密使
ここはクリスマスマーケットの会場に面した大通り。駐車してあるワンボックスカーの中には出番を待つ内屁端の姿が。目を閉じて姿勢を正して、微動だにしない内屁端だが決して寝ているワケではない。次の出番に向けて精神を集中させているのである。特に今日のようにどこか異様な雰囲気のある中ではより集中を高めないといけない。
内屁端が精神を集中させていると幽かな空気の乱れを感じ取ったようだ。カッと見開いた目であたりを見回すと、彼女の隣の席に人がいるのに気付いてギョッとした内屁端。しかしそこにいたのが彼女の宿敵横屁端であることに気付いて内屁端はすぐに冷静になった。
内屁端-----これは横パンこと横屁端さん。ここはテレビ局の車の中なのですが、リコール社専属女子アナのあなたは入ることが許されないのではないですかぁ?
横屁端-----ご忠告ありがとうございます。しかしこの横屁端、テレビ局の上の方の人にも大変気に入られているので、そこは気にしていただかなくても大丈夫でぇす。
内屁端-----さすがは天性のおべっか使い。ところであなたがここへやって来るということは、それなりの覚悟を持ってのことだと思うのですが、いったい何の用なのでしょうか?
横屁端-----それはもう解っているのではないでしょうか?今あなた達は危機に陥っていますね。このままではアイドル崩れに全てを奪われてしまうのではないかと、そう思っているはずです。
内屁端-----もしかして、その様子を見て私達を笑いものにしようとでも思っているのでしょうか?そんなことにはなりませんし、なんでしたら、ここであなたと決着をつけたって良いんですよ。
横屁端-----そんなつもりはありません。でもこのままではあなた達に勝ち目はありません。なにしろウンサーを悪用しようという人たちがいるのですから。
内屁端-----ウンサーだと?
横屁端-----そうなのです。あなた達が落ちぶれていくだけなら横パンも大喜び、というところでしたがウンサーとなるとそうはいかないのです。なので提案なのですが、ここはひとまず休戦ということにして、もっと大きな問題を解決していきませんかぁ?
内屁端-----うーん…。そうだな。
横屁端-----それはよかったです。では現場からは以上でぇす。
横屁端がそう言うと彼女はフワッとした感じで内屁端の目の前から消えたのである。普通ならそんな光景を目の当たりにして驚いてしまうのだが、内屁端はなんとも思わないのである。
内屁端と横屁端は女子アナ同士でお互いを蹴落とそうとしている間に、異次元世界に閉じこめられたり地獄へ行ったりと、異常なことを経験してきたので横屁端の所属するリコール社が転送技術を使って社員を瞬間移動させているということも当たり前のことと思っているのだ。
名探偵のカバン
ブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)では、また次のプレゼントまで一年待たないといけない感じになってきたので少し緊張感がなくなってきている感じも否めません。それでも今日の変な感じは気になっているようです。
Dr. ムスタファ-----だいたい、その犬サンタ君の言ってる違和感というのは何なんだ?
犬サンタ-----良く解らないけど、犯人はミスを犯しているんだワン。名探偵はそこに違和感を覚えて事件を解決するんだワン。
Little Mustapha-----犯人とか事件ってなんのことを言ってるんだ?
犬サンタ-----それは多分、みなさんがちゃんとしたプレゼントを貰えなかったこととかだワン。
ミドル・ムスタファ-----なんか適当ですね。でもこの部屋に違和感を感じるということだと、犯人もこの部屋にいるってことですかね。
犬サンタ-----うーん…だワン。今回は名探偵じゃなくてもっとスーパーヒーローみたいな格好にすれば良かったんだワン。
Little Mustapha-----推理に行き詰まったら格好のせいにしてるし。
犬サンタ-----でもきっと何か忘れてたりすることがあるら気をつけた方が良いんだワン。
Little Mustapha-----そういう時って、大抵リュックにタオルを入れ忘れている時だよね。でもクリスマスは何が起きるか解らないからね。確かに気をつけた方が良いよね。
マイクロ・ムスタファ-----ちょっと待ってください。
ミドル・ムスタファ-----えっ、早速何か起きたんですか?
