そのニュースがテレビでやっているのはタイミングが良すぎですわ、と思いそうなのをこらえて反論した。

「でも小根野がいたんですのよ。そうですわ。あの状態の小根野を担いで逃げることは出来そうにないですし、それに真知村議員の拘束を解くのには少し時間がかかりますから、小根野はあそこに放置されていたに違いありませんのよ。それなのに死者も怪我人もいないなんて、あり得ませんわ!」

「キミ達は新聞も読まないのかね?小根野は拘置所に移送されたあとで自殺したんだぞ」

スキヤナーはそう言って今度は新聞を彼らの前に着きだしてきた。そこには区議を襲撃した女の悲劇が書かれていた。テレビに新聞に全てが丁度良いタイミングで彼らの主張に反論してくる感じである。もしかして、ここで適当なウソを言ってもそれを覆す証拠が出てきてしまうのではないかと思ってしまいそうである。

「そんなものはデタラメですわ!そういうウソがこの世界には存在するから、それを暴くためにエフ・ビー・エルがあるんじゃありませんこと?テレビにしても新聞にしても、取材した人がその現場を直接見ていたワケではないんですのよ!」

「だったら私に黙って勝手な行動をすべきではなかったのではないかな」

「まあ…!」

スケアリーはスキヤナーの態度に呆れた様子だった。その時モオルダアが立ち上がった。

「スケアリー、ここで話していても意味が無いよ」

これを聞いてスケアリーはさらに呆れてしまうところだった。しかし、良く考えたら確かに意味がない事かも知れない。スキヤナーがこういう態度の時にはすでに結論が出ている時に違いない。それは彼の考えではなくて、もっと上の立場の人間が決めたことで、スキヤナーは彼らとの間に立ってそれを伝える面倒な役目をしているだけなのだ。

 スケアリーも立ち上がってモオルダアと共にこの部屋から出て行こうとスキヤナーのデスクに背を向けた。するとその時、スキヤナーが二人を呼び止めた。

「待ちたまえ。キミ達が放置していったあの猫達だがね。もしかすると引き取ってくれる団体が見つかるかも知れないんだ。私がそれをするのにどれだけ苦労したと思っているんだ?」

モオルダアとスケアリーはスキヤナーが何を言い出すのか?と思って立ち止まってから振り向いた。

「長いこと新作が書かれなくて焦っているのは解る。しかし、エフ・ビー・エルのルールもあるんだ。それを守らなければキミ達のペケファイル課をつぶすのは簡単な事だ。そうすることを願っている人間がいるのならまさに思う壺だぞ。これからはもっと気を付けて行動するように。以上だ」

スケアリーは「あらいやだ、ちょっと頼もしいですわ」と思って、思わずモオルダアの方を見て彼の顔色を確認してしまった。意外な言葉を聞いたので、モオルダアのさっきまでのふてくされた表情も消えていた。

「解りました」

モオルダアが返事をした。その後に感謝の気持ちを述べるべきかとも思ったのだが、それはやめておいた。

「それから、そのスマホ。スゴいですね」

代わりにこう付け加えた。スキヤナーは黙って頷いたつもりだったが、嬉しくてニヤニヤしてしまうのを隠しきれていなかった。

 そしてモオルダアとスケアリーは部屋を出た後でニヤニヤしていた。

2018/09/29 (Sat)
the Peke Files #036
「炎上」