「炎上」

16. 東京都台東区

 スケアリーはモオルダアから聞いた事件現場へ向かった。モオルダアが言ったとおり彼女の方が早く着いたようだ。モオルダアも急いでここへ向かっているのだが、今は電車の中なので急ぎようにも急げない。

 現場はスケアリーの予想に反して地味な感じだった。誰かは知らないがこの事を隠そうとしているようなので、逆に目立たないようにしているのかも知れない。ちょっとした交通事故などで警察が呼ばれた時のように、車が止まっている周りに警官が二、三人いるようだった。

「ちょいと、あたくしエフ・ビー・エルのスケアリーですけれど。この車には移送中の容疑者が乗っていたはずなんですのよ。その方がどうなったか教えてくださるかしら?」

いきなり声をかけられた警官達はちょっと驚いたようにしてお互いを見合っていた。

「容疑者ですか?そんな話は聞いてませんが…」

警官はとぼけているのだろうか。スケアリーはここで起きたと言われたことがモオルダアの想像であって、実際にはそんなことは起きてないとか、そんなことも有り得ると思い始めて不安になって来た。もしも事実でなければモオルダアのせいでスケアリーだけが恥ずかしい思いをすることになってしまう。

「でも、ここで刑事さんが倒れているのが見つかったんでございましょう?」

「ええ、まあ」

それを聞いて少しはホッとしたスケアリーだった。モオルダアの言っていたことの半分だけでも事実であることは解った。

「それじゃあ、その刑事さんに会わせていただけるかしら?聞きたいことがあるんですの」

「それは無理ですね」

「無理って、なんでですの?!」

「命令ですから…」

「ちょいと、どういう事ですの?これはもっと恐ろしい事件に発展することだって考えられるんですのよ。命令だからって、あなたのせいで多くの被害者が出たらどうするんですの?」

スケアリーの剣幕に警官は少しひるんでいるようだった。しかし、ここにいる警官達もあとからやって来て現場の処理をしているだけなので、詳しい事は解っていないのだ。

「あの、病院に搬送されたんですが。事情があるようで、場所は私達にも解らないのです」

スケアリーは「こんな話をしていても埒があきませんわ」と思って、他に話の出来る人はいないのかしら?と思って辺りを見回してみた。だが良く見てみると、ここにいるのは若い警官ばかりで、上から言われたことだけをやっているような、そんな感じもある。「もしかして、これも事件を隠蔽しようとしている誰かが狙ってやっていることなのかしら?」とスケアリーは思ったのだが、こんな事は考えても意味がないことだと気付いてウンザリしてた。

 するとスケアリーの背後からハァハァという荒い息づかいが聞こえて来て、スケアリーはゾクッとして振り返った。そこにいたのは、駅で電車を降りてからここまで走ってやって来てハァハァ言っているモオルダアだった。

「ハァハァ…、スケアリー…車は?ハァハァ…」

「何なんですの?」

「急がないと…ハァハァ…」

「何を言ってるのか解りませんわよ」

「区議が…。危ない…ハァハァ…急がないと…」

なんだか知らないがモオルダアは相当焦っているようだった。恐らくスケアリーの車で急いでどこかへ行きたいということのようだが。もしかして、普段の運動不足のせいで息が上がっているだけなのか?とも思ってしまう。

「わかりましたわ。車を取ってきますから。あなたはここにいて、あたくしが戻ってくるまでにまともに話せるようにしておくんですのよ!」

「ハァハァ…」

モオルダアは返事代わりにハァハァ言いながら頷いた。それから「なんだろう?」という表情の警官達と目が合ったので、そっちにも頷いて見せた。