マイクロ・ムスタファ-----それは解りませんが。犬サンタ君のカバンから光が漏れているような。
犬サンタ-----あ、ホントだワン。これはきっと弟子のモナミの犬ヘイスティングス君からの連絡だけど、音がしてないということは大した事じゃないから安心していいんだワン。
ミドル・ムスタファ-----なんだ、良かった。また変なことが始まるかと思ってドキドキする準備をしてしまいましたよ。
犬サンタ-----それはともかく、そのカバンは自分で開けるの大変だから中からiPad Proを出して欲しいんだワン。
Little Mustapha-----出たな。頼むフリしてiPad自慢。
犬サンタ-----でもLittle MustaphaはiPadは欲しくないって言ってたはずだから問題ないんだワン。
Little Mustapha-----実を言うとFire Max 11にしてから、やっぱりiPadの方がイイなとは思ってるんだけどね。でも実際にiPadにする必要があるか?って事になると、結局プライムビデオを見るだけだし。それ以上の作業をやるとなるとパソコンの方が慣れてるから。
犬サンタ-----どうでもイイから早く出すんだワン!
Little Mustapha-----はいはい。…というか、このiPadと一緒に入ってるこれはなんだ?
犬サンタ-----そんなものは入ってないはずだワン。
Little Mustapha-----入ってないって言っても。入ってるものは入ってるんだけど。このモコモコしたやつは、防寒具かなんかかな?
Little Mustaphaがそう言いながらモコモコした何かを取り出すと、それは薄汚れて不気味な雰囲気のフェルト人形だったのです。
Little Mustapha-----うわ、なんだこれ!?
犬サンタ-----あ、それは呪いの人形だワン!
Little Mustapha-----えぇ…!と思って思わず投げ捨ててしまおうかと思ったけど、呪いの人形ということなら長官の孫娘さんが作ったものかも知れないから投げ捨てない。
Dr. ムスタファ-----なんでそんなものを持ってきたんだ?
犬サンタ-----おかしいんだワン。いつそんなものを入れたのか覚えてないんだワン。
ミドル・ムスタファ-----誰かが勝手にいれたんじゃないですか?
犬サンタ-----それはないんだワン。だっていつも自分の荷物はちゃんと自分で用意しましょうね、ってご主人様に言われてるから、ちゃんと良い子で自分で用意してるんだワン。
ニヒル・ムスタファ-----もしかして、さっきから違和感って言ってたのは、自分でそれをカバンに入れたのを忘れてた違和感ってことじゃないか?
Little Mustapha-----忘れている感覚としてはリュックにタオルを入れ忘れているのと似ているからね。タオルを忘れてる時は必要になる時まで気付かないんだけど、それまではずっと何か変な感覚があるんだよね。それで必要になった時に、そうだったのか!って事になるんだけど、もう手遅れ。犬サンタ君の言ってた違和感もそれだよ。
ミドル・ムスタファ-----でもサンタ君の場合は持ってきてあるんだから、もし必要になるとしても大丈夫ですね。
ニヒル・ムスタファ-----というか、その不気味な人形はいつどういうふうに必要になるんだ?
犬サンタ-----解らないんだワン。もしかすると呪いの人形だから勝手にカバンの中に入ったのかも知れないんだワン。
Little Mustapha-----それは全然名探偵らしくない推理なんだけど。でも、これ呪いの人形って言うほどには不気味じゃないと思うけどね。目が一つ変なところに付いてたり、良く見たら手が3本あったりするけど。
犬サンタ-----そういうことなら、まあ大丈夫なんだワン。それよりもiPadが気になってきたんだワン。メッセージに答えがあるかも知れないんだワン。
Little Mustapha-----そうか。それじゃあはい。
犬サンタ-----フムフム…。弟子でモナミの犬ヘイスティングス君からのメッセージによると、ただいま配置についたんだバウ。偵察を開始するんだバウ、って事だワン。これずっと前のメッセージだワン。
Dr. ムスタファ-----なんだ、全然意味ないじゃないか。
犬サンタ-----そのようだワン。でもまた連絡があるかも知れないから、iPadは出しっぱなしにしておくんだワン。
何かが起きたのかと思ったら、やっぱりなにも起きないブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)です。しかし、怪しいことが少しずつ起きて気付けば飽和状態になっているような感じもしてきました。